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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十六章 邂逅

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戦いの経験

 ――― エミリア ―――





 私たちの前に立つ二人のエルダーエルフを眺めながら……私は思い出していました。

「姉ちゃん、魔力はどうだ?」
「平気よ。まだ戦えます」
「わかった。それにしても……あの時を思い出すよな」
「そうですね……」

 やはり姉弟なのか、考える事は一緒だったようです。

 思い出すのは、エリュシオンの学校で迷宮に潜った時……。
 殺人鬼と呼ばれた冒険者たちに私たちはやられ、本気で怒ったシリウス様がたった一人で敵へと向かったあの時と……。

「あの時の私たちは……シリウス様の背中を眺めるだけでしたね」
「うん。だけど今は違う。俺たちはこうして立っているんだ」

 幾つか防ぎきれずシリウス様に被害を出してしまったり、全ての魔法を防いだホクトさんに嫉妬してしまいますが、私たちは確かに成長しているのです。
 そして……エルダーエルフの相手はホクトさんに任せれば確実な筈なのに、シリウス様は私たちに戦うのを許可してくださいました。
 私たちの大切な人である、フィアさんを傷つけた相手なのですから、それが何よりもありがたいです。

「シリウス様が私たちを信頼して任せてくださったのです。レウス……絶対に負けられませんよ」
「当然だ!」

 魔力を高め、いつでも追い風を受けられるように風を纏わせていますと、隣に立つレウスが少し迷った様子で声を掛けてきました。

「でもさ……姉ちゃんは大丈夫か? 俺は一人だけなら何とかなると思うけど……」

 そうですね……確かに純粋な強さはすでにレウスの方が上ですし、貴方が心配したくなるのもわかります。
 おそらく私がエルダーエルフに勝っている点は一瞬の加速だけで、他は相手の方が上でしょう。
 一対一で戦えば負ける可能性は高いでしょうが……。

「無用な心配です。それに私は貴方の姉ですよ。貴方の癖や動きに合わせる事は造作もありません」

 私は一人で戦うわけではありません。
 そして一緒に戦うのは、生まれた時から共に育ってきた弟のレウスなのですから。
 例え相手が強敵であろうと、私たち姉弟ならば勝利を飾ってみせましょう。

「だから貴方は私を気にせずに全力で戦いなさい。それと右側のエルダーエルフと戦うのよ」
「わかった。けど、何で右なんだ?」
「放っていた魔法が土属性寄りだからです」

 魔法を斬るなら、不可視な風より目に見える岩の方が対処しやすいでしょう。
 そして簡単な打ち合わせを済ませた後でレウスは剣を構え、私も呼吸を整えながらナイフを構えます。
 フィアさんをあんな目に遭わせた詳しい理由はわかりませんが、すでにあのエルダーエルフたちはシリウス様の明確な敵です。つまりそれは私の敵でもありますし、何より私たちの姉であるフィアさんを傷つけたあの者たちを許す事はできません。
 ですが精霊魔法が使えるフィアさんを追い込んだ相手なのも事実ですし、油断は微塵も出来ませんね。

「行きますよ!」
「ああ、行こう姉ちゃん!」

 固まっていては魔法を集中されるので、私たちは左右に分かれてエルダーエルフへと迫ります。
 追い風を受けて加速しながら接近しますが、それでもエルダーエルフが発動させた魔法の方が速いようです。

「ようやく動いたか。だが……」
「愚かな」

 私たちに再び無数の魔法が放たれますが、今度は全て撃ち落とす必要はありませんし、分散した私たちに飛んでくる魔法の数も半分になっています。

「何度も通じると思わないでください!」
「これくらいならいけるぜ!」

 私は飛んでくる魔法を避け、レウスは剣で斬り払いながら懐へ飛び込めば、相手も魔法を止めて武器を構えていました。
 そして私が迫った青髪のエルダーエルフがこちらを狙って細剣で突いてきましたが、体を捻って紙一重で回避します。
 何て速く、鋭い攻撃……。
 魔法だけではなく、接近戦も優れているようですが……。

