ワールド・ティーチャー
※2022年 8月29日 更新
――― カレン ―――
「カレン、起きなよー。もう朝だよ!」
「う……うぅ……もう……朝ぁ?」
まだ……眠いのに……何でこんなにも朝が来るのが早いんだろう?
「もう少し……寝る……」
「寝起きの悪さは本当に変わらないよね。ほら、起きないと朝食の蜂蜜パンが全部食べられちゃうよ」
「蜂蜜ぅ……」
ディーおじさんの作る蜂蜜パンは……見逃せない。
ベッドの誘惑を何とか振り切って起き上がった私が寝巻を脱いでいると、背後に立ったノワールが私の髪に櫛を当ててくれた。
「ほら、髪が乱れてる。そんな状態で出てきたら、エミリアさんに怒られちゃうよ」
「ありがと……ふわぁ……」
呆れ気味だけど嫌な顔は一つも見せず、母親譲りの無邪気な笑みで私の髪を整えてくれた。
手早く髪を整えてくれたノワールが部屋を出て行った頃には目が覚えてきたけど、不意に大きな鏡に映った自分の姿に違和感を覚えた。
「うーん、また髪が伸びてきたかなぁ? でも背が伸びたのなら、ロングも試してみようかな?」
先生と出会ってから、もう十年以上経っているもんね。
あの時からずっとこの長さだし、私もこう……先生が言う『イメージチェンジ』をしてみるのも悪くないかもしれない。
その辺りはノワールやお姉ちゃんたちに相談してから決めるとして、そろそろ行かないと不味いと思うので、私は手早く着替えを済ませてから部屋を出た。
「ふぅ……先生が春とは言っていたけど、朝はまだちょっと寒いかも」
朝の冷たい空気に思わず廊下の窓から外を見れば、今日も元気に剣を振っているレウ兄たちの姿が見えた。その周辺にはレウ兄やライ爺に憧れて集まった剣士の人たちも沢山いて、必死について行こうと剣を振っている。
うーん、でも前に見た時より剣を振っている人数がまた減ったような気がする。まあレウ兄やベイ兄と違って、ライ爺の暴れっぷりに耐えられる人は少ないもんね。
そんな事を考えながら家の食堂へと入れば、ノワールとノエ姉とディーおじちゃんがテーブルに朝食を並べていた。
「おはよう、カレンちゃん。やっぱりディーさんがこれを焼いた日は起きるのが早いね」
「あはは! 前にライオルおじちゃんが全部食べちゃった時は、凄い騒ぎだったもん」
「作る側としては嬉しいが、食事は満遍なく食べるんだぞ」
さっきイメージチェンジについて考えたせいか、皆の姿がちょっと気になってきた。
ディーおじさんは相変わらず目つきは鋭いし、お爺ちゃんみたいな皺が増えたみたいだけど、この優しい空気はずっと変わってないなぁ。考えてみれば、ディーおじさんが怒る姿を見た事がないや。
私よりちょっと年上のノワールは、最近ますますノエ姉に似てきたかも。レウ兄の初恋はノエ姉だったみたいだから、このままノエ姉みたいな路線で進むつもりかな?
ノエ姉は……性格も見た目もほとんど変わってない気がする。あ、でも最近は顔の皺が増えて……。
「カレンちゃん? 何か失礼な事を考えてない?」
「そんな事ないよ。私のパン、三個は避けておいてね」
「はいはい。そろそろレウス様が戻ってくるから……あ!」
テーブルに着き、一番大きい蜂蜜パンに狙いを定めていると、朝の素振りからレウ兄たちが戻ってきたのでノワールがタオルを手に駆け寄っていた。
「ロシュ、今日は惜しかったな。でも最後の一撃は悪くなかったぜ」
「うむ、お前の成長を嬉しく思うぞ。後でマリーナに報告しに行こうではないか!」
「へへ! 明日こそ、父ちゃんと母ちゃんから一本取ってやるからな!」
レウ兄は、あれから体は更に大きくなり、顔つきも大人にはなったけど、それ以外はあまり変わっていないかな?
でもレウ兄の隣にいるジュリ姉は何か凄く変わったと思う。今は剣を振る為に動きやすく男っぽい服装なのに、こう……大人の色香が凄いのだ。これも去年赤ちゃんを産んで、お母さんになったからかな?
