07_ギルドへ行こう
「ふわぁ~~あ」
朝からなんかうるさいなあ。今日も休みの日なんだからゆっくり寝ててもいいのに。
「マリィもはやく起きて支度しよー」
ん?支度?
「そうだ!今日はギルドへ行くんだ!」
ガバッっと起きてすぐ支度、といっても普段通り顔洗ってご飯を食べて歯磨きして、そのくらいだ。
今日は、ついていくだけ。
もちろんこの年齢から冒険者登録などできるわけもないので、本当に見学だけらしい。ということで持ち物の支度とかはよく考えると特になかった。だが、近所以外の外に出るということでワクワク感、冒険感がすごい。
「やる気があるようなので許可しますが、ガットルン先生の言うことをちゃんと聞いて勝手な行動は絶対にしないようにね!特にマリィ!聞いてますか!」
「はーい、はいはいはいはい」
「絶対、聞いてないわね、はいは一回!いいわね」
「やっぱり、うかつに連れて行ってやることって言ったのはまずかったか・・・」
「じゃあ、れっつごー」
マリィがそういってさっそく走り出した。
ベイリャ達も続いて一斉に走り出す。
「こらー!お前ら行先も道も知らないだろうが!!」
ガットルンに怒られながら道を進む。
もうここにきて1年以上がたっているが、近所以外はわからない。
子供の行動範囲、特に孤児院の中だけで暮らしている私たちの世界などとても狭いのだ。
マリィはこの街に来る際に外を見ているがそれもただ移動しただけだったし、しっかり見るのはこれが初めてになる。
やはり、孤児院同様にどの建物も基本サイズが大きい。
道路はどうかというと裏路地はそうでもないが大通りに近いほど舗装がされている。メインストリートまでくるとアスファルトではないだろうが、なにかそういうもので舗装されているようだ。
前世の世界の濃いい青ではなく灰色で舗装されている。
大きい通りに出ると色々お店も出ているし、武器屋や道具屋のような販売店が多いのも異世界感がある。
「おー、こっちの通りの方までは初めてきたなあ。大人もいっぱいいるなあ。」
「はしゃいで勝手に動くんじゃないぞ、大きい通りは車の往来も多いんだから絶対に飛び出すなよ。」
車といわれているのは、いわゆる馬車だ。
ただ、引いているのが馬かというと馬はむしろ少数で鳥っぽいやつであったり、カバっぽいやつであったり色々だ。その中でも特に目を引くのが乗合馬車だ。
いわゆるバスのようなサイズ感で引いている動物もめちゃくちゃ大きいアルパカ?のようなやつが動力になっているようだ。
「さすがに獣人とかはいないのかー」
「この辺だと滅多に見ることはないな、うちの国はほぼ人種で構成されてるし」
「え!獣人って存在するの!?」
「ああ、見たことなかったか?この街にも何人かいるぞ。」
おおお、テンションあがる!獣人!エルフ!ドワーフ!
既に周りの人も地球と比べて髪の色がかなりカラフルでバリエーションがあるから異世界感はあるけど、別種族ってなんか心躍る!!
「っていうことはエルフやドワーフもいるの!?」
「大陸の方の種族だな、見たことはないが・・・というかどこで知ったんだ?親からきいたりしていたのか?」
「大陸ってことはこっちにはいないのか~残念。いつか冒険して大陸行くぞ!」
「お~」
冒険者になる気のベイリャも相槌をうちながらギルドまでの街並みを歩いていく。
「ここがギルドだ」
孤児院から歩いて既に30分以上、結構あるいてようやくついた。
子供の足とはいえ、そこまでちんたら歩いたわけではないので、孤児院からの距離だとだいたい3kmはあるかな。
「おおー、ってなんか普通にでかいだけの建物だな」
建物は周辺より一段大きい4階建ての箱型だ。
非常に大きな玄関口に“トラクーンギルド西新橋支店”と書かれている。
トラクーンというのは知っている、この街の名前だ。支店ということは街にいくつかあるのだろうか。
街の中で孤児院の場所がどこなのかはわからないが、間違いなく中心地にあるわけなどなく端に近いほうなのだろう、異世界の定番である城壁都市とかはなく普通に中心街から広がっている都市であるようで、どこが端なのかはわからないが・・。
まあ、場所なんてどうでもいい。
それよりギルドだ!ここは入るとまず、お約束の「お前らみたいなガキが来るところじゃねぇぞ」ってチンピラ雑魚冒険者に絡まれるんだ!