「シリウス様とレウスの速さに比べれば……」

 いつも見ているシリウス様に比べて無駄が多いですし、レウスの突きに比べれば鋭さが一歩劣っています。
 ですが今の私に厳しい相手なのは変わりません。何とか回避に成功していますが、連続で放たれる刺突に私の髪の数本が飛んだり、完全に避けきれず腕や足に小さな傷を負ってしまいます。

「どうした外の者よ。威勢よく飛び込んできただけか?」
「勝手に……言っていなさい!」

 それでも回避しながらナイフを振るいますが、剣で弾かれるか、避けられて掠りもしません。
 更に相手には余裕が見られますので、私は遊ばれているのかもしれませんが……諦めるわけにはいきません!

「ならばこれで……『風散弾エアショットガン』」
「っ!? 風よ!」

 シリウス様の魔法を真似た風の散弾を至近距離で放てば、相手も意表を突かれたのか直撃を受けて吹っ飛ばされました。ですが咄嗟に風の膜を作り、威力を軽減させたようですね。
 地面を転がっていく相手に私はすぐさま『風玉エアショット』を放って追撃しますが、相手は転びながらも魔法を放って迎撃していました。
 敵とはいえ、あの反射神経と対応力は流石としか言えません。
 当然でしょうが、初めて見る魔法には反応が鈍いですね。やはりそこが狙い目でしょう。
 これがもしシリウス様なら、咄嗟に横へ飛んで回避するか、まるで先を読んでいるかのように魔法を放つ前に潰してくる筈ですね。

 私が作戦を考えながら相手と距離を詰めていると、視界の端でレウスが戦っている姿を捉えました。

「突撃ばかりしか出来ぬのか……やはり外の者は野蛮だな」
「俺から逃げてる奴がほざいてんじゃねえ!」

 どうやら近接戦闘で不利を感じたのか、エルダーエルフはレウスと距離を保ちながら魔法を放ち続けています。木々の中に逃げ込まないのは、木を斬られるのを恐れているのでしょう。
 レウスの能力なら一度ぶつかった時点で相手の動きを知った筈なので、もう一度だけ接近戦に持ち込めば勝機がありそうです。
 なのでレウスは必死に追い続けていますが、放たれる魔法を斬り払ったり、足で若干劣っているのか追いつけないようですね。
 ここは援護して一瞬でも相手の足を止めたいところですが……。

「我を飛ばした程度で勝った気か? 風よ切り裂け!」
「そんなわけー……『風斬エアスラッシュ』」

 私も目の前のエルダーエルフを抑えるのが精一杯です。
 素早く体勢を立て直して放ってきた魔法を何とか相殺していますが、魔力枯渇が見られない相手では不利になる一方です。私の魔力が尽きる前に倒さなければ……。
 すかさず私は横へ大きく飛び、風の刃を避けながら指を向けました。

「もう一度……『風散弾エアショットガン』」
「無駄な事を。それはもうー……むっ?」

 貴方たちの反応速度はもう十分知っています。
 ですから魔法は相手の足元を狙って放ち、土煙を巻き上げて視界を塞ぐ方法に切り替えました。

「それで隠れたつもりか? 実に愚かな」

 こちらを馬鹿にしたような言葉を吐くエルダーエルフは、土煙を風で吹き飛ばしてから風の刃を放ってきます。
 私は回避しながら迎撃の魔法を放ちますが、途中で一つ避けきれず左肩が少し切り裂かれてしまいました。
 ですが……これで準備は整いました。
 私は肩の痛みに堪えながらレウスへと叫びました。