そんな二人に挟まれたレウ兄とマリ姉の子供であるロシュは、頭を撫でられながら父親譲りの笑みを浮かべていた。
「ふん、今日も腑抜けばかりじゃったのう。まだ小僧の息子共の方がやる気に満ち溢れておるわい」
「ライオルさんの手加減が足りないからですよ。でも、ロシュとディランの方が立派なのは僕も同意しますね」
「あはは、ありがとうございます」
相変わらず女性と付き合う様子はないけれど、成長して色々恰好良くなったベイ兄と違い、十年経っても何にも変わっていないライ爺はある意味凄いと思う。というか、何で未だに剣が振るえるんだろう?
とにかく恐ろしい上に不思議なライ爺だけど、私からすれば蜂蜜パンを狙うただの敵だ。
静かに警戒を強めていると、食堂にレウ兄とジュリ姉の赤ちゃんを抱いたマリ姉がやってきた。
「皆、おはよう。はい、ジュリアママが帰ってきたわよ」
「うむ、ありがとう。よしよし、テオは今日も可愛いな」
「おしめはさっき変えておいたからね。ノワール、悪いんだけど後で洗濯しておいてくれる? 朝食が終わったら、私はすぐに出ないと駄目だから」
「はい。任せておいてください!」
「母ちゃん母ちゃん! 俺、もう少しで父ちゃんから一本取れそうだったぞ!」
「あら、凄いじゃない。お父さんを越えるのも夢じゃないわね」
二人に振り回されて動揺したり慌ててばかりだったマリ姉も、今では常に冷静沈着で優しいお母さんだ。今は皆のお金の管理も担っているから、私たちの中で一番しっかりしている人かもしれない。
それから朝食を終えた私は、気分転換に外を散歩をする事にした。
そして屋敷を出てしばらく周辺を歩いてから大きく伸びをしていると、農作業へ向かおうとする村のおばさんが声を掛けてきた。
「おや、おはようカレンちゃん。昨日は見なかったけど、何かあったのかい?」
「うん。ちょっと気分が乗って部屋でずっと書いていたから」
「そうかい、元気なら良かったよ。後で収穫した野菜を持っていくから、ディーさんたちに伝えておいてね」
「はーい。いつもありがとう」
近所に住むおばさんを見送った後、私は周辺の景色を見ながらしみじみと息を吐いた。
今は幾つかの家屋や畑があって村と呼べる規模だけど、ほんの数年前までは私たちが住んでいる屋敷……先生が生まれたあの屋敷しかなかったなんて、外から来た人にはわからないだろうな。
「アリアも随分大きくなったよね」
アリアはこの村の名前で、先生のお母さんから取ったらしい。
最初は思い出の屋敷を維持する為に住む予定だったのに、リーフェル様の提案によって人材と物資が集められ、気付けばこんなにも発展していた。
山と森に囲まれたこの場所に人が集まるとは思えないのに、先生やライ爺の名前を聞いて訪れる人が結構いたので、リーフェル様の読みは見事に当たっていたわけだ。
もちろん人が集まれば危険も増えそうなものだけど、アリアに至ってはその心配はほとんどない。
だって先生やレウ兄たちが守っているのに加えて……。
「「オン!」」
「ナナ、セイ。お疲れ様。昨日出来なかったから、今日はブラッシングしてあげるね」
「「クゥーン……」」
ホクトの子供……と言っていいかちょっとわからないけど、私と同じ大きさの百狼が二体で村を守っているからだ。
名前は『ナナ』と『セイ』。数年前、突然ホクトから生み出された光が子犬の姿に変わったので、あの時は本当に驚いたな。
そしてこの集落の象徴とも言える、村の中心にどーんと生えている一本の樹。
これは先生が持っていた師匠のナイフが成長したもので、高さは私の二倍程度しかない樹だ。でもあの樹は地下を通して、フィア姉の故郷にある聖樹様と繋がっているんだって。一度だけ先生が聖樹様に会わせてくれた事があるけれど、あれは本当に凄い存在だった。
そんな聖樹様の加護と、二体の百狼に守られているんだから、このアリアが野盗とかに襲われて被害を受けた事は一度もない。
「あ、いたいた! カレン、そろそろお手伝いと訓練の時間だよ。早く戻ろう」
「あれ、もうそんな時間?」
何となく立ち止まり、小さい聖樹を見上げながら物思いにふけっていると、ノワールが呼びに来てくれた。
もう少し村を歩いて戻る予定だったのに、結構な時間が経っていたみたい。樹を見ている内に、ここにいない先生の事を考えていたからかな?