「ほら、入るぞ」
「ファーーー、マリイがトリップしてる。」
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、子供たちのちょっとした見学です。お邪魔します。」
「ああ、孤児院の、わかりました~」
入口に案内係?っぽい人がいたが案内はしてもらわずにガットルンが進んでいくのでついていく。
さあ、いよいよ荒くれどもが!!
「お前らが将来利用するのはここだ。ここで職の斡旋を受けられるぞ。」
そう言われてついた先は見覚えのある光景だった。
「これ、市役所じゃん」
「市役所?」
ハルトンが不思議そうに聞いてくるが、答えてもわからないだろうし無視だ。
2階にあるこのエリアはずらっとカウンターが並んでおり、上にはハローギルドと書かれている。
ハローワークかよ。
ギルドってならず者の冒険者が闊歩する場所じゃなかったのかよ。
「冒険者全然いないね」
「ここは一般の職業斡旋だからな」
その後、一通りガットルンが説明をしてくれた。
曰く、ギルドは国が運営している公共機関であり、労働とそこに関わる税を取り扱っているらしい。
求人なども行っているし、事業をしているものもここに届け出をして、税金も納めるというシステムのようだ。
ただ、ここに出てくる求人は最低限のものが多く、いい職に就きたかったら自分で探してくるというのが普通らしい。
だから上の子たちは時間を見つけては職探しして回ってるっていってたわけだ。
受付も受付嬢ではなく普通に眼鏡のおじさんがやっていた。こういうところは夢がないな。
「冒険者ギルドの方にいきたい!」
?。ベイリャがわけのわからんことを言い出した。
「ここがギルドだろ?」
「冒険者は別のはず!そうだよね、先生」
「ああ、冒険者ギルドは一階の奥だが、子供を連れ行くのはな・・・」
「ほんとか!ならいきたい!」
「いきたい!」
「はぁ。マジで大人しくしてるんだぞ。下級冒険者は気性の荒いやつもいるんだからな。」
そういうとしぶしぶといった感じでガットルンは1階へ向かう階段を降りる。
そのまま玄関前を通ってさっきとは逆の方向へ、一回外に出てまた別の大きな入口に来た。
「こっちが冒険者ギルドだ」
「おぉー」
同じ建物だがこっちの入り口は扉がめっちゃでかい、外からも見えているがいわゆる吹き抜けのような形で天井がとても高いホールになっているようだ。
その奥に受付が見える。
「よしっ!一番乗りだぁー!」
「こら、まて!」
マリィは何の躊躇もなく扉を開けて走りこんだ。
「でけぇー」
奥に受付カウンターが見え、受付嬢が2人いる。横の方にはカフェテラスのような場所が併設されているが雰囲気は酒場だ。
ドンッ
「あぁん?なんだお前は、ここはガキが来るとこじゃねぇんだぞ」
「キタキタキタ―!」
見た目がどう見ても強面のいかつい冒険者っぽい恰好をして肩パッドまでつけた二人組がマリィに向かってガンをつけてきた。
思わずスーパーテンプレイベントに心の声が出てしまった。
「きたってなんだよ、き、気持ちわりぃガキだな。」
「う、うちの子どもたちがすいません。すいません。」
ニヤニヤ、平謝りを続けるガットルンの横でマリィはにたにた気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「こ、こいつ、何笑ってやがんだ!」
「おう!、勝負か!冒険者同士の勝負で表へ出ろ!ってやつか!ギルド内のいざこざはご法度だから外へ出ろってあれか!」
「なに、いってんだこいつ・・・冒険者は揉めたらまず話し合いだろ」
チンピラがすごいまともなこと言い出してあんぐりみていたら、ガットルンから拳骨をくらった。
「おい、お前ら、どうした、何かあったか?」
「あ、ギルマス!」
今度はギルマスだと!どんなやつだ!
