エピローグ
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました
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もーいーかーい
「ねぇ、、、翔ちゃん?」
「お前なぁ、しっかり隠れろよ!」
「ねぇ、ちゃんと探してくれる?」
「隠れんぼなんだから当たり前だろ!?」
「あたしがどこに隠れても探し出してくれる?」
「マオ、お前怖がりだからな」
「違っ、、!そんなんじゃないもん!」
「へーへー。大丈夫だよ。なんてったって俺はかくれんぼの天才だからな!」
「うん・・・そうだよね、じゃあ約束ね!」
「わーったから早く隠れろ、」
5〜6〜7〜8〜9〜10、
もーいーかーい
ーーーーーーー
キュキュキュキュキュキュ
フォン!
「おい翔!マジでそろそろ行こうぜ寒ぃよ!」
突然、白銀の世界から呼び戻される。
それを合図に一斉にサイレンサーを取り外したバイク達のエキゾーストノートが木霊する。
ーー随分昔の事を、、
この中途半端な華やかさだけが取り柄のような街に今年初めての雪が降った。例年通り。
足早に、またいつもと変わらない冬がやってくる。
そのせいでこんな何でもない1日の出来事を柄にもなく思い出したのだろう。
ノスタルジアな世界から俺を現実に引き戻したのは
バイクの轟音か、この不満そうにしている男の大声か、、、
「野崎、お前声だけはデケェな」
「先輩、アソコは小さいのにね」
シュウタがすかさず茶々を入れる
「殴るぞコラ」
シュウタは後頭部に提げていたヘルメットをしっかり被り直し、ヘルメットを思いっ切り殴った野崎は見事に悶絶している。
元来、ヘルメットは頭部を守るものであるから、これは正しい使い方と言えよう。
「よーし、行くぞ!凪君の追悼集会だ」
バイクに乗っている時だけは余計な事を考えずに済む。
浮世の煩わしい悩み事も
過ぎ去っていった思い出達も、将来の不安も。
全てを蹴り出す様に
キックペダルを踏み込む
ガキャッ、
バラァァアン
カワサキKH250
まぁ250と言ってもエンジンは400ccに載せ替えてある。
おっと、これはお巡りさんには内緒だぜ
今となっては骨董品
カワサキ空冷式2ストローク
まるで猛り狂う雷のようなエキゾーストノートが
俺の背筋をぞわぞわさせる。
地を這う大蛇
誰がそう比喩したかは知らないが
正しくその通りだと思う。
藤城凪沙追悼集会
近隣の数チームから夥しい人数が集まり県道を埋め尽くす。
「そこの暴走族!止まりなさい!」
などと一応制止を求める警察もこの日だけは多めに見てくれている。
暴走チーム「春雷」
当時の総長、藤城凪沙の突然の死とともに一切の活動を停止し解散
その代わりに命日の追悼集会のみ容認されているという訳だ。
ーーーにしても一年というのはあっという間だな
これで3回目を迎える追悼集会、この日の他には各々自身の生活に追われている。
学業に従事する者。既に働き口を見つけ生計を立てている者、何もしてない者。
陳腐な表現だが光陰矢の如し、
まるで何者かの見えざる手によってこの日を軸に他の364日の人生が早送りされているのではないかと錯覚するのも無理はない。
俺はと言うと地元の県立高校に通う傍、来年は卒業を迎える年になるのだが
未だやりたい事すら見つかっておらず
ただ爪先より一歩先から広がる闇に恐れおののくどころか
、どこか他人事の様にしか思えないのだ。
このまま何も考えずにこの道を走っていられたら・・・
憧れた背中も踊るテールランプも
もう永遠に届かない所に行ってしまった。
俺の眼前に広がる闇を抜ける事が出来たら、あるいは・・・
日付も変わって、少しした頃帰路につく。
また来年の再開に想いを馳せながら。
いつまでこうして続くのだろうか。
仕事をして、結婚して、子供ができて、
じいさんになっても・・・
生涯現役?
あり得ない。
俺たちは青春の儚さ、時の残酷さを呪うも
その残酷な鎌が振り下ろされるのを止める事はできない。
だからせめてもの抵抗にと、やがて訪れるであろう終わりの日に直面するまで気付かないフリをしているでしかないのだ。
☆
湯船に浸かり冷えた体を温め
しっかりと髪を乾かす
約束の時間はとうに過ぎてしまっている。
幼馴染みの怒る顔が浮かぶ
またドヤされる。
辟易しながら自室に戻り、器具を取り付けベットに横たわる
俺はこの街が嫌いだ。
汚くて煩いだけのこの街が。
だけどこの「エンシェントアルカディア」
は違う。
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、、、、
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★
あたり一面には広漠たる草原
空には1年中星々が瞬いていて、現実の世界では嘘にしか聞こえない神話が本当に夜空に息づいているようなのだ。
これは何ともまぁ可笑しな話だが、
帰ってきた
と実感する。
バーチャルオンラインゲーム。
人々が月面に一歩を踏み出してから
宇宙・深海・未開の地・過去の文明、、、
様々な神秘に足を踏み入れた人類が次に目指したものはおとぎ話の中だった。
現在では電脳世界にその足跡を刻み
無限に広がるファンタジーの世界を旅する様になってから数年。
ドラゴンが潜む火山、死者が跋扈する朽ち果てた沼地、精霊が歌う森・・・
前人未到の地、見た事もない宝物、其々が思い描く未来と栄光を求め、老若男女様々なプレイヤーが時に協力し合い、時に熾烈な争いを繰り広げているのだ。
「遅い!!!」
そう、それはまるで春雷の閃き。
本日2度目のノスタルジアな世界からの強制送還。
いや、日付が変わっているから2日連続での
が正しいか。
レア度SSS級の剣の柄で殴り飛ばされる。
そこら辺のモンスターなら一瞬で死に絶えている程の衝撃なのだ。
そこには我が幼馴染みであり
ギルド「すぷりんぐさんだぁ」のマスター
マオ様がいかにも「ぶっ飛ばすよ!」
という様な表情をして立っていた。