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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十七章 獣国

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脅威再び

 ……また一日遅れてしまいました。本当に申し訳ない。


※修正報告
 以前の話『内なる本能』にて、メアリーは離乳食を食べられる時期に毒を食べたと書きましたが、一年前に変更しました。
 一年と少し前……レウスの恋人がいるパラードの町で大規模な魔物の侵攻があった。

 俺たちもそこにいて、レウスと町の人たちの活躍もあって魔物は退けたものの、魔物の侵攻は明らかに様子がおかしかった。
 普通ではありえない多種多様の魔物が混在する状況に、自然界では到底生まれようのない魔物同士を無理矢理くっ付けたかのような合成魔獣キメラ
 調べたところ、合成魔獣キメラが魔物を集め、この魔物侵攻は何者かの手によって引き起こされたのだと判明する。
 その考えの決め手となったのが……途中で見つけた謎の女だ。
 まるで合成魔獣キメラの結果を観察するように眺めていたので、危険を感じた俺は『マグナム』で狙ったのだが……致命傷には一歩及ばず逃してしまったのだ。

 その逃した獲物が、現在目の前でマクダットと名乗っている男だと俺は確信していた。
 すでに一年前の話で、魔力反応どころか性別も完全に違うが、あの心底楽しそうに実験動物を見るような視線は間違いようもない。

「俺に撃たれた傷は完治しているようだな?」

 ほぼ確信を持って放った俺の言葉に、マクダットは醜悪な笑みを浮かべていた。
 首を傾げていた俺の仲間たちも敵だと察したのだろう。各々で戦闘態勢を取りながらマクダットらしき存在を警戒し始めていた。
 そしてマクダットと関係の深い獣王とグレーテは、この状況に困惑しながらも質問をぶつけていた。

「貴方は誰? マクダット様……じゃない?」
「何を言っているのだグレーテ。私は間違いなくマクダットさ」
「白々しい事を言うな。マクダットはそのような気配と笑いをするような奴ではない! 本物をどこへやったのだ!」 
「しつこいね。だから私がそうだって言っているだろうが。まあ、本来のマクダットは眠っているけどさ」

 二人から放たれる威圧は相当なものだろうが、マクダットの醜悪な笑みは崩れる事は無く、もう口調や表情を隠すつもりも無いようだ。
 逃げようにも、部屋で唯一の扉は獣王が立っているので簡単にはいくまい。もし窓を割って逃げるようなら、今度こそ確実に『マグナム』で撃ち抜いてやろうと思う。
 だが得体が知れないので、下手に攻めるのも危険だろう。少しでも情報を集めようと様子を窺ってたが、彼はゆっくり歩き出したかと思えば窓の前に椅子を持ってきて座るだけだった。

「眠っている? こうなれば無理矢理でも吐いてもらうか」
「待って下さい獣王様。彼はマクダットさん本人で間違いないかもしれませんよ」
「……どういう事だ?」
「肉体は確かにマクダットさんですが、何か別の存在が彼にとり憑いている可能性があります」

 見た目は普通の男だし、『サーチ』から感じる魔力反応は以前の女とは明らかに違う。
 しかしそれは外部から感じた情報だけで、この男と出会った時から感じていたほんの僅かな誤差……自然の範疇で起こり得る魔力の乱れを何度か感じていたのだ。
 だが直接会った事により、本性らしき笑みと雰囲気を見て確信を得た。相手に直接触れて『スキャン』をすればもっと詳しくわかるかもしれないが、ほぼ間違いはないだろう。

 案の定、俺の言葉を聞いたマクダットは、笑みを隠すどころか声を出して笑いだした。

「ふふふ、見事としか言いようがないね。お前さんの言う通り、私はそこの獣王たちが知るマクダットにとり憑いている存在さ」
「……やけにあっさりと認めるんだな」
「教えたところで私には支障がないからさ。それにしてもお前さんには本当に驚かされるものだ。碌に調べもせず、よくこの答えに行き着いたものだね?」

