挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十九章 有翼人

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

156/179

子供にとっては長き旅の終わり

 お久しぶりです。
 ようやく書籍作業が一段落したので、更新を再開したいと思います。
 ですがさすがに期間が空いたので、ホクトから前話のあらすじを簡単に……。



「オン!」


※以下、レウスによる翻訳

 旅を続けるシリウス一行は、奴隷になっていた有翼人の少女を保護しました。
 そしてシリウス一行は有翼人の少女を親の下へ送り届ける為、有翼人の住処があると言われる竜の巣へ向かいます。
 しかしそこは多くの竜が生息する危険地帯であり、案の定、野営をしようとしたシリウス一行の上空に、上位竜と呼ばれる大きな竜が三体も現れたのです。


「……だってさ」

「……あの一吠えに、それ程の情報量があったのが驚きだよ」

「オン!」


※以下、レウスによる翻訳

 しかし主に忠実なホクトの活躍によって三体の上位竜はあっさりと撃退され、その後ホクトはご主人様からたっぷり褒められ、更に念入りなブラッシングを受ける事が出来た。


「……だってさ。そんな事あったかな?」

「こら! 嘘はいかんぞホクト!」

「クゥーン……」
 突如空から現れた、其々が全身を赤、緑、黄色に染めた三体の上位竜たち。
 色々と理由はあるだろうが、俺たちを完全に敵視しており、今は横一列に並んだ状態で上空を大きく旋回していた。
 そして俺たちを正面に見据えたところで、こちらへ向かって真っ直ぐ急降下してきたのである。
 見れば落下の途中で三体揃って息を大きく吸い込んでいたので、広範囲を薙ぎ払うブレスを放つつもりなのだろう。

「ここは任せて! 水よお願い……」

 俺たちが一箇所に集まってリースが魔法を発動させれば、地面から激しい水が吹き出して俺たちを守るように覆う。

「私たちの出番ね。皆、頼んだわよ!」

 更にフィアの魔法で巨大な竜巻が生まれたが、その竜巻はリースが生み出した水を巻き込んでうねり、巨大な水の竜巻となっていた。

『その程度の魔法で!』
『我々のブレスが防げると思うか!』
『燃え尽きるがいい!』

 同時に放たれた炎のブレスは三体分だけあって凄まじい衝撃と熱量だろうが、流動する水と風が衝撃を分散しながら受け流し、熱さえもほぼ防いでくれた。
 これこそ二人が作り出した合体精霊魔法の一つ……。

「「『水流壁ストリームシールド』」」

 おそらく片方の魔法だけでは、衝撃と熱の両方を防ぎ切れなかっただろう。
 だがこれは強力な精霊魔法だからこそ可能な魔法で、普通の魔法を組み合わせた程度ではここまで強固な防御壁にはなるまい。他に可能だとすれば魔法を極めし者(マジックマスター)のロードヴェルくらいだろうな。

「すごいな。これなら俺の『マグナム』も防げそうだな」
「でしょ? 風の精霊って思い通りに動いてくれないから、ここまでくるのに結構苦労したのよ」
「何度もびしょ濡れになったりして大変だったよね。最終的に水の精霊たちにお願いしてもらっている感じなんだよ」

 二人曰く、自由奔放だが力はある風の精霊を、誠実で細かく指示を受けてくれる水の精霊が上手く誘導しているらしい。
 とにかく二人の御蔭で初撃は防げたが、反撃しようにも上位竜はブレスで地上を薙ぎ払ってから再び上空へ飛び上がっていたので不可能だった。
 まあ反撃といっても、俺たちは戦いにきたわけじゃないんだがな。

「それにしても問答無用かよ。どうする兄貴?」
「会話は可能のようですが、あの様子だとこちらの話を聞いてもらえなさそうですね」
「……仕方がない。一旦叩き落とすか」

 逃げようにも制空権は向こうに取られているし、ブレスで絨毯爆撃するような竜から逃げ切るのも難しい。
 何でもいいから地上に下ろすなりして、こちらの話を聞いてもらえる状態に持ち込まなければ。

