16_終わりはいつも突然に
「おーい、ドッヂボールやろうぜ!」
晴れた日の午後、最近はこのドッヂボールもローズガーデン孤児院で定着しつつある。
「マリィ強すぎるのよね~」
「手加減してやるよ!ははは!」
「ふぁーーー」
「ん?マーランシのやつどうかしたか?」
なにやら表の方がざわざわしている。
もしかして、またビンゴでも迷い込んできたか?久々にモフりたいな。
マリィたちも正門の方に向かう。
そこには今まで見た中で一番上等なでかい馬車が停まっていた。
「おーでかくてかっちょいいな」
ふと横を見ると執事服?のようなフォーマルっぽい服を着た片眼鏡でオールバックの初老にさしかかるくらいの年齢に見えるおじさんが立っていた。
そして何故か私の方を目を大きく開いてじっと見ている。こわっ!
「マリィ・・・」
ちょっと引いていると話しかけられた。っていうかなんで私の名前知ってるんだよ。
「ってだいの大人が泣いてるじゃん!どうしたおっさん!」
「マリィーーーー!!!」
「うわっ!抱き着くな!やべぇ!こいつ変質者だ!誰か警察呼んでくれ!」
「やめろ!離せおらっ!」
とりあえず蹴り飛ばしたが、なんなんだ?このおっさんは。
「いたたた、えらく力が強いのう」
「タカダーイアさん!大丈夫ですか!」
「この子供なにをする!・・・・え?なんですか、このマリアンヌ様のちっこいバージョンは」
「大丈夫じゃ、グランツ、この子が探していたマリィじゃ、間違いない、なんせ見た目がマリアンヌじゃ」
「なんだなんだ?」
「マリィ、わしはお前の祖父じゃ!お前を探してここまで来たんじゃ!」
「おーい、警察はまだか?少し早いけど、こいつ春先に出るちょっとおかしいやつだぞ」
「マリィ、話を聞いてくれ!お前は貴族の子なんじゃ!」
「いや、普通に両親は農業してましたけど?っていうか祖父母の話なんて一言もきいてないし、今更くるなんておかしいだろ!そもそもそういうのなら、きちんと役所を通して連絡があるんじゃないのか?」
「噂を聞いて一刻もはやく!ときたんじゃ!マリィ!一緒に来ておくれ!もう大変な思いをしなくてすむんじゃぞ!」
「別に大変な思いしてないし、ここが私の家だぞ」
「うううむ」
「ほら、そんなに言うなら・・・よっと、私の親友のこいつも一緒に貴族の子にしてくれよな!寂しいし!」
「え、わたし!?」
困らせてやろうと、適当に近くにいたシロッコの首根っこを掴んで主張してやった。
「かまわんぞ、突然お友達がいなくなると寂しいじゃろうから連れて行ってよいぞ」
「ええ~~~」
「横暴かよ!」
「何の騒ぎですか!!」
「え、お貴族様!?」
ドタドタとヴェストリアが奥から出てきて腰を抜かした。
「お騒がせしてすいません。あなたはこの孤児院の職員で?」
帯剣している方の男がヴェストリアに話しかけている。
「あそこの子供ですが私たちが探していた子のようです。急ですいませんが話せる場を持たせていただけませんか、役所手続きは後程」
「わたしがここの院長です。ひとまずこちらへどうぞ。」
もちろんただの孤児院に応接室などないので食堂の一画に案内される。
ガットルンも合流して孤児院側がヴェストリア、ガットルン、マリィの3人で座って、対面におっさんとお兄さんだ。
もちろん他の子供たちもイベントごと感覚で遠巻きにそろって待機している。
「改めて、わしはタカダーイア=ハル=ウィンガーラという。」
「パレラ=グランツです。」
「ほ、本物のお貴族様・・・」
「今は華族と呼ばれているがの」
こんな場を経験したことのないガットルンがつい言葉をこぼす。
「ウィンガーラ・・・北のりょ、領主様の一族ででで、いらっしゃいますよね?」
「わしではなく妻がウィンガーラ州領主のマリアンヌじゃ」
「あ、あの穀倉の英雄マリアンヌ様でででですか!!」
めっちゃ緊張してるな、冷や汗をかき続けているヴェストリアなんて初めて見たぞ、普段は肝っ玉母ちゃんみたいな雰囲気なのに。
「家の事情なので部外者に詳細は話せんのじゃが、端的に言うとそちらにいるマリィはわしとマリアンヌの孫娘なんじゃ」
ヴェストリアとガットルンがこっちを見る。いやそんな見てもいつもと一緒だろ。
「マリィが・・・あ、マリィちゃんが貴族の子・・だったんですね。どうりでワガマ・・・天真爛漫だと思いましたわ。ほほほ」
おい、本音だだもれしてんぞ。
「ここはウィンガーラからすると2州も南ですが、なぜここに?確かマリィが来た時も普通に役所手続きで連れてこられていたような」
「うむ、それも家の事情じゃ、すまんが話せん。いきなり訪問したのは悪かった。わしらも長いことマリィを探していて、ここにきてようやく街の孤児院に金髪のライトニングボルトと呼ばれる少女がいるとギルドで聞いて、もしやと思いいてもたってもいられずきてしまった。」