 相手から感心するような視線を向けられるが、あまり嬉しくもない。
 なにせ俺は前世の経験と師匠に始まり、転生に喋る聖樹やら、喋るナイフ……やけに偏っている気もするが、とにかく非常識に関する経験が豊富だからな。すでに幽霊みたいにとり憑く存在がいても不思議ではないと思えている。

「まあ俺の事はどうでもいい。お前が表に出ている時、その体の持ち主はどうなっているんだ?」
「私が意識を奪っている時点で奴は完全に眠っているよ。本当は持ち主の意識なんて邪魔だけど、周りを油断させるには必要なものだからねぇ……」

 まるで人を道具のように扱う相手に獣王が殺気を放ち始めている。
 後に聞いたところ、マクダットはこの城で長く仕えている古株らしく、獣王にとって親友兼相談役でもあったので怒るのも当然だな。
 だがそんな殺気を受けようと、目の前の存在は飄々とした態度で椅子に座ったままだ。

「どうやらお前は、あの時逃した女で間違いなさそうだな」
「ああ、お前さんにやられた傷は酷かったよ。おまけに体の動きも悪くなって困らされたものだが、この男に近づけたから逆に感謝しておくべきかね?」
「ならパラードの町を襲った、魔物を集めていたくだらない化物を作ったのもお前だな?」
「はんっ! その通りだと言っておくけど、一つ訂正させてもらおうか。あれはくだらないものじゃなくて、私の作った偉大なる作品の一つだよ!」

 拘りがあるのだろう、俺の言い方に過剰な反応を見せている。
 下手すれば町を滅ぼすようなものを作ったというのに、それがどうしたと言わんばかりの態度で全く反省する様子が見られない。
 悪質研究者マッドサイエンティストによく見られる、己の作品しか考えない厄介な存在だろう。

「ついでだよ、正体に気付いた褒美に私の名前を教えてあげようじゃないか。私の名はベルフォード。偉大なる魔法研究者にして、死を超越せし存在さ」

 そして椅子の上へ立ったかと思えば、ベルフォードはまるで演説するように両手を広げていた。
 正体だけじゃなく名前もあっさりと教えてくれたが、その名前に心当たりは無い。
 色々と気になる点が多いが、最後の死を超越とはどういう事だろうか?

「……何を言っているんだあいつ? 死んだら終わりだろうが」
「そうですね。だから私たちは全力で生を全うするのですから」

 そうだ……姉弟の言葉通り、誰であろうと死は訪れる。
 それに関してはしっかりと教えている。魔法がある異世界だろうと、死から逃れる術など存在はしないのだ。
 奴の言葉は気になるが、死については一旦置いておくとしよう。

 まずは、そんな奴が何故ここにいるのか……だな。

「それで、死を超越したベルフォードさんが人の肉体を乗っ取って何をしようとしている?」
「おや、反応が薄いね。死なないんだよ? 興味が無いのかい?」
「不死に興味なんてない。そんなのは弱い者の考えだ」
「私も興味はない。いいからさっさと質問に答えろ! 我が国で何を企んでいたのだ!」
「おお、怖い怖い。仕方ない、教えてあげようじゃないか」

 この場には獣王とグレーテ、そしてホクトまでいる俺たちがいるのに、ベルフォードの態度に変化は見られない。
 むしろ喜びを見せながら、まるで発表会のような雰囲気で語り始めたのである。

「私がここにいる理由は実験……それのみさ。前の場所が使えなくなって、新しい実験先を探していたら、ここで偶然面白い実験体を見つけてねぇ……」
「実験体……まさか貴様!?」
「そうさ。お前たちの可愛い可愛いメアリーちゃんの事さ」
「っ!? メアリー様に何をした!」
「すでに効果は目に見えて表れているけど、あんたたちにはわからないだろうね。けど、冒険者であるお前たちならわかるだろう?」
「……ああ」

 過去に毒を盛られたせいとはいえ、魔力枯渇程度で獣人を騒がせる程に人気を集めるメア。
 そしてこいつがパラードで生み出したのは、周囲の魔物を興奮させるだけでなく、魔物を集める合成魔獣キメラ
 共通する事は……。