「普通、上位竜を叩き落とすなんて考えないよね。でも、怒らせて逆に話が出来ない状態にもなりそうな気もしないかな?」
「その時はその時よ。全員で叩いて無力化させましょ」
「どちらにしろ空中から降りてもらわないと話にならんからな。向こうは三体だから、男の俺たちで一体ずつ相手をしよう。エミリアは状況を見て援護とカレンの守りを頼む」
「わかりました!」
「おう!」
「オン!」

 リースとフィアは攻めず、このままカレンの守りに専念してもらうとしよう。
 先程見せたように、魔法を使えば俺たちの中で一番防御力が高い二人だからな。

「こっちは気にせず遠慮なくやっちゃいなさい」
「カレンちゃん。絶対に私たちから離れちゃ駄目だからね」
「う、うん!」

 俺たちの準備が整ったと同時に、上空では大きく旋回した竜たちが再び急降下してきた。
 落下の勢いを乗せた竜たちはとてつもない速度でこちらへ迫ってくるが、どんなに速かろうと結局は先程と同じ行動に過ぎない。

『むっ!?』
『そっちは任せたぞ!』
『おう!』

 そして竜たちがある程度近づいた時に俺は右へ、ホクトは左へ大きく移動していた。
 だが左右にいた緑と黄の竜は冷静に俺とホクトへ首を向け、中心にいる赤の竜はそのまま正面に立つレウスを狙っていた。突然の散開に気を取られつつも、お互いを自然と補う連携は見事だと思う。
 そして散らばった俺たち目掛け、竜たちはブレスを放とうと口を開けていたが……。

「『ランチャー』連射!」
「オン!」

 相手のブレスより俺とホクトの方が速い。
 俺が放った破裂する魔力弾とホクトの体当たりによって、左右の竜はふっ飛されて強制的に地面へ叩き落とされた。
 残った青の竜はレウスとその背後にいる女性陣へ向かってブレスを放とうとするが、エミリアが事前に放っていた無数の『風衝撃エアインパクト』が破裂して衝撃波を放ち、竜の体を何度も揺さぶってブレスを中断させる。
 衝撃によって迫る速度が目に見えて落ちた赤の竜は、崩れた体勢を立て直そうとするが……。

「どらっしゃああぁぁ――っ!」

 すでにレウスが剣を振りかぶりながら飛んでおり、竜の首元へ剣を叩きつけたのである。
 本来は斬る為の剣でもあるが、レウスの大剣はある意味鉄の塊とも言える大きさと重量を持つので、叩くように使えば巨大な鈍器にもなる代物だ。
 そんなハンマーのような大剣で叩かれた赤の竜は、激しい轟音を立てながら地面に叩きつけられていた。

『ぐ……ぬぅ……』
『我等を叩き落とすとは……』
『やるではないか!』

 殺さないように気をつけてはいたが、上位竜たちは俺たちより十倍近く大きい相手なので、正直にいって加減なんてほとんどしていなかった。
 なので岩くらいなら軽く粉砕する一撃を直撃させたというのに、竜たちは平然と立ち上がったのである。

「さすがは上位竜といったところか。ホクトとレウスの力で叩かれても鱗すら欠けないとは」
「オン!」
「ちょっと加減し過ぎた……ってさ。俺も、もうちょっと力を入れといた方が良かったな」
「まあこれで目的は達せたんだ。ここから慎重に行くぞ」

 俺たちがここへ来たのは、あくまでカレンの為だからな。
 敵意は相変わらずだが、同じ地表に立たせた今なら話くらい聞いてくれる筈だ。
 翼を広げて再び飛び上がろうとする前に、俺はカレンを呼んで隣に立たせてみた。
 さて、これでどういう反応を見せるか……だな。 

『むっ!?』
『カレンのお嬢ちゃんか!?』
『無事であったか!』

 竜なので表情は読み辛いが、カレンを見て喜んでいるのはよくわかった。
 そしてカレンの事を知っている口振りであるが、当の本人の反応が薄いのは何故だろう?
 疑問を浮かべる俺たちを余所に、カレンは首を傾げ……。

「……誰?」
『『『ぐふっ!?』』』

 なるほど……カレンの反応が薄いわけだ。向こうは知っていても、本人が知っているとは限らないからな。
 そんなカレンの呟きに、竜たちの首がガクリと落ち、思わず俺もずっこけそうになったが、とにかくこれで落ち付いて会話が出来るだろう。
 そう思って警戒を解こうとするが、竜たちの雰囲気が明らかに変なのに気づいた。

