03話「闇」
「こんにちは」
帰りのホームルームが終わるなり僕はまっすぐ生徒会室へ向かう習慣がついてしまっていた。
もうすぐ中間テストだというのに。仕事という仕事はまだそこまでないが、なんとなくこの部屋に足を運んでしまう。
「あ、笠川さん」
解錠されていた生徒会室には笠川さんがいた。何やら書き込んでいるようだった。ちらりと見てみると、古典の予習っぽい。こういうところ、真面目な人だなって思う。
「黒瀬」
名前を呼ばれる。「ちょっと来て」
言われるままに彼女のいる机へ向かった。古典の質問されるのかと思いきや、背後の机からファイルを取り出して僕の前に広げた。
「昨年のこの書類、ここに不備があるのとあと日付直して印刷してくれない?」
「あー、了解」
緑色のファイルを受け取る。表紙には会計とデカデカと書かれた下に見知らぬ名前が二人書いてあった。パソコンを起動する……が、起動しない。おかしい。昨日までは動いていたはずなのに。
「ああ、そこの真ん中のパソコン調子悪いからさ。大村先輩今日呼んでるから」
大村先輩……? えっと、野田先輩といたのは確か金谷さんだっけか。別の人がいるのか。
僕は一番左のパソコンの電源をつける。画面に映るは一世代前のOS。
しばらくぼうっと待ってると準備が終わり、ワードを起動する。『生徒会役員共』と書かれたフォルダに歴代10年分の生徒会の資料が残っている。誰かがネットワークを整備したらしく、生徒会室にある三台のパソコンは全てデータを共有しているようだ。
「えーーっと」
手元の資料を元に不備を修正しつつ、今年度の日付を入力していく。そして印刷して笠川さんに見せる。彼女は別のファイルをぼんやりと眺めていた。
「できたよ、はい」
「ああ、ありがとう」
ふいと受け取って目を通して、そして入口付近にある大型コピー機にそれをセットした。ガシャンガシャンと大量に同じ紙が刷られていく。
「笠川さんは、今日部活ないの?」
「……ん、あるけど……まだこんな時間だからいいよ」
「マネージャーも大変だよね」
「……うん」
心底どうでもいいという感じの印象を受ける。だが、これといって彼女との共通の話題は持ち合わせていない。部屋には僕と彼女以外誰も居ないのだ。なんでこういう時に限って誰も来ないんだよ……! 気まずい。
「あ、これ食べる?」
彼女はふと思いついたようにおもむろにポケットからチョコレートを取り出した。明治ハイミルクチョコレート。
「ありがとう」
一粒受け取って包を解き、口の中に入れる頃には印刷は終わっていた。
「おいしい?」
「え、あ、うん。おいしいよ」
「そかそか」
何か浮世離れした人のように感じる。口数はあまり多くはないが、人前の演説であんな変なことを喋る人だ。全くもって謎に包まれている。
「笠川さんはチョコレート好きなの?」
「うん、好き。甘いものが好きかなー」
その時、ガラッと戸が開いて石川さんが入ってきた。
「大村さん連れてきたよー」
彼女の後ろに眼鏡をかけた男子生徒がいた。
「あーはじめまして。新規役員の皆さん。動画制作の大村です」
「あ! あなたが大村先輩ですか!」
笠川さんが驚いたように言う。
「あー、君は演説で変なことを口走っていた笠川会長か」
「はい。笠川です」
変なことってところに否定は入れないんだな。
「で、調子悪いのはどのパソコン?」
「真ん中のパソコンです」
彼はリュックサックを下ろすと椅子の上に乗っけて中からドライバーを取り出した。そしてパソコンのコード類を抜いてネジを外し、蓋を開いた。パソコンの内部を見るのは初めてだ。
「うわー、ファンは正常に動いているからCPUが焼けたわけではあるまい。HDDの異常音もないし……だけどバイオスが起動していない……? いやそれ以前に画面が映らないから多分グラボいかれているな」
何やらよくわからないひとりごとをブツブツ言いながらあちこちをいじくりまわしている。
「あー、やばいなこれ」
「やばいんですか……」