「先生は、もうエリュシオンに着いたかな?」
「だと思うよ。ホクトの足ならもう学校にいるかも」
先生とお姉ちゃんたちは今、臨時の講師を頼まれてエリュシオンの学校へ行っている。
少し前に、まだ行った事のない大陸を旅して帰ってきたばかりだというのに、本当に行動力がある先生だよね。ついて行くのが大変な時はあるけれど、それ以上に面白い事を教えてくれるし、一緒にいると楽しくて仕方がない。
まあ今回はちょっと本腰を入れて本を書きたかったからここに残ったけど、エリュシオンから戻ってきたら次の旅に出る計画を立てるみたいだから、それまでにこの本を書き上げておかないと。
「先生が帰ってきたら、一番に読んでもらわないとね」
――― シリウス ―――
時折リーフェル姫に呼ばれたりするので、エリュシオン自体は何度も訪れてはいるが、学校の内部に入るのは久しぶりかもしれない。
エリュシオンでの住処を確保した次の日に学校へと訪れた俺たちは、まず学校長の部屋にやってきていた。リースとフィアは別件で違う場所へ行っているので、この部屋に来たのは俺とエミリアである。
長命なエルフ故に、全く見た目が変わらないロードヴェルの姿に懐かしさを覚えつつ、俺は相手の対面に座ってから挨拶をした。
「いよいよですね、シリウス君。一時的なものとはいえ、貴方を講師として呼べたのを嬉しく思います」
「ここは子供の頃にお世話になりましたから、力を尽くさせていただきます。ただ以前お伝えした通り、何を教えるかについてですが……」
「ええ、そこはもう魔法でも何でも貴方の好きになさってください。あのシリウス君が講師になると事前に知らしめていましたから、多くの生徒が貴方の授業を希望していましたよ」
「期間は最長で一年程度なのに、そこまで集まるものですかね?」
「当然ですよ。貴方は最早、私に負けないくらい世界に名が知れている男ですから」
かつてサンドールの危機を救った事を切っ掛けに、俺の名は急速に広がり始めた。
サンドールが世界最大の国だったのもあるだろうが、あの時サンドールでは大陸間会合が行われており、各国の王族が集まっていたのも大きい。
迅速な判断で王族たちは無事に国へ帰れたものの、各国はサンドールで何が起こり、どうやって解決したのかを詳しく調べていた筈なので、俺の名前が一気に広まったわけだ。
そんな有名税によって面倒な事に何度か巻き込まれたが、同時に様々な人に助けてもらっていたので、俺たちは自由かつ平和に過ごせていた。
「しかし、私が呼んでおいてなんですが、動きが軽いですね。故郷でしばらく腰を据えて子育てとかは考えていないのですか?」
「そういうのも含めて、故郷でのんびりと過ごすのは老後に取っておきたいのです。動ける内は様々な事を、俺だけでなく弟子や子供に経験させておきたくて」
「なるほど、だから子供を。期間限定の入学とはいえ、我が校の制服を貴方の子供たちが着るのは、何だか嬉しいものですね」
現在、俺たちには五人の子供がいる。
その中で一番下の子はまだ一歳くらいなので無理だが、他の四人はロードヴェルに頼んで一時的に入学させてもらった。この条件が許されたからこそ、俺は今回の特別講師を受けたようなものである。
俺が学校に入ったのは十歳くらいだった。故に一番上の子は問題ないだろうが、他の子たちは二、三歳くらいの差があるので、入学させるには少し早過ぎるかもしれない。
