03_神童爆誕
チュンチュンチュン
窓から日差しが差し込んでいる
昨日は前世の記憶を思い出して、色々とごちゃごちゃになった頭を整理していたら寝落ちしていた。
結局予備部屋兼医務室のベッドでそのまま朝までコースさせてもらった。
普段は狭い2段ベッドなので、むしろこっちの方が寝心地はよく、スッキリした。さっそく部屋を出て広間に向かうと既にほとんどの孤児たちが起床済のようだ。
水は上の貯水槽にためられている。
中にはクリエイトウォーターの魔法が封じられた魔石付の道具がおいてあり、それで真水が供給される仕組みだ。
クリエイトウォーターは魔法使いのジョブについていなくても使える一般魔法らしい。両親も使っていたし、なんなら孤児院の子どもでも卒業が近い子供は使えるものもいる。
今までは特に考えることもなく、この状況が普通だと思っていたのだが改めて考えてみると何もないところから水を生み出すって意味わからなくない!?まあファンタジー世界だし?魔法ってやつ?しっかしどういう原理なんだ?
これまで疑問に思わなかったことが気になりだすと次に考えることは簡単、魔法なら使ってみたい!
上級生が使えるのであれば自分も使えるようになるはずだ!そう思ってさっそく試してみた。
やり方は簡単だ、呪文を唱えればいいというのは使っている人を何度もみているので知っている、その呪文というのも古代言語とかではなくて、単純に魔法名を発声するだけというものだ。
こういうファンタジー世界のセオリーではイメージをすることが大事なはず、水のイメージだ、H2Oだ、この世界の現地人にはない化学の知識が自分にはある。
めちゃくちゃイメージできて発現するはずだ。想像しながら叫んだ。
「クリエイトウォーター!」
あっという間に目の前にバスケットボールほどの水球が生成されていく
「おおー!!!」
そしてそこからバケツをひっくり返したような勢いの水がマリィの顔に噴射された。
「朝からひどい目にあったわ」
「それは私の方だよ、マリィちゃーん」
「それはともかく、さすマリね!いつの間に魔法使えるようになったの!?上級生でも使える人少ないのに」
マリィの後ろに並んでいたシロッコはびしょ濡れになって、そこにすかさず隣で顔を洗っていたベイリャがさすマリしにきていた。
「話していないでさっさと拭きなさい。朝ごはんに遅れますよ。」
ヴェストリアから言われて、マリィもせっせと床を拭いている。
ただの被害者のはずのシロッコも一緒に拭いてくれている。なんかいいやつだな。
一方でヴェストリアは内心驚いていた。
クリエイト系の魔法はたしかに魔法職でなくとも使えるし、生活魔法と呼ばれる系統のもので低級のものであれば大人だと使える人間も多い。ただ、それは大人であれば、だ。
孤児院の院長になって20年以上、それなりの数の人間の成長を見守ってきた。
クリエイトウォーターは初歩の初歩、まさに低級魔法だ。それでも、これまで13才以下で使えた子は見たことがない。
それが、マリィはまだ7歳のはずだ。
このクソガキには天から与えられた才能があったのだ。
しかし、そうすると院長としては頭が痛い。
なにせ、このクソガキは日ごろから暴れたい放題、壊し放題だ。魔法なぞ覚えた暁には、ところかまわず打ちまくって加速度的に壊して回るに決まっている。
まだクリエイトウォーターならかわいいもので、同じ低級のエンチャントファイアなどの火種になるものを覚えられると、下手をしなくても孤児院が物理的になくなってしまうだろう。
「マリィは朝ごはんが終わったら、すぐに院長室にくるように!」
マリィはやってしまったと思った。院長室にこいということは例の罰ゲームなのだろう。
たしかに床にこぼしてしまったことは悪いと思うが、初めて魔法を使えたのだ、少しくらいほめてくれてもいいのにと思う。これは何とか回避せねば!
「院長先生、今日は洗濯当番の日だから無理だよ。じゃあね!」
「待ちなさい!」
いろいろ言われる前にダッシュだ!
