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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十三章 闘武祭

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それぞれの思惑

 闘武祭二日目。
 俺を含め本戦出場を果たした十六名は試合場に並んでいた。

 全員が並んでいるのは、今からトーナメントの抽選が行われる為である。
 少し準備が遅れていて忙しなくスタッフが動き回る中、俺達は己の武器を点検しながら待っている。
 選手達が自分の武器を持っている時点でわかると思うが、闘武祭の本戦では自分が愛用している武器が使えるようになる。
 集団戦で生き残れない弱者と武器の強さに頼り切った選手は予選で消えるので、ここに並んでいる選手達は間違いなく強者と言える。
 運で勝ち上がった奴もいるだろうが、運も実力の内というので文句はない。

 そんな中……レウスは目立っていた。
 正確に言うならば彼が背負っている大剣がである。
 身の丈はある分厚く巨大な鉄塊に、観客だけでなく試合場に並ぶ選手達の注目を集めている。

「あれって……剛剣の真似か?」
「本当に振れるのかよ?」
「いくら剛剣に憧れるからって……あそこまで真似しなくてもな」

 あまりの大きさに観客から呆れ気味な声が聞こえてくるが、レウスは黙々と準備体操をしながら抽選が始まるのを待っていた。
 周囲に呑まれず己を保つのが自然と出来ているレウスに感心していると、少し離れた場所に立っていたジキルが笑みを浮かべながら俺の横へやってきた。

「よう。調子はどうだ?」
「悪くないね。そっちは……聞くまでもなさそうだな」
「当たり前だろ。強そうな奴等がこんなにもいて、滾らない方がおかしいってもんよ」

 腕を組んで大きく笑う姿はライオルの爺さんそっくりだ。まあ、彼の場合は爺さんを真似ている内に自然とやるようになった気もするが。
 ちなみにジキルも大剣を背負っているが、レウスの剣より若干小さい。しかし大剣から魔力を感じるので何か特殊な能力を持っているようだ。
 そう思いつつジキルの大剣を眺めていると、俺の視線に気付いたジキルが苦笑しながらレウスに顔を向けていた。

「にしてもよ……自分より大きい剣を持ってる奴なんてライオルさん以外に初めて見たぜ」
「ちゃんと振れるから油断するなよ」
「そんなのあいつを見てりゃわかるっての。あれに気付けなきゃ、本人の程度が知れるってもんよ」

 そして他の選手に視線を向けてみたが、半分は観客と同じような呆れ顔で、残りは真剣な表情でレウスを眺めていた。

「……気付いているのは半々といったところだな。そんじゃま、戦いになったらよろしく頼むぜ」
「ああ。よろしく」

 爽やかでちょっと暑苦しい笑みを浮かべながらジキルは俺から離れ、近くのベイオルフにちょっかいをかけていた。
 一方ベイオルフは相変わらず無愛想な態度だが、レウスに熱い視線を送り続けている。完全にロックオンされたみたいだな。

 そして準備が終わったスタッフが俺達の前に並ぶと、闘技場全体に聞こえる声が響き渡った。

『それでは、闘武祭の抽選を行いたいと思います』

 予選ではほとんどなかったが、流石に本戦になると実況が入る。
 『風響エコー』による実況を行っているのは実況専属の女性で、声だけでなく容姿も綺麗な彼女はちょっとした人気者らしい。前世のアナウンサーみたいなものだろうか?
 そんな綺麗な声による実況を聞きながら、トーナメントの抽選会は始まった。

『まずは予選一試合目を勝ち抜いた、ドラム選手から……』

 ちなみに抽選は木箱に入った札を引いて書かれた番号によって決まる。引いた番号の一番と二番が一試合目というように、どこにでもある基本的な抽選方法だ。
 札を引くのは予選を突破した順番らしく、予選の最後だった俺は自然と後になるだろう。

『続きまして、予選三試合目を勝ち抜いた、アクリ選手』

 ここまで知らない選手ばかりだが、予選を勝ち抜いただけあって中々強そうだった。
 だが……あくまで強そうで興味を引くほどじゃない。現時点で気になる選手はレウスを含めて四人だな。

 抽選は進んでジキルの番となった。
 ジキルが鼻歌を口ずさみながら札を引けば、札の番号は十五番だった。

 そして剣聖の息子であるベイオルフの札は二番だ。
 抽選が終わればすぐに試合だが、すでに対戦が決まっている一番の選手よりレウスの番号が気になって仕方ない様子である。

 向けられる熱い視線に気付いていないレウスの番号は十二番だった。
 決勝まで進まないとレウスに当たらないので、ベイオルフは悔しそうに舌打ちをしていた。

 そして最後に気になるのが、俺と一緒に予選を突破したコンだ。
 相変わらず鉄仮面を装備しているが、彼の番号は十番だった。すでに対戦が決まっている九番の選手と見比べてみたが、コンの方が若干強そうな気がするな。
 おそらく初戦は勝てると思うが、次はレウスだから御愁傷様としか言えない。

