第14話 世界の外側
――音が、なかった。
正確には、
音という概念そのものが希薄だった。
目を開けているのか、閉じているのかも分からない。
上下も、前後も、はっきりしない。
それでも俺は、ここに「いる」。
「……生きてる、のか?」
声に出したつもりだったが、
音として返ってきた実感はなかった。
代わりに、
意味だけが、遅れて届く。
――存在は継続中。
――因果接続:未確定。
「相変わらず、分かりにくいな……」
皮肉を言ってみる。
だが笑えなかった。
身体の感覚が、ところどころ欠けている。
右手があることは分かるが、
“重さ”がない。
歩こうとすると、
距離の方が後から付いてくる。
ここは、世界じゃない。
だが、完全な無でもない。
「……評価外層、ってやつか」
誰に教えられたわけでもないのに、
その言葉だけは、自然と浮かんだ。
世界に採用されなかったもの。
記録されなかった存在。
選ばれなかった因果。
それらが、
まとめて放り込まれる場所。
ふと、視界の端に“光”が見えた。
いや、光というより――
輪郭だ。
近づくと、それが何か分かる。
失敗した討伐。
未採用になった魔法理論。
選ばれなかった未来。
どれも、ぼんやりとした線で描かれている。
「……見えるな」
成功は見えない。
正史は霧の向こうだ。
だが失敗だけは、
やけに鮮明だった。
「皮肉なもんだ」
世界にいた頃は、
失敗は“消されるもの”だった。
だがここでは、
失敗だけが残っている。
「……リーネ」
名前を呼んだ瞬間、
胸の奥が、微かに痛んだ。
顔が、はっきり思い出せない。
声も、輪郭が曖昧だ。
それでも――
名前だけは、残っている。
「……記録、してくれてるのか」
その瞬間だった。
遠くで、
“音”がした。
かすかだが、確かに。
紙をめくる音。
ペンが走る音。
この場所に、
本来あるはずのない音。
「……来たか」
失敗因果の一つが、
わずかに揺れた。
線が、こちらへ伸びてくる。
「呼ばれた……?」
意識が、引っ張られる。
世界の外側から、
世界の内側へ。
完全な帰還じゃない。
一時的な接続。
それでも――
十分だった。
「……やれやれ」
俺は、薄くなった自分の輪郭を見下ろす。
「今度は、
どんな失敗だ?」
次の瞬間、
視界が――
“意味のある色”を取り戻した。
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