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限界までの足音

前回までのあらすじ


 サンドールの存亡を賭けた戦いが始まり、苦戦はしながらもエミリアはラムダの片腕であるルカを撃破し、化物へと変貌したヒルガンをレウスたちと剛剣ライオルが撃破した。

 残りはラムダだけと思われたその時……敵陣の奥深くに巨大な樹が突如生まれ、その根元では戦闘が行われていた。

 そこで戦っているのがシリウスだと気づいたレウスたちは、傷ついた体でありながらも何とか部隊を纏めて巨大な樹へと向かうのだった。



 ――― ゼノドラ ―――




 どのような魔物が相手であろうと、空の戦いにおいて我々竜族の敵ではない。

 だが……これ程の大群を相手にするのは初めてであり、その全てが我々を一切恐れず羽虫のように纏わりついてくるので鬱陶しくて仕方がなかった。


『小賢しい!』


 ブレスで正面を薙ぎ払いながら体を高速で回転させ、体中に集る魔物たちを一気に叩き落とす。

 その近くでも私と同じように魔物を蹴散らしていたメジアがいたので、少しだけ背中を庇い合いながら会話をする。


『まだ行けるか?』

『ふん、当然だ。だが、若造共はかなり厳しいようだな』


 まだ戦闘の経験が浅いあの三竜は常に固まって戦わせているが、見たところ疲労によって動きが鈍くなっているようだ。

 私とメジアはまだ十分に戦えるので戦線が崩れる事はなかろうが、はっきりいって状況は厳しい。


『我ながら情けないものだ』


 余裕があれば地上への援護を考えているのだが、今の我々は空の魔物を間引くのが精一杯だった。

 目の前の魔物をブレスで蹴散らすついでに地上へ向ける方法もあるが、それでは地上の味方を巻き込む可能性もあるので難しい。

 歯痒い状況に思わず愚痴を漏らしながら魔物を蹴散らし続ける我々だが、不意に嫌な感覚が体中を駆け巡り、私とメジアは同時にある方角へと向き直っていた。


『あれは……』

『ぐっ!? な、なんとふざけた存在だ!』


 私とメジアが向いた先からゆっくりと飛んで迫ってきているのは、我々と同じ竜だった。

 いや、あれを竜と……同胞だと思いたくはなかった。

 首が三つに、翼と腕と足が六つ。三体の竜の死体を無理矢理くっ付けて作られた、正に異形とも呼べるその姿。

 そうか、あれがシリウスから聞いた……。


『人の手で造られし竜の化物……か』

『不愉快な! あんな姿にしおって、絶対に許さんぞ!』


 死骸を玩具のように扱っている事にも怒りを覚えるが、すでに命を失っているとはいえ、あのような無様な姿を晒し続けている同胞が哀れで仕方がない。


『メジア、終わらせるぞ!』

『当然だ!』


 せめて我々の手で終わらせようと、私とメジアは同時にブレスを放つ。

 まだ距離は十分に開いているが、可能な限り魔力を収束させたブレスは多くの魔物を巻き込みながら空を裂き、奴の肉体に大きな穴を二つ穿っていた。

 致命傷となる一撃を二発も食らったのだ。このまま地上へと落下し、今度こそ本当の骸となるだろうと思っていたのだが……。


『何っ!? あれで落ちぬだと!』

『簡単にはいかぬようだな』


 落下するどころか傷口がすぐに塞がり始め、何事もなく飛行を続けているのだ。

 更にその奥から全く同じ異形の竜が二体も現れたので、我々はどうやらあれを三体同時に相手をしなければならないようだ。


『ゼノドラ様!』

『我々も!』

『加勢します!』

『ならん! お前たちは魔物を減らす事に専念せよ!』


 若者たちでは荷が重いのもあるが、三竜まで相手にさせていたら魔物を間引く効率が落ちてしまう。

 故に加勢しようとする三竜たちを大声で止めた私は、こちらへと迫る異形の竜たちを見据えながら状況を整理しつつ対策を練る。


『あれには肉体を操る為の媒介……シリウスが核と言っていた物がある筈だ。接近してそれを探し、直接叩く他あるまい』

『接近戦か。望むところだ! 急ぎ同胞を解き放ってやらねばな!』

『……メジアよ、少し意気込み過ぎではないか? 我々も余裕がある状況ではないのだ。もう少し冷静になれ』

『心配せずとも、判断を見誤る事はせん。俺は……俺は必ず生きて戻らなければならないのだからな』