「おかわりよレウス!」
「おう! どりゃあああぁぁぁ――っ!」

 打ち合わせ通りの合図を受けたレウスは、追いかけていたエルダーエルフに直線状を衝撃で薙ぎ払う『衝破』を右寄りに放ち、相手をわざと左側へ回避させて狙った位置へ移動させました。
 おかわり……つまり相手を左側へ誘導しろと言う意味です。

「その程度でー……なにっ!?」
「ええいっ! 邪魔をするな!」

 そして誘導した先は、私と戦っている青髪のエルダーエルフが立つ位置です。
 ですがお互いの体をぶつけるような事にはならず、冷静に動いて衝突を避けていましたが……。

「予想以上にやるが、今度はー……うぐっ!」
「ぐはっ!?」

 エルダーエルフの位置が重なった瞬間、その背後で圧縮された風が爆発して衝撃波を放ったのです。
 お互いの位置取りに気を取られていたせいで背後からの衝撃波に対応できず、衝撃波の直撃を受けたエルダーエルフたちはこちらに向かって飛んできました。

 今の衝撃波は私が放った『風衝撃エアインパクト』によるもので、相手の横を通り過ぎてから発動するように時間差で放っていたのです。
 そして先程の土煙は、この魔法をこっそりと放つ為の布石。
 この魔法は他の魔法と比べて飛ぶ速度が遅いですから、二人のエルダーエルフへ同時に当てられる位置取りの準備等に手間取ってしまいました。

「だがこの程度で……風よ切り裂け!」
「我々はまだ……土よ穿て!」

 しかしこちらに向かって飛んできている状態でも、エルダーエルフは私たちに向かって魔法を放ってきました。
 その時の私はある魔法の為に魔力を集中させていたので、迎撃どころか回避も難しい状況でした。
 ですが……避ける必要はありません。
 なぜなら……。

「させねえ!」

 私には共に戦うレウスがいますから。
 指示するまでもなく私の前に立ったレウスは迫る魔法を全て斬り払い、そのまま攻撃に転じていました。
 こちらに飛んでくるエルダーエルフをまとめて斬ろうとレウスは剣で薙ぎ払いましたが、相手はすかさず足元へ向かって魔法を放ち、その反動で飛ぶ軌道を変えて剣を避けていたのです。

「それは予想済みです!」

 私はレウスの横を駆け抜け、剣を避けた青髪のエルダーエルフへ迫って右手に込めた魔力を解き放ちます。

 その放たれる魔力は薄く……鋭く……そして全てを……断つ!

「……抜刀・風刃!」

 右手を振るってカタナを模した風の刃を放ち、青髪のエルダーエルフの左腕と左足を切り飛ばしました。
 そこで残ったエルダーエルフが前に出た私に魔法を放とうとしましたが、私はそれを理解しながらもその場に屈んで姿勢を低くします。
 だって……私たちの攻撃はまだ終わっていませんから。

「どらっしゃあああぁぁぁ――っ!」

 そして屈むと同時に、私の頭上をレウスの剣が通り過ぎていきました。
 そう、レウスは剣を横に振り抜いた勢いを殺さず回転し、私の魔法が放ち終わる頃には一回転して再び前方を薙ぎ払っていたのです。
 相手は私に気を取られていたので、レウスの攻撃を避けきれなかったエルダーエルフの両足は斬り飛ばされ、更に剣によって発生した風圧によって二人を吹き飛ばしていました。

「ぐぅ……我の……腕が」
「何だ……これは……」

 流石に四肢の一部を失っては動揺を隠せず、二人のエルダーエルフは飛ばされてぶつかった木に寄りかかったまま動かなくなりました。
 体力と魔力量は凄まじいようですが、どうやら切断された四肢の再生まではしないようですね。
 これで再生までされたら本気で不味かったので助かりました。ホクトさんの手は借りずに済みそうです。

