第96話 魔界での出来事 とりあえず少しだけ、ロズリに告白してみよう
「今夜はお呼び立ていただき、ありがとうございます」
「いやロズリ、なにそのスケスケの」「出発の時点で覚悟はしておりました」
「だからってそんな気合いの入ったネグリジェを」「一応、もっと過激なのも用意して参りましたが」
まあ婚約者として宛がわれた若い女性を、
たったひとり夜の寝室、個室に呼びだしたらこうなるよなと
その抱かれる気に満ちた姿を見てわからせられる、いやそういうつもりでは無かったのだが。
「まず最初に言っておく、俺はロズリを抱くつもりはない」「そんな!!」
「……いや、まるで絶望に満ちたみたいな顔されても、いやこれは俺の言い方が悪かったな」
「と申しますと、あっ、抱くより抱かれるのが趣味と」「なぜそういう理論になるんだよ、おい!」
なんだかすげえ良い匂いがするな、
元騎士団員だけあって鍛えられた身体を、
ゴツく見られるのが嫌でせめて香水でって感じか。
(なぜそう思ったかって? 十二年前にヨランが……今はまあいい)
しかし、しょぼくれた表情になってしまったな、
このまま流すのも申し訳ないし、少し誤魔化し、
いやフォローをしておこう、まだ選ぶか選ばないか決めて無いのだし。
「ラスロ様、私にそんなに魅力が無いのでしょうか」
「そんな訳は無い、今夜呼び付けたのは真面目な話だ」
「では、着替えてきた方が」「いや、面倒くさいだろう、まあ座れ」
ふむ、という表情のロズリ。
「気が散らないのであれば」
「ああ、真剣な話の時は大丈夫だ」
「ではどこへ座れば」「そのへんでいい」
適当にソファーへ座らせる、
そのなんだ、やはり透けているだけ目に悪い、
とはいえ、ああ言った手前、きちんと会話をしないと。
「実はロズリだけ呼んだのはだな、
試しに、という言い方が良いのかはわからないが、
俺が魔界でしてきた行動、その一部を聞いて貰おうと思ってな」
ようはお試しだ。
「なぜ私だけ」「そのなんていうか、まず俺の立場として、
国王に命を受けた勇者は騎士団より上らしい、昔ヨランが言っていた」
「確かに、今でも明確にラスロ様の方が、私なんかより立場は上になりますが」
しかも騎士団員というのは、
縦の力関係に物凄く煩いうえ強いからな、
ヨランが決闘を申し込んだのも、ロズリが絶対に断れないからだろうし。
(あれはまさか逆転するとは思わなかったが)
いや、あの結果は置いといてだな。
「だから俺が話して、やっぱり不味いと思えばロズリに口止めが出来る」
「……そのような内容なのですか」「ああ、出来るなら墓場まで持って行きたかった話だ」
「それを、私にだけ打ち明けて下さると」「それで素直な感想を教えて欲しいんだ、実直な」
いやほんと、
聞いて貰ってその感想は、
どうなることやら……最悪『聞かなかった事にしてくれ』で、終わる。
(ロズリの性格的に、こっそりハーレム内でバラすとか無さそうだが)
このあたり、
俺の人選が間違って無いと良いが。
「わかりました、しかしなぜナタリさんではなく私に」
「暗部は暗部のままだ、おそらく俺が口止めしても暗部として城に報告するだろう」
「そうなんですか」「ああ、これに関しては『そういうものだ』としか、言い様がない」
だが、それも含めて、
わかったうえで嫁にするだろう、
もし新ハーレムを選ぶのであれば、だが。
「わかりました、私で良ければ聞かせていただきます」
「……まず最初に断っておく、憧れの勇者がこんなので済まない」
「何をおっしゃられるのですか、魔界で、たったひとりで十二年間、戦い抜いたラスロ様ですよ?!」
真っ直ぐな目、
俺を見る真剣な表情……
もし、もし俺の魔界での話を、全て打ち明けても、そんな顔をしてくれるのかどうか。
「わかった、俺の覚悟を決めた、
ほんの一遍だが、今回のドリアード達に関係する話を、
正直に告白するよ、落ち着いて聞いて欲しい」「お待ち下さい」
さささっと扉の方へ行き、
誰か聞き耳立てていないかチェックする、
さすがロズリだ、このあたりはぬかりは無い。
「……大丈夫なようです」
「ああすまない、ありがとう……
では聞いて欲しい、あれは俺がある魔王と相討ちで倒れた時の話だ」
俺は水をぐいっと一杯飲んで、
静かに語り始めた……そう、俺の魔界での、
何度かあった『最大のピンチ』のうち、ひとつの話だ。




