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第1話 兄心、弟知らず

「・・・( そう)


外は春の香りが近づき、桜のつぼみも開きかける頃。


インドアには夏が近づき始めていた。


「もうそろそろクーラー入れねぇ?」


「何言ってんだよ、外に行けばそんな暑くないぞ」


「んー、んなこと言っても暑いんだよ」


いつもは昼近くまで寝ている神於(こうの )が起きているのも


春が近づき暖かくなったためだ。


「ただいまー、・・・どうしたんですか!?」


柔らかな栗色の髪が特徴的な青年は、変わり果てた雇い主に駆け寄った。


「・・・(まき )、俺は今・・・太陽と、闘っているんだ・・・」


「つまりぃ、現代を代表するもやしっ子って事でしょ」


槙とは対照的に、少女は呆れた顔で冷たく言った。


「俺は・・・オゾン層を・・・守れる・・・ろうか」


「地球温暖化に負けたんですか!?」


なぜなら、暑さと闘いながらも、


無駄口を叩く神於の話を、槙が真剣に答えていたからだ。





授業が午前だけだったため、


槙と(らん )は制服のまま事務所に来ていた。


ちなみに草太郎と神於は成人している。


藍は草太郎に駆け寄ると、手にしていた袋を差し出した。


「はい、草ちゃんにお土産。・・・この子からだけど」


すると、さっきからいたのだろうか


藍の後ろから可憐な少女が出てきた。


「何だ?」


草太郎が身を乗り出すと、少女は口を開いた。


「・・・貴方が、草太郎さま?」


「あぁ、そうだけど・・・」


「私と結婚してくださいませ」



「結婚!?」


“結婚”と、少女は躊躇いもなく言った。


驚く一同の中、神於だけが眉を(ひそ )めて不快をあらわにした。


「・・・お前、デメテルだな?」


するとさっきまで少女だったそれは30代半ばの


三つ編みが特徴的な女性へと姿を変えた。


「な、ババアっ!?」


「失礼ね、貴方それでも半神なのかしら」


デメテルは神於に負けず劣らない不快な顔をした。


「先ほどの姿は?見覚えがある」


「私の娘です。・・・人払いを」


そう言いながら藍と槙を一瞥した。


「大丈夫だ。こいつらは俺の正体を知っている」


デメテルの娘『コレー』は優しく可憐で親思いの良い子だ。


ゼウスとの間の子だが、デメテルには目に入れても


痛くない程愛しい娘である。


そんな娘に変な虫がついた。というのがデメテルの話だった。


「で?誰だそんな奴。お前んとこの節操ない奴が多いからな」


「私の兄の、ハデスです」


「・・・年齢を無視したら、悪くないんじゃないか?」


「誰からも愛される娘が、誰からも嫌われる男に嫁ぐんですよ?」


「神於」


草太郎が青ざめた顔で裾を引っ張った。


藍と槙も似た顔つきだ。それほどまでにデメテルには迫力があった。


「して、願いとは?」


「貴方に、ハデスを説得してほしいのです」





「ハデス殿が恋ねえ」


ひじを突きながら神於はしみじみ呟いた。


デメテルが去ったあと、


槙が淹れた紅茶を飲みながら一同は休んでいた。


神様の説得。しかも年上となっては緊張する。


神於さんでも大丈夫かな。


「ハデス殿とはどういったお方なのですか?」


陰陽を得意とする槙は、他国の神様については


よく知らなかったので素直に質問した。


「ああ、仕事のためだといって嫁もとらない、


用はとても真面目な方だ。父上とも友好があって


何度かお会いしたことがある」


「では、いいじゃないですか。


めったにないですよ、浮気しない神なんて」


「ですよねー、お堅い人って意外に一途なんですよね」


「ま、無理な相談だとは、あっちも分かってんだろ


てーか、さっきデメテルに言ったし」


「何と?」


「『俺はハデス殿を結構気に入っているから応援したい』てな」


「それで・・・」


デメテルが帰り際に舌打ちをしていたのを槙は聞いていた。

「草ちゃん、手紙来てるよ。慧都(けいと )さんから」


「母さんから?」


ー草ちゃんへー


 泰斗(たいと )もね会いたがっているから、たまには顔見せて。


 それで本題なんだけど、明後日お見合いあるから。


 帰ってらっしゃい。


                      ー慧都ー


「どうした?」


「明後日、帰って来いって」


「・・・何でそんな嫌そうなんだ?」


「俺のお見合いがあるらしい」




「ただいま我が家ー!嬉しくねぇけど!!」


夜行バスに揺られながら来たので、着いたのは早朝であった。


「早く着きすぎたねー、慧都さん起きてるかな?」


「いや、寝てるほうがマシ。てーか永眠」


「お見合いですもんね、僕びっくりしました」


「マジで驚いたよなぁ、藍とか泣くかと思った」


「はっ、えっ、ばばばbっかじゃないの!!?」


「えー、だって藍ってっ・・・」


藍は赤面したまま、必死に神於の口を塞いだ。


「ほ、ほら慧都さん来たよ!!」


必死の言い訳のつもりで指をさすと


その先にはひらひらと手を振る慧都がいた。


「おはよー、早くおいでぇ」


若干怒気がこもっている声で手招きしている。


そろそろと草太郎たちが近づくと


「こうでもしないと帰ってこないんだから!」


手加減なしのヘッドロックが出迎えた。


「兄さん、久しぶり」


体にあった若葉色の着物に包まれた青年が


目を優しく細めて嬉しそうに言った。


「おぅ、久しぶりだな泰斗!!」


「・・やめてってばぁ」


変わらない身長になっても弟はいつまでたっても可愛くて


頭をかいぐりまわすと、泰斗も口では嫌がりながらも


大人しく撫でられていた。


「良かったわねぇ、泰斗のために草ちゃん来てくれて」


「?慧都さん、泰斗さんがどうかされたんですか?」


勘のいい槙が質問すると、


「泰斗、婚約したのよ。だから紹介しなくっちゃって」



「たーんと召し上がれ♪」


「母さん、はしゃぎ過ぎですよ


兄さんたちが引いているじゃないですか」


ここは神社の敷地内の一室にある慧都専用の部屋である。


部屋の中は彼女の趣味で囲まれており、


部屋に入れば彼女の少女趣味に圧倒されてしまう。


その部屋のテーブルには


同じく彼女の趣味の料理がたくさん並べられている。


そんな部屋に唯一不釣合いな男が静かに口を開いた。


「俺、・・・聞いてないんだけど。泰斗の婚約者のこと」


「今いったじゃない」


間髪いれず慧都が答える。


「いや、もっとあるでしょ。『付き合います』的な」


「あなた、泰斗の父親じゃないんだから言わないわよ」


「・・・そう」


それきり口を噤んだ草太郎を心配して


藍はとなりで食事に集中している神於に相談した。


「ねぇ、草ちゃん元気ないよ。大丈夫かな?」


「んー、仲がいいと思っていた弟に隠し事されたことが


ショックなんじゃね?兄として」


「僕だったら言いませんね、子供じゃあるまっ・・・っいたぁ!」


「うるさい。槙に俺の気持ちが分かるか」


そういい残すと部屋の角でうずくまった。


「あちゃー、拗ねちゃったよ」


「本当にやる人いたんですね。・・・藍さん?」


「・・・・ぷっ、笑っちゃ、・・・いけないんだと、思うんだけど


今の草ちゃん、超こげぱんだに似てる!懐かしぃっ~」


「・・・・・・・・・・・・・ほんと、女って冷たいよな。


さっきまで心配してた奴とは誰も思わねぇだろ。この変わりよう」


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