「どうだ! 俺と姉ちゃんの一撃は」
「ぐ……ありえぬ」
「我々より劣る外の者に……こんな……」
「……確かに私は貴方たちより劣っているでしょう」

 ですが……私はずっと観察してきました。
 エリナさんの動きから始まり、シリウス様の癖と呼吸、そして必要な物を問われるより先に差し出す……従者として必須である観察能力で貴方たちを観察し続けていたのです。
 例え相手が全てにおいて優れていようと、先が読めるようになれば対処できるものです。

 私なりの観察結果ですが、エルダーエルフの欠点は相手を知ろうとしない点ですね。
 その優れた反射神経や能力を過信し、何があろうと対応できると思っているが故に警戒が緩く、判断が僅かに遅れるのです。

「ならば……何故勝てぬ?」
「それが理解できないから、貴方たちは地に伏しているのです」
「言わせておけば。だが、まだ負けたわけではない。あの愚かな外の者を処罰した我々の仲間がお前たちを処罰するだろう」
「そうだな。たった一人で挑むとは……あれこそ真の愚かよ」
「愚か……ですか」

 仲間……おそらく背後で戦っている三人の事でしょう。
 私たちでさえ苦戦する相手が三人。
 ですがそれを相手にしているのは……。

「いいえ、本当に愚かなのは貴方たちです」
「兄貴が負けるわけねえだろ?」

 私たちに生き方と戦い方を教えてくださったシリウス様ですから。
 レウスの言う通り、シリウス様が負けるなんて微塵も思いません。

 それより今はこの者たちをどうするかですね。
 足を奪ったとはいえ、まだ腕が残っていますから魔法を放ってくるでしょうから。
 憎い相手ですが色々と聞きたい事がありますので、何とか拘束しようと考えていたその時……背後から轟音が響いてきました。

 私たちが反射的に振り返った時、戦闘は……。






 ―――     ―――





「だが……動きは見切った」
「外の者よ、次で終わらせよう」

 シリウスは前方に立ちはだかる二人のエルダーと、その奥で弓を構える短髪エルダーを前に思考を続けていた。

 まずは数を減らしたいので、二人のエルダーを振り切って奥のエルダーを先に仕留めようと考えているのだが、エルダーたちは私の動きを見切ったと口にしている。
 奴等の身体能力からそれが虚勢ではないとわかるので、立ちはだかる二人のエルダーを振り切るのは難しいだろう。
 ならば目の前の二人をどうにかするしかないのだが、手間取っていては矢の直撃を受ける可能性が高い。
 少し厳しい状況だが……やはり遠距離からの援護は脅威だ。奥のエルダーから仕留めるとしよう。

「そうだな……そろそろ終わらせよう」

 私は魔力を解き放ちながら『ブースト』を全開にして、立ちはだかるエルダーたちの間を駆け抜けようと地を蹴った。
 ただ真っ直ぐ走るだけではすぐに捉えられるので、途中で歩幅を変えながら減速と加速を繰り返し、速度を変化させて相手のタイミングをずらしてみた。
 だが……。

「小細工か。見えているぞ」
「我々の目からは逃れられん」

 冷静なエルダーたちは私の動きを完全に読んでいて、左右から私を挟みこむように迫って武器を振るってくる。

 そしてリーダー格の剣が首を、長髪エルダーの細剣が私の心臓を貫いた。


 それでも……私の動きは止まらない。


 武器が振るわれたその隙を突いた私はエルダーたちの間を駆け抜け、放たれていた矢をナイフで弾きながら短髪のエルダーへと迫った。

「理由はわからんが、今度は簡単にー……」

 二人の間をあっさりと抜けてきた私に一瞬驚いていたが、顔面を掴まれ叩きつけられた経験からか、今度は矢を引き絞る手にナイフを握って接近戦に備えていた。
 この短髪エルダーもまた、私の動きを見切っていると言いたいのだろう。
 回避が難しい絶妙な距離で矢を放とうとしていたが、目の前に広がる光景に迷いが生じたのか、短髪エルダーは一瞬だけその動きを止めてしまっていた。