 我々、竜族と同じ血が流れる、ヒナという少女。

 色々と訳ありな上に多くの問題を抱えている少女ではあるが、メジアにとっては一筋の希望みたいな存在でもある。

 同族を裏切った兄を完全に憎み切れず、その汚名を濯ぐ事だけを考えて不器用な生き方しか出来ない男だったメジアが、心から守りたいと願う存在なのだから。


『あれを放っておけば、背後にいるヒナたちに害を成すかもしれぬ。ここで確実に止めるぞ』

『ふ、余計な心配だったか。よし、では手前から速攻で終わらせるぞ。あれを三体同時に相手するのは、我々でも正直危うい』

『ああ!』


 体格で優っているだけでなく、文字通り手数も増えており、更に意思のない存在となれば恐怖で手が緩む事もない存在なのだ。

 竜族の戦士でもある私とメジアとて、一筋縄では……いや、もしかしたら覚悟を決める戦いとなるかもしれぬ。

 だが……ここで退く事は絶対に出来ん。

 友の為に、同族の為に、そして我々竜族としての誇りを守る為に、私はメジアと共に異形の竜たちを迎え撃つのだった。




 ――― リーフェル ―――




「いい加減にしなさい! 貴方が先に倒れるわよ!」

「……平気。まだ、私は大丈夫だから……」


 サンドールを守る最後の防壁前。

 そこにある小さな水場の前で祈るように両手を組んで跪いているリースは、その場にいるだけで傷が治っていく霧を広範囲に亘って生み出し続けていた。

 その魔法によって運ばれてくる怪我人はすぐに前線へと戻れるので、リースが部隊全体を大きく支えているのは間違いない。

 けれど、この子は戦闘が始まってからずっと魔法を使い続けている。

 いくら精霊の助けがあるとはいえ、こんな長時間も魔法を使い続けていたら負担は相当な筈。

 しかも先程に至っては、戦場の奥深くで戦っていたエミリアを援護する為に水のゴーレムまで生み出していたのだ。

 このままでは魔力欠乏で気絶するどころか、命にすら危険が及ぶかもしれない。だから私はリースの顔を両手で挟みながらこちらへ向かせ、強引に魔法を止めさせていた。


「大丈夫に見えないから言っているのよ。いいから魔法を止めなさい!」

「でも、怪我人がまだ運ばれて……」

「貴方一人で何でもやろうとしない! ほら、こんなにも体が冷えているじゃない」


 水の精霊がずっと傍にいるせいもあって寒さには強い子だけど、それでも体を冷やし続けているのは良くないわ。

 少しでも体を暖めようと、私はリースの背後へと回って背中から包み込むように抱き締めながら、近くにいたカレンとヒナちゃんへと声を掛ける。


「カレンとヒナちゃんもいらっしゃい。皆でリースを暖めるわよ!」

「はーい!」

「……うん」


 更に止めとばかりに、セニアに用意させた毛布で私たち四人を包み込んでやれば、リースは心地良さそうに息を吐いていた


「あぁ……そっか……私、こんなにも体が……」

「それだけ集中していたのよ。だから今は少しでもいいから休みなさい。何かあったら私たちが起こしてあげるから」

「そう……だね。じゃあ……少しだけ……」


 最後まで語る前に、リースは気絶するように眠ってしまった。

 その間も怪我人は次々と運ばれてくるけれど、少しの間なら他の治療魔法を使える者たちで何とかなる筈ね。

 なら今の私たちがやるべき事をやろうと、近くで警戒を続けているセニアとメルトへと私は指示を飛ばす。


「セニア、メルト。今からこちらに近づいてくる相手は、各々の判断で排除しなさい。たとえ味方でもよ」

「「はい!」」


 敵は狡猾であり、回復手段を潰そうとリースを狙ってくる可能性は十分にある。故に警戒を強めるのは当然の事だけれど、私たちは魔物だけでなく味方側にも気を配っていた。

 何故なら、この状況に紛れてリースを狙う者がいてもおかしくない。

 はっきり言って、これまで多くの兵を救ってきたこの子はかなり目立っている。

 実力者を手元に欲しがる者は多いし、聡い者であれば精霊の力を借りられる存在だと察し、今の混乱に乗じて確保しようとする者が現れるかもしれない。

 少し考え過ぎかもしれないけれど、いずれエリュシオンを統べる者として最悪を想定しておかなければ気が済まない。何より可愛い義妹リースを守る為ならばこれくらい当然よ。本当なら私の親衛隊全員で守っても足りないくらいだし。