「お、お孫さんですから、しょうがないかと・・」
「マリィ、この方があなたのおじいさんなんですよね?」
「いや、しらねーぞ、このおっさんに会ったのも今日初めてだし」
「え?そうなの?」
「うむ、そちらも事情があってな、わしもマリィにあったのは初めてなんじゃ、じゃが、間違いはない。マリィという名前、年齢もそうじゃが、その髪色はウィンガーラ家が代々引き継いでおる色じゃ」
「なによりマリアンヌ様にあまりにそっくりですね」
グランツも補足して答えてくる。
「というわけじゃ、マリィ、一緒に帰ろう」
そうは言われたものの、急すぎて頭がついていけない。というか知らないおじさんについていくのは危ないのでは?と言っても貴族っぽいしどうしたもんかな。
別に今の生活も困ってるわけじゃないし、ぶっちゃけ貴族でいい暮らしできたとしても、絶対それ以上にめんどくさそうだ。
「いやいや、さっきも言ったけど私の家はここだぞ、そもそもあんたらの言うことが本当かどうかも判断できる人はいないし」
「お前の両親の名前はマルカナトとプロンじゃ、どうじゃ、あってるだろう?」
「そんなの預けられた役所ですぐわかるだろ」
「ぐぬぬ」
「これまでマリィを預かってくれた貢献に対し、もちろんそれなりの褒賞は用意するぞ」
「本当ですか!」
「おいおい、分が悪くなると買収かよ!貴族きたねぇ!」
「う~む、証拠か、マリィ、両親から何か預かってはおらんか?いや、預かっているはずじゃ!」
確かに、母親が最後に袋を持たせてくれたことは覚えている。大事なものだとかなんだとか言っていたような気がする。
「あの袋かな?」
「そうじゃ!あの袋じゃ!」
あれ、どうしたっけ、マジで思い出せん。確か孤児院に来るときは持っていた記憶がある。しかし、最近全く見た記憶がない。
「マリィ、部屋に置いているのでは?」
頭を悩ませているとヴェストリアが言ってきた。
そもそも孤児の荷物なんてしれているし、部屋に置く以外ない。
とりあえずみんなでマリィの4人部屋まで来た。
「う~~ん」
「マリィほんとになくしたの?」
やばいとおもっているのかヴェストリアがひそひそ声で話しかけてくる。
最初から思い出してみるか
たしかこの部屋にきた時はあの袋もっていたような
この部屋に来た時・・・
「おー、今日から4人部屋だ!」
「ベッドどれにする?」
「よっしゃ!、上は私がもらった!」
ぽいっ
「あ、あれか!」
二段ベッドの上に登るときに適当に投げ捨てた気がする。
「ちょっと待ってて!」
部屋に入ってベッドの裏を探したら埃まみれになった袋が出てきた。
「もしかしてこれか?」
「これじゃ!こんなにボロボロになるまで大切にしていてくれたんじゃな!」
「お、おう」
「でもこの袋は全然開かないんだよな。」
そう、貰った後に孤児院にくるまでの間に既に開けようとしたのだが開かなかった。
そのうち興味をなくして、ベッドの裏に大切にしまって今に至る。
「これは恐らく魔力登録じゃな、マリィが魔力を扱えるようになったら開けられるが、今だと鍵師に頼まんとむずかしいか」
「お、開いた」
「マリィ!魔力が使えるのか!?」
中に入っていたのは黄金のブローチだった。木に剣が刺さっている絵が入っている。
「おお!これを持っていることこそマリィの証明じゃ!なんせ、うちの紋章が入っておるからな!おそらく何かあった時に実家に頼れるようにマルカナトが持ち出しておったんじゃろう!」
再び食堂に戻って話し合いの続きになった。
結局、これで貴族の子だったっていうことが証明されてしまったらしい。
「マリィ、私たちも寂しいけれど、本当のご家族が迎えにきた以上、手続きが終わればここにはおいておけないわ」
「やだ!ここが私の家だ!」
「マリィ、少し話しましょう」
そういうとヴェストリアは院長室に私を連れて行った。
二人きりで話をする。
「あなたが来た時のことはよく覚えているわ。すごく大変だったもの。物は壊すし、ケンカはするし。」
「う」
「でもね、とても楽しかったわ。あなただけじゃない、私が孤児院で預かった子はみんながみんなしっかり育ってくれた。早く出ていく子もいれば、ギリギリまでいる子、どんな形でも一緒にいて楽しかった子ばかり。」
「本当に私は恵まれているわね。」
「そんな私の孤児院の子だもの、きっとあなたも恵まれている。」
「外に行くことは決して怖いことじゃない、あなたはきっとこれから先も恵まれているのだから。」
「根拠はあるわよ。そもそも貴族というお金持ちの子なわけだし、それにあなたには才能がある。本当はもっと育ててあげたかったけれど、ここだとできることも限界はある。だから、早いうちから教育をしっかり受けた方がいいのは間違いない。そうすればきっとあなたも、ここを卒業したみんなと同じ立派な人間になれます。」