「まだ、拭き終わってないのに・・・」
シロッコの悲しいつぶやきは誰にも拾われなかった。
「おっさき~」
マリィとベイリャが勢いよく食堂に入ってくる。
もちろん身体能力の高いマリィがこのかけっこは勝者だ。
朝食は、小さい子を除き、みんな一緒のものを食べる。マリィも手慣れた手つきで今日の配膳係から自分の分をもらう。
孤児院では起床して身支度をすると、すぐに朝ごはんだ、このため料理をするということはなくブロック状の堅いパンが定番メニューだ。
これに何の乳かは知らないが牛乳っぽいものがセットで出される。
この世界の牛乳はミルクの風味が濃厚でとてもうまい、堅いパンをちょっと浸して食べるのがコツだ。
「ん~、今日も朝から牛乳がうまい!」
「それ、牛じゃなくてスライムの乳だよ、スライム乳」
「ファーーーー」
いつの間にか横に座っていたハルトンが、この世界の常識を教えてくれた。
「スライムってオスとかメスの概念あったんだ・・・」
「昔、品種改良で作られたミルクパルーンっていうスライムがいるって聞いてるよ。みたことないけど。」
ファンタジー世界の定番雑魚モンスター、スライム。
パルーンというのは、この世界のスライムの中でも雑魚い種類のやつだ。
私も村から、このトラクーンの街にくる途中のフィールドで見かけたことはある。
ミルクタイプかどうかはよくわからないが、水の入ったハリのあるボール状の生き物だ。なぜ生き物だとわかるかというと、ちゃんと目があった。口はなかったけど。
朝食が終わった後の孤児院は忙しい時間だ。この朝の時間に当番制で仕事が割り振られている。
掃除、洗濯、料理、小さい子のお守りなどだ。
当番のない子は少しの自由時間の後に広間に集まって字と計算の勉強をさせられる。今日のマリィは先ほど宣言した通り洗濯当番だ。
離れにある洗濯場と呼ばれている区画に向かう。
井戸のある場所だ。
飲み水など、口に入る水は必ずクリエイトウォーターで作られた水でないと危ないという教育が徹底されている。
ただ、クリエイトウォーターは多くの人が使え、魔道具でも使えるとは言っても多少お金や労力がかかり、大量の水をだすのは大変なので、大量の水を使い、口に入る心配のない洗濯や植物、菜園の水やりに使うのは井戸水なのである。
洗濯機などないので、すごい大変かというと意外とそうではない、あるのだ、洗濯機が。
この洗濯機も魔道具であり、洗濯場には大きいたらいのような形で内側が蟻地獄のようなすり鉢状になっているこの世界の洗濯機が三つ並んでいる。
当番がやることは、ここに洗濯物を放り込むことと、井戸のポンプ(これも魔道具)を作動させ水をいれて、洗濯機のセンサー部に微量のマナを流してスイッチオンにするだけだ。
洗濯物は事前に汚れのひどさに仕分けされてだされているので、区分ごとに別々の洗濯機にいれる。
汚れがひどい区分のものは強で洗濯機をまわすのと、汚れが残ってそうであれば2回目をまわすだけだ。
ということで持ってきたカゴからぽいぽい洗濯物を放り込んでいく、一通りいれたところでポンプを起動させようとした一緒の当番の子の手をニヤニヤしながら止めた。
「シロッコォ、ちょっと待った!今日は私が水をいれてやるよ!」
「マリィちゃん。もしかして、またやるの?あぶないよぉ」
「からの~、クリエイトウォーター!」
私は学ぶ女だ。
もちろん、さっきと同じようにバスケットボール状の水球が目の前に生成された。あとは簡単だ。さっきは特に制御について何も考えていなかった。
魔法はイメージの世界だ。水を作ったのと同じように、イメージ、イメージ、下の洗濯機に向かって発射しろ!
そして再びマリィは顔からびしょ濡れになった。
「外とつながっている洗濯場で助かった~」
「マリィちゃん、はやく着替えてきなよ。」
「すぐ戻るからね~」
結局びしょ濡れになった。
何が悪かったのか。イメージは完璧だったはずなのに・・・
魔法とはやはり奥が深いものだなと思いながら自分の部屋に走る。着替えの孤児院服を自分の共有部屋からもってきて洗濯場に戻った。
ぽいぽいぽい
マリィは今着ている服をそのまま洗濯機に投げ込む。これで証拠は隠滅された。ふふん、とマリィは胸を張る。
「マリィちゃん、早く服きなよ、風邪ひくよ」
こんな屋外とつながった場所で着替えるなど淑女の風上にもおけないが、何分今は幼女だし孤児だ、このくらい何も問題がない。
その後は黙々と洗濯機を順番に回していく、洗濯が完了した衣類をカゴに入れて持っていけば今日の当番は終わりだ、干す係は別にいる。
「シロッコ、私が魔法使ったのは秘密だぞ!」
「え、魔法使えるのはすごいことだよ。なんで内緒にするの?」
「たしかに!じゃあ宣伝しといて!」
さっき怒られたので、なんとなく秘密にしないと思ったのだが、たしかにシロッコから言われた通り、これまでの孤児院の上級生をみると魔法を使えるようになったものは就職が優遇されるときいた。それであれば隠す必要はないだろう。
まあ、魔法が使えるのはイメージ能力があるからだ、これは前世の記憶をもって転生したからこそできる、いわば転生チートだ。みんながみんなできるものではない。
そうすると私は他の魔法も使えるのでは?そして、この世界では神童と呼ばれチヤホヤされることができるのでは!?さらにゆくゆくは宮廷魔導士とかで安泰生活、さらには知識無双で一攫千金して大金持ちか!?
