一つの決着
※今回は二日連続更新となります。
前日の内容を確認していない方は注意をしてください。
この戦闘が始まってから俺がまず行っていた事は、ラムダのクローンの数……つまり弱点である核の総数と、その位置を特定する事だった。
普段であれば直接触れて『スキャン』か『サーチ』によって位置を特定していただろうが、相手は魔力を吸収してしまうのでそれは不可能である。そもそも触手による手数が多くて近づく事が困難なので、遠距離から調べるしかない。
こうして俺が核の位置を予想する為に取った手段とは……。
『再生時間……コンマ差……深度……角度による算出……完了』
『マルチタスク』の一つを人工知能のように記録、演算処理に回し、『マグナム』や『ショットガン』で無数に作った弾痕の再生速度による比較から算出していた。
自己再生する場合、基本的にその能力を持っていると核から始まるものだろう。もちろん例外はあるだろうが、少なくとも目の前にいるラムダの弾痕には、ほんの僅かであるが再生速度に差があったのである。
そこに自身の経験による直感も合わせた結果、俺は弱点である核の数と位置をある程度は予想出来ていた。
「まずは側面と後方……」
だが予想は出来たとしても、核に攻撃が届かなければ意味がない。
予想した核は全て『マグナム』や『スナイプ』の威力では届かない位置にあり、『アンチマテリアル』で辛うじてといったところだ。
おまけに現在の位置からでは『アンチマテリアル』でも届きそうにない核が二つもあるので、それを狙うのであれば奴の側面か後方へ移動する必要があった。
しかしラムダが核の位置を動かせるという可能性も考え、なるべく間を置かず核を撃ち抜きたかった俺は、残り少ない魔石のカードを二枚取り出し、加減した『インパクト』でカードを遠くへと飛ばす。
『どちらを狙っているのですか?』
『いえ、何があろうと油断は出来ません』
『すぐに破壊を……ん?』
カードはラムダを避けるように左右へと飛んでいくが、左のカードは側面、右のは後方まで飛んだところで魔法陣が発動し、その場に巨大な光の塊を作った。
先程まで使っていた魔法の発動体とは違い、光の玉はそこに存在するだけで何もしなかったので、警戒を強めたラムダは触手での攻撃を一瞬躊躇する。
その隙に、俺は両手を左右に広げ『アンチマテリアル』を光の玉へ目掛け二発同時に放つ。
完全にラムダに当たる筈もない方角へ放ったわけだが、巨大な魔力の弾丸は光の玉にぶつかると同時にほぼ直角に曲がり、正面からでは決して狙えなかった箇所、角度からラムダへと着弾させたのである。
これこそカードに仕込んだ形態の一つであり、魔力の弾丸を減衰なしで跳弾させる為の反射板、通称『リフレクター』だ。問題は『アンチマテリアル』だと一発分で光の玉が消滅してしまう点だな。
今ので核を二つ撃ち抜けたとは思うが、それらしい反応が見られないので当たったかどうかはわからない。ただ、こちらへの攻撃の手が僅かに緩んだので完全に外れたというわけではなさそうだ。
『……出番はまだかい?』
「まだだ。もう一度……」
呼吸と同時に魔力を回復させ、今度は正面からでも狙える二つの核を目掛け『アンチマテリアル』を再び二発同時に放って撃ち抜く。
短時間かつ連続で襲う魔力枯渇の反動で意識が遠のきそうになるが、何とか堪えながら深呼吸で魔力を回復させてから次の準備へと移る。
順調であれば残りの核は一、二個の筈だ。触手の動きが鈍くなっている間に、地上へ意識を向けたその時……。
「次はー……くっ!?」
『……ようやくですね』
大技を四発も放った後の隙を突かれ、突如活発になった触手が全て避けきれず、一本の触手が俺の足を絡め取ったのである。
