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あの場所  作者: 真夏夏
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01話「出会い」

 何を失えば、それを得られるのだろう


   ◆◆◆


「主人公と言えば、皆さん考えてみてください。空から女の子が降ってきた! とかあったらそれはもう主人公確定でさらに恋人フラグまで建ててしまいましたよね。しかし現実にはそんなことありえません。ですが、私達は今、学校生活という青春の舞台に立っています!」


「今こそ! 私達が主役になる時です! 私は皆さん一人一人が主役になれるような行事づくりに尽力していきたいと思います!」


   ◆◆◆


 本校の生徒会室は本館二階の多目的室の隣にある。元々は多目的室の準備室として使われていたようであり、中には隣の部屋とを繋ぐ扉(現在は棚で塞がれている)や蛇口があったりする。僕は一度だけ議員の仕事の関係で中に入ったことがあるが、実際ここで働くのは初めてのことである。

 そう、僕は一年生の後期、生徒会役員になったのだ。

 コンコン、と、その古ぼけた扉をノックする。生徒会役員在室という札と共に「開けたら閉める」と書かれた張り紙があった。

「どうぞー」

 中から声がして僕は扉を開ける。前来たときと同じように書類でごちゃごちゃしており、窓を閉め切っているせいか埃っぽい所だ。

「本日からここでお世話になる生徒会広報の黒瀬進です。よろしくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げると向こうも軽く挨拶してきた。

「私は生徒会長の、笠川美奈」

 ごく普通の女子生徒といった感じだ。髪は肩まで伸びており、くっきりとした顔立ちだ。

「俺は副会長の鈴村健一」

 ぼんやりした演説を行った本人。背は高くもなく、そして眼鏡をかけている。

「私は会計の石川です」

 三つ編みの女子生徒が頭を下げる。真面目そうな子に見える。

 とりあえず部屋にいたのはこの三人だった。

「ちわーっす」

 がらっと扉が開くと一人女子生徒が入ってきた。見覚えがない。

「あ、新規役員? 私は体育企画委員会の委員長の山内ですどうぞよろしくー」

 なんとなく堅い生徒会室の空気をガラリと変えた気がする。サバサバした感じの女子だ。バッヂをみると僕と同級生である。

 僕は鞄を適当な椅子の上に置くと、席についた。

「えっと、仕事は……」

 僕がそう言うと笠川さんは「待ってね」と言って部屋を出て行った。

「ねぇねぇ、私達だけ初めてなんだってさ」

 石川さんが僕に話しかけてくる。

「な、なにが……?」

「一年生がこの時期に会長やるの」

「あぁー、確かに二年生が役員にいるのに会長が一年生っていうのもなんだか変わっているよね」

 その時、背後で扉が開く音がした。

「あ、あぁ、ごめん。遅くなった。ホームルームが延びて……」

 よろよろとベージュのネクタイを締めた男子生徒が入ってきた。

「はじめまして。俺は野田といいます。唯一の二年生となっちゃったけど……よろしく」

 それに続いてみんなが次々と挨拶をした。

「俺は前期役員だったんだけど、他の奴らみんなやめちゃってよ……」

「どうして会長にならなかったんですか?」

 石川さんが訊く。

「んー、俺今期色々忙しいからちょっとな」

「忙しいって……勉強ですか」

 まだ二年生だというのにもかかわらず、意識が高い生徒はもう受験勉強を始めるのであろう。

「いや、動画制作っていって予餞会に三年生の思い出ビデオみたいのを非公式の集まりで作るんだけどそれのメンバーだからさ」

「なるほど……そういう組織もあるのですね」

 うんうんと彼女は頷きながら席についた。ちょうど笠川さんも戻ってきた。

「生徒会顧問連れてきたよ」

 笠川さんに続いて生徒会室に入ってきたのは真っ白の髪をした先生だった。

「おう、お前ら半年よろしく。俺は生徒会第一顧問の竹澄という。早速だが仕事の話をするぞ」


   ◆◆◆


 ひと通り竹澄先生の話が終わると、日はどっぷりと暮れていて時計は六時半を指していた。

「早く帰れよ」

 彼はそう言い残して生徒会室を出て行った。

「この部屋って何時まで開いているんですか?」

 副会長の鈴村が野田先輩に尋ねる。

「んー、文化祭の時とかだと夜の十時まで残ってたことはあったかなぁ」

 おいおい、そんな遅くまで残りたくないぞどこのブラック企業だよ……。

「楽しそう!」

 一人食いつく輩。石川さんだった。彼女はどうやらこういう楽しそうなことには片っ端から首を突っ込んでいくようだ。

「もしかして~、お泊りとかあっちゃったりするんですかー?」

「それはない……けど、昨年の予餞会の動画制作は生徒会室追い出されても外で編集やってた」

「それ、ガチのブラック企業じゃないですか……」

 その時、ばっと鞄を引っ掴んで鈴村が「お疲れ様でしたー」と言って部屋を出て行った。

 それに続くようにして笠川さん、山内さんも帰っていった。

「じゃあ、俺も帰るから。施錠してね」

「あ」

 施錠が面倒くさくてあいつら先に帰ったのかよ。

 生徒会室には僕と石川さんが取り残された。さすがにこの状況で彼女だけをおいて帰るだなんて言い出しづらい。

「窓閉まってる?」

 そう訊くと、うん、と言って鞄を背負ってこっちにやってきた。電気を消して、扉を閉める。廊下は蛍光灯の明かりに不気味に照らしだされていた。外は静かで時折風の吹く音がする。

 彼女はマフラーを首に巻いて歩き出した。ふと外に目をやると明かりが見えた。多分科学部のところだろう。

 昇降口を降りて、なんとなく石川さんと一緒に歩き出した。

「なんか大変そうだね」

 僕がそう言うと彼女はうん、とだけ頷いた。さっきみんなといたときとはずいぶんと印象が違うように思える。

 何も会話がないまま学校坂を下っていく。駅についた時、彼女はさっきまでの自分を取り戻したかのように笑顔を見せると手を振って別れを告げた。

 僕も手を小さく振り返して電車に乗り込んだ。


 色々仕事も大変そうだけど、あの人達となら楽しくやっていけそうな、そんな気がした。


 こんにちは、真夏夏です。

 ネットでの連載は久しぶりになります。

 今回は生徒会というテーマのもと、できる限りで連載をしたいと思いますのでどうか温かく見守ってください。

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