マリィの妄想がとまらない。そんな感じでニヤニヤしながら午前中が終わった。
お昼ごはんは午前の食事当番とタニアが作っていて、当番が配膳する。
いつものメンバーでワイワイ食べていると先に食べ終わったヴェストリアが近づいてきた。
「マーリィ、院長室にきなさいといったでしょう、あなたは洗濯が終わったあと何をしていたのかしら、お昼の片づけ後は必ずきなさい、いいわね」
「もぐもぐ、ふぁあーい、もぐもぐ」
「食べながら喋らない!いいわね!」
「もぐもぐ、ふぁあーい、もぐもぐ」
ヴェストリアは怪訝な顔をして去っていく
「マリィ、また何やっちゃったの?」
「マリィは魔法を使えるようになったのよ!すごいでしょ!」
ハルトンの質問になぜかベイリャが答える。
「ほんと?ほんと?それってマジやばくない」
「マジやばいよね~」
「ファーーーー」
「てへへ、そんなすごいかなあ」
褒められるのはまあ悪くない。マリィは子分の評価を再度上方修正した。
「ヴェストリア先生!」
「どうしました、ガットルン先生」
食後の休息時間はまだ終わっていないが一足先に院長室に帰ろうとしていたヴェストリアは呼び止められた。
「ちょっとご相談が」
「何かしら」
「マリィの様子が少し、いや、結構おかしいんですよ。今日の午前勉強の時間なんですが、終始いやらしい笑みをニタニタ浮かべながら上の空でブツブツ言っていて、いつも通り叱ってやろうと問題を解かせたんです。どうせ口答えするだろうから、ちょっと難しい問題を出したのですが、授業もまともに聞いているとは思えないのに何故かスラスラ解いてしまったんです!さすがに正解だと叱れないので今度は絶対に解けない卒業年次の問題を出したのですが・・・」
「まさか、解いたの?」
「はい、私でも時間がかかりそうなものを選んだのですが、スラスラと・・・」
「う~~ん、実はね、朝もマリィは少しやらかしたのよね」
「何があったのですか?」
「あの子、朝の洗顔時にクリエイトウォーターで遊んでいたのよ」
「それは魔道具を保管庫から?」
「いや、それが、自分自身で詠唱していたのよね」
「そんなわけ、見間違いか魔道具をとっさに隠したのでは?さすがに6歳でクリエイトウォーターはできませんよ」
「たしかに、あのクソガキなら魔道具を勝手に持ち出しているかもしれないわね。盲点だったわ。この後、マリィを院長室に呼んでいるので、その前に在庫を確認しておくわね。実は頭がよくて悪知恵が働きだしたという線もあるから、ガツンと引き締めないとね。」
「しかし、頭がいいのは事実のようですので、ちょっと教育を考えないとですね。やたら身体能力も高いですし。」
ヴェストリアはその足で保管庫に向かった。
魔石のストックなどは鍵のかかる方の保管庫に入っているので鍵を開けて部屋に入る。
クリエイトウォーターの魔石ストックは常に2つ用意しているのだが、そこにはいつも通り2つあった。
本当に魔法を覚えたのかしら・・・まあ、この後、本人にきちんと確認だ。とヴェストリアは院長室にもどった。
お昼ごはんが終わってマリィの気持ちは沈んでいた。
さすがに二度目の呼び出しまで行かなければ恐らく夜に強制連行だろう。
お昼終わりの自由時間はいつもの4人で外に出て走り回っていたが、その時間ももう終わりだ。
孤児院の午後は小さい子はお昼寝だが、他の子どもたちはお仕事の時間だ。
10歳を超えれば外の仕事に駆り出されることもあるが、それまでは夕食の準備や雑事、内職などだ。
今日のマリィは特に当番になっていないので、内職のカゴ作りである。しかしながら先生からの呼び出しは確実にそれらより優先だ。
院長室の前にいき、恐る恐るドアをノックする。
「院長先生、マリィです。」
「入っていいわよ」
「今日は何のお呼び出しでしょうか」
罰を受けるのはいやなので、ひとまずは下手に出てみた。
「マリィ、あなた、ノックをしたり敬語を使ったり、そんなこともできたのね」
失礼なババアだなと思ったが、よく考えてみたら昨日、前世を思い出すまでは確かにマリィも他の3人と同じでただのガキだったわけだ。
こんな丁寧な言葉遣いなんてやったことなどなかった。何か言い訳しなくては!