不味いな。弱点の位置を把握されていると察していながら、敢えて見逃したのもこの一瞬を狙っていたからか。
たった一本の触手の為に、己の分身を数体も犠牲にするのはどうかと思うが、ラムダの場合はそれで充分なのだろう。
その証拠に、僅かでも本来の動きを封じられた俺は逃れる事が出来ず、次々と群がる触手によって全身を包み込まれてしまっていた。
『やはり貴方は危険だ。念入りに握り潰してあげましょう』
この触手なら人の体くらい軽々と潰せるだろうが、今の俺は『PAS』によって辛うじて無事だ。
しかし圧倒的な質量による絞めつけで身動き一つ取れず、更に魔力も吸収されているのでこのままだと『PAS』が消滅してしまいそうである。前世であれば嫌な音を立てながら火花が飛び散っているだろう。
『そして血肉余さず、私の糧になりなさい』
最早絶望的な状況ではあるが、俺は奴の声に耳を傾けながらも深く深呼吸をする。
これが俺が出せる……本当に最後の切り札だ。
触手が絞まる力と音が更に激しくなる中、呼吸を整えてから『PAS』へ指示を飛ばす。
『出力低下……低下……解除……用意……』
『指向性……入力完了……解除……三……二……』
指示した内容は『PAS』を解除する事だ。
もちろんそんな事をすれば即座に絞め殺されるだろうが、ただ解除するのではなく鎧に残った魔力を全て衝撃波へと転換し、俺に絡んでいた触手を全て吹き飛ばしたのである。
完全に自爆としか思えない手段だが、衝撃波の方向は外側へ限定しているので俺へのダメージはほとんどない。
極限まで圧縮された魔力の塊による衝撃波は、近くであれば軽い城壁すら破壊する威力があったと思うが、やはりというかラムダ本体である樹にはほとんど通じていないようだ。
だが本当の狙いは束縛から逃れ、地上まで下りる道を作る事である。
ここからようやく準備が始まる。
『やはり逃れますか。ですがこれで貴方を守るものは……』
『いやいや、もう必要ないって意味さ。後は攻めるだけだからねぇ!』
『なっ!?』
冷静さを保っていたラムダであるが、こればかりは驚きを隠せなかったようだ。何せ衝撃波のどさくさに紛れた師匠が、ラムダの肉体である樹に刺さっていたのだから。
ただ刺さるだけならラムダには通じないだろうが、聖樹の力で相手に干渉し、触手の動きをほぼ止めていたのだ。同じ植物であり、師匠が聖樹だからこそ可能な方法である。
最初からこうすれば良かっただろうが、さすがの師匠もラムダ本体を完全に掌握するには小枝……ナイフ状態では不可能らしく、本人曰く数秒動きを止めるのが限界だとか。更に触手はともかくラムダ本体に長時間くっ付いていると逆に呑み込まれる可能性があるらしく、すぐに対策もされそうなので、これは一度きりの方法だった。
その間に地上へと向かう俺は、背中に仕込んでいた短い二本の棒を真下へ投げた。
「セット完了。作成……開始」
地上へ着地と同時に俺は魔石を取り出し、地面に刺さった二本の棒の近くに置いて魔力を流す。
魔力によって魔石と棒に刻んだ『クリエイト』の魔法陣が発動すれば、棒は細くなりながらも何倍にも伸び、盛り上がった土がその棒を取り込みながら変形し始める。
『ぐっ……聖樹の欠片だろうと、この程度で私が!』
『だろうねぇ。じゃあ、もう止めようか』
『は?』
こうして魔力で土を強化、変形させて作り出した物……それは腰に添えて両手で抱える程に大きく、長い砲身をした大型ライフルだった。
前世の創作物に登場する、宇宙空間で戦う巨大ロボットが使いそうな見た目だが、こうして実際に銃器を手にするのは久しぶりだな。
そのライフルを構えたところで敵の足止めも限界だったのか、ラムダから弾かれるようにして戻ってきた師匠を確認した後、俺は手にしたライフルにありったけの魔力を注ぎ込む。
