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借金取立人と

借金取立人と病気

作者: くー。

 「……」

 バッソは不機嫌だった。

 「……」

 はっきりと表情には出ないが、ぶすっと目の前にいる不機嫌の原因を睨む。

 「……? どうしたの? バッソ」

 「……」

 バンッ。と机を叩くとグランデがびくりと跳ねた。


 「これくらい大丈夫だって」

 「……大丈夫じゃない」

 バッソは風邪を引いたグランデをグイグイとベッドへ押し込んだ。

 グランデの身長に合わせて作られた、大きいと言うより長いベッド。同じように長い掛け布団を引きずりながら横になったグランデに掛ける。

 「……」

 まだ、じりじりと動き出しそうなグランデを、バッソはじーっと見つめた。


 グランデとバッソの通う大学には寮がある。

 寮の部屋は希望者に割り当てられ、一人一部屋の個室制。トイレと風呂は別だ。

 二人の通う大学はそこそこ人が多かったが、入寮希望者は少なかった。

 大半の学生たちは門限や食事時間を気にせず、日々を謳歌したいようだ。

 グランデとバッソは寮生活にこれと言って不満はなかった。

 むしろ、時間になれば朝晩美味しい食事が用意され、他者に迷惑をかけなければ何をやっても良い部屋が割り当てられ、設備も整っている、特に不自由もない生活に大いに満足していた。夜中まで何かの作業をしていると、食堂のおばちゃんが温かい夜食を作ってくれるのもありがたかった。

 

 ここは、そんな寮のグランデの部屋。

 南向きで日当たりが良く、グランデはベランダにプランターをいくつか置いて野菜を育てていた。

 「……タオル」

 睨み合いの末、ようやく大人しくなったグランデを見て、バッソは歩き出した。

 向かうは脱衣所。グランデの頭に乗せるタオルと、それを濡らすための水を持ってこなければ。

 

 グランデもバッソも、体調を崩すとどうしてもそれを隠せない(たち)だった。

 文字通り、顔に出るのだ。

 いくら真っ直ぐ立って、ふらつかずに歩いても。

 穏やかに誰かと接しても。

 普段真っ黒な体が白くなることによって、あっという間にバレてしまう。

 今のグランデも、顔がだいぶ白かった。色の変化は、体調の悪さや、熱、症状の重さに比例した。

 

 バッソが脱衣所に入った瞬間、問題が発生した。

 手が、届かないのだ。

 グランデは誰もが見上げるほど背が高く、バッソは誰もがしゃがみ込むほど背が低い。

 それだけ身長差があると、家具の大きさや高さも全く違ってくる。

 「……」

 バッソは目一杯背伸びをして、タオルが仕舞ってある引き出しに手を伸ばした。

 「……」

 飛び跳ねてみる。

 「……」

 よじ登ろうとしてみる。

 「……」

 割と本気で泣きたくなった。

 「バッソ〜。大丈夫〜?」

 「……!」

 背後から聞こえてきた声に、勢いよく振り返る。

 白い顔をしたグランデが脱衣所の入り口に立っていた。

 「ああ、届かないか。じゃあタオルは出しておくから、バッソはお風呂場で水を汲んできてよ」

 そう言われ、バッソは渋々頷いた。出来ない物はしょうがない。取れない物はしょうがない。

 「……」

 バッソは脱衣所からつながる風呂場の扉を開けて中に入った。

 冷たい水の残るバスタブと、濡れた床のおかげで、少し寒かった。

 「……」

 バッソは風呂場の隅に置いてあった桶を抱えて、蛇口の下にそれを置いた。ガコンとレバーのような物を下げて、水を出す。

 勢いよく出てきた。

 「……」

 「バッソ? うわーお」

 桶の底で跳ねた水を、バッソは頭から被った。

 寒い。

 「ほら、こっちに来て。拭かないと、バッソが風邪を引くよ」

 「……」

 とりあえず、桶に水がたまるのを見届けて、水を止め、グランデの元へ向かった。

 手渡されたタオルであちこちをわしわしと拭く。

 ふと、あることに気が付いて、手を止めた。

 「……ご飯」

 「ああ。食堂のおばちゃんに頼めば、作ってもらえるかな」

 「……今日、おばちゃんたち、お休み」

 「あれ、そうだっけ。じゃあ」

 「……作る」

 「……」

 「……作る」

 ぎゅっとタオルを握りしめて、バッソ言う。

 グランデは、バッソの前にしゃがみ込んだ。

 「バッソ。バッソがいろいろ頑張ってくれるのは嬉しいんだけど、無理は良くないよ」

 「……無理じゃない」

 「バッソの身長に、この部屋は合わないだろう? 下手に動いて、怪我をしたら、僕が嫌だよ」

 「……」

 「手を怪我したら、絵も描けなくなっちゃうし」

 「……」

 「だから、ご飯作るの、『手伝って』よ」

 「……」

 穏やかに言うグランデに、バッソはこくっと頷いた。

 

 

 数日後。

 「寝てなきゃダメだよ。バッソ」

 「……平気」

 「顔が白いよバッソ。僕が移しちゃったね」

 「……」

 グランデは白い顔をしたバッソを抱えてベッドに寝かせた。

 「タオルと桶だね。脱衣所入るよ」

 「……」

 バッソは、はっきりと表情には出ないがぶすっと頷いた。

 グランデは、自分が移してしまったという責任も感じているのか、ご飯を作ったりリンゴを剥いたり、バッソがほしい物を買ってきたりした。

 バッソも別に悪い気はしなかったし、グランデはそれなりに料理が上手いから、ご飯も食べることが出来た。

 ただ……。

 

 ゴッ

 

 「あいて」

 

 ガンッ


 「うわわ」

 

 ガッシャーン


 「あ」



 「……」

 「……」

 二人揃っての食事中、もう病気はしないと誓った。

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