『最後のシリウス選手は残った七番に決まりました。以上で組み合わせが決定しましたので、選手の方々は試合場の外へ出てください』

 実況の声に従い、一試合目のベイオルフと一番の選手以外は試合場から降りて試合を見物できるスペースに向かった。一部は興味がないのか控室に向かって呼ばれるのを待つ者もいる。
 当然俺とレウスは見物するので用意されたスペースに座ると、試合場に立つベイオルフが一度だけこちらに振り向いて笑みを浮かべてきた。

「……さっきからあいつ何なんだ?」
「気付いてるなら何か反応してやりなさい。お前と戦いたくて仕方がないのさ」
「やっぱりそうなのか。でもなあ……」

『ここで両選手の簡単な紹介を行いたいと思います。まずはアクリ選手ですがー……』

 レウスがぼやいている最中に実況の声が響き渡り、抽選前に書かされたプロフィールが発表されていた。
 自己申告なので無理に書かなくても良いのだが、観客を盛り上げる為に何でもいいから書いてほしいと頼まれたものだ。
 とりあえず当たり障りのない範囲で書いたが、現在読まれているアクリ選手はかなり大胆に書いているらしく、得意武器や戦ってきた経歴が発表されていた。今から戦う相手に情報を与え過ぎだろと若干呆れた。

『続きましてベイオルフ選手ですが……これは凄いですよ皆さん! 何と彼はあの有名な剣聖の御子息だそうです!』

 剣聖と聞いて観客は大いに盛り上がりを見せていた。
 あっさり自分の正体をばらしているが、彼は強者を求めているので名前が売れても問題がないようだ。

『剛剣に敗れるまで不敗と言われたあの伝説の剣聖の御子息は一体どんな戦いを見せてくれるのか非常に楽しみです。それでは一試合目……始め!』

 実況が興奮して言葉が乱れ始めたところで銅鑼が鳴り響き、ベイオルフの試合は始まった。


 噂では剣聖の戦闘スタイルは長剣一本である。
 しかしベイオルフの武器は一般の長剣より少しだけ短い剣が二本……所謂二刀流であった。

「あいつ二刀流なのか。珍しいな」

 武器を二本持てば確かに強いだろうが、それは左右の武器を自在に操れるようになればの話だ。それが出来なければ片手に盾を持った方が戦えるだろう。
 つまり二刀流は相当な技術が必要なので、それを使うのは格好良く見せたいか、それ相応の実力を持っているかのどちらかだが……彼は後者のようだ。

「はああぁぁっ!」
「ちっ!?」

 開始と同時に飛び出したベイオルフは、左の剣で突きを放ちながら右の剣で斬りかかっていた。
 一方、対戦相手であるアクリの武器は槍斧ハルバードで、彼は左の突きを斧の部分で受け止めながら、柄の部分で右手の剣を捌いている。
 左右の剣を自在に振るうベイオルフと、一本の槍斧ハルバードでそれを捌くアクリの戦いは拮抗しているように見えたが……技量はベイオルフの方が遥かに上だったようだ。
 武器同士がぶつかる応酬が二十を過ぎた頃、ベイオルフは溜息を吐きながら剣の動きを変えた。

「……もうわかりました。終わらせましょう」

 剣の速度が増したかと思えば、左手の剣がアクリ選手の手を浅く斬り、右手の剣で槍斧ハルバードを下から打ち上げていた。
 手を斬られた事によって握力が一瞬弱まり、そこに武器を打ち上げられた事によってアクリ選手の槍斧ハルバードは上空を舞っていた。
 武器を弾かれた隙を逃さず、ベイオルフは剣をアクリ選手の喉元に突きつける。

「……降参しますか?」
「ああ……しよう。俺の負けだ」

 そしてベイオルフの遥か後方に槍斧ハルバードが落ちた時、ようやく試合が終わったのに気付いた観客達は歓声を挙げて興奮を露わにしていた。

『な……何と言う早さ! あの攻撃を捌いたアクリ選手も凄かったですが、やはり剣聖の息子はレベルが違いました! 強い人は大好きです! 終わったら食事に行きませんか? きゃーっ!』

 驚きながら実況を聞いていると、近くに座っていたジキルがベイオルフを親指で指しながら俺達に顔を向けてきた。

「凄いもんだろ?」
「……凄いな兄貴」
「ああ、凄いな」

 何が凄いって……あの実況の変貌ぶりにだ。
 興奮すると性格が大きく変わる人なのだろう。美人なのもあるが、この落差が人気の理由かもしれないな。
 ……冗談はここまでにしておいて、ベイオルフは確かに剣聖の息子に恥じぬ実力だった。相手が弱かったので加減はしていたが、二本の剣を自在に操る技術は凄まじいと思う。
 観客と同じように拍手をしていると、試合を終えたベイオルフが俺達の前まで戻ってきた。

「どうです? 僕の実力を見ていただけましたか?」
「ん? おう、中々の技術だったぜ。あれが本来のお前なんだな」
「あんなのは小手調べに過ぎません。貴方を倒すのは私ですので、頑張って決勝まで来てくださいよ」
「あー……無理じゃないか?」
「……何ですって?」