『何という魔力。それが貴方の最後の切り札のようですね』
ライフルに収まりきらない魔力が溢れ始め、青白い雷に似た奔流が俺の周囲に走る。
明らかに強力な攻撃を放とうとしているのに奴が焦りを見せないのは、狙われている核が貫けないと確信しているからだろう。
実際、俺が狙っている核はどの角度だろうと魔力の弾丸では届かない位置にあるだけでなく、その周囲だけ樹の密度を高めて頑丈にしているのか『アンチマテリアル』でも抜けるか怪しい程の強固な装甲と化しているようだ。
おまけに触手を壁のように配置して守りも固め始めたので、先程と同じく敢えて受けて反撃を狙う姿勢のようだ。まあ俺の攻撃を中断させたくとも、青い魔力の奔流と師匠によって触手が防がれてしまうので防御に徹するのは仕方がないとも言える。
『見た事のない武器ですが、魔法であるならば私には無駄です』
確かにお前の言う通り、魔力の弾丸さえ吸収出来る体であれば魔法に対して脅威は感じないし、質量のある物をぶつけるのなら山のように巨大な岩をぶつけるくらいしないと無理だろう。それだけ俺と奴には圧倒的なサイズ差がある。
しかし……だ。
「悪いが、こいつは魔法だけじゃないんだ」
ライフルに装填されているのは、重く頑丈で魔力をよく通すグラビライト製の特殊弾丸である。正確に言うならば火薬がないので杭みたいなものだが、大きさは通常の弾丸より数倍はあり、小型の砲弾と思いたくなるくらいに太い。
そしてこのライフルも、ただのライフルではない。
内部に取り込まれた二本の棒に電気と似た性質の魔力を流し、それに弾丸を伝わせて発射する兵器……つまり前世に存在した電磁気によって弾を高速で撃ち出す『レールキャノン』なのだ。
そこから更に魔力による強化や、魔法の特性を利用した俺なりに改良を加えた部分もあるので、実際は前世の『レールキャノン』をも超えた別の兵器とも言える。
そんな別世界の技術による兵器の仕様にラムダが瞬時に気付ける筈もなく、ライフルに魔力が溜まると同時に俺は引き金を引いた。
「『ライトニングバレット』……発射!」
ライフル全体から雷と衝撃波を放ちながら、銃口から弾丸が発射された。
魔法の神秘と科学の結晶による合体兵器の反動は凄まじく、アンカーとして地面に複数の『ストリング』を撃ち込んでなければ俺は遥か後方へ吹き飛んでいただろう。
『これは魔法ー……っ!?』
ライトニングと名付けた通り、まるで閃光のように放たれた弾丸は、触手の壁どころかラムダの体をも空気のように貫き、向こう側の景色がはっきりと見える穴を開けていた。弾丸よりも明らかに大きい穴なのは、飛翔時に生み出された弾丸の衝撃波が予想以上に強力だったせいだろう。
大型の馬車が軽々と通れる程の大きさでも樹全体からすれば小さな穴だろうが、これだけの範囲を貫いたのなら多少狙いがずれていたとしても、確実に核を撃ち抜けた筈である。
今ので俺が完全に把握している核は全て撃ち抜いたので、これで終わってくれれば……。
「……やはり、まだ残っていたか」
こちらの願いも虚しく、弾丸で空けた穴が再生を始めた。
ならばもう一発こいつを叩き込んでやろうと思ったが、射撃時の反動でライフル全体のダメージが大きく、次弾装填の手間もあってすぐには無理だ。
急いでライフルの応急処置を始めようとする俺を、ラムダが新たに生やした触手で囲う。
『ふ……すでに盾も武器も心許ないようですね。今度こそ終わりです』
本来ならすぐにライフルを捨て、距離を取って触手への回避に徹するべきだが、俺は構わず別の魔法を発動させながら次の弾を取り出していた。
再発射可能までに必要な時間は数秒程度だが、その僅かな時間も許されず、周囲の触手が動き出そうとしたその時……。
