第94話 ナタリの過去を聞き終えた そして思う、俺は新ハーレムの幻想に応えられるのか?!
「……という事で、私の存在は事実上、公になってしまったのです」
食事が終わり、
話が物凄く長くなるというので、
集落から街へ向かう馬車に場所を移しナタリの半生を聞いた。
(すげえ過酷で壮大なストーリーだった……)
俺が魔界に居た十二年の間に、
よもやそのような事が起きていたとは、
一言で表現するならば『一番怖いのは、魔物や魔王ではなく人間だった』という話だ。
「ふむ、壮絶なアサシン生活だったのだな」
「暗部の事は噂でしか知りませんでしたが、そのような仕事を」
「そのようなお方が我々のハーレ……パーティーに加わっていただいて、頼もしいです」
というヨラン、エミリ、ロズリの感想、
俺もそこまでするかといった小説のような話に息を呑んだ、
いやこれ二十万文字くらいにまとめて出版できるぞっていう話だ。
(運転しているリンダディアさんにも聞かせたかったくらいだな)
諜報部員でもあるだけあって、
話も上手かったし……俺も感想を。
「いくら暗部といえど、そこまでするのかと言った所だが、
もう陰で動くには使い物にならないな、そこまで知られてしまうと」
「はい、だからこそのラスロ様への嫁入りです、今後ともよろしくお願い致します」
国の暗部で影として生きてきたアサシン、
それに対して華やかな勇者として祭り上げられている俺……
まあハーレムの一員としては、こういうタイプは必要不可欠というか過ぎる女性だ。
(まさに裏リーダー、陰のまとめ役にうってつけというか)
現にエミリやロズリから、
俺の魔界でのはっちゃけぶりを覆い隠す話をしてくれて、
すっかり詰められていたことをみんなに忘れさせる事に成功している。
「えっとナタリ、これからも期待しているよ」
「はい、私もラスロ様に相応しい妻となれるよう」
「……逆に俺が、ナタリの期待に応えられるかどうか」「そんな」
いやナタリだけじゃない、
ミオス、ロズリ、ハミィといった、
国王陛下がわざわざ速攻で用意してくれた新ハーレムの面々……
(伝説となった勇者への、その憧れで今は幻想に満ち溢れているのだろう)
でも正直言って、
俺なんて単にしぶといだけのおっさんだ、
現に新旧ハーレムに対し心をふらつかせた、どっちつかずの情け無い男だ。
「なあ、俺って本当に、勇者なのかなあ」
「ラスロ、当然だ」「勇者の証拠に、抱きしめてあげるわ」
「そこはラスロ様、間違いありませんよ」「……私の話がナーバスにしてしまったようなら謝ります」「いや」
軽く否定しておく俺、
うん、ここは新ハーレムの期待に応えられる男かどうか、
逆にしっかり見極めて貰った方がいいな、幻滅されたらそれはそれで仕方が無い。
(だがそうなると、旧ハーレムを選ぶしかなくなるか……)
俺が新旧ハーレムどっちを選ぶか真剣に考え続け、
新しい魔王を倒すなりし、魔界ゲートを完全に防いで、
これで本当の平和になった、さあ、どっちを選ぼうってなった時!
『ラスロ、十二年で変わったわね、やっぱり私達、元の場所へ戻ります』
『そんな、ラスロ様がそんなお方だったとは……陛下の許可も取りました、婚約は破棄させて頂きます』
そんな風にアリナとミオスに立て続けに言われて、
ひとりぼっちになってしまうっていう可能性だって無くはない、
どっちつかずの情けない勇者を続けていたら、そうなっても仕方がない。
(その時は、もはや『勇者』じゃないよな)
まあそれはそれで、
単なるおっさんとして生きていくしかないというか、
それも案外悪くは無いが、三日三晩くらいはひとり孤独に泣かせて欲しい。
(そうならないためにも、魔界での行動、その告白は慎重にしないと)
俺は自分に『後ろめたい事は無い』と言い聞かせている、
でも、それは婚約者達が客観的に見てどう思うかなんだよな、
何とかしないと、いや本当に、色んな意味で、今のうちに……!!
「さてラスロ」「おうよエミリ」
「次は何の話をしましょうか?」
「そうだな、さっきのナタリの話が重すぎた、軽い話が良い」
俺も寝たふりをしたいし。
「ではナタリさんにお礼として、
もちろんロズリさんにも、ラスロの昔話をしましょう」
「ちょ」「良いな、私もラスロの話はいくらでも持っているぞ」「ヨランまで!」
これ、寝たふりしてると大変なことになるやつだ!
「是非、お聞かせ願いたいです! 騎士団では伝説ばかりだったので」
「私も当時の、現場の話は勉強として吸収しておきたいところかと!」
「いやロズリもナタリも乗り気だなオイ!」「そうね、まず最初はハーピィ捕獲事件から」「いきなりそれは!!」
とまあ、
俺の魔界の話ではなく、
別の暴露話が始まったのであった。
(あぁ、新ハーレムの俺への幻想が、崩れ落ちて行きそうな予感がぁ……!!)




