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「ひーくん、それ、どうしたの」
「は?」
ゆらが指差す先には紅の紋様が浮かび上がる、緋色の腕。
「・・・おめえの仕業か。夕葉」
いたずらっ子の笑みを浮かべる夕葉の腕にも紋様が浮かび上がっていた。
「って、私にも」
「ゆら、それはかつて俺らが使っていたチームの紋様で、このゲームの参加パーティーになった印だ」
「え?でも、ひーくんはゲームには参加しないって」
「それはこのバカに聞いてくれ」
不機嫌に夕葉をさす。当の本人は悪びれた様子もなく満面の笑み。
「ゆらちゃんが俺を思い出すまで、お供させてもらうよ」
「だから、あなたが知ってるその人は死ん・・・」
言いかけて、降ってきた斧を素早くよける。空を覆う木々を仰ぐと、無数の死者たちに囲まれていた。
1人でも厄介な死者がこれだけいるとなると。
「ひーくん、とりあえず夕葉も!逃げよう!」
「ご冗談」
この状況でも楽しそうな夕葉の声が聞こえた。その方向から、血しぶきが舞う。
「あいつは大丈夫だ、俺たちは逃げよう」
平然と夕葉を見捨てようとする緋色に、死者がごっそり落ちてくる。
「それ緋色の分だよ。ゆらちゃんにかっこわるいとこ見せらんないでしょ?ね、ひーくん?」
枝にぶら下がり汗を拭う夕葉に舌打ちして、死者をぶったぎる緋色。
ゆらは邪魔にならないようにサポートしていたが、戦う緋色に惚れぼれしていたら隙をつかれた。
死者の矛がゆらに向かう。
「よいせ」
それを軽くはじいてゆらを抱える夕葉。
「じゃあ、緋色。落ち着いたら森の入り口に集合だ」
「おい!」
手が離せない緋色を置いて、木から木へと死者をよけて岩場に滑り込んだ。
「まだひーくんが外にいるの!離して!」
暴れるゆらを力で抑えつけ、唇と唇をふれあわせると、優しく抱きしめた。
「緋色は強いから。大丈夫だよ」
「知ってる、けど・・・そばにいたいの」
「俺がいるじゃん」
嘯く夕葉をとりあえず殴る。
「昔のゆらと緋色は仲悪かったのにね。どきどきブラックスイッチ入ったゆらが、緋色をいじめてたから、緋色もゆらは苦手だったんだよ?」
懐かしそうな夕葉を一瞥して、ふふふ黒い笑みを浮かべるゆら。
「それを聞いて安心したわ。じゃあ、今は緋色は私の中身を、夕葉さんは私の身体が好きってことでしょ?昔のゆらと緋色が仲悪くて、よかった」
そうか、昔のゆらがいない今、俺はゆらの身体だけを追い求めていることになるのか。夕葉は苦笑した。
「でもさ、ゆらちゃん。ほんとうに俺にキスされて、何にも感じないの?」
トクン・・・。胸が苦しくなる。私と、この人が知っているゆらは違う人間なのに、身体だけ反応してしまう。
この悪魔にときめいてしまったなんて勘違いだ、勘違い。心の中でつぶやいて、夕葉の目をまっすぐ見て、断言する。
「私はあなたのことは好きじゃないし、これからも緋色だけが大好き」
「ふーん」
夕葉の顔がサドっぽく歪み、全身から溢れてくるいじめっ子オーラに、思わず後ずさりする。
「は、早くひーくんと合流しなきゃ!」
目をそらして岩場から出る。
「ゆらちゃん!いきなり出たら危な・・・」
止めようとする夕葉の手をすり抜け、襲ってくる死者を3mほど鉈でふっとばす。
「私がひーくんのそばにいられるのは、ただ可愛い女の子ってだけじゃないから」
「・・・言うねー」
ゆらに加勢し、夕葉も森の入り口へ向かった。
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ああ、またか。
去っていく2人を見て。諦めに似た笑いがこぼれる。2人を会わせたらこうなることはわかっていた。
でも、夕葉と、俺のせいで死んだゆらへの罪悪感から、夕葉に何も知らせずゆらと2人で逃げるなんて、できなかった。
ん、なんだ。気持ちいい。
目を開けると、至近距離にゆらの顔。
そうか、あのあと2人と落ち合って宿に泊まったんだっけ。
「っておまえは何をしてるんだ!」
「んぁ・・・何って、夜這い?」
「おい!・・・くっ」
耳を舐めたゆらの舌が首筋を伝い、緋色の唇をふさぐ。
夜這いしてきたわりには遠慮がちなキスをチュッチュと繰り返していたが、ためらいながら唇に噛みついてくる。
先に仕掛けてきたのはおまえだからな。
緋色はため息とも、吐息ともわからない息を吐きながらゆらの唇をこじ開ける。