「ぬりゃあああああああああぁぁぁぁぁ――――――っ!」
戦場を揺るがす剛剣の雄叫びと共に、山をも切り裂く巨大な光の刃……『剛破一刀』が俺の右横を通り抜けてラムダへと叩き込まれた。
そう……この戦いが始まる前、俺がラムダと戦っていたら待機していろと爺さんへ頼んでいたのは、万が一俺が負けた場合の保険と、今のような状況を想定した援護の為だった。それにしても『コール』で合図を送るとほぼ同時とはな。爺さんの野生の勘は本当に頼もしいものだ。
とはいえ、爺さんが放ったあの必殺技は魔力の収束による光の刃なので効果が薄く、斜めに大きな亀裂が出来るだけで真っ二つとはいかないようだ。
「お主の一撃、見事じゃったぞ! わしも滾るわい!」
間を置かずもう一度『剛破一刀』が振り下ろされ、俺の左側を光の刃が通り抜けてラムダの傷が更に増える。
どれだけ連続で放とうとラムダ相手には大したダメージはないだろうが、時間稼ぎとしては十分だ。今の二振りで、俺の周囲にあった触手がほとんど切り裂かれたからな。
御蔭で俺の作業は滞りなく進み、かろうじて発射可能となったライフルを再び構えた俺は、その銃口を地面へと向けていた。
狙いはラムダの真下、地面に隠れて見えない根の部分である。
『もうちょい上……そう、その位置さ。あまり深くはないみたいだね』
樹であるのなら根が重要なのは説明するまでもないし、そもそも前線基地を去る前に現れた時のお前は球根の姿をしていたからな。
故に根っこは戦闘が始まる前からあたりを付けていたが、最初から狙っていたら警戒させてしまうし、何より核がある深さが掴めていなかったので最後に回していた。しかし今は奴を足止めしていた間に師匠が調べていたらしく、大体の位置が判明している。
「後は運だな。頼む……」
師匠の誘導に従い狙いを付けた俺は、再び『ライトニング・バレット』を発射した。
しかし弾丸が放たれたところでライフルが遂に限界を迎えたのか、発射と同時に本体が自壊し、反動に耐え切れずバラバラとなって飛び散った。
「くっ!? これで……駄目か!」
激しい砂埃が舞う中、僅かに晴れた先に見えた着弾点を確認すれば、穴の奥深くに巨大な球根らしき姿があった。以前見たものより遥かに大きいので、あれが弱点だと思って間違いなさそうである。
おまけに中破していたライフルでは威力が半減していたらしく、弾は球根の表面を少し削っただけで致命傷には至らなかったようだ。
即座に追撃しなければ再生、もしくは守りを固めてしまうのに、ライフルは壊れ、『アンチマテリアル』を放つ余力もないし、『マグナム』では吸収されてしまうので使えない。
ナイフは……軽いし脆い。もっと他に質量がある武器は……そうだ!
『私は……負けるわけにはぁ!』
だが次の手が閃くと同時に、複数の触手が俺の頭上から迫っていた。
逃げようにも、先程の一撃で魔力枯渇状態の俺は足に上手く力が入らず、避ける事さえ厳しい状況だ。
魔力を回復させる間もないし、数発の直撃は避けられそうにないが……致命傷だけは何としても避ける。
奴も捨て身なのか、俺への狙いを優先して削られた部分をまだ再生させていないし、核を守ろうとする触手も見当たらない。
危険な状況だが、好機でもある。
次の攻撃に必要な部位だけを守る事を決め、腰の後へ手を回したその時……風を裂きながらこちらへ近づく存在に気付く。
「シリウス様!」
それは銀髪を靡かせながら、弾丸の如く宙を飛んできたエミリアだ。
だがその勢いは着地を完全に無視した速度で、このままだと俺にぶつかりそうな軌道でもあった。しかもその満身創痍の姿から、嫌な予感が俺に走る。
まさか……己の身代わりに俺を突き飛ばす気か!?
