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あの場所  作者: 真夏夏
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05話「月光」


 結局あれから石川さんを見つけることはできず、僕はなんとも言えない気持ちのまま家に帰った。

 もしかして、石川さんはそういう人たちと関わりを持つような人だったのだろうか。

 それとも何か人には言えないような理由があってそのような事態に巻き込まれているのだろうか。

 スマートフォンを取り出してみる。ラインの様子はいつもと変わりがない。ひとことは何も書かれていない。

「ダメ……だよな」

 ここで訊いてしまったら何か触れてはいけない物に触れてしまって壊してしまう、そんな感じがした。だけど、どうしても気になる。

 ヒュボという通知音がパソコンからする。見るとSkypeからの通知だった。

『OMS 春ノ湊制作委員会』と書かれているそのグループに僕は招待されていた。

――大村:よう

――金谷:ばんわー、はじめましてかな

――野田:黒瀬、大村は知ってるよな。金谷は俺の友人。後他にも人がいるが自己紹介はそいつらに任せる。

――黒瀬:どうも。皆さんはじめまして。生徒会広報の黒瀬と言います。

――河合:あ、どうもこんばんは。私は河合と言います。アニメ班で動画描いてます。

――小林:私は小林といいます。アニメ班で原画描いてます。一年生です。

――黒瀬:どうもよろしくお願いします。

――大村:おお、この時間帯は全員揃ってるんだな。

――黒瀬:これで全員ですか?

――大村:うん。ところでお前パソコンのスペック教えて。

――黒瀬:スコアのスクショでいいですか。

――大村:あーうん。


 Skypeの画面を一旦閉じる。そして別のウインドウを開こうとした時、ラインのメッセージが目に飛び込んだ。

『笠川が帰ってない。何かしらないか』

 目を疑った。鈴村からのメッセージだった。

 慌てて返事をする。

『知らない。どういうことだ』

 すぐに返事は来た。

『俺もわからない。さっきあっちの親から電話があった。いつもだったらこの時間に帰ってきてるが今日はこの時間でもまだ帰ってないらしい』

 時計を見ると既に午後の10時を回っていた。

『警察は?』

『既に届けてあるそうだ』

『鈴村、心当たりはある?』

『あったらお前に訊いてない』

 たしかにそうだ。

『石川さんとは連絡ついてる?』

『なんだ、石川とも連絡がつかないのか?』

『いや、そうじゃないけど……なんとなく嫌な予感がする』

 そこでメッセージは既読がついて止まった。


――黒瀬:すいません、ちょっと落ちます。


 Skypeを終了させる。

 まずい。何かがおかしいんだ。


『石川の携帯にも通じない』

 鈴村から連絡が入った。

『今、駅に来れるか?』

『丘の元駅だな。了解』

『僕もすぐに向かう』

 すぐに着替える。親はもう寝ていた。コートを羽織り、冷たい外にでる。終電までまだあるはずだ。僕は自転車にまたがって最寄りの駅へと向かう。

 息をする度に口の中が乾き、そして不快な白い曇が僕の前に現れては消える。

 丘の元駅につくと既に鈴村はいた。彼もコートを羽織っていた。

「どうしてここの駅だ」

 いつもやる気のない表情の彼とは一変して深刻な表情をしている。

「大村さんが今日の夕方、石川さんが男に囲まれているのを見たらしい」

「……誘拐か?」

「わからない。最悪の事態も無きにしもあらず、か」

 辺りを見渡すもやはり何も見えない。ホームレスがベンチで毛布に包まり寝息を立てているだけだ。

「君たちぃ」

 突然背後から声がかかって驚きおののき振り返る。

「どうかしたのかー、こんな時間に」

 青年だった。どうやら酒によってるらしい。大学生くらいだろうか。

「あの、女の子見ませんでしたか?」

「ああ?」

「髪が長くて……男の人に囲まれてたと思うんですけど……」

「ああ……夕方見たなそういや」

「どちらへ行ったかわかりますか?!」

「あっち」

 青年が指差す方は森……いや、その合間に見えるアパートだった。

「アパート……?」

「うん。なんか連れてってた」

「ありがとうございます!」

 僕と鈴村は頭を下げるとそのアパートへと向かった。


   ◆◆◆


 そのアパートは建ててから何年も経っているようで階段は錆付き、歩く度に奇怪な音を立てる。

 僕らの足元を照らすのは月光だけだ。

「何か聞こえないか?」

 鈴村が言う。

「いいや何も」

「……ちょっと俺様子見てくるからお前はそこで待ってろ」

「わかった。何かあったらすぐに叫べよ」

 彼はこくんと頷いて階段をそっと登りきり、一つ一つ中の様子を伺う。

 寒い。はぁっと息を吐いて手を温める。

 生徒会で平和な日常が営めると思ってたが予想外の事態に巻き込まれてしまったものだ。

 ああどうして夕方の時点で石川さんを探さなかったんだろう。

 そして笠川さんは石川さんと一緒なのだろうか。

「っ!? おい! 黒瀬! 後ろ!!!」

 上から声がして我に返る。そして慌てて身を伏せて階段の脇に寄せる。僕がいた場所にカン、と金属音がする。やばい。

 月光で陰は見えないがさっきの青年に見える。後をつけられていたのだ。

「死ね」

「っっ」

 僕は立ち上がって階段を駆け上がる。青年も勢いをつけながら駆け上がってくる。

「黒瀬!」

 鈴村が叫ぶ。

 一か八かだ。

 僕は飛び上がってその青年めがけて頭から突っ込む。

「黒瀬!!!」

 上下の感覚が消える。ががががっと鈍い音が頭蓋骨を伝わって脳に届く。

 ようやく動きが止まり、僕は目を開けて急いで立ち上がり構える。僕の下敷きになった青年は動かないままだった。

「おい! 捕まえろ!」

 頭上から声がする。見上げると一室から男が二、三人出てきた。やばい。やばいやばいやばい。

「黒瀬! 逃げるぞ!」

「了解!」

 青年の持っていた金属パイプを手に取る。降りてきた鈴村が貸せというので渡すと彼は先頭の男めがけてためらいなくそれを投げた。

 男は倒れ、僕らはその隙に全速力で逃げる。

 森の中を通ってきたので森の中は真っ暗で何も見えない。ただひたすらに真っ直ぐ前へ進む。

「鈴村! どういうことだ」

「わからない。とにかく今は逃げるのが先だ」

 ひたすらに走る。後ろからの追手の気配はない。

 そして人通りのある道に出た時ようやく僕らは立ち止まった。

「はぁ……はぁ……な……あ……黒瀬、一体どうしたってんだ」

「……わからない……ただ……石川さんと笠川さんが大変なことになってるということはわかる……」

 汗が止まらない。冷や汗か、とにかく気持ちの悪い汗だ。

「どうする」

 鈴村がこちらを見る。

「応援を呼ぼう」

「警察か?」

「いや、警察はまずい。感付かれると彼女らに危害が及ぶかもしれない」

「とりあえず俺の友人に山口ってやつがいるからそいつを呼ぶ」

「ああ頼む」

 僕は近くの自販機でアクエリアスを買うと一気にそれを飲み干した。

 頭のなかがごちゃごちゃしている。


 石川さん……何を隠しているんだ……?


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