「お前はあの子に、獣人を魅了するような処置を施したのか?」
「鋭いけどちょっと違うね。獣人を惹き寄せるのは、元からあの実験体が持っていた能力さ。私はそれをほんの少しだけ引き出して、周りに影響を与え易くしただけさ」

 少し予想が外れたが、あれはメアが元から持っていた能力か。
 だが、これで色々と納得も出来たな。
 子供なのもあるのだろうが、俺が投獄されて姉弟はあれ程怒っていたのに、メアに関しては妙に好意的だったからな。

 その答えを聞いた獣王とグレーテは衝撃を受けたかのように目を見開いていたが、ベルフォードは笑みを浮かべたまま語りかける。

「おやおや、もしかしてショックなのかい? でも安心しな。お前たちの気持ち悪いくらいの愛情は本物だろうさ」
「貴様……」
「前の体が限界を越えて、助けられた男に仕方なく入ってみれば……まさかこんなにも楽しそうな実験体を見つけられるとは思わなかったよ」
「助けられた? まさか……マクダット様に襲いかかったあの女?」
「正解だね。おまけにこの男はあの実験体の教育係で実に都合が良かった。全て偶然だけど、あの時は喜びに打ち震えたものさ! あははははっ!」

 一年前……ベルフォードが俺の『マグナム』で致命傷を負った後、大陸を越えて行き着いたのがアービトレイの町らしい。
 しかし『マグナム』に撃たれていた肉体は限界を越えており、この町で倒れていた時に助けられたのがマクダットだそうだ。
 そして油断させてから襲いかかり、前の肉体を捨ててマクダットへと憑いたわけだ。ちなみに前の肉体は、マクダットの胸元に噛み付いた後で絶命したとか。

 更に自分の輝かしい功績を称えるように、ベルフォードの狂った発表会は続く。

「私ほどじゃないが、あの実験体も好奇心が強くてねぇ。ちょろちょろ動き回ってこの男が困っていたから、ちょっとだけ手伝って大人しくさせてやったのさ」
「まさか……お前がメアリーに毒を!?」
「おいおい、それは誤解だね。料理番にちょっとした食材を渡したら、あいつが勝手に使っただけさ。だから私のせいじゃない。あいつは食材への疑問も私の事も忘れていたようだけどねぇ……」

 おそらく自分の事と毒を含んだ食材の事は暗示で忘れさせていたのだろう。
 暗示はグレーテに使っていた魔道具が無くても、かけ方を知っていれば薬を使ったり寝ている時を狙えば出来るのものなのだから。

「あれで完全に目が潰れる予定だったのに、獣人たちの処置の早さと、目がほとんど見えなくても外に出る実験体の行動力だけは予想外だったねぇ」

 予想はしていたが……中々の壊れっぷりだ。
 もはやこちらが質問するまでもなくペラペラと語り続け、必要のない事や、聞いているだけで胸糞が悪くなる話ばかり飛び出してくる。
 獣王もグレーテもよく我慢してー……いや、見たところ思い詰めた表情もしているな。
 まさか自分の愛情がメアの能力によるものという事を気にしているのだろうか?
 確かに異常に見えたが、姉弟の反応からして少し好意的になる程度に助長するだけだと思う。むしろ、血が繋がっていないのに、孫娘と言って異常に可愛がる爺さんを知っているしな。
 気休めに過ぎないだろうが、俺から見ても間違いなく本当の愛情だと口にしようとしたところで、違和感を覚えた。

 何故こいつは……隠しもせず流暢に語り続ける?

 話した事が嘘だからか?
 自分の研究を自慢したかったから?
 逃げられないと諦めているから?

 どれもありえそうだが、言葉の要所で気になる事を口にして俺たちの出方を封じているような気がするのだ。
 狙いは……時間稼ぎ?