『だが、あの子が何故このような連中と共にいるのだ?』
『川に流されたと聞いたが、まさかあの連中に拾われたのか?』
『いや……待て! 外の者は有翼人を攫って奴隷にすると聞いた事があるぞ』

 何だか非常に雲行きが怪しい。
 しかしカレンを束縛するようなものはないし、奴隷生活で多少痩せてはいるが、きちんとした服を着せている今のカレンは健康そうに見える。
 見方によっては人質を取っているようにも見えなくもないが、冷静に考えれば危害を加えにきたわけじゃないと理解出来る筈だ。

「あの、私たちはー……」
『まさか……拾ったカレンに案内させて、我等が里へ踏み込もうと!?』
『幼子を攫うだけで飽き足らず……この外道めがぁ!』
『ここで始末してくれる!』

 これは駄目だな。
 相手が冷静じゃないのもあるが、考えるより本能のまま動く類なのだろう。あの爺さんの劣化バージョンだな。
 見事と言っていい程に勘違いをしている三体の竜は、翼を広げて再び飛び上がろうとしていた。
 先程の攻撃を受けても平然としている点から骨が折れそうだが、こうなったら相手が動けなくなるまで戦うしかなさそうだな。
 カレンを下がらせ、俺たちが再び戦闘体勢を取ったその時……風を切り裂く甲高い音が聞こえ始めたのである。

「オン!」
「兄貴! 上から何か来るぞ!」

 ホクトに遅れ、上空から何かが接近してきたのに気づいて顔を上げてみれば、一体の竜がこちらへ向かって急降下してきたのである。
 全身が青く染まった竜は途中で翼を広げて落下速度を殺し、大きな音をたてる事もなく優雅に俺たちの前に下り立っていた。
 その青い竜は三体の竜より一回りも大きく、明らかに格が違う雰囲気を醸し出している。

『ゼ、ゼノドラ様!?』
『何故このような所に?』
『ここは我等で十分です!』

 どうやら彼等の上が出張ってきたらしい。
 ホクトもかなり警戒しているようだし、三体の竜も一緒となると手加減だとか考える相手じゃなさそうだな。
 いつでも『ブースト』を発動させられるように身構えていると、ゼノドラと呼ばれた青い竜は三体の竜へと首を向け……。

『この馬鹿者どもが!』
『『『ぐはぁっ!?』』』

 それはもう見事な轟音を響かせながら、並んだ竜たちの頭を尻尾で叩いたのである。
 周囲に地響きが起こる程の一撃であったが、三体の竜たちは平然と起き上がっているので日常茶飯事のようだ。

『な、何をするのです!?』
『敵はあちらですぞ!』
『そうです! 我々は幼子を人質に取る外道を倒そうと……』
『ええい、落ちつくのだ。遠くから見ておったが、あの者たちから戦意を感じられんだろうが』

 そのままゼノドラの説教が始まり戦闘どころではなくなったが、とにかく話の通じそうな竜が来てくれたようだ。
 しばらくして説教を終えたゼノドラはこちらに振り返るが、その雰囲気からして敵意はなくとも警戒だけは解いていないようである。

『さて、色々と聞きたい事はあるが、まずお主たちはここへ何をしに来たのか答えよ。返答次第では見逃しても良い』
「わかりました。まずはカレン、こっちにおいで」
「……うん」

 そして後ろへ下がらせたカレンの姿を確認させれば、ゼノドラもまた三体の竜と同じように驚きながらも喜んでいるような反応を見せた。

『おお、無事であったかカレンよ』
「……誰なの? それにゼノドラって……あのゼノドラ様?」
『む? お主にはまだこの姿を見せた事がなかったか。少し待っていろ……』

 そう口にしたゼノドラが目を閉じたかと思えば、見上げる程の体が急激に縮み始め、更に体の変化も起こってレウスより一回り大きい男へと変身したのだ。
 その見た目はライオルの爺さんと良い勝負な体格の男だが、服の隙間から覗く肌には青い鱗が所々に見えるし、頭には大きな二本の角が生え、更にお尻からは竜の姿の時と同じ尻尾が伸びている。
 これはまるで上位竜というより……。