「何だ……これは!?」

 そして動揺しつつも矢を放ってきたが、その絶妙な時間差が致命的である。
 すでに私は矢の射線上から外れ、相手の側面へと移動していたのだから。

「おのれ!」

 短髪エルダーは振り返りながらナイフを振るってきたが、私は相手の振り向きに合わせて動き、短髪エルダーの背後へ回り込むように移動し、剣を振りながら飛んでその場から離れていた。

「……なんー……」
「さっきから見切ったとばかり口にしているが、お前たちは何を勘違いしている?」

 そして付着した血を払うように剣を振れば……短髪エルダーの首が落ちて地面へと転がっていた。
 『サーチ』を放ちながら様子を見たが、首を斬られたエルダーから魔力は感じられないし動く気配もない。体力と魔力は回復できても、首が飛ばされては復活出来ないようだな。

「……どういう事だ?」
「私の剣は確実に捉えた筈だが……」

 しかし、仲間が死んでも残ったエルダーに悲壮感は全く見られず、むしろ私の方が気になっているようだ。

「薄情な奴等だ。仲間が死んだんだぞ?」
「それがどうした?」
「死んだのは弱い証拠。悲しむ必要はない」
「それよりも、何故外の者が生きている?」

 己の剣で首を斬り、細剣で心臓を貫いた筈なのに、私が生きているのが不思議なのだろう。
 確かに私の動きを完全に捉えていたようだが、お前たちが攻撃したのは幻……私の残像だ。

 正確に言えば『ライト』による光の加減によって相手の視覚を惑わし、更に魔力を全身から放って私の残像をその場に一瞬だけ残す技術である。
 闘武祭で知り合ったベイオルフの『陽炎』と似ているが、あれは魔力の残滓だけで私の姿がぼやけて見える程度なので陽動に使うには少し弱い。
 しかし今回のは『陽炎』とマリーナの能力を参考に、レウスやエミリアに実験を手伝ってもらって完成させた技だ。私の残像が完全に見えるので、騙される可能性は非常に高い。
 私は『蜃気楼ミラージュ』と名付けている。

 あの時……駆け抜けようとする私にエルダーが迫ってきたが、武器が振られる瞬間を狙って私は『蜃気楼ミラージュ』を発動しながら地を蹴ってその場から一歩下がっていたのだ。減速したのは前へ出る勢いを殺す為でもあった。
 そして残像だけがその場に残り、私が下がったとは知らないエルダーたちは必殺の一撃を放ってしまったわけだ。

「生きてるもなにも、お前たちが攻撃したのは俺の虚像だからな」
「きょぞう? よくわからんが、先程から妙な技と魔法ばかりだ」
「だがそれは覚えた。次は騙されん」
「そうか……」

 無表情でも勝利を確信した雰囲気を出しながら武器を構えてくるが、私が言いたい事は一つだ。

「それで……覚えたから何だ?」

 遠距離からの危険がなくなり、これでようやく目の前の相手へ専念できる。銃の弾丸よりは遅いが、矢による時間差攻撃とエルダーの技術を考えると十分な脅威だったからだ。
 私は会話の間に魔力の回復を済ませ、あえて同じ事をすると宣言してから二人のエルダーへと迫った。

 そして『蜃気楼ミラージュ』を発動させながらジグザグに地を蹴りながら走れば、相手からすれば私が分身しながら迫っているように見えるだろう。
 実際、先程の短髪エルダーへ迫った時もこれを行い、私の姿が複数に見えたせいで動揺したのだから。
 残ったエルダーは覚えたと口にしただけはあって動揺はしなかったが、その奇怪な動きに攻めるのを諦めて私を待つ戦法を選んでいた。