 レウスの言葉にベイオルフは首を傾げていたが、抽選が終わってから作られた大きなトーナメント表を眺めて納得したように頷いた。

「なるほど。やはりジキルさんがいるから難しいと言うわけですか。ですがそんな弱気でー……」
「違うって。俺は決勝まで行けるけど、お前が絶対に無理だからさ」
「僕が……無理?」
「だってお前は俺の前に兄貴と戦うんだぜ? だから決勝なんて無理だよ」
「…………」

 はっきりと言うレウスにベイオルフは不機嫌そうにしていたが、俺の顔を一瞥してから不敵に笑いだした。

「何だよその顔? 別に冗談じゃないぞ。俺は本気で言っているんだ」
「いえ、冗談だろうと本気だろうと関係ないのに気付きました。この人を倒し、貴方のその当たり前と信じて疑わない笑みを崩してみせます」

 そう結論を出したベイオルフは俺達と離れた場所に座って武器の手入れをしていた。
 ふむ……たった一試合でも手入れを怠らない様子から、彼は一切油断をしていないようだ。中々手強そうな相手になりそうである。
 そしてレウスの言葉が壺に入ったのか、ジキルが笑いながらレウスの肩を叩いていた。

「ははは! 決勝まで行くって事は俺を倒せるってわけだな? 是非やってもらおうじゃないか」
「当然だろ? 兄貴と俺で優勝と準優勝をいただくつもりなんだ。ジキルに躓いてなんかいられねえよ」
「いいなその気迫! お前との対戦を楽しみにしているぜ!」

 大笑いしながら俺達の前から去ったジキルは、今度はベイオルフの隣に座ってちょっかいをかけていた。
 暑苦しい部分はあるが、ライオルに比べたら変態度が大人しいので付き合いやすい相手だと思う。



 それから二試合目と三試合目が終わり、俺の番がやってきた。
 抽選が終わってすぐのベイオルフ達は別だが、次の試合に出る選手は一度控室に向かい、係の者に一度審査を受けてから試合場へ向かう流れなのだ。
 審査は毒等の闘武祭にそぐわない武器や防具をチェックする為に行うのだが、俺はいつもの装備である剣とミスリルナイフ、そして防具は戦闘服の上にロングコートを着ているだけだ。
 普段は身に着けている投げナイフと暗器は外しているので、俺の審査は問題なく通った。むしろそんな防具で大丈夫ですかと心配されたくらいである。

 そして控室から試合場に向かうと……観客席から響き渡る歓声が俺を包んだ。
 エミリア達の応援が聞こえたので手を振ってやれば、一部の観客から嫉妬と羨望の眼差しを向けられてしまった。フィアはフードで隠しているけど、エミリアとリースは可愛くて目立つ容姿だから仕方ないかもしれない。
 しかし試合場へ立ったものの、俺の審査が早く終わったせいで試合場にはまだ対戦相手が来ていなかった。

『先にシリウス選手が入場されましたので、彼の紹介をしようと思います。事前の資料によりますとシリウス選手は旅人で、偶然にも闘武祭の時期にガラフに来たそうです。しかしこの若さで本戦まで来れるとは……期待の新人ですね』

 ちなみに本戦の初日は準々決勝まで行うので、時間が勿体ないのか俺の紹介が始まっていた。

『予選では見た事のない体術を駆使して突破していました。そして闘武祭には仲間と恋人の為に参加したと書いてあります。良いですね、こういうのは嫌いではありません。得意武器を書いてくれていますが……状況によって変わると書いてありますが……そのままの意味でしょうか?』

 はっきりとしない実況に観客や選手達が首を傾げていると、向かい側の通路から対戦相手である男がやってきた。

『妙に軽装なのも気になりますが……とにかくシリウス選手の紹介を終わります。続いて試合場に現れたのはゴドジン選手です。ゴドジン選手は槍の名手で、正確無比の突きが売りの選手です』

 現れたのは自身の身長はある槍を手にした中年の男で、堂々としたその態度から幾つもの修羅場を潜りぬけてきた戦士のようだ。
 俺の向かい側に立っても実況の紹介が続き、何でもゴドジンは三つ並んだ的の中心をほぼ同時に突ける程の技術を持つそうだ。
 技術を隠さないって事はそれだけ自信がある証拠なのだろう。公表して優越感に浸る者ではなく、破れるものなら破ってみろという戦士の気質を持つ性格だな。

「……若いな。それに来る途中に聞こえたが、得意な武器が変わるってのはどういう意味だ?」
「そのままですよ。臨機応変が私の戦闘スタイルですので」
「その剣が飾りとは思えんが……まあ、戦ってみればわかるか」
「そういう事です」