最悪エミリアを『インパクト』で止める事も考えた俺だが、彼女の目を見ればそれは杞憂だと理解した。
「残りの全魔力……ここで!」
エミリアの目からは、皆で生き残るという希望の意思を放っていたのだ。
俺の頭上から迫る触手を『エアスラッシュ』で切り飛ばしたエミリアは、飛ぶ勢いを一切緩めず俺へ向かって手を伸ばしてくる。
そうか、エミリアはこれを狙って……。
「手を!」
「ああ!」
伸ばされた手を掴んだ俺は、前へ飛び続ける彼女に引っ張られるようにして空を飛ぶ。
進む先はもちろん、ラムダの核だ。
とはいえ核まで直接届く勢いはなく、このままだと少し手前で落ちてしまいそうだが、ここまで近づけば十分だろう。
「投げるぞ!」
「はい!」
後ろから迫る触手はエミリアが魔法で切り払ってくれたので、改めて俺は腰の後から一本の剣を取り出す。
それはかつてディーから貰った小振りの剣だが、ナイフと魔法が主体な俺には使う機会が滅多になかったので、今ではちょっとしたお守りのような物でもあった。
重いグラビライト製でありながら、古に刻まれた魔法陣によって軽量化されていたその剣を、俺はラムダの核へ目掛けて全力で投擲する。今はエミリアと手を繋いだ状態だが、俺の動作に合わせて彼女も動いてくれたので、普段とほとんど変わらない勢いで投げられた。
そして投げる前に魔力を流して魔法陣を破壊し、本来の重量に戻った剣は、その重みと勢いによって核へ深々と刺さる。
『ぐっ!? たかが剣一本で!』
「……頼む」
『あいよ』
駄目押しに師匠のナイフが突っ込み、先に刺さった剣の柄を押すようにして更に核の奥深くへ剣を押し込む。
核に師匠が直接触れるのは危険そうなので、そのまま剣を盾にするように核の中心まで刺さった後、師匠が自在に動ける為の装備に刻んだ魔法陣を発動させる。
発動させた魔法陣は、情報秘匿用の……自爆だ。
「終わりだ……ラムダ」
これまでの戦いで魔力が減っているので威力は少し控え目だと思うが、炎を撒き散らす爆発が内部で起これば致命的だろう。
しかし発動の魔力を流した頃には俺とエミリアは地上へと落下しており、勢いを殺せず地面を転がり続けていたので、爆発音と揺れしか確認出来なかった。
そして数回転して止まった後で顔を上げてみれば、核があった場所は爆発による破壊と焼け跡が残るのみであった。
「エミリア、無事か?」
「は、はい。私は無事ですが、シリウス様は?」
「俺も大丈夫だ」
まだ警戒は解いていないが、深呼吸で魔力を回復させている間もラムダからの追撃は一切ないし、新たに生えてきた周囲の触手たちも今では力なく地面で横たわるだけである。
俺の隣で寝転がったままのエミリアは、鼻で周囲を調べながらゆっくりと呟いた。
「倒せた……のでしょうか?」
「さて……な。ただまあ、近くに強い魔力反応はなさそうだ」
「ぬおおおおおおぉぉぉ―――っ! 無事かエミリアよ!」
おそらくラムダの触手によって足止めされていたであろう爺さんが、剣を振るわずこちらに近づいてくるので、少なくとも敵意を持つ存在は近くにいないと思う。
上半身を起こし、改めて周囲を確認していると、倒れたまま動こうとしないエミリアが苦笑している事に気付く。
「申し訳ありません。水や布の用意をしたいのですが、まだ体が動かなくて……」
「いいから休んでいなさい。全く……無茶をしたものだな」
「シリウス様程ではありませんよ。間に合って本当に良かったです」
「そうだな……」
前世でラムダと似た強大な存在と戦った時、俺は敵の策略によって味方からの援護を断たれ、一人で挑む事になった末に相討ちで終わってしまったが、今回は結果が大きく違った。
それは俺自身が強くなったのもあるが、一番の理由はエミリアや爺さん、そして離れた所で戦っていたレウスたちに助けられたからだ。
特にレウスたちが魔物を減らし続けてくれた御蔭でラムダの再生能力がほんの僅かだが遅くなり、傷の塞がり方による核の特定方法がかなり楽になったのは大きかった。
とにかく俺は……生き残ったのだ。ようやく見えない壁を突破出来た気がする。
「俺がこうして五体無事なのは、お前たちの御蔭だ。ありがとうな」
「うふふ。勿体なきお言葉です」
激しい戦いによる疲労や、土による汚れでボロボロのエミリアであるが、それでも全く色褪せない可憐な笑顔を向けてくれる。