「シリウス様。あの姿は……」
「ああ。竜族……だな」

 姉弟とリースには苦い思い出だろうが、その姿は学校の迷宮で遭遇した、鮮血のドラゴンのリーダーでもあったゴラオンにそっくりだった。
 だがゴラオンと違って殺人鬼という雰囲気は微塵もなく、爽やかな笑みを浮かべる好青年にしか見えない。

「どうだカレンよ? この姿ならわかるであろう」
「うん! ゼノドラ様!」
「ははは、無事で何よりだ!」

 その姿にカレンも知り合いだと理解したのか、少し声が弾んでいるようだ。
 上位竜ってのは、もしや竜族が変身した姿という事なのだろうか?
 色々と興味は尽きないが、今は敵ではないと理解してもらってカレンを故郷に送ってもらうとしよう。

「先日私たちはこの子を保護したので、故郷へ送ってあげたいと思ってここへやってきたのです」
「ほう……有翼人と聞けば目を変えるのが人と聞くが……もの好きな奴もいるものだな」
『ゼノドラ様、奴の言う事を信じるのですか!?』
『あの外道はカレンを騙し、他の同胞を狙いに来たに違いありません!』
『ここに来る人はそういう連中ばかりでしたぞ!』
「いいからお前たちも変身を解け。同胞を狙う連中にしてはそれ以上に珍しいものたちを連れておるし、何よりお前たちを軽くあしらえる実力者だ。今までのような連中とは違うだろう」

 確かに俺たちには珍しい銀狼族だけじゃなく、希少なエルフに加えて神の御使いとも呼ばれる百狼もいるからな。
 更に突っ込むのであれば、人族である俺とリースも無属性と精霊が見える希少な存在でもある。普通な奴がいないパーティーだな。
 ゼノドラに言われて仕方がないと悟ったのか、三体の竜たちも人の姿へと変わっていた。
 見た目は体の色と比例した赤、緑、黄の髪色をした三人の青年だが、大人になる前の子供というのか……とにかくゼノドラと違って明らかに幼い感じがするな。

「紹介が遅れたが、私の名はゼノドラだ。我等の同胞を助けてくれた事を感謝する」
「私の名前はアイ」
「クヴァだ」
「ライである」
「そしてこの者たちが迷惑をかけたようだ。擁護するわけじゃないが、この者たちは最近変身出来るようになったばかりでな。まだ精神的に若く早とちりしやすいのだ」

 そのまま俺たちの自己紹介を終えたところで、ゼノドラは再び謝罪しながら頭を下げてきた。
 気配だけでわかる相当な実力者で、実に誇りが高そうな竜に見えるが、素直に頭を下げられるその誠実さは見事だと思う。

「大丈夫です。驚きはしましたが、こちらもしっかりと反撃していますし、今回はお互い様という事にしましょう」
「……そうだな。互いに怪我がなくて良かったが、けじめはつけなくてはな。ほら、お前たちも頭を下げるのだ」
「むぅ……申し訳なかった」
「だがな、お前たちが怪し過ぎるのも悪いのだぞ!」
「そうだそうだ。お前たちが人質を取る様な外道みたいな事をー……」
「オン!」
「「「ふげらっ!?」」」

 ゼノドラに促された三人が渋々といった様子で頭を下げたが、いつの間にやら近づいていたホクトが三人の頭を前足で叩いたのである。
 確かに三人の態度は良いとはいえないが、まさかホクトが飛び出してくるとは思わなかった。

「兄貴は外道じゃない! 元はお前たちの勘違いなのだから、素直に謝るのが筋だろう……だってさ」
「ああ……そういうわけか。なあホクト、もうその辺でー……」
「いや、構わん。どうも反省が足りんようだし、偶には我々以外から説教されるのも良い薬になるだろう。殺さない限り、好きにしても構わん」
「ゼ、ゼノドラ様!?」
「我々は同胞を守ろうと思って……」
「そ、そうですよ! それにこの狼、予想以上に力が強くー……」
「オン!」
「シリウス様は外道ではございません! どのようにしてカレンちゃんを救ってくださったか、しっかりと理解してもらいますからね!」
「く……竜族である我々が」
「たかが狼と銀狼族の娘程度の言う事を易々と」
「聞くと思ってー……」
「ガルルルッ!」
「正座です!」
「「「……はい」」」