『お待たせしました。それではシリウス選手とゴドジン選手による四試合目……始め!』

 予選では待ちの戦法だったので今度はこちらから攻めようとしたのだが、俺より早くゴドジンの方が突撃してきた。
 銅鑼が響くと同時に前へ飛び出し、一瞬にして間合いを詰めて俺に槍を突きだしてきた。
 その槍は紹介通りの鋭さで、俺の胸元を正確に貫こうとしたが……。

「……っと!」

 少し大げさに体を捻って回避する。
 そのまま槍を掴もうと手を伸ばしたが、一瞬にして槍は引き戻されてゴドジンの手元に戻っていた。

『シリウス選手、あの速さの突きを避けました! しかしゴドジン選手の攻撃は終わっていません!』

 そこから怒涛の連続突きが放たれるが、俺は内心では余裕を持って、外ではぎりぎりだと思えるように回避し続けた。
 欲を言えば大袈裟に勝つのではなく、運で勝てたような結果が望ましいのだが……ゴドジンの腕前から少々難しい状況だ。

「……やるな。だが回避ばかりでいいのか? まだ速度を上げるぞ!」
「ご自由に!」

 宣言通り槍の速度が上がったので、流石に体だけでは回避しきれず剣を抜いて捌いていた。

『ゴドジン選手の猛攻に、シリウス選手は防御と回避で精一杯のようです! 徐々に試合場の端へと追いやられています』

 槍を体の動きと剣で捌きながら俺は徐々に後退をしていた。
 傍から見れば俺が押されているようにしか思えないだろうが、ゴドジンとそれなりの目と実力を持つ者は気付いた筈だ。
 焦り始めているのはゴドジンだと。

「くっ……何故だ!?」
「正確無比なのも考えものだな」

 槍がぶれて見える勢いで放たれているのに、俺のコートに掠る事すら出来ていないからだ。

 確かにゴドジンの槍は鋭いが正確無比ゆえに狙った個所のぶれが存在しないので、そこがわかれば回避が容易なのである。
 相手の目の動きと手首の動きから槍の動きを先読みしているので、相手を信頼しているゆえの回避とも言える。
 悪く言うならば、俺みたいな回避専門の相手と戦う経験が圧倒的に足りない。

 槍の動きを大分見切ってきたが、何度も手を伸ばして槍を掴もうとしている姿を見せながら試合場の端まで後退し、少しだけ大振りの突きが放たれるのを見極めてから俺は動いた。

「ならばこれでー……なっ!?」

 体を捻りながら回避しつつ、今度こそ掴んだ槍を引っ張って速度を狂わせたのである。
 自分の想像した以上の力が槍に加わり、ゴドジンは勢いを殺せず一歩だけ前へ出てしまったが……その一瞬の隙で十分だ。
 俺はすでに体を捻った勢いで空中回し蹴りを放ちゴドジンの背中を狙っていた。

『槍を掴もうとしていたシリウス選手がついにゴドジン選手のバランスを崩せたようです。そこへシリウス選手の蹴りが放たれます!』

 場外へ蹴飛ばす空中回し蹴りはー……避けられた。
 ゴドジンは試合場の端まで体を前方に倒し、蹴りを避けたのである。

『しかし避けました! 流石はゴドジン選手ー……っ!?』

 あいにくだが足はもう一本ある。俺は空中で体を更に捻りながら反対の足で蹴りを放っていた。

「ごふっ!?」

 背中への蹴りによってゴドジンは場外へと吹っ飛ばされ、場外の地面に転がっていた。ちょっと強く蹴りすぎたかもしれない。
 ちなみに俺は試合場の床に両足で着地は出来たが、あえて体を打ち付けながら格好悪く落下した。見ようによってはがむしゃらで運良く場外へ押し出せたように見えたー……かもしれない。

『ご、ゴドジン選手場外! 勝者はシリウス選手です!』

 勝敗が決まった実況と共に歓声が響き渡った。
 とりあえず、適度に実力を見せつけてあまり馬鹿にされそうにない感じで終わらせたが……結果は上々かな?
 強いかどうかはっきりさせていないし、準決勝までなら甘く見られそうだ。準決勝の相手であるベイオルフは手加減して良い相手じゃなさそうだからな。

 試合が終わって選手用の見物席へ戻ると、レウスが誇らしげに笑みを浮かべていた。

「凄ぇよ兄貴! 絶妙な強さだったぜ!」
「ふむ……レウスの目でもそう思えたなら大丈夫だな」

 俺の試合前に見た準々決勝で当たる選手よりは強く見せなかったので、次の賭け金も期待できそうである。
 少し悪そうな笑みをレウスと浮かべていると、ジキルとベイオルフが近寄ってきた。

「おめでとさん。俺の思った通りの強さだったが……実はお前余裕だったんじゃねえか?」
「想像に任せるよ」
「まあ俺も昔は似たような事をしたし、俺の時だけ本気出してくれたら文句言わねえよ」
「待てよ! ジキルが兄貴と戦う事はねえぜ!」
「そうだったな、ははは!」

 やはりジキルは冒険者を続けているだけあって、俺のやろうとしている事に気付いた上に寛容であった。
 しかし、納得できない者もいる。

「……ふざけているんですか?」

 ベイオルフである。
 正義だとか叫ぶような奴ではなさそうだが、どこか納得いかない表情で俺を睨んでいた。

「おいおいお前も冒険者だろ? 俺はこれが間違いだと思わねえぞ。それに危険な事に変わりはないし、お前だって手の内を見たくて手加減してたじゃねえか」
「それはそうですが、相手の止めくらいはしっかりと差を見せるべきです。運で勝ったような決着をわざと見せた貴方の行動が嫌なんですよ!」

 ジキルが肩を叩きながら宥めているが、ベイオルフの苛立ちは収まらないようだ。
 つまりベイオルフが言いたいのはこうだろうか?