「複数に見えようが、外の者は一人」
「動きを見切った我々に負けはない」
「なあ……本当に俺の動きを見切ったのか?」

 まずはリーダー格のエルダーの懐へ飛び込み、お互いの剣を激しくぶつけながら私は問う。

「何を言うかと思えば。我々より劣る外の者の動きを見切れぬとでも?」
「確かに俺はお前たちに劣っているだろうが……」

 基礎能力は間違いなくエルダーたちの方が上だ。
 普通に戦えば確実に負ける差だろうが、私はそれを培った技術と『ブースト』で補う事により戦えている。
 だが私はお前たちには負けない、何よりも優れた部分を持っている。

 それは……戦闘経験だ。

 エルフという名がある以上、前世の年齢を合わせても私の方が若造だろうが、それは間違いないと断定できる。
 つまり、エルダーエルフたちには生死を分かつような戦闘経験が皆無なのだ。
 とにかく危機感が足りず、己の優れた能力が無ければ何度私たちに殺されていたかわからない。
 そんなお前たちと私の観察能力を一緒にしてもらっては困る。

「お前たちの動きは……もう覚えた」

 私の動きを見切ったと言うが、それはこちらの台詞である。
 相手の呼吸、足運び、手首、目線の動き……その全てから情報を読み取り、並列思考マルチタスクで処理しながら相手の行動を先読みする。
 先を読み、相手の攻撃を尽く発動前に潰すその動きは、見ようによっては未来予知に近い動きだ。
 そんな突如変わった私の動きに、リーダー格のエルダーは困惑し始めていた。

「なん……だ?」
「おのれ!」

 リーダー格エルダーと斬り結ぶ私の背後から長髪エルダーが細剣で突いてくるが、私は体を半身にしてそれを回避する。
 やはり狙いは心臓だったか。
 細剣の特性上、面より点による突きが主となるので、弱点を突けなければ致命傷にならないのだ。従って心臓を狙うのは定石なので予想しやすい。

「くっ……狙いが!」

 更に『蜃気楼ミラージュ』による残像を常に残しながら回避し続けているので、エルダーたちの視界を狂わせていた。残像だと理解していようが、私を目で追う以上は枷となる。
 それでもエルダーの動きと能力は凄まじく、若干押す事は出来ても拮抗するのが精一杯だった。
 なので、エルダーたちが繰り出す攻撃を両手に持つ剣とナイフで弾き、受け流し、回避しながら……私は機を待ち続けた。

「ならば回避できぬ攻撃を放つまで」

 そして……焦れたリーダー格のエルダーが両手で握っていた剣から片手を離し、魔法を放とうと私へ右手を向けてきたのだ。放つのは先程と同じ、前方一帯を薙ぎ払うような風の魔法だろう。
 だが、私はそれを待っていた。
 無防備に手を突き出してくるこの時を……。
 待ち望んでいた事もあり、魔法が放たれるより速く私の剣が振られ、相手の右手を斬り飛ばしていた。同時に右足でリーダー格の腹を蹴りつけてふっ飛ばして強引に距離を取る。
 これですぐに邪魔が入らないと思うが、その二つの行動によって対処が遅れ、長髪エルダーが繰り出した細剣がすでに目の前まで迫っていた。

「もらった!」

 だが……お前たちの動きは覚えたと言った筈だ。

 蹴った反動で体を正面に向けた私は、顔面に迫る細剣へ左手を伸ばし、刃に触れないように指と手の平の握力だけで細剣の刃を掴んだ。
 掴むのは成功したが、相手の体重を乗せた突きを左手の握力だけで止められる筈がない。細身だが、エルダーに秘められた力となれば尚更だ。
 止めるのは不可能だが……細剣の軌道を僅かに逸らす事は出来る。
 手に力を込め、細剣を左へ逸らしながら己の体を右側へ動かせば、細剣の切っ先は私の頬に小さな切り傷を走らせつつも顔のすぐ横を通り過ぎた。