「だから怖いことはありません。恵まれた世界を精いっぱい生きなさい。ローズガーデン孤児院の家族として」
私も本当はわかっている。
正式に家族が見つかった以上、国が運営する孤児院に頼るわけにはいかないのは当たり前のことだ。
私も大人にならなきゃだな。
「もう大丈夫そうね」
「うん、みんなと離れるのは寂しいけど、がんばってみる。」
「話は終わったかの?きてくれるか?」
「ああ、私の家族はここにいるみんなだけど、早めに卒業して行くことにするよ。」
「そうか、よかったよかった。それでは、あの親友の子も一緒に手続するか」
「シロッコさんでしたか、承知しました。」
「あれ、まじだったのか!」
「わ、わたしー!?」
「たしかに、マリィの言うことももっともじゃ、いきなり環境が変わるのは子供にはつらかろう。よしよし、うちは金はあるから問題ないぞ」
「そんな話になっていたの?」
ヴェストリアが聞いてきて、シロッコも飛び出してきた。
「マリィちゃんと一緒に私もいくの?」
「いや、適当に言っただけだからシロッコが気にする必要ないぞ」
「でも、このままだと、マリィちゃんは一人で連れてかれちゃうんだよね?」
「うちに来れば仕事はいくらでもコネが使えるぞ」
「おっさん、だまれ」
「私、一緒に行くよ!だって、マリィちゃんかわいそうだもん!」
「おいおい、ほんとにいいのか?」
「うん!」
「手続き上はわが家が後継人になって対応しよう。院長、問題ないかな?」
「前例はないですが、恐らく問題ないでしょう、本人がよいのならそっちのほうが仕事もよい職につけそうですし」
その後、タカダーイアとグランツは色々手続きの話をした後、すぐに役所にいくと言って足早に立ち去って行った。
「マリィ、明日の午後には迎えに来るから準備しておくんじゃぞ」
その日の夜、本当に急ごしらえだがマリィとシロッコのお別れ会になった。
飾りつけなどはなにもない、ちょっとだけ料理が豪華になっただけだが、孤児院のみんなで開いてくれた。
「マリィほんとにいなくなっちゃうの?やだー!」
「私と一緒に冒険者になるって約束したじゃない!」
「ふぁーー」
子分たちも泣きながらマリィのところにきている。
というか冒険者になる約束なんてしてないんだけど。
最後に風呂で遊んで夜になった。
4人部屋では夜遅くまで話した。
途中から別れが悲しくなって4人とも泣いていた。
結局その夜は寂しくて、私の下のエマのベッドで4人くっついて眠った。
翌朝、いつもと同じ朝がきてブロックパンとスライム乳の朝食をとる。今日で最後だと思ってしっかり味わって食べた。
午後には迎えに来ると言っていたので今から準備なのだが、よく考えるとほとんど準備はない。
そりゃそうだ、孤児院の子供の持ち物なんて替えのしょぼい服と下着がいくらか、それで終わりだ。
「これは餞別だ。のみもんにでも使えよ。」
そういって先日稼いだ金はベイリャにやった。
「マリィ!はい!」
泣きながらベイリャは手紙を渡してきた。
その後も、みんなから手紙をもらった。
孤児院の子に資産なんてないので渡せるものなんてこれくらいだ。
「待たせたな、っと、荷物はたったそれだけか?いっぱい積めるぞ?」
「これだけだよ」
ついに迎えの馬車がきてしまった。
最後ということで今日はみんな揃ってお見送りしてくれるらしい。
「マリィ、シロッコ、元気でね。体には気をつけるのよ。」
ヴェストリアを皮切りに次々と別れの言葉を貰った。
これでもう、みんなとは会えなくなるのか・・・
実感が全然ないけど、そう思うとめっちゃ寂しくなって涙が止まらない。
よく考えると、こっちでの人生のほとんどはこの孤児院だったんだ。
「そろそろいくぞ」
しょうがなく馬車に乗り込む。
中もめっちゃ豪華だが正直全然テンションがあがらない。
「出してくれ」
馬車の窓からシロッコと二人で顔を出す。
「みんな!今までありがとな!絶対ビッグになって帰ってくるからなあああ!!」
「いや、ここ孤児院なんだから帰っては来るなよ・・」
ガットルンの自虐だけが静かにこだました。
「なんか、いっぱい泣いたらすっきりしたな。これからは貴族としてがんばらなきゃな。」
「貴族じゃなくて華族じゃぞ。まあ、家に着いたら色々勉強するとよい。今日からはマリィ=ハル=ウィンガーラなんじゃからな」
ふむふむ、そういえば名前も変わるんだな。いや戻るのか?
マリィ=ハル=ウィンガーラか
ん?
マリィ=ハル=ウィンガーラ・・・
マリー=ウィンガーラ・・・
まりーうぃんがーら・・・
「ああああああああああ」
バゴオオオオン
その日、マリィの頭の中にこの世界に来て2回目となる雷が落ちた。
今回の話でプロローグ終了になります。