「蹴った後で転ばず、しっかりと着地できていたら文句はなかったと?」
「納得はできませんが、そうしていたら口を挟むつもりはありませんでした。あんな無様な姿で勝たれたら、負けた相手が惨めでしょう?」

 話を纏めると、実力差があっても倒す時だけは礼儀をもって倒せって事か? または最初から全力で戦えと。
 若さ……の言葉で片付けてもいいのだが、何か決着に対して拘りがあるのだろう。
 それが性格的なものか、過去に何かあったせいなのかわからないが、正直に言わせてもらうならお前の理屈を押しつけられても困る。
 俺は俺のルールに沿って生きているだけだ。一応、母さん達の遺言でもあるしな。

「闘武祭以前に貴方には絶対負けたくありません。明日の準決勝で化けの皮を剥がして見せますよ」

 こういう相手は下手に言い返しても逆効果なので、納得させるような返答を考えていたら向こうの方から話を打ち切ってきた。
 面倒になってきたし、実際に戦って冷静にさせるのもありだろう。
 不機嫌そうに席に戻るベイオルフを見送りながら、俺は試合の見物に集中するのだった。


 次の試合は少し気になっているコン選手の番だ。
 相手は斧を持った男だが、俺が戦ったゴドジンよりは下のようである。
 対してコンの武器は片手持ちも両手持ちも出来る剣、バスタードソードであった。

『鉄仮面を装備したコン選手ですが、顔を隠すようにちょっと資料も少ないようです。書いてある部分によりますと、強くなる為に旅をしている人族の冒険者だそうです』

 確かに昨日の会話で強い相手と戦いたいと言っていた。レウスやベイオルフ程ではないが、強くなるのに貪欲な姿勢である。
 互いの紹介が終わって試合が始まったが……武器がぶつかり合う激しい戦いになった。

 コンは斧の重さを生かした攻撃を剣で逸らしているのだが、違う点があるとすれば予選と違って信頼できる武器なので、積極的に相手の武器へ剣をぶつけて攻撃を逸らしているのだ。
 彼はとにかく相手の動きを読んで捌くのが上手い。綱渡りのような攻防を淡々とこなすあの腕は見事としか言いようがない。
 しかし不意を突かれると迷う素振りを見せるので、欠点は経験の少なさだろう。こればかりは戦いをこなして自分自身で身につけるしかないな。

「すげえ技術だな。ぎりぎりだぜ」
「見習うところは多いぞ。しっかりと勉強しなさい」
「わかってるぜ兄貴。でも俺が後で戦うのはあいつで決定だな。あの防御をぶち抜いて鉄仮面を剥いでやるぞ!」
「こらこら、やめなさい」

 鉄仮面を剥ぐのだけは止めるようにしっかりと言い聞かせておいた。気にはなるが、悪い男ではないと思うので。
 それからお菓子をちらつかせつつ約束させたところで、闘武祭のスタッフから声がかかったのである。

「レウス選手、控室にお願いします!」
「あ、いけね! じゃあ行ってくるぜ兄貴!」
「ああ、行って来い」

 本来なら前の試合が始まった時点で控室へ向かうのだ、慌てて駆けだしたレウスは控室に全力ダッシュで向かっていた。

『五試合目の勝者は……コン選手に決定です!』

 そして試合が終わったコンは控室へ向かおうとしたが、何故か途中で引き返してこちらにやってきたのである。
 その外見から選手の注目を集めながらやってきたコンは、何を思ったのか俺の隣に座ってきたのである。
 隣に座ってきたのなら声をかけてやるべきか。

「おめでとう。見事な腕だったな」
「ありがとうございます。ですが貴方には負けますよ」
「ところでさっきまでは自分の試合まで控室にいたようだけど、どうしてここに?」
「レウス選手を見ておこうと思いまして」

 確かにレウスが勝ったら次の相手は自分だしな。
 相手の情報を集めるのは当然だし、彼の行動に何もおかしい点はないな。変なのは鉄仮面だけだ。


 意外にもこちらへ話しかけてくるコンと世間話をしていると、レウスが試合場に姿を現した。
 予選で目立ったせいか歓声も一際大きいが、レウスは堂々と試合場に立って静かに試合が始まるのを待っている。
 そしてレウスの相手はタワーシールドと呼ばれる大きな盾と槍斧ハルバードを装備した頑丈そうな大男だった。
 実況の紹介によると、パーティの前衛に立って仲間を守る盾役の男らしい。本来なら全身鎧を装備しているそうだが、審査によって急所を守る程度に鎧が変えられていた。