 気付けば説教している人物が増えていた。
 そして三人はその場に正座させられ、エミリアから俺の事を聞かされ続け、少しでも反抗的な態度をとればホクトに叩かれている。
 何だか可哀想にも見えるが、ゼノドラも尻尾で普通に叩いていたし、性根を叩き直す為だと思って見過ごすとしよう。一応ホクトも手加減しているし、あの三人も竜だから頑丈そうだしな。
 そんな実にシュールな光景を眺めていると、カレンの両肩に手を置いたリースとフィアが、少し真剣な表情でゼノドラに質問をしていた。

「あの……ゼノドラさん。カレンちゃんですが、すぐに家へ帰れるのでしょうか?」
「ああ、この子は私が責任を持って送り届けよう。それに……少し急いだ方が良さそうだしな」
「そうね。早く母親と再会させて安心させないとね」
「それもあるが、カレンの母親であるフレンダは、現在倒れて動けなくなっているのだ」
「おかーさんが!?」

 どうも家に帰れば親と感動の再会……とはいかなさそうだ。
 カレンが翼を広げながら叫ぶ中、ゼノドラは悲痛の面持ちで語り始めた。

「数日前、この辺りまで侵入してきた賊の手による矢を受けてしまったのだ。その時に抱いていたカレンを手放してしまい、川に落としてしまったそうだが……覚えていないのか?」
「……うん」
「カレンは川に落とされたショックで、その辺りの記憶が曖昧なようです」
「……そうか。なら無理して思い出す必要はあるまい。その後、仲間によって侵入者は始末され、フレンダは治療魔法により一命は取り留めたが、矢に毒でも塗られていたのか徐々に衰弱しているのだ」

 背後でまだ説教は続いているが、あの三人が過剰な反応をしていたのはそういう理由だったわけだ。
 それでもいきなり攻撃はやり過ぎだと思うが、今は罰を受けているようだし気にするまい。

「意識はあるが、高熱と痛みによって今ではベッドから起き上がる事もままならん。治療魔法だけでなく薬草の効果も薄く、このままでは遠からず……」

 そして矢に射られたせいとはいえ、娘を手放してしまった事を激しく後悔しているそうだ。
 体だけでなく心も深く傷ついている状態では長くは保つまい。

「だからお前が無事であると安心させてやらねばな。では行くとしようか」
「うん!」

 そして背後での説教が終わると同時にゼノドラは竜の姿へと変わったのだが、何かに気付いたカレンは不安気な様子で振り返ったのである。

「……皆は?」
『すまぬが、彼等を連れていくのは無理だ。余所者を軽々しく里へ招くわけにはいかぬからな』
「え?」

 本当は俺たちも行きたいところだが、この状況で連れて行ってほしいと言い出し辛い。何より、いくらカレンを保護して連れてこようが、俺たちが怪しいのは事実だからな。
 もしかするとこれでカレンとはお別れになるかもしれないが、いずれこうなる予定だったし、一番の目的は達成出来たのだから良しとしよう。

「カレン。俺たちの事は気にしなくていい」
「そうよ。早く帰ってお母さんの胸に飛び込んできなさい」
「お母さんによろしくね」
「不安な母親を安心させられるのは、娘であるカレンちゃんにしか出来ない事です」
「母ちゃんにしっかり甘えてこいよ!」
「オン!」
「でも……」

 説教が終わったエミリアとホクトも加わり、なるべく後腐れなく見送れるように笑みを向けているのだが、カレンはその場から中々動こうとしなかった。
 すぐにでも母親の下へ向かいたいだろうに……本当に優しい子だと思う。

『……カレンよ。お前は彼等と一緒がいいのか?」
「うん! だってカレンを助けてくれたり、美味しいご飯をくれたり、魔法も教えてもらったの!」
『酷い事はされなかったのか?』
「されていないよ。皆、凄く優しいの」

 僅か数日の付き合いだが、ここまで俺たちを信頼してくれて、はっきりと口にしてもらえると嬉しいものだな。
 そんな真剣な表情で答えるカレンを一瞥したゼノドラは、少し考える仕草をしてから、正座から立ち上がった三人へと声を掛けていた。

『お前たち。変身して彼等を乗せてやってくれ』
「よろしいのですか?」
「我々は構いませんが……」
「やはり一度は長や皆と話し合った方が……」
『構わん。責任は私がとろう』