それでも大勢の見知らぬ者たちとの交流や、他人と席を並べて学ぶ経験は何らかの糧になるだろうし、もし他の生徒に喧嘩を売られたところで俺の子供たちなら対処も難しくはないからな。親馬鹿かもしれないが、同年代同士であの子たちに勝てる者はいないと思う。
まあつまるところ、ロードヴェルへ言ったように色んな事を経験させてやりたいわけだ。
「それで……例の物は?」
「もちろんです。エミリア」
「はい、こちらでございます」
俺の後に控えていたエミリアが、持っていた箱をロードヴェルの前に置いた。
傍目からすれば袖の下を通しているようにしか見えないが、まあ箱の中身はいつものあれである。
「小さい方は多少日持ちするので明日でも食べられますが、可能な限りお早く召し上がりください」
「明日どころか今日中にいただきますとも! ああ……これですよ、これ! これからしばらくシリウス君が作るケーキを食べられると考えると、胸が躍りますね」
「ケーキくらい、ガルガン商会で食べているでしょうに。この間も新作とか出していましたよ?」
「私にとってケーキの原点はシリウス君の作ったものなのです。どれだけ豪勢なケーキでも、貴方のケーキが一番馴染むのですね」
「私もシリウス様の食事が一番でございます」
箱の中身を見て子供のように目を輝かせていたロードヴェルだったが、急に表情を不敵な笑みへと変えながら視線を俺へと向けた。
「子供の頃に入学したシリウス君は、この学校に新しい風を……いえ、暴風を巻き起こしてくれました。そんな貴方が講師として戻ってきてくれたのです。次は何を見せてくれるのか、楽しみにしていますよ」
そのまま手続き等を終えて学校長の部屋を出たところで、子供たちと一緒に学校内を見学していたフィアとホクトと合流した。
フィアの手の中には去年生まれた彼女の第二子……リルの姿があり、周囲の騒ぎなんて知らぬとばかりに静かな寝息を立てている。一方、俺とエミリアの子供である双子のルシオとケイは物珍しそうに周囲を駆け回っていた。
「おとーさん! おかーさん! お話終わった?」
「ああ、終わったぞ。二人こそ学校はどうだった?」
「面白かった! ここ、お城みたいに広いね!」
「ええ、ですが建物内はあまり走り回っては駄目ですよ。他の方にぶつかってはいけませんからね」
「「はーい!」」
母親譲りの耳と尻尾を嬉しそうに振りながら、こちらに駆け寄ってきた双子の頭を優しく撫でる。
双子はこれから行われる俺の授業に参加するので学校の制服を着ているのだが、服のサイズが大きいせいか袖や裾を余らせているようだ。しかしそれがまた可愛らしく、普段より念入りに頭を撫でてしまう。
そして子供たちの中で一番年長である男の子……イオスが、俺を見ながら苦笑している事に気付く。
「アリアでもこういう事はあったけどさ、こんなに生徒がいっぱいいる前の父さんを見るのは初めてかも」
「まあな。お前はもう知っている内容になるだろうが、居眠りとかするんじゃないぞ。見本だと指名する予定もあるからな」
「わかってるって。俺はまだ調子に乗る程強くなったつもりはないよ」
そろそろ十歳になるイオスだが、年長という立場故かどこか精神的な成長が早い気がする。
もしかしたらエルフの血筋も関係しているのかもしれないが、まだ幼いのだからもう少し子供っぽく甘えてほしいと思うのは我儘かな?