そんな愛しい彼女の頭を、俺は感謝を伝えるように撫でるのだった。
その後もラムダからの反応はなく、爺さんが目の前まで来たところで俺はゆっくりと立ち上がった。
「お、おおぉ……何という事じゃ! わしのエミリアがこんなにも傷付いて……じゃからわしは嫌じゃと言ったんじゃぞ!」
「これは土で汚れているだけで、大きな怪我はありませんよ。これもお爺ちゃんの御蔭ですね」
「むうっ!? ぐぬぅ……何か素直に喜べんのう」
エミリアがあの加速で飛んで来られたのは、爺さんの剣に乗って撃ち出してもらったからだそうだ。
魔力を移動に使う余裕がなかったからとはいえ、本当に無茶をしたものである。あるいは、俺の影響を受けたせいかもしれないな。
「爺さん、俺は向こうの様子を見て来るから、少しエミリアを頼む」
「お主に頼まれずともわかっておるわい!」
「シリウス様……」
「そんな心配するな。ちょっと様子を見に行くだけだし、あれも回収しないといけないからな」
疲労が重なり体全体が痛いが、もう魔力は回復させているので軽く動く程度なら問題はない。
警戒しつつ核があった場所へと近づけば、爆発によって樹が焼けた匂いが鼻に飛び込んでくる。毒性はなさそうなので、気にせず焼け跡に足を踏み入れた俺は地面を注視しながら歩き回る。
「……あったか。はいはい、すぐに回収しますよ……っと」
探していたのは師匠のナイフである。
すでにナイフに付けていた魔道具は消滅しているので動けないし語る事も出来ないのだが、早く回収しろと文句を言っているのだけは間違いないだろう。
俺の体より大きかった核を吹き飛ばした爆発でも全く無傷のナイフだが、汚れてしまったので手入れが必要そうだ。
後で小言が増える前に手早くナイフを拾い上げていると、上から何かが落ちてきたので身構える。
「っ!? お前……」
俺の前に落ちてきたのは、樹から生えていたラムダの肉体部分の一つだった。
人だった頃のその体はすでに上半身しか残っておらず、その体は色が完全に抜けており真っ白だ。遠くから見たら、ただ枯れた木片が落ちてきたと思うだろう。
それでもラムダの一部はまだ生きているのか、両手でゆっくりと這いながらこちらへ近づいて来ている。狙いは俺じゃなく、このナイフか。
「もうお前が生きている事に驚きはしないが、すでに戦う力はなさそうだな」
やはり敵意は感じられず、最早残り滓と呼ぶ方が近いそのラムダは、師匠のナイフを手にした俺を焦点が合っていない目で見上げてくる。
まるで仮面を付けているかのような無表情だが、どこか悔しさと諦めの感情が滲み出ていた。
『貴方は……その力を……どこで……』
「お前が知らない世界の技術と言いたいが、お前が負けたのはもっと別の理由だろう」
ラムダは下手な小細工はせず、持ち前の能力と物量を生かした堅実な攻撃で俺を追い込んだ。強敵と認めた相手を倒すのであれば、それも一つの手段だと俺も共感は出来る。
冷静だったのは間違いないだろうが、それでもお前は手に入れた力に酔ってもいたのだ。
自らの手で復讐を遂げたいが為に前へ出てきたのはわかるし、国すら軽く薙ぎ払える力があるのなら細かい事を考える必要はないだろうが、ラムダの場合は完全に悪手である。
何故ならラムダは、指揮や研究開発といった後方で結果を出す存在であり、己自身が戦う経験が足りていない。故に俺を倒そうと目の前の存在に囚われ過ぎてしまい、周囲の変化を見過ごしてしまう。
「俺が弱点を見つけられる理由を解明し、分身の犠牲を減らしていれば、結果は違ったかもしれないな」
『…………』
こちらに目を向けさせようと俺が必死の抵抗を見せたのもあるが、複数いたラムダの内の一人が客観的に全体を見ていれば、ラムダであれば色々と気付けていたと思う。
とはいえ俺も全ての切り札を使っても倒し切れず、結局は皆の援護で何とかなったようなものだ。どちらが勝ってもおかしくはなかったし、互いに反省点はあるだろうが、すでに結果は出てしまった。だからこそラムダは恨み節も口にせず、黙って俺を見上げ続けているのだろう。
ここから復活するとは到底思えず、周りに人がいない機会でもあるので、俺は以前と同じ質問と疑問をぶつけてみる事にした。
「お前が聖樹の力を欲しがる理由はなんだ? こんな結果にはなったが、お前は国を亡ぼすには十分な力を持っていただろう」