 カレンに負けじとはっきりと答えたゼノドラは、俺たちを見渡しながら続きを口にする。

『子供というのは悪意に敏感なものだ。特にこの子の場合はな。そんなカレンがこれ程信頼している者たちなら……不埒な者ではあるまい』

 ゼノドラはカレンの翼を見ながら口にしている。
 他の仲間と違う翼ゆえに、カレンは周囲からの視線や感情に人一倍敏感だと言いたいのだろう。
 そんなゼノドラの言葉に納得したのか、今度は渋る事もなく三人は竜の姿へと変わり、俺たちが乗り易いようにその場にうつ伏せで寝転がってくれた。

『どうぞ。私の背にお乗りください、シリウス殿』
『ささ、ホクト様は私の方へ』
『レウス殿はこちらに乗るといい』

 すでに三人……三竜の調教は完了していた。
 あの短い時間で完全に上下関係を叩き込んだわけだが、色んな意味で恐ろしい従者と相棒である。
 そのまま軽く話し合った結果、リースとフィアはカレンと一緒にゼノドラの背中に乗せてもらい、俺とエミリアは緑の竜であるクヴァの背に、そして赤の竜のアイにレウスが、黄の竜であるライにホクトが乗る事になった。

『では行くとしよう。しっかりと捕まっているのだぞ』

 その号令で竜たちは翼を広げて空へと舞い上がり、ゼノドラを先頭に、後続ではアイ、クヴァ、ライが横一列に並んだ編隊を組んで飛んでいた。

「やはり自由に空を飛べるってのは便利なものだな」
「うふふ……そうですね」

 しっかり掴まっていろと言われたせいか、エミリアは嬉しそうに俺の背中に抱き付いていた。頬を擦り寄せてくるのは構わないが、この状況で甘噛みは止めてもらいたいものだ。
 その頃、前方を飛ぶゼノドラの背中では不安気にしているカレンを二人が宥めており、横に視線を向けてみれば、レウスは乗せてもらっているアイと仲良さ気に会話していた。
 ホクトはライの背で大人しく伏せているが、竜の背に狼だけが乗っているってのも実に不思議な光景だと思う。

 それから広大な森の上空を飛び続けて数分……俺たちの眼下には、森を切り開いて作られた広場に幾つもの家屋が立ち並ぶ集落が広がっていた。

『あそこに見えるのが、我々竜族と同胞である有翼人の皆が暮らしている里です』
「色々とありましたけど、予定より早く到着出来ましたね」
「ああ。襲われた時はどうなるかと思ったが、結果オーライだな」

 飛んで数分とはいえ、地上を進んでいたら広大な森と魔物の襲撃も考えて一日は必要としただろうな。
 カレンの母親が不味い状態であった点から、この一日は大きいだろう。

「なあ。あの里には竜族と有翼人しか住んでいないのか?」
『そうです。全部で五百人くらい住んでいますよ』

 更に詳しく聞いたところ、人口のほとんどが有翼人で、ゼノドラのような竜族は全体の三割程度しかいないらしい。
 クヴァへ簡単な質問をしている間に高度は下がり始め、集落から少し外れた箇所に建っている家屋の前にゼノドラは着陸していた。あまり大きくはないが、一世帯が住むには十分な広さの家である。
 続いて三竜も着地して俺たちが背中から降りたところで家の扉が開かれ、背中に立派な白い翼を持つ女性が現れた。

「ゼノドラ様!? このような所へ一体……」
『うむ。火急の用があって参ったのだが、説明するより見てもらった方が早いだろう』
「デボラお婆ちゃん!」
「カレン!?」

 見た目から六十を過ぎた女性は、驚きつつも笑みを浮かべながら駆け寄ってきたカレンを力強く抱きしめていた。
 その間にゼノドラが教えてくれた話によると、彼女はフレンダの母親らしい。

「無事だったんだね。心配したんだよ」
「うん。デボラお婆ちゃん……ちょっと痛い」
「それだけ心配していた証拠だから我慢しなさい。ゼノドラ様がこの子を見つけてくださったのですね」
『違う。その子を保護し、近くまで連れて来たのは私ではない。そこにいる彼等だ』
「彼等とはー……っ!?」

