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短編小説

ドアマットヒロインは運命に屈しない!

作者: 笹月美鶴
掲載日:2026/10/22

~転生したらドアマットヒロインでした~




 私はサウザント家の一人娘レイア・サウザント、三歳。


 ついさっき、前世の記憶が蘇ったばかりの貴族の令嬢よ。

 私は転生者。前世は地球の日本人。

 まあ、よくある話よね。

 びっくりしてはいるけれど、一周まわってなんか落ち着いてるわ。


 幸いだったのは前世の記憶が蘇ったのが三歳と、まだ幼かったことね。

 この世界をいち早く確認できるのだもの。

 じっくり考えた結果、この世界は私が読んだことのある小説の世界に酷似しているという結論に達したわ。


 その小説は主人公がひたすら不幸な物語だった。

 最終的にはハッピーエンドなんだけど、そこに至る過程がひどい。


 いわゆる、ドアマットヒロインもの。


 本を読むのが好きでいろんな小説(おもにライトノベル系だけど)を読み漁っていた私。そんななかで出会ったドアマットヒロインという言葉。それってどんな話なのかしらと興味を覚えて代表作といわれる小説を読んでみたら、それはもう、


 イラつく内容だった。


 そもそも、主人公であるヒロインが弱すぎる。

 ずるいずるいと連呼してはヒロインのものを欲しがる義妹に自分のものをすべて奪われ、自分を蔑みやりたい放題の使用人に何も言えず、理不尽な仕打ちをする継母にこき使われるヒロイン。


 まさにドアマット。

 泥だらけの靴で踏みにじられる弱者。


 小説の通りなら、私がドアマットヒロインになるのは十一歳。

 十歳で母が亡くなり、一年もたたずに父が後妻を連れてくる。

 その連れ子が義妹。その顔はどう見ても父の子だ。母が生きていた時から浮気していたのだとわかる。


 父と母の関係は、とても冷めたものだった。

 この家は母が当主だったから母が死んで、父はこれ幸いと、愛人と隠し子を堂々と屋敷に連れてきて後妻に据える。

 本来なら母の血を引く私が跡取りのはずなのに、父は義妹に家を継がせる気らしい。そんなことができるのだろうか。まあ、何も考えていないのだろうけど。

 とにかく、彼らにとって、私は邪魔者なのだ。


 継母と義妹から虐げられるドアマットヒロイン。それが私。


 でも、


 私がそのまま運命を受け入れるとでも思ってる? 冗談じゃない。

 ドアマットヒロインになるまでに、まだ時間はある。


 私を虐げる継母と義妹が現れるまであと八年。

 その間にいろいろ準備、してやろうじゃないの!

 さて、何からはじめましょうか。


 私はまず、体を鍛えることにした。


 いじめをする人間は反撃に弱いというのが私の見解だ。

 実際にいじめられたことはないので予想でしかないのだけれど、私はそう思っている。


 反撃するための力。

 つまり、暴力よ。


 力で押さえつけようとする者には力で対抗する。

 それが、私の答え。


 ドアマットヒロインが理不尽なことを受け入れてしまうのは、心も体も弱いから。

 いじめや虐待という暴力に対抗するにはそれを超える力、暴力が必要になる。


 とはいえ貴族の令嬢である継母や義妹はともかく、私を虐げるであろう使用人は護衛並みの力を持っているかもしれない。

 そういう前提で、準備をする必要がある。


 幸い、この世界には魔法がある。そして、私は魔力量が多い。

 この物語の主人公であるドアマットヒロインは屋根裏部屋に閉じ込められ、食事もろくに与えられずに働かされて、気力も体力もなく虐待され続けていたから反抗することも、魔法をろくに使うこともできなかった。


 私は、そんな道など歩まない。


 今から体を鍛えて魔法の鍛錬をすれば、運命の日までに攻撃魔法のひとつくらい覚えられるはず。いえ、覚えてみせる。


 負けるわけにはいかない。

 私はけっして、運命なんかに屈しない!




ーーーー◇ーーーー◇ーーーー


~たしかに義妹はやって来た~




 ストーリー通り、十歳で母が亡くなり、十一歳になったばかりの時に父が後妻と義妹を連れてきた。

 そして、義弟も来た。


 義弟? この小説に義弟なんていたかしら?


 義弟の名はセレンスト。私より一歳年下の男の子だ。

 どうやらこの子は父の子ではないらしい。義妹よりも前に生まれた後妻の連れ子。


 とはいえ正式に義弟になったのだから、名前はセレンスト・サウザントとなる。

 あれ、この名前、どこかで……。


 ん? んー、いやー、ん? いやいや、んん?