「なんだぁ、かわいいお客さんだな。」
「おっさん、ギルマスっぽい!」
ギルマスも見た目はちゃんといかつい筋肉もりもりで眼帯のおっさんだった。
「嬢ちゃん、ありがとよ、俺はここのギルマスのマスダってもんだ。」
「おれがギルマスダってか!ぷぷ!」
「こ、こらー!すいませんすいません。孤児院の見学なんです」
「なかなか度胸のある嬢ちゃんだ。見込み・・あるな・・」
ギルマスダのおっさんとチンピラが完全に引いていた。
「で、なんだ冒険者志望の見学でもしてたのか?」
「私!冒険者志望!」
「おう、そうかそうか、未来の冒険者、歓迎するぜ。ほーら、お菓子をやろう。」
ベイリャが元気よく手を挙げて、撫でられた末に餌付けされてる。
「それじゃ、見学は好きにしときな。」
「ほんとすいません。」
ギルマスダはそのまま受付の裏に行ってしまって、チンピラと私たちが残された。
「それじゃ、案内しましょうか?」
「やっぱ親切なんかーい!!」
そのあと、チンピラ二人組に軽くギルド内を案内してもらった。
「俺はベイス」「ナッツだ」
「はいはーい!私マリィ!」「ベイリャよ!」「ハルトン!」「ファーーー・・・・・」
「いやお前も名乗れよ!」
「どこか見たいところはあるか?」
「冒険者ってどうやったらなれるんですか!」
ベイリャが二人に色々聞いている。
こいつは本気で冒険者になる気だな。危ない仕事だからやめときゃいいのに。
でも、そう考えると私も何か仕事しなきゃいけなくなるんだよな。
うううむ、子供だから今は遊ぶのが仕事だけど、ここは弱肉強食の異世界だから、早めに職業選択はしないとなあ。
でも魔物と戦うとか、実入りはよくても危なすぎる。
前世だと猛獣の飼育員ですらすごい安全対策を重ねてたし、そういうのなしで狩りをするわけだろ、魔法があるっていったって限界はある。
銃を持っていれば猛獣が怖くないか、絶対に事故らないかというとそうじゃない。
やっぱ私は無理だな、そもそも水系の魔法で倒すの難しいだろ、なんかファンタジー定番の燃えてるトカゲみたいなのだったら水で消火して倒せるのかもだけど、それだけ専門で狩ってます、みたいな冒険者なんていないだろうしな。
となると何がやりたいんだろ、前みたいな事務職って、いやいやパソコンもないここでそもそも事務職がどこまであるのかわからないしなあ。
とりあえず手に職をつけるのが安パイか?生活必需品のパン屋とか服屋とかが無難かなあ。
そんなことを考えていると話が終わったのか移動しだした。
「マリィ、いくよー」
ハルトンも興味があるのかせかしてくる。
そしてついた先は中庭?のような感じだが、ただっぴろいスペースだ。
「ここは修練場だ。ここで駆け出しはみっちり訓練されるぞ」
「マリィ!勝負よ!」
ベイリャがその辺においてあった木剣ボックスから一本取って渡してきた。
「ヨシ!いっちょ稽古つけてやるぜ!」
「とーりゃ!」
「コラ!お前ら!見学だけだっっていったろ!!!」
ペシペシペシ、結局身体能力で圧倒的に勝るマリィが力であっさり勝った。
「おい、ナッツ、あの嬢ちゃん、なんか強くねぇか?」
「明らかにレベル高そうだな。素質あるかも」
「すいません。はやく別の場所お願いします。」
その後は
「これが依頼掲示板だ」
「なんか大した依頼ないね」
「もっとドラゴン討伐とかないの?」
「薬草採取とか、鉱石採取しかないじゃん」