「レウス、ホクト……奴を確保するぞ」
「わかった!」
「オン!」
「ありゃ、お喋りはここまでのようだね。仕方がない……来なさい」

 意図はわからないが嫌な予感はするので、俺たちは未だに語り続けるベルフォードを確保しようと動いていた。
 そんな俺たちを見て獣王も同じ考えに至ったのだろう。獣王が包囲網の隙間を埋めるように動こうとしたその時……突然部屋の扉が開いたのである。

「む!? おお、ちょうどいい時に来たな。奴を捕まえるのをー……どうしたお前たち?」

 部屋に入ってきたのは獣王の家族であるイザベラとキースだが……様子が明らかに変だった。
 イザベラは眠っているメアを胸元で抱え、キースに至っては刃引きされていないハルバードを背負っているのだから。
 二人は首を傾げる獣王に目を向けるどころか、躊躇なくベルフォードの下まで歩み寄ってメアを渡していたのである

「なっ!? イザベラよ、お前は何をしているのだ!」
「だって……メアリーの為だから」
「兄は妹の為に全力を尽くすものだからな」

 そして二人はベルフォードを庇うように俺たちの前へ立ちはだかってきたのだ。
 殺気は感じないが、手を出せば確実に戦いとなる緊迫感が漂っていた。

「よく来てくれました。実はこの人たちだけじゃなく、獣王様までメアリー様に危害を加えようとしたので困っていたところなんです」
「そう……残念ね」
「いくら親父だろうと、妹に手を出すなら許さねえぞ!」
「そんな事をするか! 一体お前たちはどうしたというのだ?」 
「獣王様。どうやらあの二人はグレーテと同じ状況のようです」

 二人の様子とベルフォードの様子からして、やはり暗示をかけられているようだな。
 だが、少し引っ掛かるな。
 あれ程の実力者である二人が、暗示をかけられる隙を見せるとは思えないのだ。特にイザベラは怪しい動きや薬を盛られそうになれば、勘で避けそうな気がするのだが……。

「ご明察。二人には私の言う事が正しいと思い込む暗示をかけたのさ。今日は色々あって疲れていたから、治療と偽ってやり易かったよ」

 ……どうやら、俺たちと戦った疲労のせいで警戒が緩んでいたようだ。
 更にこいつはメアの教育係でもあるので、二人の前に彼女を連れていけば更に警戒が緩むだろう。

「娘だけでなく私の妻と息子にまで。ただで帰れると思うなよ!」
「だけどねぇ、こう見えて本人は幸せなんだよ? 愛すべき相手の為に命を賭ける……お前たちのような存在には美しい事じゃないのかい?」
「ふざけんじゃねえ! お前が何を言おうと、やってんのは駄目な事だろうが!」
「これはメアリーの為なのだぞ!」
「お前もいい加減に目を覚ませよ! 暗示なんかに負けているんじゃねえ!」

 暗示のせいとはいえ、一度戦った仲だからこそキースの行動が許せないのだろう。
 俺はレウスが叫んでいる間に、獣王へ耳打ちをして情報を伝えておく。

「獣王様。あの二人についてですが……」

 どうやらあの二人への暗示は今回が初めてのようである。
 これは俺の予想だが、初回なので暗示の効果が薄い可能性もあるし、二人の精神力なら何か強い衝撃を与えれば正気に戻るかもしれない。
 他にも、動きを封じれば暗示を解いてみせると伝えれば、獣王は静かに頷いた。

「ならば妻は私が抑えよう。グレーテは何とか奴の隙を探してメアリーを取り戻すのだ」
「……必ず!」
「すまないが、手を貸してほしい。お前たちはキースとマクダットを頼めないだろうか?」
「謝る必要はありません。俺が仕留め切れなかったせいもあるようですし」
「助かる。息子は遠慮なく殴っても構わないが、せめて死なない程度で頼む。そしてマクダットだが、あの怪しい存在がわからぬ以上……覚悟は決めている。結果がどうなろうとお前たちを罪に問わんと誓おう」
「善処します。では手筈通りで……」
「キースは任せろ兄貴! 俺がぶん殴って目を覚ましてやる!」

 そうなると、残った俺たちがベルフォードの相手か。
 相手にとり憑く条件はわからないままだが、噛みついたという情報があるので接触はなるべく避けるべきだな。
 昼間の疲れが残っているが、こっちには頼りになる女性陣とホクトがいるので焦る必要はあるまい。とにかく慎重に行くとしよう。