『そしてレウス選手ですが見ての通り立派な大剣を背負っております。あの剛剣を彷彿させますが、それもその筈。レウス選手は何と剛剣から剣の手ほどきを受けた事があるようなのです!』

 剛剣の名前が出ると同時に歓声は一気に跳ね上がっていた。あの変態爺さんの名前が出ただけなのに……凄い効果だな。

『しかしあくまで自分は兄貴の弟子だと書いてあります。兄貴は誰かわかりませんが、後は何でもいいからかかってこい……としか書いていません。何て潔い! これは期待できそうです。それでは試合……開始!』

 騒がしい実況だなと呆れている内に試合は始まり、銅鑼と同時にレウスは前へ飛び出した。
 大剣を上段に構えたレウスは一歩目から床を踏み砕く速度で迫ったので、対戦相手は防御を優先して盾を構えたが……。

「どらっしゃーっ!」

 剛破一刀流の基本技、剛天で振り下ろされた大剣は盾を斬るどころか、とてつもない衝撃波を発生させて対戦相手を場外まで吹っ飛ばしていた。
 注目すべきところはレウスが大剣を途中で止めている点である。もし剣を振り切っていれば相手を真っ二つにし、剣が試合場の床まで斬っていたかもしれないからだ。
 相手が場外へ飛んだのを確認したレウスは軽く息を吐きながら大剣を背負い、俺に向かって親指を立てていた。

『しょ、勝者……レウス選手。そして見ましたか皆さん? 一撃です! あの盾の上からでもたったの一撃で倒してしまいました! 彼は偽物ではなく本物です! まさに剛剣の再来ですよ。私とデートしましょう!』

 観客が最高に盛り上がり始め、実況のテンションがおかしくなり始めているのを余所に、レウスはエミリア達に手を振ってから俺の所に戻ってきた。
 その前にコンは控室に戻っていたが、彼はレウスの力を見ても諦めている様子は見られなかった。中々の胆力だと思う。

「お疲れさんレウス。良い一撃だったぞ」
「ありがとう兄貴。この調子でガンガン行くぜ!」

 周囲に座っている選手達の視線がレウスに集まっているが、特にベイオルフとジキルは真剣な表情でレウスを眺めていた。
 ベイオルフは当然だろうが、ジキルも流石に笑っている場合ではないと理解して冷や汗を掻いていた。

「力だけなら俺より上かもしれねえ。こりゃあ負けてられねえなぁ……」



 そして試合を一つ跨いでジキルの試合になったが……彼はあえてレウスと同じような戦法で勝利していた。
 真似をしたわけではなく、自分も同じような事が出来るのだと見せつけているのだ。実際その行動で観客は盛り上がり、準決勝でぶつかるであろうレウスとの戦いに期待を寄せていた。
 盛り上げる所はしっかりと盛り上げる点から、ジキルはエンターテイナーの才能もあるようだ。冒険者特有の幅広い知識も生かしているようである。



 その後十六名の試合が全て終わったが、二回戦の前に少しだけ休憩時間が設けられている。
 俺とレウスはその時間を利用して観客席にいる女性陣の元へ向かった。
 顔を出すとすぐさまエミリアとホクトが気づき、揃って尻尾を振りながら俺の前にやってきた。

「シリウス様! お疲れ様です」
「ああ、こっちは変わりないかい?」
「私達なら試合を楽しませてもらっているわよ。それに、何かあってもホクトが守ってくれるからね」
「オン!」

 全員の表情からして、特に何事もなく試合を見物できているようだ。
 エミリアとホクトの頭を撫でていると、リースが少し緊張した面持ちで袋を握っているのに気づいた。よく見ればエミリアとフィアも同じ袋を持っていて、何故かホクトも紐を通した袋を首にかけていた。

「もしかしてそれが?」
「そ、そうです。シリウスさんに賭けた金額です」
「ふふ、沢山稼がせてもらったわよ」

 闘武祭の賭博は一回戦ごとに賭けられる仕組みである。
 なのでこの休憩時間も主な理由は選手の息抜きではなく、賭け金の受け取りと二回戦の賭けを行う為にあるそうだ。

 俺はパーティーの金を管理しているので、弟子達には月一で銀貨一枚の小遣いをあげている。リースはちょっと違うかもしれないが、姉弟は俺の従者なので給料みたいなものだ。
 従者の給料にしては少ないと思うが、宿代に食事や雑貨に関する生活費と、武器防具等のパーティ全体に関わる費用は全て俺が払っているので、銀貨一枚を丸ごと使えるのは平民だと贅沢な部類に入るだろう。
 おまけに旅をしているせいもあって弟子達は必要のない物をあまり買おうとしないし、金を使うとすればせいぜい町で買い食いをする程度だ。
 そんな余った金を全て賭けたらしく、弟子達は僅か数時間で大金を稼いだわけだ。