「ハ、ハハッ、さ、最近ちょっと心を入れ替えようと思いまして、真面目に生きるのもいいかな~って、てへへ」
ヴェストリアはマリィをクソガキ扱いし、魔石持ち出し犯だと疑った自分を恥じた。
なんだ、本当はいい子なのではないか、こんな言葉遣いができるということは、ガットルンの言っていた通り本当に頭がよいのだろう。であれば、この才能をしっかり導くことが院長の務めなのではないか。
そして一つずつ状況を確認していく。
「マリィ、あなた、クリエイトウォーターはどうやって覚えたの?」
「前に上級生が使っているのを見たことがあったので、なんとなく真似っこしてみただけです」
「今日、ガットルン先生の授業で難しい問題も解いたらしいわね」
「あんな簡単な(小学生レベルの)問題、(大卒なら)誰でも解けますよ」
「そんなことないわ、あなたはやればできる子だったのね!感動しました」
「じゃあ、たとえば・・・」
そういってヴェストリアはいくつか本を出してきたが、難しい者でもせいぜい中学生レベルの問題だ。
当然だ。
ここの孤児院は14歳までだし、この世界の大都会ならまだしも、ここは少し外れた土地であるし文化レベルも決して高くない。国営の大学ならともかく孤児院にある本なんてしれいているのである。
もちろん全部その場で解いてやった。
「すごいわ。マリィ!」
ヴェストリアがやたら褒めるので調子にのってしまった。
「じゃあ、確認だけど本当にクリエイトウォーターしか、まだ覚えていないのね」
「はい、他の魔法は使ったことがありません。」
魔法はイメージの世界だ、魔法のことをしれば色々使えるであろうとは思うものの、今はクリエイトウォーターだけというの事実なので、そう答えつつ。
「でも、他の魔法だって、すぐ覚えれると思いますよ」
ニヤッと笑ってどや顔で答えてやった。
マリィは気づいていないが、二人だけでのマンツーマンの面談だと、まるで大人のようにあまりにしっかりした受け答えになっていた。
マリィはしっかりと前世の記憶が鮮明に残っているので大人の気分でありつつも、子供の肉体にひっぱられ、他に興味があると集中できないが、このように目の前に集中できる状況だと普通に大人がでてくる。これがいけなかった。
「では、マリィは明日から特別コースにします!ビシバシ指導しますから覚悟してくださいね!」
「はい!って、えっ!?」
「それから、魔法は勝手に使わないこと、いいわね!じゃあ午後の仕事に戻りなさい。」
ヴェストリアは昨日ババア呼ばわりされたことも忘れて、感動のあまり震えている。
これはまさに神童の誕生だ。
この孤児院で働き始めて以来の才能、冒険者、もしかすると果てはDランクや国の騎士など、すごいことになるかもしれない。
まだまだ孤児院で働くつもりではあるものの、院長は近いうちに交代するだろう。そうなったら院長としての最後に最高の出世頭を送り出してみたい。
そう思いながら明日のカリキュラム作成に取り組み始めるのであった。
キャラクター紹介
ヴェストリア=マルトント(62歳)
お喋り大好きババア
性別:女
種族:人間
レベル:Lv14
職業レベル:戦士Lv8、他
魔法、スキル:生活魔法(低級)、忍耐力向上Lv5(エンデュア、アクティブスキル:効果 外傷や精神の痛みに対し耐性アップ)、守りの型Lv5(ディフェンスパターン、アクティブスキル:効果 防御力アップ)、防御力向上Lv2(ディフェンスパワー、アクティブスキル:効果 防御力アップ)、外皮硬化Lv1(ハードスキン、アクティブスキル:効果 肌が固くなる)など
装備:院長の服
仕事:ローズガーデン孤児院 院長
ウィンクーンの生まれで、才能にも恵まれて冒険者になり、Eランク冒険者までなりあがる。トラクーンを拠点にしていた際にパーティ内で痴情のもつれによって喧嘩になり、パーティが解散してしまう。
他の者は、これを機にトラクーンから離れたが、ヴェストリアは、今回の件に懲りてパーティでの冒険は引退を決意、仲のよかったトラクーン冒険者ギルドの職員から孤児院立ち上げの話を斡旋され、そのまま立ち上げメンバーとしてローズガーデン孤児院に就職した。
当時は別の院長がいたが、立ち上げ時点で高齢だったため4年後にはヴェストリアが院長となった。孤児院立ち上げ中に仲良くなった役場職員と結婚、1男1女をもうける。通い勤務をしていた時期もあったが、子供の独り立ちと共に孤児院住み込みに戻した。
話好きで夫と二人きりよりワイワイしたい性格なため、本人の希望である。冒険者時代から恰幅がよく、今でも変わらず元気である。