 しかしまだ気になる事が残っている。
 援軍には驚かされたが、奴の手札はこれで全部か? 
 以前、実験をしていたと思われるロマニオの町で己の痕跡をほとんど残さなかった奴が、こんな戦力差がある状態で戦おうとするだろうか?
 考えてみれば、ベルフォードの本質は暗示じゃなく魔物である。
 そして奴が何気なく歩いた先は……窓際。
 反射的に『サーチ』を広範囲に発動させれば……。

「オン!」
「……何か来るぞ! 全員窓から離れろ!」

 気配に気付いたホクトが吠えると同時に、俺も『サーチ』で城の遥か上空からもの凄い速度で迫る反応を捉えていた。
 反応から相当な大きさで、まるで落下するように降ってきたそれはベルフォードの背後にある窓の前で止まれば、周囲に激しい衝撃と風を巻き起こし、その衝撃によって窓と壁が砕け散って部屋内を風が暴れ回る。
 飛んできた窓や壁の破片が俺たちを襲うが、俺とレウスは各々の武器で、そして女性陣は前に出たホクトが前足と尻尾で叩き落としていた。
 見たところ獣王たちも問題なく切り抜けたようだが、獣王とグレーテの視線はベルフォードの背後である割れた窓の外へと向けられていた。

「くっ……何だあれは!?」
「大きい……」

 そこにいたのは、大きな竜だ。
 ホクトの五倍はあろう大きさだが……あれを竜と呼んでいいのか一瞬迷った。
 竜は種によって鱗や色が違うものだが、大抵は全身一色で整った美しい光沢を放っているものだ。
 だが目の前の存在は全体的に薄汚れて見え、美しさを全くと言っていい程に感じない。人で例えるなら皮膚が剥げ落ち、肌が激しく荒れている状態だろう。
 月明かりに照らされるその体は全体的に黒色だが、赤や黄色の腕が何本もくっ付き、青い鱗の足や緑の翼と……以前見た合成魔獣キメラと同じ作りなのだろう。
 パラードで見た合成魔獣キメラは現地に生息する様々な魔物で作られていたが、今回は竜だけで作られたので合成魔竜と言うべきか?

 そんな合成魔竜を背後に、メアを抱えているベルフォードは口元を不気味に歪ませながら笑っていた。

「……それもお前の作品か?」
「そうさ、ドラグロスと呼んでおくれ」

 ベルフォードが手を挙げるとドラグロスと呼ばれた合成魔竜が大きく吠えたが、これは以前見た合成魔獣キメラと同じ行動に違いあるまい。
 すぐに『サーチ』を放ってみれば、予想通りこちらへ迫る反応を幾つか捉え、ホクトが唸り声を挙げて警戒をしている。
 その隙にベルフォードは窓から飛び出し、ドラグロスの背中に乗って俺たちを見下ろしていた。

「待て! 私の娘をどうするつもりだ!」
「どうするも何も、実験以外に何があるのさ? 今までばれないようにこっそりやっていたけど、こうなったらもっと派手にやっていけそうだねぇ」
「させん! 娘は返してもらうぞ!」
「……駄目よ」
「邪魔するな親父! メアリーの為なんだ!」

 獣王が前に飛び出そうとするが、やはりイザベラとキースによって阻まれてしまう。
 メアの事を実験体と言って執着しているようだし、この場で何かするとは思えないが、奴の性格から何を仕出かすかわかったものではない。
 狙撃も考えたのだが、過去に『マグナム』を食らっているせいか、常に俺を警戒しているので難しい。
 そうこうしている内に、俺の体より二倍はある翼竜たちがドラグロスの周囲に集まり始めていた。数は……二十といったところか。

翼竜リンクドルムだと!? それもこれ程の数が……」
「あの数は厄介そうね。どこから来た竜なのかしら?」
「ここから少し離れた、山の奥深くに生息する竜種だ。しかし人里には滅多に来ないのだが……どういう事だ?」
「もちろんこのドラグロスが呼んだのさ。ちなみにこいつは以前より改良を加えていてね、ただ集めるだけじゃなく命令も出来るようになっているのさ。どうだい、凄いだろう?」

