欲しがり屋の妥協案(隆盛side)
「隆盛」
「なんだ」
「隆盛。俺、ゆまちゃん欲しい」
端的に告げた崔は物騒な目つきをしていた。
まあ、崔は隆盛とは違い妻も子も作らなかったし、両親のことも許しきれなかったようであるので、ある程度仕方ない面もあるのだが。
それでもここまでドハマりするとは思わなかった隆盛は、思わず目を丸くした。
そもそも、よくも悪くも抑圧されすぎた人間。それが梔子 崔という男だったのだ。
だからこそ、義理があるが故に世話になった惣火隆盛の身内を害することはできないと踏んで、隆盛は崔をゆまたちの家庭教師役へと引っ張ってきたわけだが。
「ゆまはやらん」
隆盛はきっぱりと告げた。
「婿には認めん。だが、隣で勝手に侍る分には構わない」
「よっしゃぁあ!隆盛まじでありがとう!!」
ガッツポーズをする崔に、隆盛はやれやれと肩を落とした。
少々昔の話になるが、魔獣討伐部隊では大型の獣になれる獣人の多くが肉体強化の魔法をかけて戦場に臨み、生存率をあげていた。その中で常に最前線に配置され続けた隆盛と崔は最低限必要なとき以外は常に獣化を解けず、魔法に限ってはずっとかけっぱなしだった。
その副作用が今の、年の割に異常に若い容姿である。
隆盛は一応子育てや領地経営など年相応の仕事を果たしていたためそうでもなかったが、崔は最近まで実の家族から逃れるように兵役にのみ我武者羅に打ち込んでいたため、なんだか精神年齢すら容姿に引きずられている様子が見受けられた。
中身まで若々しいと言えば聞こえはいいが、要は何時までも精神が成熟の兆しを見せなかっただけである。
ただの若作りのジジイではない。
人生の経験年数だけは無駄にある、見た目も中身も若者な謎な存在なのである。
経験故に攻め方など何通りも知っている癖して若さで暴走するジジイだ。口説かれる方にとっては堪ったものではないだろう。
だが、だからこそ隆盛は崔の行動を過度に制限することはしなかったのである。
***
『ゆまちゃぁんっ…』
でかい図体で過剰に甘えつく様は若いを通り越してもはや幼児がじゃれついているようにしか見えない。
見た目幼児にじゃれつく中身幼児な大きな黒豹。
色々と衝撃的な光景である。
しかも崔は人のカタチをとってもなお似たような行動をとるのだ。
「……ろりこん」
拙い発音ながらもぼそりと呟かれた言葉に、崔の目がきらりと光る。そのままばちばちと火花を散らし牽制しあっている崔と郡を尻目に、隆盛はゆまを抱き上げ、膝の上に乗せて愛で始めた。
「おじいさま?」
「馬鹿は放って置いて、おやつにしようか。ゆま」
にっこりと笑う隆盛は、崔はそれなりに放置した方が返って大人しいことを知っていたのである。