 私に体を預けるリースの重みを感じながら周囲を警戒していると、少しでも体温を上げようと体に力を入れているカレンが私に質問をしてきた。


「んー……ふぅ。ねえ、リーフェお姉ちゃん。この大変な事はいつ終わるの?」

「残念だけれど、それは私にはわからないわ。早く終わってくれるといいんだけど」


 時折前線から届く報告によると、多少崩された部隊はあっても何とか全体を維持したまま前進を続けているらしい。

 更に優先目的であるルカとヒルガンの撃破に成功したらしく、右翼と左翼に配備されていたあの子たちは敵の総大将でもあるラムダを狙う為、中央の奥深くへと進んでいるそうだ。

 だが現在、敵陣中央の奥深くでは、本でも見た事がないとんでもないものが存在していた。


「本当に巨大な樹ね。あれが敵の切り札の一つなのかしら?」

「リーフェル様。戦場から聞こえたのですが、現在あの樹を相手にシリウス様が一人で戦っているとの事です」

「一人で!? 他の援護は……いえ、ホクトはどうしたのよ?」

「ホクト様は未だ敵陣を駆け回って攪乱を続けております。私の予想ですが、おそらくシリウス様は一人でも戦わなければならない相手だと判断したのでしょう」


 戦場に突然現れた、山のように高く伸びた巨大な樹。

 間違いなく植物を使うラムダの手によるそれは、この戦場において最後方にいる私たちでもはっきりと見える程の大きさだった。

 あれ程の巨体となれば、前線どころか私たちの下まで攻撃の手が届いてもおかしくないもの。故にシリウスは奴の目を己へ惹きつける為に、戦力を整える間もなく攻めたのだろう。

 リースだけでなく子供たちも避難させるか悩む中、耳を澄ませているセニアから更なる情報がもたらされた。


「……シリウス様の援護へと向かっているエミリアとレウスたちですが、かなり消耗が激しいようです。しかし剛剣ライオル様は依然健在のようです」

「そう。彼等が間に合うなら、まだ勝機は十分あるわね」


 シリウスの実力を疑うわけじゃないけれど、今回の敵に至っては彼一人では無謀としか思えない。

 でも、あの子たちに比べたら付き合いは短いが、シリウスが策もなく戦闘を続けるような男ではないというのは知っている。

 きっと何らかの作戦か、それとも敵を押さえる役に徹して耐え忍び、味方と合流して反撃する機会を伺っているのかもしれない。

 どちらにしろ私たちはあの子たちを信じて待つ他はないんだけれど、こちらもまた油断は出来ない状況でもあった。


「姫様! 警戒を!」


 前線部隊の隙間を抜けてきた魔物が、こちらを狙って攻めてきたみたいね。

 数はそこまで多くはないし、周囲の護衛の兵たちで対処は可能かもしれないけれど、前線を抜けてここが攻められているのは不味い。

 空で戦い続けている竜族たちも巨大な竜の魔物に手こずっているようだし、確実に私たちは追い込まれつつある。

 このまま戦況が悪い方へ傾き続けるのであれば、私は妹と子供たちを守る為に全力でこの国を脱出するつもりだ。たとえ前線で戦うシリウスたちを置いて行く事になろうと、私は躊躇するつもりはない。あの子たちもそれを望むでしょうし、何より己の命と同じくらい守るべき存在が私にはあるのだから。


「猶予はあまりないわ。急ぎなさい……貴方たち」




 ――― シリウス ―――



 弟子たちが敵の主力であるルカとヒルガンとぶつかり、本気でぶつかり合っていた頃、俺はホクトに新たな指示を出してから一人敵陣深くへと切り込んでいた。

 魔物を操る能力は奴に近づくにつれて強くなっているのだろう。前へ進む度に敵の連携が鋭くなっていくのだが、ある程度進むと不意に魔物の攻撃が止んだのだ。

 だが攻撃が止むのも当然である。敵陣の中央奥深く……そこはまるで空白地帯のように魔物がいない空間になっていたからだ。

 その空間の中央にラムダの姿があり、更に周囲の魔物たちは妙に大人しく、俺が近づいている間も攻撃してくる気配はなかった。

 そして……奴と数十歩分の距離まで詰めたところで、ラムダはゆっくりと語り出したのである。


「……貴方は本当に恐ろしい方だ。己の意地を貫く為にここまでするとは」


 周囲の魔物は遠ざけているので、目の前にいるのはラムダただ一人。

 顔つきや目は多少変わってはいるが、姿はサンドール国を訪れてすぐに初めて出会った時とほとんど差がない。賢そうな雰囲気を漂わせていてもその肉体は全体的に細くて色白く、どこか儚い存在である。