「なー……ぐっ!?」

 そして白刃取りに目を見開いていた長髪エルダーの腹部を……私の剣が貫いた。

「我がこの程度でー……ぐおっ!?」

 しかし剣に貫かれたままでも反対の手で魔法を放とうとしてきたので、私は更に剣を押し込んでエルダーを地面へと倒し、エルダーの目を覗き込みながら反対の手を向けていた。

「……俺たちを殺そうとしたんだ。殺される覚悟は持っているんだろう?」
「覚悟? そんなものは我々エルダーには存在せぬ。我々にとって死とは、聖樹へ還るだけの話なのだ」
「……そうか」

 覚悟すらわからぬ者とこれ以上話す事などない。
 私は相手の腹から剣を抜きながら、残った全魔力を叩き付けるように『インパクト』を放つ。

 放たれた衝撃波はエルダーの体を余すことなく包み込み、轟音と共に地面すら跡形もなく破壊し尽くすのだった。


 そして……。


「……やり過ぎたな」

 フィアをやられた怒りがあったとはいえ、少し加減を間違えたようだ。
 エルダーの影も形も消えたクレーターのような穴の中心で、私は一人呟くのだった。



 ホクト君とアーシャちゃん


 シリウス君とエルダーエルフが戦っていたその頃……。
 姉弟と戦っているエルダーが放った魔法の流れ弾が、フィアさんを治療をしているリースちゃんの下へ飛んできましたが……。

「オン!」

 すぐにホクト君が飛び出し、魔法の流れ弾を足と尻尾で綺麗に叩き落としています。
 そして飛んでくる岩をただ砕くのではなく、肉球の柔らかさを利用して衝撃を均等に通し、岩を粉々にする細かい技術も見せていました。これは岩の欠片でさえフィアさんたちへ当てない配慮です。
 そんな技術もホクト君にとっては朝飯前ー……いえ、朝ブラッシング前です。

 飛んでくる流れ弾はそこまで多くないので、ホクト君は順調にフィアさんたちを守っていましたが……。

「うぐぐ……お姉様を守るのは私なのにぃ!」

 流れ弾を叩き落とす度に背後から感じる、どす黒い嫉妬の視線が気になって仕方がありませんでした。

「……オン」

 とはいえ、アーシャちゃんに任せるわけにもいきません。
 ホクト君は構わず魔法を撃ち落としていましたが、途中で魔法の流れ弾だけではなく、エルダーエルフの放った流れ矢も飛んできました。
 それも前後から同時にです。
 数は魔法の方が多いので、ホクト君はまず魔法を撃ち落としてから矢の対処へと向かったのですが。

「このっ!」

 アーシャちゃんが矢を放ち、飛んでくる矢を撃ち落としていました。
 その技術は凄まじいのですが、その一本に集中するあまり、影に隠れて飛んできたもう一本の矢に気付くのが遅れてしまいました。

「くっ! お姉様は私が守ります!」

 次の矢を放つ時間がない……そう素早く判断したアーシャちゃんは、その身を盾にしようと矢に向かって両手を広げたのです。

「オン!」

 しかし空中から降ってきたホクト君、が落下と同時に振り下ろした尻尾で矢を叩き落としました。
 別に恩を売りたかったわけではありませんが、これで少しは嫉妬の視線が和らぐだろうと、ホクト君が振り返れば……。

「ああ……矢から身を挺して守り、後でお姉様に抱きしめてもらう予定だったのにぃ……」



「クゥーン……」

 ……ホクト君は色々と諦めることにしました。




※もう一つのネタとして、アーシャがホクトに惚れる展開も考えていましたが……何か作った方がアーシャっぽい(面白そう)という事で、こっちになりました。







 今回はどうも思い通りな文章が書けず、戦闘が皆様に上手く伝えられたか少し不安だったりします。

 作者的のイメージでは、シリウスの『蜃気楼ミラージュ』はそれこそ一秒も残像は残りません。ですが達人同士ではそれが致命的だと思って書いています。


 次の更新は一週間後です。

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