『……欲しいのは……聖樹の欠片です。私ではなく……彼が……』
「彼か。やはりお前に知識を授けた者がいるんだな?」
『私の復讐は……潰えました。ですが……せめて彼に……聖樹を……』
その後も幾つか質問を重ねた結果、俺の予想通りラムダに様々な知識と技術を授けてくれた師匠のような存在がいるようだ。
こんな瀕死の状態で師匠のナイフに触れれば逆に消滅させられるだろうに、這いずってでも求めようとしているのは、恩人でもあった彼に報いたかったらしい。
同時にその彼とやらがいる場所も教えてくれたのだが、それどころか聖樹を彼へ届けてほしいとも頼まれた。はっきり言って図々しいにも程があるが、今のラムダは思考も上手く出来ないのか、藁にでも縋るような状態で語り続けていた。
当然ながら、そんな頼みを聞く義理はない。そもそも俺とお前は敵同士なのだからな。
話によると、そいつは俺たちやサンドールにも関心が全くないらしく、下手に触れて敵対するのも厄介なので、理由がない限り関わらないのが一番だろう。
そう思っていたのだが……。
「……わかった。お前の望む結果にはならないだろうが、会いに行くとしよう」
会話の中にどうしても気になる内容があり、俺は反射的にそう答えていた。
・ライトニング・バレットの小話
現時点でシリウスが使える最も強力な攻撃。
見た目は、生物災害の三作目リメイク?の最後に登場する、あの武器をイメージしております。
特殊弾丸と、電磁気を走らせるレール部分となる金属棒ですが、上着の内側に装備した専用のベルトの背中側に固定されている設定です。
どれも重たいグラビライト製ですが、使う時まで軽量化の魔法陣によって軽くしているので、そこまで動きを束縛しません。
そして『レールキャノン』をイメージした魔法なので、『アンチマテリアル』のようにそのままの名前で良かったのですが、魔法と科学による合成武器になるので別の名前にしました。
電磁気……電気……ライトニング。
グラビ『ライト』製の弾丸。
発射時のエフェクトは雷を思わせる閃光……という事を考えて『ライトニング』はすぐに決まったのですが、後半部分の名前で結構悩んでいました。
候補としては……。
『ライトニング・ファントム』
※『ファントム』は幻影、とある航空機の名称ですが、某格闘ゲームに出る必殺技、一撃必殺のパンチ名の後半部分がファントムだったから。でもやっぱり意味が何か違うので没。
『ライトニング・スマッシャー』
※ロボット感が強過ぎるので没。
『ライトニング・キャノン』
※悪くないが、やはりロボット感が……以下略。
『ベ〇ターキャノン』
※極太レーザーなので没。そもそも某はいだらゲームの武器名。わからない人はスルー推奨。
貫通だから『ペネトレイト』とか入れられないかな……等と、色々考えてはみたのですが、結局は単純かつ短くという事で『バレット』にしました。
他に良い名前が浮かんだら変更するかもしれません。
・ラムダとの戦いについて
ラムダとの決着についてですが、戦闘の流れは本当に悩みました。
本来研究者であるラムダは必殺技のようなものを持たず、巨大化と圧倒的な物量という現実的な強さで攻めているので、結果的にシリウスを追い詰める描写が少し地味になってしまったかもしれません。
何だかんだでやられましたが、単純な強さでは聖樹のすぐ下に位置する程の戦闘力を持っています。
ちなみに他にも浮かんだ戦闘の流れがあります。
初期の『ライトニング・バレット』は抱えて撃つのではなく、台座で固定された状態で作られていた。
『ライトニング・バレット』で大穴を空けた先に飛び込み、樹の中心で『PAS』を脱ぎ捨てて置き爆弾……という戦法も考えていました。つまり正義を乗り捨てて紅色に乗って脱出するあれ。※わからない人は気になさらず。
そんな様々なネタをまとめ、書いている内に変更しながらも仕上がりましたが、バトル描写が上手く表現出来ていたでしょうか?
実は出来上がったばかりであり、まだ妄想の世界で自分に酔った状態で書き上げた内容なので、時間を置いて確認したら新たに気になる点も出てくるかもしれません。もしかしたら、後で修正をするかも。
それでは、次の更新までしばしお待ちください。
きりがいい箇所まで進めたいので、次も数回に別けて連日更新になるかなぁ……と。