 遅れて俺たちの存在に気付いたデボラはカレンを背中に庇うが、ゼノドラに言われた事を思い出したのか警戒は解いてくれた。
 だが俺たちを怪しんでいるので、彼女は不安気にゼノドラを見上げていた。

「ゼノドラ様……」
『お前の言いたい事はわかるが、彼等は度々見られる愚かな連中とは違うようだ。ここは私を信じて迎え入れてやってほしい』
「お兄さんとお姉ちゃんたちは悪い人じゃないよ。カレンを助けてくれたの」
「そう……世話になったんだね」

 依然としてデボラは俺たちを怪しんでいるが、ゼノドラとカレンの言葉により一応は納得してくれたようだ。
 それにしても……不揃いな翼で色々と肩身を狭くしているかと思えば、カレンは随分と愛されているようだな。それがわかっただけでも来た甲斐はあると思う。

『詳しい事情は彼等から聞いてくれ。我々は少し急がねばならんのでな』

 そして俺たちと隣に並んでいる三竜を一瞥したゼノドラは、再び翼を広げて飛び立とうとしていた。

『私は今から、長と皆に此度の事情を説明してこなければならん。お主たちはこの家の周辺から離れないようにな』
「わかりました。時間が掛かるようでしたら、この辺でテントをたてて休んでいますよ」
『うむ。それと私が戻ってくるまで、里の者たちとはなるべく問題を起こさないように気をつけてくれ。罪人と認定されたお前たちを仕留めるには、私でも骨が折れそうだからな』
「いきなり攻撃でもされなければ、こちらから何もしませんので」

 俺の言葉に三竜はばつが悪そうに視線を逸らしているが、元から俺たちは怒っていないので安心してほしい。もう過ぎた事だし、何より俺たちをここまで運んでくれたからな。
 そう伝えてやれば、三竜は安心するように息を吐きながらその場に座り込んでいた。

『さすがはホクト様の主ですな。寛大な心を持っておられる』
『ゼノドラ様。我々はここに残りたいと思います』
『説明出来る我々がいれば、皆様も安全かと』
『うむ……それもそうだな。では頼んだぞ』

 そしてゼノドラが飛び立ち、残された俺たちをデボラが真剣な表情で見つめているのに気づいた。
 まだ完全に信頼されているわけじゃないし、色々と説明するべきだろうが……。

「デボラさん……でしたよね? 私たちはここで待っていますから、まずはカレンを母親の下へ連れて行ってあげてください」
「……そうだね。申し訳ないけど、貴方たちは……」
「駄目! お兄さんとお姉ちゃんも一緒に行くの!」
「それこそ駄目よカレン。貴方のお母さんは病気なのだから、下手に外の人を近づけるわけにはいかないのよ」
「うん、ゼノドラ様から聞いたよ。でもお兄さんとお姉ちゃんならおかーさんを何とかしてくれると思うの。だから一緒!」
「何とかって……一体彼等に何が出来るんだい? 私たちの魔法でさえ無理だったのに」

 俺は驚いていた。
 母親が倒れて不安な状態でも、カレンはどうにかしようと必死に考え続けていたのだ。
 後で事情を説明してから容体を診せてもらおうと思っていたが、カレンがそのつもりなら援護させてもらうとしようか。

「あの、私は世界を巡って病気に関してかなり詳しいのです。先程は待っていると口にしましたが、よろしければ私も一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?」
「私は治療魔法なら自信があります! カレンちゃんのお母さんを助ける為に連れて行ってください!」
「本当だよ! お兄さんは色んな事を知っているし、リースお姉ちゃんの魔法は凄いから!」
「…………」

 少し話を盛りつつ説得してみれば、デボラはしばらく考える仕草を見せてから溜息を吐きつつ頭を掻いていた。

「はぁ……ゼノドラ様も迎え入れてほしいと言っていたし、いいよ。入りなさい」
「ありがとうございます」

 さすがに初対面でホクトを見ると驚かせてしまうかもしれないので、ホクトと三竜を外に残して俺たちは家へと入った。
 そしてデボラに案内された部屋には、一人の女性がベッドで眠っていた。
 カレンと似た特徴が見られる金髪の女性で、この人がカレンの母親であるフレンダなのだろう。カレンが成長すればこうなるだろうと思える綺麗な人だが、今は遠目からでもわかる程に顔色が悪く、若干頬が痩せてもいた。
 そんな衰弱した母親の姿を見たカレンは、涙を流しながら枕元へ駆け寄っていた。