 大まかな内訳だが、少ない方からリース、フィア、そしてエミリアの順番である。
 ちなみにリースが一番少ない理由は消費量……つまり買い食い頻度の差だと思われる。
 それでも金貨が十枚近くあるらしく、リースは初めて持つ大金に緊張して俺に預けようと袋を押しつけてきた。

「私はこんなにいらないので、シリウスさんに差し上げます!」
「シリウス様、私の分もどうぞ」
「ちょっと待て、それはお前達の金だろう?」

 昨日はいずれ懐が厳しくなるとは言ったが、まだまだ余裕は十分にあるのだ。
 そもそもお前達の金なので俺が貰うのは筋違いだと伝えたが、エミリアとリースは首を横に振っている。

「私はシリウス様の傍にいられれば幸せなので十分です。それに……私の全てはシリウス様のものですから」
「大金を持つのが怖いのもあるけど、私達の欲しいものはシリウスさんがくれますから、お金なんて最低限で十分ですよ」
「俺も姉ちゃん達と同じだぜ兄貴! 姉ちゃん、俺の分も入れてるよな?」
「当然です。貴方の分も入っているわよ」
「じゃあ私も渡しておくわね。お金なんかで測れないと思うけど、これも信頼の証よ」

 エミリアが妙に多かったのはレウスの分も含まれていたからか。
 そして弟子達の言葉にフィアも納得したのか、金貨を数枚だけ懐に入れて残りを全て俺の手に乗せてきた。
 ……本当に欲がない仲間達である。

 とりあえず半分をパーティーの生活費に回し、残りは貰うのではなく預かる事にした。宿に帰る前にメモ帳を買って、仲間達の通帳を作らなければ。
 後は不意にはぐれた時に備え、常に金貨数枚は持つように言い聞かせておいた。
 たった一回で予想以上に稼げたので、これ以上の賭博も止めさせておいた。小物ならいいが、これ以上稼げば大物が絡んできて面倒になりそうだからな。
 最後に……。

「オン!」
「……お前もか。それよりお前に小遣いをあげた記憶がないんだが……」
「落ちていた銅貨を拾って賭けたそうです」

 更に補足するならば、賭博場の店員が狼の獣人だった御蔭でスムーズに事が済んだそうだ。
 褒めてとばかりに尻尾を振りながら、俺の手に銀貨が数枚入った袋を乗せてきた。
 何だろう……まるで自分の子供に親孝行された気分だ。ちょっと泣けてくる。

「ありがとうな。宿に帰ったら、たっぷりブラッシングしてやるからな」
「オン!」
「シリウス様、私もお願いします!」
「あの……私も……」
「あら、そういう事しているのね。じゃあ私の髪もお願いしてもいいかしら?」
「俺も俺も!」
「……帰ったらな」

 ……今日は寝るのが遅くなりそうだ。




 そして休憩時間が終わって二回戦が始まったが……特に問題なく俺達は勝ち進んだ。
 ベイオルフは無難に勝ち進み、俺の相手は大剣使いだった。
 しかしライオルの爺さんと戦い続けた俺からすれば、大剣使いの相手は慣れたものである。
 振り下ろされた大剣を回避し、相手の腕を狙って武器を叩き落としてから拳で顎を打ち上げて終了である。もはや賭博の関係で手加減する必要はないので、ある程度は本気を出して戦った。

 そんな中……レウスとコンの試合で驚く事が起こった。

 レウスは盾持ちの男と同じように試合開始と同時に斬りかかったが……何とコンはその一撃を耐えたのである。
 正確には、レウスと呼吸を合わせて完璧なタイミングで大剣の側面を全力で叩き、微妙に大剣の軌道を逸らしたのだ。
 だが……コンの剣は場外まで飛ばされ、コン自身も腕を痛めてこれ以上の戦闘は不可能だったので負けを認めた。

 最初は驚いていたレウスだが、すぐに笑みを浮かべてコンを称えながら握手をしていた。
 試合場から降りたコンは奇跡的にも折れていなかった剣を回収していたが、途中でレウスに頼まれて怪我の具合を見てやることにした。

「どうやら筋を痛めただけのようだな。今日一日安静にしていれば問題ないだろう」
「ありがとうございます。それにしても、レウス君は本当に強い人でした」
「君だってあの一撃を防いだんだ。誇ってもいいと思うぞ」
「そうでしょうか? 負けてしまいましたが、これでお金も少し貰えますし良い経験になりました。参加して良かったです」

 俺は気づかれない程度に再生活性を施してやった後、礼を言って控室に戻るコンを見送った。



 そして本日予定していた最後の試合が終わり、実況の声によって終了となった。

『それにしても今回の闘武祭は本当に熱いですね! 数年前、剛剣様が現れた時の感動を期待できそうな気がしますよ。最後に、明日の準決勝の組み合わせを発表したいと思います』

