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水に覆われた森で私はひーくんに拾われた。
あの日も目が覚めたら、シャボン玉の中に光るネオンの文字がゲームの始まりを知らせていたけど、私は混乱の中にいた。
今日が何日で、ここがどこなのか。
さっぱりわからなくて戸惑い顔の私を、なぜかびっくりしたように見ていたひーくんは、しばらくしてからぶっきらに「行くぞ」と言った。
「うん」
そのときは味方なのかさえわからなかったひーくんについていったのは、どこか懐かしい雰囲気を、ひーくんがまとっていたから。
ふらつく私をさりげなく支えてくれたその手を、暖かさを、今でもまだ、忘れられずにいる。
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バタバタドタバタガッシャーーーーン!!
「ひーくん、今日もかっこいいね!」
なんだ騒がしい。まぶたの上に置いていた腕をずらすと、朝日がまぶしかった。
突然大きな影に遮られる。
「・・・近い」
えへへと緋色の顔を覗き込むゆらの顔を押しやって起き上がると、周囲の水が少し揺らいだ。
何度この森に入っても慣れない。ここでは黄泉の水、死者にとっての空気が森全域を囲っている。
生者にとっては少し息苦しいが、不思議と呼吸はできた。
「いよいよ、だね」
「・・・ああ」
年1回行われる、死者狩りの祭り。1週間でより多くの死者を殺した者が王座に君臨する。
王座といっても実際に王になるわけではなく、望む物をなんでも手に入れられるというこのゲームのご褒美に由来するのだが。
「昨日も言った通り、俺たちは死者狩りには参加しない。ただこの祭りに参加すると思われる、ある人物を探すだけだ」
「えー、つまんないよう。いっぱいヤれると思ったのに」
「笑顔で物騒なこと言ってんじゃねえぞ」
「えへへ」
話しながらゆらのパジャマのボタンをはずしていく。日焼けしていない、綺麗な肌。服と敏感な部分がこすれて、ゆらは吐息をもらす。
「変な声出すなよ」
熱い顔を見られないように、顔を背けようとする緋色の顔を両手で包んで目を合わせるゆら。
「だめ、ちゃんと見て」
ゆらは触れそうなくらい顔を近づけて、潤んだ目をそっと閉じた。
だが、ふっとびそうになる理性をフル回転させ、さっさとゆらの着替えを済ませてしまう。
「・・・私はいつでも、ひーくんのこと待ってるからね」
「・・・悪ぃ」
どんなにお互いに想い合ってたとしても、触れ合えない。それもこれも、探し人である、夕葉のせいなのだけれど。
そんなことなんて知らないゆらは、拒み続ける緋色を好きでいることができるのだろうか。
髪にキスをされて赤くなったゆらをなでて、宿屋の戸を開ける。