 余程の自信作なのだろう、妙に説明的である。
 つまり……ベルフォードがペラペラと語って時間を稼いでいたのは、こいつ等を近くに呼びよせる為だったわけだ。
 翼竜たちが俺たちを襲わず、ドラグロスの周囲を飛び回るだけなのはそのせいなのだろうが、竜がこれほど現れれば当然目立つ。
 耳を澄ませば、吹き抜けとなった窓から城に勤める獣人たちの声が響き渡り、再び客間の扉が開かれて武装した数人の獣人が流れ込んできた。

「ご無事ですか獣王様!」
「獣王様はこちらだ! 弓隊と魔法隊用意!」
「現在、城の一部が壊れた以外に被害はありません! 後は我々にー……」
「私は無事だ。下がっていろ」
「ですが獣王様、これ程の数はー……」
「あれは……私たちが仕留める。お前たちは非戦闘員を庇いつつ守りに徹しているのだ!」
「「「は、はいっ!」」」

 獣王から放たれる怒りを感じたのか、獣人たちは尻尾を立てて逃げるように部屋を出て行く。
 そして拳を握り締めていた獣王が申し訳なさそうに視線を向けてきたが、俺は首を横に振って軽く微笑んでおいた。

「互いに全力を尽くすだけです。手筈は先程通りで……」
「……感謝する」
「へぇ……もしかして戦うのかい?」
「当然だろうが! そんな竜なんかいくら集めようが、俺がぶった斬ってやる!」
「勇ましいのは結構だけど、私はお前たちを倒す必要があるのかい? 私にとって重要なのはこの実験体だからねぇ……」
「逃げるのか!」
「私はね、お前たちみたいな戦闘狂に興味はないのさ」

 ……不味いな。
 ベルフォードは会話の為に留まっているだけで、それが終わればすぐに逃げるだろう。
 俺に仕返ししようと考えているなら救出もやり易いだろうが、見たところ逃げる事に全く躊躇を見せていない。

 更に相手は空中な上に、俺とフィアだけが突撃しても周囲の翼竜たちで足止めされるだろうし、更に戦力が未知数のドラグロスもいる。
 奴は相変わらず俺の狙撃に警戒しているし……本当に厄介な状況だ。

 だけど……奴の暴虐を許すわけにもいかないし、何よりメアが実験道具として攫われるのを見過ごす事は出来ない。

 過去で奴を仕留め切れなかったのが悔やまれるが……それも今更だな。
 とにかく今は俺のやれる事をやるとしよう。

 チャンスは一度……そして確実な連携も必要だ。
 俺は作戦を伝える為に『コール』を発動させた。


 今回は裏事情の説明と、敵の正体発表だったので少し短めになりました。
 そして作った後で気付いたのですが、今回は説明会なのもあって女性陣がほとんど出番がなかったり……。

 ドラグロス登場時にホクトが吹っ飛んだ壁の破片から女性陣を守っていましたが、きっと裏では出番が取られたと悲しんでいるかもしれません……多分。



 次回予告(嘘)


「はっはっは! 実験体はいただいていくよ!」
「くそう! このままでは私の娘が攫われてしまう! 誰か助けてくれ!」
「オン!」

 その瞬間……ホクトの姿が消えて再び現れた時、ホクトの口にはメアが優しく咥えられていた。

「……あれ?」
「オン!」
「なっ!? 私の実験体を返せー……ぎゃああぁぁ――っ!?」

 そしてメアを優しく地面へ降ろし、ホクトが前足をの指を相手へ向けた瞬間……ベルフォードとドラグロスの体が細切れにされて地上へ落下していた。

「……オン!」

「これで解決だな兄貴!」
「……ソウデスネ」


※この小ネタにタイトルを付けるなら『ホク○モン』です。



 先週辺りから兆候がありましたが、色々と細かい事情が重なって少し体調を崩してしまいました。
 まだ少し引っ張っていまして、集中力だけでなく執筆速度も見事に落ちています。
 申し訳ありませんが、次回の更新は七日後から更に二、三日伸びて、16日か17日になると思います。ご了承ください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

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