 だが、今のラムダは『サーチ』で調べなくてもわかるくらい生命に満ち溢れており、まるで千……いや、万の敵を前にしているような感覚を俺は味わっていた。


「ですが、忠告を無視してまで目の前に現れたのであれば仕方がありません。そろそろ頃合いですし、今度こそ私が相手をしてあげましょう」

「頃合いなんて言葉が出るって事は、やはり意図があって魔物を放置していたようだな。狙いはお前が何度も口にしている絶望とやらの為か?」

「ふふふ、やはり気付いていたようですね」


 恐怖に抗おうと立ち上がったところで圧倒的な力を見せつけ、更に深い絶望へと叩き落とす。その為にラムダは魔物への指示を単調、かつ必要最低限にし、俺たちが攻める隙をわざと与えていたわけだ。

 そんな奴の自己満足の為に、多くの魔物たちが振り回されてる。魔物は人々にとって敵なので同情するつもりはないが……実に不愉快な話だ。


「それが作戦だろうが何だろうが、犠牲を無駄に増やすのは感心しないな。特に俺の弟子とその奥さん候補が怒っているぞ」

「勘違いしないでください。私は魔物を無駄にするつもりはありませんよ」


 ラムダがその言葉を口にすると、魔物の断末魔が全方位から一斉に響き渡った。

 すぐに周囲を確認してみたところ、どうやら俺たちを囲んでいた魔物たちが、地面から飛び出してきた根に貫かれて血を吸われていたり、捕食されるように根で包まれていたのだ。

 よく見れば俺がここに来るまで倒した魔物もやられており、根は生死問わず魔物を喰らい続けている。

 それと同時にラムダの足元から無数の蔓が生え始め、その蔓が集まって巨大な樹となり、更に成長を続けて天を貫く勢いで伸び続けていく。

 しばらくしてようやく成長が止まった後、俺の目の前に聳えていたのは、師匠のナイフの大元である聖樹に似た巨大な樹だった。

 俺が身構えていると、樹の一部から人の上半身らしきものが生え始め、先程までいたラムダの姿になったそれは不敵な笑みを浮かべながら俺を見下ろしてきたのである。


『お待たせしました。この姿になるには、少々手間と時間が掛かりましてね』


 気付けば、俺たちを囲んでいるのは魔物ではなく地面から生えた植物の根のみであり、その向こう側では新たな魔物が根の犠牲になっているのが確認出来た。


「なるほど。要するに、この魔物たち全てが餌……お前の栄養源というわけか」


 これ程の質量を保つ為には相当なエネルギーが必要だろうが、それを無限に呼べる魔物を喰らって補うわけか。

 巨大さを生かした力だけでなく、優れた知性を持ち、尽きる事のない補給線。

 他にもまだありそうだが、これがラムダの切り札か。

 まだ戦っていないので実力は不明だとしても、これ程の相手が見掛け倒しなんて思える筈もない。

 これはもう一国の戦力では手に余る相手だ。これまで奴の余裕が崩れなかったわけである。


『如何です。魔物を無駄にはしていないでしょう? 強き者が弱き者を喰らう。至極当たり前の事を私はしているだけですよ』


 弱肉強食というわけか。

 確かに俺も前世では過酷な生を歩んできたので、奴の主張も理解は出来るのだが……。


「どれだけ自分の正当性を主張しようと、気に食わんものは気に食わんし、そもそもやり過ぎた者は自然と淘汰されてしまうものだ。なあ、話はもう十分だろう? そろそろ始めようじゃないか」

