表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

第10話 世界の判断

世界評価機構・中央制御室。


そこは、人の声よりも水晶の共鳴音が支配する場所だった。

無数の評価端末が円形に並び、天井には主評価核オムニスが浮かんでいる。


「結論を出そう」


低い声が、室内に響いた。


発言したのは、監査部長だった。

人間だが、その言葉はすでに“世界の代弁”に近い。


「評価外指定者――識別不能個体」

「失敗記録庁において、複数の因果再接続を確認」


水晶に映し出される映像。

書き換わった記録。

揺らぐ正史。


「問題は明確だ」


別の評価官が続ける。


「彼は、評価制度の外から因果に触れている」

「これは制度の想定外であり、

存在そのものが“欠陥”だ」


「欠陥、か」


誰かが呟いた。


監査部長は淡々と言葉を重ねる。


「評価外因果は、本来“影響力ゼロ”でなければならない」

「だが彼は、失敗因果を通じて

世界の選択肢を増やしている」


それは、賞賛ではない。

危険認定だ。


「対処案は?」


沈黙のあと、提示された選択肢は三つ。


即時消去(因果断絶)


強制再評価(人格・記憶の再構成)


隔離(影響範囲の固定)


「一つ目は却下だ」


監査部長が言う。


「完全消去は、逆に因果反動が大きすぎる」


「二つ目は?」


「失敗例が多い」

「人格崩壊率、七割」


静かなどよめき。


「では、三つ目」


隔離。


世界から切り離し、

影響を及ぼさない場所に封じる。


「失敗記録庁を、封鎖する」


その言葉が、決定打だった。


「同庁は元々、不要部署」

「この機会に整理するのが合理的だ」


合理的。

それが、この世界の最強の呪文だった。


「英雄アルトリウスは?」


監査部長が問いかける。


「彼女は……」

「揺らいでいます」


一瞬、沈黙。


「だがまだ、“正史側”だ」


「なら問題ない」


監査部長は断じた。


「封鎖を決定する」

「三日後、失敗記録庁を正式に解体」

「評価外指定者は、隔離対象とする」


水晶が、強く光った。


世界は、判断した。


その頃、失敗記録庁。


リーネは、嫌な予感を覚えていた。


ペンを持つ手が、微かに震える。


「……来ます」


「だろうな」


彼は、静かに答えた。


「世界は、俺を放っておかない」


「……逃げますか?」


その問いは、

記録官としてではなく、

一人の人間としてのものだった。


彼は、少し考えてから言った。


「逃げてもいい」

「でも――」


書架を見回す。


積み上げられた失敗。

捨てられた人生。


「ここを捨てたら、

誰がこいつらを覚える?」


リーネは、唇を噛みしめた。


「……私が、記録します」


「一人でか?」


「はい」


即答だった。


彼は、苦笑する。


「重すぎる役目だ」


「慣れています」


一拍置いて、リーネは言った。


「それに……」

「あなたが消えるより、ずっといい」


沈黙。


彼は、ゆっくりと彼女を見る。


「……俺が、全部巻き込むぞ」


「知っています」


「それでも?」


「それでもです」


その返事は、

もう“恋未満”ではなかった。


そのとき、外から足音がした。


複数。

規則正しい。


「来たな」


彼は、息を吐く。


「世界が、俺を“処理”しに」


リーネは、ペンを握り直した。


「……記録開始」


失敗記録庁。


世界が捨てた場所。


だが今ここは――

世界と戦うための、最前線になろうとしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