不思議なアイツ (高坂side)
ソイツに会ったのは、昼休みのことだった。
俺は、いつものように人目を避けて、獣の姿になってすっかりリラックスしきって日に当たって丸くなっていた。
最初は、誰か来たことにイラついていた。
けど、その内帰るだろうとタヌキ寝入りを決め込むことに決めて、そのまま丸くなっていた。が、あろうことかソイツは俺に抱きついてきたのだ。
『ッおい!!』
思わず声を荒げたが、そのまま泣かれ始めたのには本当に肝を冷やした。
ぐすぐす泣き続けているソイツを、抱きつかれたままどうにかあやす。どうやら女子生徒のようだが、見ず知らずのデカい獣に抱きついて泣くとか何考えてんだって頭の隅っこで思った。
『お、おいっ…。だいじょうぶか…?』
「ううううううっ…!」
が、慰めているにもかかわらずソイツは余計泣きじゃくり始める。余計な気をまわさずに思い切って泣いている原因を聞けば、ソイツはコオリがいないだのなんだの言い始めた。
ぶっちゃけた話。
誰だよコオリって。
思わず「はぁ?」といつものようにガンつけそうになったが寸でのところで抑え、根気強く経緯を聞いていくと、どうやら周りに馴染み切れていない内に旧友らしきものと引き離されてしまったがために心細くなってしまったようだ。
…だからって見ず知らずの俺みたいな奴なんかに相談すんなよ、とか思ったがよくよく考えてみれば今の俺はただの狼だった。
いやいや、デカい狼にわざわざ近寄ってくる女もそういねぇだろ、と考え直す。この女、よくよく考えなくても少々アタマがおかしい。
『おまえはそいつらのこと怖がってたりするのか?』
「…べつに怖くないです」
『気持ち悪ィとかは?』
「…ありません」
『じゃあ大丈夫だろ』
女は、俺の言葉におずおずと顔をあげた。
涙でぐちゃぐちゃで、見れねぇような情けねぇ顔だった。けど、迷子のようなその顔が縋るようにただ真っ直ぐに俺を見つけてくる様は、嫌じゃないと思った。
『俺たちは獣になれる分、害意や悪意には敏感だ。おまえがホントにそういうモンもってないってんなら、一度話せば警戒解くだろ。距離置かれてる、っつーのも怖がられてるとかじゃなくて、案外恥ずかしくて近づけねーとかじゃねーの。おまえ美人だし』
「…口説かれてます?」
『バカいうな。あやしてんだろうが』
ふん、と鼻を鳴らして女を抱え込む。
ガキはごちゃごちゃ考えてねぇで寝てろっつーハナシだ。授業の一回や二回、サボったって死にゃしねぇワケだし。
チャイムが鳴って、途端にばたばたと慌てだした女をぺしりと尻尾で叩く。暴れんなっつーの。
『ごちゃごちゃ考えてるクセに無理して授業出たりすんな。大人しく寝てろ』
そう言うと、女は途端に大人しくなって、ぎゅうっと俺に抱きついてすらきたくらいだった。現金なヤツ。呆れながらも当初の予定通り昼寝を始めようとうとうとしていると、唐突に女が告げた。
「高坂くんは、優しいですね」
ありがとうございます、と囁いて、女は擦り寄った。
調子乗んな、ともう一度ぺしりとケツを叩いてやる。
ただ、不思議なことに腕の中の温もりに、悪い気はしなかった。