「いやいや、冒険者の大事な仕事なんだぞ。それに討伐系は強い冒険者しか受けれないからギルド側から指名されるんだ、掲示板にはほぼ出ることはない。」
「ドラゴンとかおとぎ話だぜ。さっさと子供卒業するんだな。」
「よし!これにする!」
「マリィ!お前は冒険者でもないだろ!見学だ!見学!返しなさい、ってアンデッド集団の討伐!?近隣でこんな依頼が!?」
「ああ、それは塩漬け依頼ってやつです。もう1年くらいは放置されてますね。街から結構離れたところに発生しているみたいですが、特に縄張りから出ることもないし安めの金額で市から設定だけされて情報共有されてるんですわ。中央本店にも同じのがありますが誰もやってませんよ。」
「そういうのってどうするの?」
「だいたいはずっと放置されて街に被害がでそうだとわかったら金額があがるか、諸国を回っているような強い冒険者がたまたま来た場合はやってくれることがあるぞ」
「最後にここがカフェテラスだ」
「冒険者ギルドといったら酒場じゃないんかーい!!」
「仕事に酒飲んでいくやつがあるかよ。ここはミーティングしたり、反省会したり、食堂としても使えるスペースだ。」
なんか夢崩れるなあ。
「で、聞いてなかったけど、あんたらのランクっていくつなの?」
「俺たちはFランだ!」
「おぉ~~~?」
こいつらFランだったのかよ、前世の大学だと下っ端だぞ、なんかあまりにもどや顔でいうからおおーとか言っちゃったけど、Aから始まっているとすると、やっぱり下っ端だよな。
「だったら魔物狩りもできるのね!」
「ベイリャ、Fランってすごいのか?雑魚そうだけど」
「おいおい失礼な嬢ちゃんだな。Fランっていうのは駆け出しを卒業して魔物狩りもできる中堅層だぜ、この西新橋支店だとFまでしかいねぇ、中央のトラクーン本店にはEもいるがな。」
結構冒険者業界もシビアらしい。
「それじゃ、もういいよな?帰るぞ、ベイスさん、ナッツさん、ありがとうございました。ほら、お前たちもお礼をいいなさい」
「あざっしたー!」
「おうよ、冒険者仲間には孤児だったやつもいるからな、お前らも早く大きくなれよ」
「マスダの旦那に報告しなきゃな。」
「ああ、あの動きは間違いなく有望株だ、Eランク、いや、年齢を考えたらもしかするとDランクも狙えそうな逸材だ。」
そんなこんなでマリィのいないところで神童の噂は広まりつつあるのであった。
キャラクター紹介
マスダ=ラッシー(55歳)
トラクーンギルド西新橋支店冒険者ギルドマスター
性別:男
種族:人間
レベル:Lv18
職業レベル:剣士Lv8、他
魔法、スキル:片手剣修練 Lv5(パッシブスキル:効果 片手剣装備時に能力上昇補正)、シールドバッシュLv2(アクティブスキル:効果 シールドでの反撃が強攻撃となる)
装備:使い込んだ片手剣
仕事:ギルドマスター
冒険者ギルドの形態は国によって異なるが概ね国の出先機関であるギルドの傘下になっている。
この場合、ギルドと冒険者ギルド両方を束ねているものが各支店の支店長と呼ばれている。これに対し冒険者ギルド部分の長はギルドマスターという呼称でよばれ、元冒険者がなっていることが多い。
トラクーンには中央本店以外に西新橋支店、本町支店の3店体制となっている。特に冒険者ギルドについては本店に集約されている傾向が強い。マスダも元冒険者でありEランクまで到達しているパーティリーダーだった。




