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神の過ち、すなわち草むしりをしたこと〜真面目に仕事をしていたはずの新人神様ですが、なぜか邪神として崇められていきます〜  作者: 波白もも


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第1話 草むしってたらやらかしたらしい

「うわ〜、世界ってこんなに雑草が生えてるもんなの?」


 人間の世界とやらに降り立って、まず私が感じたことといえば、なにもかもがでかく見えることだ。惑星を眺めていた時には指先ぐらいの大きさだった樹木も、空も、動物も、すべてが私よりも高い。


 靴底で土の感触を味わいながら、私は森と呼ばれた場所の中を突き進む。奥に行けば行くほど、空に浮かんだ光が遮られていった。

 ふと、立ち止まってぐるりと周囲を見渡してみれば、そこは一面の緑が広がっていた。


「これ、全部が雑草とか言わないよね? ……あ、そういえば先輩から図鑑を貰ってたんだった」


 そのことを思い出して、私は背中に背負っていた鞄から一冊の本を取り出す。


「どれどれ……。ふむ、抜くべき草にはちゃんと決まりがあると」


 図鑑によると、草には良性と悪性の二種類が存在するとのこと。

 周囲に広がっている緑色の物は良性。つまり、抜く必要はないって書いてある。

 良かった……。この辺り一帯にある草をむしれと言われたらどうしようかと。


 で、肝心の私が抜く必要のある悪性の草とは。

 ——これが、神様として働き始めた私には難解だったのだ。


「紫色の物はすぐさま抜き取る必要があって……。あー、なんか小難しいことがたくさん……」


 覚えることがいっぱいで、頭がパンクしそう。

 説明を読んだだけで、疲労がドッと身体に押し寄せてくる。両手で本を握りしめながら、私は大きく息を吐いた。


 どうしてこれらが抜く必要性があるかというと、世界に悪影響を及ぼすから。

 内容としては、こうだ。


 紫色の植物には、毒がある。これを放置すると、土が腐敗していって、魔物が生まれるらしい。

 魔物とは——。


「よし、なんとなくわかった!」


 とりあえず、紫色の物を見つけて抜けばいいということは理解したので、読むのを止めた。

 図鑑の内容は、先輩から説明を聞いた時と同じ気がしたし。

 わからなくなった時だけ聞けば大丈夫そう!


「この私、シャトルーズの初陣として気合いを入れるぞ〜!」


 私は両手を握りしめて、身体にグッと力を入れた。


 早速、森の中を見渡してみずみずしい緑色に紛れた紫色を探す。


 あれ、ちゃんと仕事あるよね?

 なんて不安を抱き始めた頃に、それを見つけた。


「うへ〜。ここら辺の草、全部抜かないといけないの?」


 ちゃんとあった。

 一畳ほどに広がる紫色の草。思っていたよりも仕事量が多そうだし、重労働な予感がプンプンする。


 まあ、これも仕事だし。

 地道にがんばるしかなさそう、と私は紫色の草を思いっきり握りしめた。

 膝丈付近まで伸びていたそれは、ただ引っ張るだけでは引き抜けなかった。ずいぶんと育ってしまっているので、土の中で根っこがしがみついているのだろう。

 なので、グリグリと弄るように草を回していくと、ようやく最初の一本目を抜くことに成功した。


「……どうしよう。ひとつ抜くだけで、めちゃくちゃ疲れるんだけど」


 正直、あまく見ていた。この草むしりという仕事を。

 新人に割り当てられる内容だし、しかも下積みは皆通る道って言ってたし。

 森の中でひとり、私は神様の仕事をこれからもこなしていけるのか不安になった。


「うーん……。先輩は、こういうのは魔法を使ってちょちょいと終わらせちゃうらしいけど……」


 私には、まだ経験が足りない。

 だから同じようにやろうとしたところで、魔法の使い方をそもそも知らないのだ。

 まだ教わってないし。


 私は周囲に目を向けて、なにか楽に行える良い方法はないかと探る。

 そして。


「この、でかい草だっ! なんか黒いモヤが出てるし、これを処理したら一気にバーって紫が消えていくんだよっ!」


 そうと決まれば、次に抜くのはこいつにしよう。

 このよくわからない黒いモヤも、きっとこの地帯のボスってことを示してるんだよね。

 私は草を握りしめる。膝丈くらいまであるそれは、当然引っ張っても抜けなかった。


 さっそく困ってしまった。困った時には、先輩に聞くように言われていたんだったか。

 んー、でも仕事ができないと思われるのは嫌だし。


 神様の世界に戻るには、仕事に行くにあたって支給された小さな石ころでゲートを開かなくてはならないのだ。これが本当に面倒なので、私はできれば使いたくなかった。

 でも、仕方ないかと鞄を開いたその時。

 支給品として、鎌を渡されていたんだった。大きすぎて切れない草は、これで切るようにって。


 ……あ、これでやればいいんだ。


「良かった。面倒なことは、できれば避けたいもんね〜」


 私は鎌を片手に、草を握りしめた。

 ちなみに、紫色の草には毒があると書いてあったけれど。一応、神様である私にはそれは効かない。

 なぜなら、それはこの世界を生きる物にとって有害なだけであり、私には関係ないことだからだ。


 余談は置いておくとして。


「こ、この草、思ったよりも固い……!?」


 見た目は植物のくせして、凄い切りごたえがある。紙だと思って舐めてかかったら、実は鉄でしたといった具合の驚きがある。

 というか、音が普通の草と違う。研修だともっと柔らかい音してたのに、今はゴリゴリ言ってるんですが。

 だけど、もう少しで切れそう!


 ザシュ、と鎌が空中を切り裂いて草が分離される。


「ふう……っ。これで、辺りの草も枯れていくはず」


 結果は、予想以上だった。

 私が切った草の断片から噴射する黒いモヤは、辺りの紫色に染まった草を枯れさせていき……。そして、大気中に分散していった。

 周囲を見渡せば、なんと草は枯れているではないか!


「良かった良かった。一件落着、っと」


 ドサッと、背後で音がした。

 振り返ると、大きな草が生えていた場所にひとりの男が倒れていた。……でも、なんか肌が紫色で不健康そうだ。


「だ、大丈夫ですか?」

「ここ、は……。問おう、我の封印を解いたのは貴様か?」

「封印? なにを言っているのかはわかりませんが、とりあえず草の処理はしておきました」

「草の処理だと……?」

「はい。紫色の草はこの世界の人にとって毒なので、お片付けしないと生きていけないんです」


 男の人は、なぜか口を開いて絶句していた。


「貴様は、そんな理由で封印を解いたと?」


 どうしよう、言っていることの意味が理解できない。

 今更だけど、この人どこから来たんだろう。突然、後ろに現れたよね?

 まあ、世界の住人は蔑ろにできないし。


「はい! それが仕事ですから」


 男の人が、本日二度目の絶句をしていた。


「あ、私は仕事があるので行きますね」


 サボっていると怒られてしまうので、私は早々に次のむしり先を探しに行くことにした。


 そうして森の中での仕事を終えた私は、神様の世界に帰還した。

 思っていたよりも体力を使う仕事内容だったので、報告をしたらさっさと休もうと思っていたのだけど……。

 先輩は、なぜか口を開けたまま固まってしまって。


「お前、あの草を抜いたのかあ——ッ!?」


 めちゃくちゃ怒られたのであった。

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