 私の頭には一冊の小説が浮かんでいた。あの話と家名かぶってるじゃん、と思った記憶のある物語。

 それは父の再婚とともにやってきた少年。少年は義姉であるヒロインに恋い焦がれ、叶わぬ恋を成就させるために……あ、これ、あのジャンルの話、よね。そう、あの、


 サイコパス義弟もの!(なんだそのジャンル!)


 たしかそいつ、めっちゃヤバイやつだった。

 家族をじわじわと支配して崩壊させていく。世界に義姉だけいればいい。義姉はぜったい逃がさない。ねえさん、僕だけを見て、僕だけを愛して。ねえさんのお世話は僕がするよ。……とかなんとかで、義姉を監禁しちゃうヤベーやつ!


 いや、まって、まだ慌てる時間じゃない。

 確認していない。そう、この世界が本当に小説の世界なのか、まだ確認できたわけじゃない。


「お姉さまずるい!」


 あー、こいつ間違いなくドアマットヒロインの義妹ですわ。はいはい、間違いない。

 えーと、よくわからないけど、もしや、この物語の世界に別の物語が混ざってる?

 となると、優先して対処しなければならないのは……。


 義妹はとりあえず一発ぶん殴り、怒る継母に攻撃魔法をくらわせ、父は書斎のソファに魔法で火をつけ、よけいな口をはさむなら屋敷ごと燃やすぞと脅し、まずは最初の問題をさくっと片付ける。


 十一歳とはいえ、八年鍛えた体とみっちり鍛錬した我が魔法の威力、思い知ったか! はっはっは!


 おっと、こんなやつらにかまっている暇などない。セレンストがもしもあのセレンストなら、早急な対処が必要だ。

 そう、私の生活と命を脅かすラスボスは、今やサイコパス義弟のセレンストに変更となったに違いないのだから。


 セレンストはまだ十歳。すでにサイコパスとしての片鱗はあるが、まだ間に合う。

 やつに私を支配する気もおきないくらい、私の強さを見せつけなければ。


 暴力には暴力を!

 サイコパスにはサイコパスを!


 セレンストは私がどこに行くにもついてきた。

 ねえさん、ねえさん、と慕ってくれている。

 いや、慕って、というよりも、崇拝していた。そう、愛というより、崇拝。

 出会ってすぐに目の前で義妹をぶん殴ったからね。

 もしかして、セレンストも義妹の「ずるいずるい」攻撃を受けていたのかしら。

 鼻血をまき散らして吹っ飛ぶ義妹を驚いた顔で見た後、私を振り返った顔は頬が紅潮し、瞳はキラキラと輝いていた。


 うん。やっぱこいつヤベーやつだわ。


 セレンストに対抗するためには、私がセレンスト以上のサイコパスになる必要がある。


 セレンストが庭で蝶の翅をむしっているのを見つけたらその蝶を奪って踏みつける。(チョウチョさんごめんなさい!)

 セレンストが子犬をいじめているのを見つけたらその子犬の首をつかみ、門の外に投げ飛ばす。(ワンちゃん逃げて!)


 サイコパスは自分の思い通りに人をコントロールしようとするらしいから、セレンストの言葉に惑わされないようセレンストが喋ろうとするのにかぶせて私から喋りまくる。精神支配などさせるものですか!


 今は力でも勝てるけど、もう少し大きくなったら男と女。腕力ではどうしても勝てなくなる。だから私は日々魔法の鍛錬に励んだ。


 セレンストに強くなられては困るので、「僕も魔法を覚えたい」と言うセレンストの邪魔をするために、「だったら見て覚えなさい!」と言って魔法の的にしてやった。もちろん当てるつもりはないわよ? ただ至近距離にガンガン魔法を叩き込むだけ。


 使用人たちはそんな姿に恐れおののき、誰一人私に逆らう者はいない。


 一方セレンストはさすがというか、木の棒に括り付けられて至近距離に攻撃魔法を何発も撃ち込まれ、余波で体のあちこちから血を流しているというのに、その顔は恍惚として嬉しそうだ。


 ……。

 なんかサイコパスというよりドMになってきた気がするけど、気のせいよね。


 とにかく! 油断は禁物。男の子はすぐに大きくなるんだから。

 わたしは負けない。サイコパスに屈したりしない。

 監禁ENDなんて、御免こうむる!