なのでイオスの頭を軽くぽんぽんと叩いてみたのだが、ジト目でこちらを見上げてくるだけである。それでも嫌がってはいないようなので良しとしよう。
「ママ! パパいたよ!」
「ふふ、わかったからそんなに引っ張らないで。ママが転んじゃうわ」
続いてリースとの子供であるニーナが、母親の手を引っ張りながらやってきた。
二番目に幼いニーナは少しやんちゃであり、体当たりするような勢いで俺に飛び込んできたので、その衝撃を上手く流しながら抱き上げてやった。
「どうした? 何だかいつもより乱暴じゃないか」
「うー……」
「あはは、さっき会った姉様と父様が激しくて、ちょっとご機嫌斜めなの」
「リーフェお姉ちゃんとお爺がしつこいの!」
「久しぶりに会えたニーナが可愛くて、少しばかり暴走しちゃっただけさ。それにおやつは沢山貰ったんだろう? お礼はちゃんと言ったか?」
「うん! 美味しかった!」
この子も母親に負けず食べるのが大好きだからな。しかも他の子より倍近く食べるのに、太る兆候が全く見られない。正しくリースの娘であろう。
お菓子の味を思い出してころころと機嫌を変える娘に苦笑しつつ床へ下ろすと、羨ましそうな二つの視線を感じたので双子も抱き上げる事になった。
さて、これで全員が揃ったわけだが、ここでまた別れる事となる。
リースとフィアはリルの世話や引っ越しの片付け等で、以前も世話になったあの館へと戻るのだ。ホクトも一緒なので、安全面だけでなく力仕事も抜かりはない。
そしてマグナ先生……いや、今や教頭であるマグナ教頭に四人の子供たちを預けた後、俺とエミリアは準備を終えてから授業を行う教室へと向かう。
「さて、最初の授業だな。というか、本当に来るつもりか?」
「はい。うちの子たちが何をするかわかりませんし、シリウス様の隣には私がいるという事を、教え子たちに教えておかねばなりませんから」
強引に補佐役となったエミリアと一緒に教室へと入ると、教室の机に並ぶ生徒たちの視線が一斉に突き刺さる。
興味、疑問、憧れといった様々な感情が込められた視線に晒されつつ、教卓の前に立ったところで、生徒の中に紛れた子供たちと視線が合った。俺よりも妻たちに似た愛しい子供たちが、かつて俺がいた場所に座っているのも不思議なものだな。
「あれが噂の?」
「普通の人……だよね?」
「あの隣の人、誰?」
小声で俺やエミリアについて話し合う生徒が見られるが、特に気にせず背後の黒板に俺は自分の名前を書いた。
「それじゃあ、授業を始める前に、まずは簡単に自己紹介をしようか」
「あ、あの……」
「何だい? こちらにいるのは俺の妻であり、助手のエミリアで……」
「いえ、そっちも気にはなるんですけど、その……記号のようなものは何ですか?」
一人の生徒が言っているのは俺の名前である、シリウスとティーチャーの間に入っている文字……この世界では記号のようなものだろう。
「これかい? これは……」
――― カレン ―――
「ねえねえ、そういえばカレンが書いている本のタイトルは決めているの?」
「うん、もう決まっているよ」
「でもその本って、シリウス様の自伝みたいなものでしょ? 変な名前だったらエミリアさんが怒りそうだね」
「それはないよ。だって一部消してはいるけど名前から取っているし、先生の話によると、これって凄く先生っぽいから」
「へぇ……それでタイトルは?」
「えーとね。世界を巡って、沢山の人々を教えてきた教師という意味で……」
――― シリウス ―――
「これかい? これは、ちょっと特殊な状況で家名を貰ったせいなんだ。自己紹介も兼ねて、この記号の呼び方も知ってくれ」
サンドールでの戦いで様々な褒賞を貰ったが、その内の一つに家名の授与があった。
俺は勝手にティーチャーと名乗ってはいるが、身分の高い家柄を作る場合は国の王から名を貰う必要があるので、この世界において家名の授与とは最大級の名誉でもある。
普通なら勝手に付けた名を捨てて新しい家名に変えるものだが、今更ティーチャーの名を捨てる気にもなれず、いっその事もう一つ名を増やそうという結論に至った。
しかしどういう名が相応しいか中々決まらず、次第に話し合いは雑談へと変わり、俺の目標や今後についての話になったところで、不意に誰かが呟いた事で決まったのだ。
ただ、これ以上名前が長くなるのもあれだし、どうせなら前世のとある単語の頭文字だけにした。生徒から記号と言われたのはそれの事だろう。
前世の事を忘れぬようにと決めた、その一文字の呼び方は……。
「これから君たちの教師となる俺の名は、シリウス……」
「ワールド・ティーチャーだ」
次の話で、この作品は完結となります。
エピローグでは前書きも後書きを書くつもりはないので、今のところこれが最後の後書きみたいなものです。
活動報告にて、本作を終えた感想や、愚痴話、そして本編後のキャラクターたちに対する殴り書きみたいなものを書いてありますので、興味があればご覧ください。
後は……書籍発売が決まったら、その発売に関して活動日誌に書く予定ですね。
本当は次のエピローグで書くか、活動日誌とかで言うべきかもしれませんが、そちらに興味のない方もいらっしゃると思うので、前もってこちらでも書かせていただきます。
このワールド・ティーチャーを読んでくださった、読者の皆様方。
そして応援していただいた皆様方。
ここまでお付き合いいただき……本当にありがとうございました。




