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外はお祭り騒ぎだった。出店に浮き提灯。だが、行き交う人々が話す内容は殺すだの、殺されただの、物騒なものが多かったが。
「けっこう多いな」
あまりの人の多さにクラクラする。だが、ゲームが始まる前に夕葉を見つけないと、ゆらを残してゲームに参加しなければいけなくないる。
人探しのために命がけのゲームに参加するのもバカらしいし、なによりもう、好きな女と死に別れするのは飽き飽きしていた。
「その、夕葉さんてどんな人?」
「猫かと思ったら着ぐるみで、中から悪魔が出てきたみたいなやつ」
「わかりにくっ!つまり見た目と裏腹に腹黒な人なんだね・・・」
「まあな。1年前と変わってなければ茶髪で・・・おまえが今つけてるイヤーカフと同じものをつけている」
「私と同じ・・・」
あからさまに落ち込むゆらの頭に手を載せる。
「なに誤解してるか知らねえけど、夕葉と俺は間違ってもそういう仲じゃねえ、てか夕葉は男だ」
「でも、私と同じイヤーカフをあげたってことは、夕葉さんというのは元カノ、いや元カレなのでは」
ぶつぶつつぶやくゆらを軽く叩く。
「んなわけねーだろ!俺にそっちの趣味はない!」
やっぱ、夕葉のことも覚えてないか。ゆらは勘違いしているが、ゆらにイヤーカフをあげたのは、俺じゃなく、夕葉だ。自分と同じものを、最愛の人に・・・。
「あ、あれおいしそう!買ってくるね」
人の気も知らないで。ため息をついて人ごみに消えていったゆらを追おうと一歩踏み出す。だが誰かに呼び止められて見失った。
ポンと肩を叩かれ振り返る、と同時に戦闘態勢にはいる。
「あいかわらず血の気が多いなぁ」
「夕葉・・・」
緋色のパンチを難なく受け止めると少年はにっこり笑った。
「久しぶりだね、緋色」
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りんごあめを頬張りながら、濡れた髪をぎゅっとしぼる。
お祭りを満喫して緋色とはぐれてしまったゆらは、通り雨に降られて宿屋に戻っていた。
「服着替えちゃおー」
服を脱ぐと、緋色の服が目に入った。どきどきしながら拾い、匂いをかぐ。安心する香り。
「やっぱ、大好きだな・・・」
バン!
突然扉を開けられ、慌てて緋色の服を隠す。だが自分の裸を隠すのを忘れていた。
「誰?」
「ゆら・・・」
少年はよろよろと部屋に入ってきて、裸のゆらを抱きしめた。
「え、あの、は?」
突き飛ばしたい衝動にかられたが、少年があまりに切なそうな顔をするから動けなかった。
一瞬の出来事だった。少年の舌がゆらの唇をこじ開け、2人は激しく絡み合った。
「んんーっ、んー!」
びっくりして逃げようとすると、さらにキスが激しくなり、力が入らなくなった。
(この人、キスうますぎだよ・・・)
気持ちよくて意識が遠くなる中、少年の耳にゆらと同じイヤーカフがついているのに気がついた。
(この人が、夕葉)
「おい、ゆらから離れろ」
緋色の低い声がして、夕葉は身体を離した。
緋色の跳び蹴りをさらりとかわすと、夕葉は申し訳なさそうにゆらの手を握った。
「ごめんね、ゆらちゃん。あなたが記憶喪失なのは聞いています。それでも、あなたの姿を見たら、自分を止められなかった」
呆然としているゆらは応答せず。
「悪ぃ、ゆら。こいつが夕葉で、記憶がなくなる前のおまえの恋人だ」
「こい、びと・・・」
「場所をかえて話すか。緋色はあなたに、何も話していないようですし」
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気がついたら、丘に座っていた。祭りの明かりが下界に灯り、幻想的だ。風も涼しくて、気持ちいい。
「あれ、緋色は?」
緋色は飲み物を買いに行ったよ、背後から声がした。夕葉の声。
「さっきはごめん。ほんとうに」
そう言ってなでなでしてくる。夕葉はゆらの身体を知り尽くしているようで、夕葉にさわられると気持ちよくなってしまい、恨めしい。
「説明してください、いろいろと」
「うん」
俺は緋色とゆらとチームを組み、1年前、この死者狩りに参加した。死者狩りは3人1組だからね。
簡単に言うと、その年の死者狩りで、俺たちは王座を勝ち取って、ゆらは死んだ。
「いやいや、簡単に言い過ぎて、全然理解できないのですけど」
「でもこうして生きていてくれた。俺にとってはそれぞれだけが事実で、他のことは些細なことなんだ」
だからそれじゃあ説明になってないって。
「私はなんで死んだの?」
「死者に追われた緋色をかばって谷に落ちた。谷底を探したけど、大量の血痕が残ってただけで、死体は見つからなかった」
「それで、夕葉さんは緋色を恨んでパーティーを解散した?」
「まあ、恨んでたわけじゃないけど、平気な演技をするのがきつかった。それだけ」
「ふーん」
緋色をかばって死んだのか。なら本望だ。そして、生きてまた、緋色のもとに戻ってきた。記憶はどこかに置いてきたけど。
幸せそうな顔をするゆらを見て、悲しそうにする夕葉。
「あのゆらちゃんがね・・・今は緋色のことが好きなんだ?」
「そうだよ。大好き」
反射的に答えて、はっとする。そういえばこの人、前ゆらの恋人さんだっけ。
「たぶん夕葉さんが知ってるゆらは、その時確かに死んだんだと思う。私はその人じゃない、ごめん。今後も私をその人と重ねるようなら、あなたとは仲良くできそうにないよ」
「・・・」
切なげな顔をしてゆらの髪を掬おうとした夕葉の手をパンッとはねる。
「あと、私に馴れ馴れしくさわらないで」
(切なそうな顔してもだめです!私にはひーくんがいるので!・・・まだ好きって言われたことないけど)
びっくりしていた夕葉は叩かれた手をひっこめ、困ったように笑う。
「たしかに、あなたとゆらは全然似てない」
「なんか嫌味にきこえます・・・」
「そういう意味じゃなくて、前のゆらは、常にビクビクして、遠慮しているような、おとなしい子だったんだ。だから、まあ、よかったよ。最後に元気な姿が見れて」
「夕葉さん・・・」
「・・・なんて簡単に諦めると思った?」
夕葉の優しい笑みが歪む。
グラッ。地面が揺れ大きな音が下界の方からした。それは、花火よりまがまがしい、死者たちの操る暗い炎。
「下の様子が変!何が起こっているの?」
ゆらは急いで宙に漂うシャボン玉を一つ掴む。ネオンでひかるstartの文字。
「そんな、まだ、ゲームの開始時間じゃないのに」
「ゆら!夕葉!大丈夫か?」
「緋色!」
ゆらは緋色の袖をしっかり掴む。