石川さんが心配そうに覗きこむ。
「このパソコンも私が持ってきたパソコンだけど……だいぶ昔のだからねえ。竹澄さんに買ってもらったら?」
「ダメですよー。うちの顧問厳しいですから」
「おっかしいなぁ。私、前に見積書出したんだけどなぁ。三万円以内ならなんか簡単に降りるとか言われたもんで三万円以内のパーツを大量に注文したはずなんだけど……」
多分それダメなやつ。
「まぁーとにかくこれは動かない。新しいのを頼んでおくから悪いけど別のを使ってくれ」
よくわからないが、もうだめだということだろう。笠川さんがお礼にとさっきのチョコレートを大村さんに渡していた。
「大村さん……ですよね」
「あーうん」
むぐむぐとチョコレートを食べながら振り返る。
「動画制作ってどんなところですか」
その途端彼の目が爛々と輝く。眼鏡を中指で押し上げる。
「興味あるのかい?! 名前は、ええと、広報の……」
「黒瀬です」
「そうそう黒瀬君! いやぁ、やっぱり君は社畜の素質……いや。生徒に忠誠を誓っただけあるねえ! さすがだよ! さすが私が見込んだだけの男だ!」
いやそこまで立てられても。しかも今不穏なワードが聞こえた気がする。
「入る?! 入りたいよね! 今さ! トレス班の人員不足でさ! ちょー大変だから!」
「え、い、やーそれはーちょっっとー」
ばっと石川さんの方を見ると彼女は急に目を逸らしてハサミを愛おしげに眺めていた。笠川さんは我関せずといった素振りで古典の予習を再開していた。
くっそ。全員裏切ったか。というかそこまでするってことはよっぽどやばい組織なんじゃないか……?
「君、写真部だよね?」
ぼそっと耳打ちされる。
「写真部の発表の場って、ないよね。実はさー、ウチで働くともれなく全校生徒に写真部の活動を知らしめることができるんだよねぇ」
くっ……この人……人の弱みに漬け込む気だ……。
「もしかするとその功績が認められれば、文化祭でも発表の場が与えられるかもしれないよ?」
「うっ……」
今年の文化祭は発表の場は与えられなかった。つい先月のことだ。悔しかったのを覚えている。顧問に訊くと「活動がはっきりしていないから」ということらしい。そのくせ文化祭の写真のデータは取り上げられ、勝手にエンディングスライドに使用されていた。そうか、あの映像が動画制作が作ったものなのか……。
「……どうしてそこまで人がいないんですか……」
「さぁ、みんな忙しいからじゃない? 黒瀬君は広報でしょ。生徒のために生徒の写真を撮り、そしてその写真を映像として思い出に残したいとは思わないのかね!」
「ううっ……」
話し方からして面倒くさそうな感じ満載である。
「待ってるよ。何かあったら野田に言っといて。すぐに入れるからさ」
「……わかりました。考えておきます」
「よろしい」
彼はそう言ってリュックサックを背負うと生徒会室から出て行った。
「で、入るの? 黒瀬は」
笠川さんが訊く。僕は首を振らなかった。
「で、入りたいの? 黒瀬くんは」
石川さんが訊く。だからなんで君まで訊くんだよ。
「はいっちゃいなよ」
いつの間にかいた山内さんまでもが言う。
「……入ろっかな」
そう心のなかに一つの答えが出つつあった。
……この後起こることを、この時には知る由もなかった。
こんにちは、真夏夏です。
じつはこのペンネーム、ひらがなで読んでここのサイトで検索かけると出てくるんですよね。私の中学時代の小説が。
それはともかくとして、私も受験生ですので更新は毎晩できるわけではありません。それはご了承ください。卒業までには書き上げたいです。
結構実話とか、実際に話したこと、ネタを多用しています。
楽しいですよ生徒会。もし機会があればそういう組織に属してみるのも悪くはありません。良いとも言いませんが。
明日は東進ハイスクールの模試があるのでこのへんで。
勉強もせず何やってんでしょうねー。
とりあえず数列の復習してから寝ます。
では、また。