 トーナメントなので対戦相手はすでに決まっているが、改めて実況で発表された。

『明日の準決勝、第一試合はベイオルフ選手対シリウス選手。華麗な回避を見せてきたシリウス選手ですが、ベイオルフ選手の二刀流にどこまで戦えるのか……大変見物です!』

 そこで観客席から拍手が湧き起こったので手を振って応える俺を、何故かベイオルフは冷めた目で見るだけだ。

『そして第二試合はジキル選手とレウス選手となります。剛剣と関係する両者がぶつかれば一体どうなるのか? お互いに並外れた力を持っていますので、白熱した力勝負が期待出来ますね!』

 一方レウスとジキルは笑みを浮かべながら睨み合っていて、今にも戦いが始まりそうな空気を醸し出していた。

『それでは皆様、明日をお楽しみください』


 無事に今日の試合が終わって一息吐いたが、俺とレウスにとって本番は明日からであろう。
 明日戦うベイオルフに視線を向けながら、俺は静かに気合いを入れ直すのだった。


おまけ わかる人にはわかる小ネタ
※書き終わった後に気付いた小ネタ。当然フィクションです




 闘武祭のスタッフに、むしろそんな防具で大丈夫ですかと心配されたくらいである。


「大丈夫、問題ないさ」



 …………

 ………

 ……

 …



「あーっ!?」
「兄貴ーっ!」



※わからない人は『そんな装備で』でググればわかるかと。







 今日のホクト




 今日ホクト君がやってきたのは、闘技場にある賭博場です。
 リースちゃんとフィアさんは危ないという事で、エミリアちゃんと護衛のホクト君だけできました。

「ゴドジンに銅貨三枚な」
「ベイオルフに金貨一枚だ!」
「ジキルに鉄貨五枚」

 賭博場に大きく飾られているボードには賭けのレートが書かれているのですが、どうやらレートは全体の賭ける金額によって変わるようです。
 やはり無名な上に、若い御主人様とレウス君に賭ける人は少ないようで、かなり倍率が高めになっていました。
 そんな中、リースちゃんとフィアさんの分も預かったエミリアちゃんは、カウンターにお金を全て置きながら口にしました。

「シリウス選手に全部お願いします」
「……はいよ」

 そういう客に店員も周囲も慣れているのか、馬鹿にするような目をエミリアちゃんに向けています。
 中にはまた破産者が出るぜと口にしている者もいましたが、エミリアちゃんはどこ吹く風です。誇らしげに札を受け取っています。

 ホクト君はなるべく邪魔にならない所に座っていると、ふと足元に違和感を覚えて足を上げてみれば……銅貨が一枚落ちていました。
 拾った物は警察に……でもこの世界には警察なんて存在しないので、ホクト君はいただくことにしました。
 御主人様にあげれば喜ぶと思って思わず尻尾を振っていましたが、現在の場所を見て閃いたのです。

 早速エミリアちゃんとは別のカウンターにある列に並びました。
 従魔が列に並ぶ異常な光景ですが、ホクト君の迫力に誰も突っ込めません。むしろホクト君はルールを守っているので、注意する方が悪です。絡んでくればすかさず肉球パンチです。

 ようやくホクト君の順番になりましたが、その頃になって御主人様に賭けたい内容をどう伝えるかで悩みました。
 とりあえずボディーランゲージでいいかと思っていると、店員が直立不動になっているのに気づいたのです。

「びゃ……百狼様!? 本日はどのようなー……」
「オン!」
「は、はい! シリウス選手に銅貨一枚ですね! ですが彼はまだ若いー……いえ、すいません!」

 こうしてホクト君は御主人様に賭ける事ができました。
 その後ホクホク顔でエミリアちゃんと観客席に戻り、御主人様の試合を見物しました。


 予想通り御主人様は一回戦を勝利し、清算の時間となりました。

「……重たいですね」
「オン!」

 ホクト君は銀貨数枚になった袋を首にかけてもらい、沢山の金貨を抱えたエミリアちゃんと一緒に賭博場を後にしました。

 ですが……沢山のお金を持っていれば不埒な輩は出てくるものです。
 案の定、背後から追跡してくる気配を感じました。

 ここは一般通路で、多少の喧嘩くらいならあちこちで行われているので、ホクト君は追跡者を始末する事に決めました。
 具体的には気配を消してから曲がり角で待ち伏せをし、肉球パンチと尻尾アタックの餌食です。
 そしてエミリアちゃんが角を四つ曲がる頃には、追跡者は全ていなくなっていました。

 それから闘技場で、賭博場へ向かった人が壁や地面にめり込むという謎の現象が噂となったそうですが、ホクト君にはどうでもいい話です。


 そして大好きな御主人様にお金を渡せて、御満悦なホクト君でした。






 …初の予定ではベイオルフとシリウスが戦うシーンまで書くつもりでしたが……やはり上手くいかないものですね。
 そしてレウスとベイオルフの勝負を期待された方は申し訳ありません。
 レウスとはいずれ……と考えておりますので。

 次の更新は六日後です。
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