『この姿を見ても、怯みもせず挑みますか。正に貴方は英雄ですね。私からすればただの愚か者ですが』

「いや、俺は英雄なんかじゃない。俺はお前を止める為に戦う戦士……いや、特殊工作員エージェントさ」


 どんな化物に変わろうと、人が行き着いた先であるならば敵わない道理はない。

 即座に魔石で作ったカードを放り、更に師匠のナイフと『ストリング』で接続した俺は、こちらを貫こうと伸びてくる蔓の触手を避けながら『マグナム』を放つ。

 こうして……俺とラムダの己の意地を賭けた戦いが始まった。




 槍のように繰り出される無数の蔓の触手を避けながら放った『マグナム』は、樹から生えた不敵に笑うラムダへと命中する。

 人であれば確実に仕留めていたであろう、額、喉、心臓の三点同時撃ちであるが、予想通り効いている様子はない。更に魔力の弾丸によって空いた穴はすぐに塞がってしまい、不敵な笑みを浮かべたままのラムダはお返しとばかりに更に触手を放ってきた。


『相変わらず不思議な魔法ですね。しかし私にとっては何一つ意味を成しませんよ』


 弾丸で開いた穴の大きさ、深さからして威力は半減……といったところか?

 再生速度もこれまで見てきたどの敵よりも早く、次の弾丸を撃ち込むよりも先に塞がってしまいそうだ。あの巨大さも相まって、内部へ攻撃を届かせるには『マグナム』では不可能か。

 そうして少しでも敵を分析しつつ、数が増した触手の槍を避ける為に俺は大きく横へ飛ぶが、当然ながら触手が追尾してきたので『マグナム』を放って迎撃する。触手の方は柔らかいので『マグナム』で吹き飛ばせるが、数が膨大なのできりがない。


「迎撃!」

『あいよ!』


 なので俺から伸びる『ストリング』に繋がれた聖樹製のナイフ……師匠に迎撃を頼んだ。

 自在に動けるとはいえ、たった一本のナイフでどうにかなるような数ではないのだが、そこは色々と規格外な師匠である。凄まじい動きでほとんどの触手を斬り払い、僅かだが攻撃を放てる余裕を作ってくれた。


『どれだけ抗おうと無駄です。私の腕は無限に増えー……ぐっ!?』


 その一瞬の間を突いて放った『アンチマテリアル』は、巨大な樹から生えていたラムダの肉体部分を完全に吹き飛ばした。

 しかし樹全体からすれば小さな穴に過ぎない。しかもよく見れば、岩をも軽々と貫く弾丸でも貫通には至らなかったようだ。

 辛うじて中心まで届いたと思うが、貫通に特化した『アンチマテリアル』でもこの威力という事は……。


「弾丸の魔力が吸われている?」


 奴は魔物を喰らうだけでなく、触れた存在から魔力を吸収する体なのだろう。

 つまりどれだけ勢いや貫通力を持たせようと、魔力の弾丸では途中で消えてしまうわけか。穴は開くので全く効かないというわけではないが、はっきり言って俺の魔法と相性が悪い。

 こういう場合、山をも斬る爺さんの剣の方が良いかもしれないが、爺さんがここまで来るにはまだ時間が掛かりそうである。


『……そんな大技を易々と放っていいんですか。まだ戦いは始まったばかりですよ?』

『下手に手を惜しんで放てないのを危惧したのか、それとも他に大技を?』

『ふふ、一体どちらでしょうかね?』


 やはりこれ見よがしに診せているラムダの体部分は弱点ではなく、吹き飛ばされた箇所は何事もなかったかのように元に戻っていた。

 同時にこちらを小馬鹿にするような言葉を放つなり、樹全体のあちこちからラムダの肉体が生え始め、ラムダの体が三つになっていたのである。

 何やら俺の返答を待つ余裕を見せているが、答える義理はない。これが返事とばかりに、その肉体全てに『マグナム』を三発ずつ叩きこんでやった。


『どれも狙いは正確ですか』

『私には通じません』

『信じられないなら、もっと試してみますか?』

『ついでに的を増やしてあげましょう』

『さあ……どうします?』


 効いているどころか、更に肉体が生えてラムダは五つに増殖していた。

 ラムダは自分自身と全く同じ存在……己のクローンのような者を生み出しているのが判明しているが、あんな風に別々で語れるという事は少なくともあの樹にはラムダのクローンが五体はいるという可能性が高い。つまりこの巨大な樹には急所となる核が複数存在すると考えるべきだろう。

 もちろん、あの中に全てのラムダが入っていない点も頭の片隅に置きつつ、得られた情報を纏めていく。


「あれが急所でなければ……となるとやはり、奴の核が全体のどこにあるかだが……」


 複数存在するであろう、ラムダの急所……核はこの巨大な樹の内部のどこかにある。当然ながら一か所に纏めているとは思えないので、その位置を特定するところから始めなければなるまい。