「おかーさん!」
「……カレン?」

 呼吸が荒く、痛みに堪えるように目を閉じていたフレンダはゆっくりと目を開いたが、カレンの顔を見ようとせず呻くだけである。
 どうも目の焦点が合っていないようなので、意識が朦朧として幻覚を見ていると勘違いしているのかもしれない。

「ごめん……ね。貴方の手を……離して……ごめんなさい……」
「おかーさん……カレンだよ!」

 だがカレンが咄嗟に母親の手を包み込むように握りしめれば、フレンダの目から涙がこぼれ始めた。

「……カレ……ン? 貴方……なのね?」
「うん、カレンだよ! 帰ってきたよ!」
「ああ……カレン……」
「おかーさん……」

 実際、二人が別れてから半月も経っていないだろう。
 だがカレンにとっては長く、そして様々な経験をした旅は終わりを迎え……遂に親子は再会出来たのだった。



 おまけ 没ネタ


 確かに俺たちには珍しい銀狼族だけじゃなく、希少なエルフに加えて神の御使いとも呼ばれる百狼もいるからな。
 更に突っ込むのであれば、人族である俺とリースも無属性と精霊が見える希少な存在でもある。

「なあ。このパーティー内だと、俺が一番普通じゃないか?」

「それはないと思います」
「それはないよね」
「ないと思うわ」
「兄貴が一番ぶっ飛んでいるぜ」
「オン!」

「お前等……」







 今日のホクト(我儘編)


 誘拐犯と間違われた誤解が解け、ゼノドラさんの呼びかけにより、ご主人様たちとホクト君は襲ってきた三体の竜の背に乗せてもらえる事になりました。

『どうぞ。私の背にお乗りください、シリウス殿』
『ささ、ホクト様は私の方へ』
『レウス殿はこちらに乗るといい』

 竜たちの体はとても大きいので、ホクト君どころか全員が一体の竜に乗ったとしても大丈夫そうです。
 ですが別に全員で一体に乗る必要はありませんので、分散して乗るようになったのですが……。

「……ホクト。何をしている?」

 ホクト君はご主人様が乗る予定だった、緑の竜であるクヴァの背中に乗っていました。

「オン!」
「ホクトさんが自分の背中に乗れ……ってさ」
「いや……お前に乗る必要はないと思うんだが」
「オン!」
「兄貴を背中に乗せるのは自分なんだ……ってさ」
「いや……お前の気持ちはわからなくもないが、意味がないし、何よりクヴァが大変だろう?」

 ホクト君もそれは理解しているのですが、やはり譲れない何かがあるようです。
 断固とした意志をホクト君は見せているので、ご主人様は思わず溜息を吐きました。

「やれやれ。それなら俺はー……」
「オン!」
「……そう来たか」

 というわけで、ご主人様はホクト君が乗る予定だった黄の竜、ライの下へ向かいましたが、ホクト君は素早く回り込んでライの背中に移動していました。
 続いてレウス君が乗る予定である赤の竜、アイの下へご主人様は向かいますが……。

「オン!」
「…………」

 ホクト君が回り込んでいました。

「…………はっ!」
「オン!」

 今度は緑へ行くと見せかけて赤へ向かうフェイントをかけましたが、ホクト君は百狼としての身体能力を生かし、残像を生み出す勢いで回り込んでいました。
 能力の無駄遣いとは正にこの事です。

「いい加減にしなさい!」
「クゥーン……」

 それでも譲れないのです。

『……すまぬが、まだか?』
「もうしばらくお待ちを。ふっ!」
「オン!」

 やっぱり譲れません。


 その後……フリスビー遊び券と、ブラッシングたっぷりコース券で手が打たれたそうです。

 後にその二つの券を巡り、銀狼族姉弟とホクト君が争ったのは別の話……。






 皆様お久しぶり……そしてお待たせして申し訳ないです。
 これまで類に見ない程に間が開いてしまいましたが、作者はきちんと生きております。
 しかし別の作業をずっと続けていたせいで、微妙に書き方が変わっているような気もするのですが……大丈夫ですかね?


 次の更新ですが……まだ作業がちょいと残っていたり、調子がどうもわからないので、二週間以内には挙げると思います。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