プロローグ
初めての投稿です。
温い目でお読みください。
「――……が――……――とう……応答しろ!」
某国、大陸の中心を担うと言われる、高層セントラルビル社長室。
普段なら大理石の床と高価な装飾で彩られた部屋だが、今は直視するのも憚られる惨状と化していた。
爆弾や銃弾によって砕けた壁と床に、もはやガラクタとなった装飾品。
そして無数に転がる――――死体。
その全ての死体からは血が流れ、誰が見ても生存は絶望的である。
否、一つだけ動く姿があった。
全身を覆うタイツのような防護服を着込んだ一人の男である。
男はうつ伏せから起き上がろうとするが、体を支えきれず何度も倒れる。
立ち上がるのを諦めた男は、這い蹲って進み、近くの壁に背中を預けて一息ついた。
そして耳に取り付けた、イヤホン型通信機のスイッチを入れた。
「……はいよ、こちら……コード・アクセル」
『無事か!? 状況を報告しろ!』
無数に転がる死体の中、一つだけ明らかに高級そうな服を着た死体がある。
額だけではなく身体中に無数の弾痕が付けられ、爆弾の余波によって原型も多少崩れているそれは、このビルのオーナーであり、また男の目標であった。
「目標は……始末した。後は……ごほっ、後始末……かな?」
『待て! それは最後の手段だろう。早く脱出しろ!』
「は、はは……そりゃ無理だ」
男は自分の体を見る。
腹部に数発の銃跡に、膝から下が失われた左足。
左手の感覚もほぼ無く、言葉を発するのでさえ苦痛な体は、満身創痍を見事に体現していた。
唯一動く右手で、ポケットから小さな端末機を取り出し、安全装置を解除する。
それは爆薬の起爆装置である。
計算され、無数に仕掛けられた爆弾は、起動すれば確実にビルを倒壊させるだろう。
ここで動けない男も巻き添えに。
『諦めるな! すぐに迎えを送る! おい、ヘリの用意は済んだか! 許可? 後にしろ!」
無線の向こう側が騒がしくなる。
男の相棒が必死になって指示を飛ばしているようだが、時間はもう残されていない。
止めさせようと口を開いた瞬間、無線の向こうで扉を抉じ開ける音が響いた。
『『『先生――――っ!!』』』
聞こえたのは男の弟子達の声だ。
慌しい物音の中、五人の男女がマイク前を陣取るような音が聞こえ、弟子達の叫びが聞こえてきた。
『先生、諦めないでください!』
『俺達がすぐ迎えに行くから、待っててくれよ!』
『私達まだ教わりたい事が沢山あるんだから!』
『約束……したじゃないか』
『先生! 先生……お、おとぉ……さん! お父さーん!』
作戦前にこうなる可能性もあると納得させた筈なのだが、弟子達は耐え切れなかったようだ。
まだまだ精神が未熟だと心配になってくるが、ぶつけてくる愛情に嬉しさも感じる。
力を振り絞り、男は号令を放つ。
「整列っ!」
『『『っ!? はい!』』』
教育の賜物か、取り乱していた弟子達は一糸乱れぬ返事をした。
「俺が言いたい事は……わかってる……な?」
『『『歩みを止めるな、です!』』』
「なら……いい。お前達なら……大丈夫だ。自信を持って……生きろ」
『『『……はい!』』』
弟子達は必死に涙を堪えているようだが、聞こえてくるのはどう見ても涙声で、彼等は今頃滂沱の如く涙を流しているだろう。
「ふっ……すまんな、弟子達が」
『いや……問題ない。彼等には当然の権利だ』
「そうか」
『もう……無理なのか?』
「こうなるって……わかってた……だろ?」
『……ああ』
悩み、葛藤を必死に押し殺してようやく漏れた声だった。
「俺が残した……ものは……ある。笑って……逝けるさ」
『……後は全て任せておけ』
「頼んだ。お前と……一緒で……楽しかっ……た」
『私の台詞だ』
男は血を失いすぎて、目も見えなくなって意識もぼんやりとしていた。
結果はどうあれ、作戦は成功した。
託すものは全て託した。
だが最後の仕事が残っている。
残された力で男はスイッチを入れた。
微かに響く破砕音。
それは徐々に大きくなり、遂に男の天井へと到達した。
崩れ落ちてくる瓦礫を、男は肌で感じつつ受け入れた。
そして男は……