ーーーー◇ーーーー◇ーーーー


~調教済み?~




 十五歳になり、学園への入学の歳となる。

 セレンストも、私と一緒に入学する。


 学園は入学が十五歳からというのはあくまで目安で、必要な学力があれば早く入学できるし、学園に通う期間は三年だが、定められた教育課程を修めれば、一、二年での卒業も可能である。

 そんなわけで、セレンストは一歳年下だが私と一緒に勉強してきたせいか、一年早く学園に入学することになった。


「ねえさんに悪い虫がついたら大変だからね」


 セレンストは私にべったりだ。私に言い寄る男が消されないよう祈るばかりである。


「ああ、こんなに男がいる所にねえさんを通わせるなんて耐えられないよ。いっそどこかに閉じ込めて……ぎゃっ!」


 不穏な言葉が聞こえたので渾身の力で頭をチョップしてやった。


「痛いよねえさん」


 セレンストは成長してイケメン細マッチョに成長した。魔法の成績も、私には及ばないが他の生徒に比べればかなり優れている。背は私をゆうに超え、腕力ならもう、負けるかもしれない。

 体も魔法も鍛えようとするのを邪魔してきたはずなのに! 解せぬ。

 だから私はもっともっと鍛えなければならない。体も、魔法も。これからも、ストイックに極めていく。

 おかげで脱いだら、ちょっとすごいわよ?


 魔法なら、一年生ながらすでに学園最強と自負している。

 でも、まだまだ。なにせ私が相手にしているのはこの世界、そのものなのだから。



「レイア、これ、王宮からお前宛に届いたのだが」

「王宮?」


 休日の昼下がり。部屋でくつろいでいると、お父様がオドオドしながら私に封書を渡してくる。

 そんなに怯えなくていいのに。

 セレンスト以外の家族や使用人たちから私はすっかりモンスター扱いされている。


 それにしても王宮から私になんの用かしら。もしかして、スカウト? だったら嬉しいな!

 王宮勤めが決まればこんな家、速攻出てってやりますわ!

 どれどれ、内容は……、


 これは、王宮への召喚状?


 スカウト、じゃなさそうね。私、何もしてないわよ、ね?

 なんの用件なのかわからないけれど急いで着替えをすませ、迎えの馬車に乗って王宮に向かう。

 到着して案内されたのは、謁見の間。


 謁見って、王様と会うってことよね。


 なんかとってもイヤーな予感、しかしないんだけど。




ーーーー◇ーーーー◇ーーーー


~ドアマットヒロインの向かう先~




「二百年前に討伐され、聖女によって封印された邪神が今再び、復活しようとしている!」


 おぅふ。

 またなんか世界が混ざってる? 別の小説? それともゲーム?

 ドアマットヒロインものにもサイコパス義弟ものにも、邪神なんか出てこなかったわよねぇ!


 私から少し離れたところに立つ、いかにも使命を帯びてます! って顔の少年と、神官風の出で立ちの少女。


 あー、そういう展開ですか。

 学園だから、ピンク髪のヒロインとか悪役令嬢とか婚約破棄とか、あるんじゃないかなーなんて、ちょこーっと思ったりしていたのだけど、なるほどなるほど。

 ざまぁものじゃなくて、勇者ものでしたかー。


「そなたの魔術は我が国が誇る魔術師を凌ぐほどだと聞いておる」


 ドアマットヒロインを虐げる家族や使用人から身を守るために。

 サイコパス義弟に監禁されないよう、義弟を超える力を手に入れるために。

 鍛えてきた。修練を積んだ。誰にも、運命にも、私は屈しない。

 私は常に上を目指してきた。


「どうかその力、我が国を、いや、世界を救うために貸してはくれぬか」


 それが世界を救うほどの力となっていた。とでも、いうのだろうか。

 くっ、鍛えすぎたか……。


 で、私が勇者パーティーの仲間に、と。


 いやいやいや、私ドアマットヒロインなんですけどぉ!

 ジャンルが違うんですけどぉ!


「神より選ばれし勇者リェーンと聖女シルフィール、そしてその仲間たちとともに、旅立て、レイア・サウザントよ!」


 王命だわ。王命でちゃった。断れないやつ!



 でも冒険、か。考えようによっては悪くないんじゃないかしら。

 これぞ異世界転生! って感じじゃない?

 いいでしょう。行ってやろうじゃないの。世界の果てだろうと、どこへでも。


 冒険、してやろうじゃない!


 待ってなさい邪神!

 私がさくっと倒してさしあげてよ!


 セレンストもさんざんごねてついてくるみたいだけど、まあいいわ。

 私の魔法に耐えられるのだから、弾除けくらいにはなるでしょう。



 こうして、私は勇者とともに旅立った。

 はたして、無事邪神を倒すことができるのか。


 ドアマットヒロイン、レイア・サウザントの冒険が今はじまる!





 …………、ねぇ、私の物語はいったい、どこに向かおうとしているの?





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