 もう少し攻撃を加えて反応を伺いたいところではあるが、師匠の足止めも限界なので俺は迫る触手を避ける事に専念する。

 足は一切止めず最小限の動きで回避を続けていると、突如触手の動きに変化が起き、避けきれず左腕に小さな傷を負ってしまった。


「変えてきたか!」

『前にも言いましたが、私は一人ではなく複数なのです』

『その全てが別々に思考し、貴方一人を狙う』

『隙があれば……ほら、そこですよ』


 何やら意味深な言葉と共に狙われたのは、俺ではなく師匠だった。

 聖樹の欠片であるナイフを取り込もうと無数の触手が迫り、正に数の暴力によって完全に師匠を包み込んだ。


『ふん、若造が。私に干渉するには数百年早いねぇ!』


 だがナイフに触れると同時に触手は次々と弾け飛び、師匠は効かんと言わんばかりに残りの触手を滅多切りにしてから俺の近くに戻ってきた。

 その破天荒な動きに、ここで初めてラムダは動揺らしき感情を見せる。


『ぬっ!? やはり簡単には行きませんか』

『欠片とはいえ、さすがは聖樹です』

『ですが、焦る必要はありません』

『ええ、繋がっているのであれば、元を断てば後はどうとでも……』


 しかしすぐに冷静さを取り戻し、師匠を動かせる俺へと狙いを戻したのか、更に地面から生えてきた無数の触手の切っ先を俺へと向けた。

 最低でも五人で別々に思考し、かつ自在に動かせる無数の触手。

 巨大怪獣のような大きさでありながらも、未だに碌な弱点も見つかっていない現状ときて、おまけに俺の魔法との相性が悪いときた。

 戦場のどこかで戦っている弟子たちの邪魔をさせない理由があって仕掛けたものの、これは予想を遥かに超える厄介な相手だ。

 余裕か、はたまた警戒しているのか、触手の先端をこちらへ向けたまま様子を窺うラムダへと、俺は脳内のスイッチを切り替えつつ魔石で作った手製のカードを取り出す。

 おそらく決着が着くまで、ゆっくりと話をするのはこれが最後となるだろう。


「見た目はもう魔物どころか完全に化物だが、お前が本当に凄い存在なのは間違いないな」

『あのサンドールの姫にも言ったでしょう? 私は進化した存在だと』

『そしてここまで私の計画を掻き乱した責任を取ってもらいましょう』

『貴方も他の魔物たちと一緒に、私の養分になりなさい』


 最早自分が究極の存在だと宣いそうな勢いであるが、この姿を見せられたら冗談だと笑い飛ばす事も出来ないな。

 それにこの無数の触手だけでなく、奴にはまだ策や切り札がありそうであるが……。


「強気になるのは結構だが、そんな台詞は俺を完全に下してから言え。それに相手の能力、手の内を知らないのはお前だけじゃない」

『ああ、確かにそうですね』

『では、見せてもらいましょうか』

『圧倒的な物量と再生を前に、どこまで抗えるかを』


 その言葉を最後に、周囲にあった触手が一斉に襲い掛かってくる。

 俺の体が通れる隙間は微塵もない、完全に包囲されているこの状況になっては己の手札を温存する理由はない。

 魔石のカードによって生み出される魔法の発動体。

 自立する師匠のナイフ。

 そして、もう一つ切り札……。


「『PAS』……発動」


 ラムダのような強敵用に開発していた、決戦魔法を発動させた。

 はい、お久しぶりの更新です。

 えーと……まずは、過去最大級の放置っぷりで申し訳ありませんでした。

 本当ならばもう少し話を先に進めたいところでしたが、生存報告も兼ねて更新しました。


 何があったのかと思われる方もいるかもしれないので簡単に報告しますが、とある事情で少々不貞腐れていたと言いますか、やる気がほぼなくなっていました。

 時間を置いた事である程度は調子が戻ってきたので、次の更新は今回みたいに開く事はないと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新おつかれさまです! 無理なさらずマイペースで 書籍版では前話より少し進んでいたのでそちらに専念されるかと思ってました 書籍もwebも最後まで応援してます
[一言] 更新して頂けただけでもありがたいです。 ゆっくり待っときます。
[一言] 作者様、未だ寒い日が続きますが、体調には気を付けて物語を綴って下さいね。
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