終わりに
Ⅹ 終わりに
ありすがいなくなって最初に涙を流すのは僕だろうと思っていたが、僕ではなく湊だった。
手短にその旨を話すと、「あいつらしい」と言って笑っていたけれど、しばらくしてさめざめと泣き始めた。
その姿に、僕はうろたえてしまい、泣く余裕もなくなってしまったのだ。
服部はその隣で「それでよかったんだ」とありすと同じような言葉を言っていた。
ありすがいなくなった後、残ったのは砕けた破片だった。
僕はその破片をいくつか拾い集めた。
それは冷たく鋭くて、持った時に血が流れてしまったが、表面はつるっとしていた。
その破片を持って僕は家の近くにある公園に向かった。
湊たちと探検ごっこした時以来の来訪で懐かしさがこみあげてきた。
しばらく考えたが、彼女にとってはここがぴったりの場所だった。
キンモクセイの根本にそっとそれを置いて、僕はそのまま公園を後にした。
もしかしたらこれを書いている今は廃棄されているかもしれない……でも、ここでならきっとゆっくり眠れているだろう。
「キンモクセイの香りは嫌い」って言われたらそれまでだ。
ありすがいなくなった今、僕の暮らしは至って平凡だ。
そろそろ夏休みに入って塾の講習が始まるとなると少しため息が多くなってしまう。
だけど、ありすの言うとおり僕の親友は良い奴だ。たまには勉強を忘れてボーリングにでも行こうと誘ってくれる。
とても嬉しいというのは嘘ではない。だけれどテスト前に誘うのは困るのが現実でもある。
湊とはあの日以来、話してもなければ会ってもいない。
服部曰く、土日の公園を覗くとキンモクセイの近くにあるベンチに座って読書をしているところを見かけるらしい。
なんだか不思議な雰囲気を醸し出していて、なかなか話しかけづらいそうだ。
第二のありすでも生まれるのだろうか。ありすが偽物はお断りと仏頂面になりそうだ。
ちなみに服部から最近聞いた話だが、彼女は「ユーキ」という呼び方が好きだったようだ。
小学校の頃から、冒険者らしくてカッコいいと口走っていたみたいだ。
何故、僕が彼女を「ユーキ」と呼んでいたのかは思いだせなかったが、それを聞いてちょっとこそばゆい感覚がした。
最後になるが、この手記は誰にも見せることはないだろう。机の奥底にでも隠しておこうと思っている。
できることなら、夢の世界にいるであろうありすに見せたいのが本望だけれど、児童文学書の不思議の国のアリスに挟めて机の中に眠らせようと思う。
そして、この夢はこれきりにして、僕はそろそろ現実に戻るためにペンを置くことにしよう。
PS・彼女の最後の言葉通り、腐りそうなほど余っていたブドウを食べてみた。 甘くべっとりした舌触りは不思議といくらでも食べられる気がした。
ウサ タロー




