第92話 まずいまずい やばいやばいまずいまずい、いやほんとまずいってえええ!
(これはまずいことになったぞ……)
いや、ラグラジュ大森林としてはとりあえずは対処完了だ、
俺が出てきたゲートとは違い魔法組が居ない中での仮封印、
まあこれはアリナ達の準備のおかげなのだが、まさに上出来だ。
(だが……まさか、こうなるとは)
予兆はあった、前回の魔界ゲートから聞こえてきた声、
身に覚えがありすぎる……そして今回まさかのドリアード隊、
まあアイツらに口止めとか、言えばやろうとはしてくれるだろうが無理だろう。
「悪い奴らでは決して無いのだが」
「あの魔物達ですか」「ああロズリ、もはやティムしているようなもんだ」
「ねえラスロ、他にティムした魔物を全部教えてちょうだい」「いやエミリ、憶えてない」
という帰りの馬車内、
なんだか隙あらばエミリが詰めてくる、
いや座席とかじゃなく、魔物とか魔界とか……
(やばいやばい、これアリナも加わると自白させられる)
後ろめたい事は無い、
あくまでも『魔物に協力』させたまでだ、
その証拠に全てを置いて俺はこっちへ戻ってきた。
「ではやはりあの魔物に聞いて」
「いや、あいつらは俺に任せてくれ」
「ねえラスロ」「おうエミリ」「愛しているわ」
……言いたい事は、わかる。
だからといってなあ……これはなあ。
「ラスロ、ひょっとしてだが」
「ひょっとして、何だヨラン」
「……魔界でひとりではなかっ」「一人だ、孤軍奮闘だ、一人で魔物を利用したまでだ」
これに反応したのは、
ずっと何か考え込んでいたナタリだった。
「つまり、ラスロ様はこう言いたいのですね、『魔物はノーカン』であると」
「何を、どういう意味で言っているんだナタリ、ていうかノーカンって、いや!」
「ノーカンは『ノーカウント』の略です」「わかっているよ!」「つまり魔物と何をやっても」「やってない!!」
一方的に慕われたまでだ、
という言い訳をうまく説明しないと。
(旧ハーレムはまだしも、新ハーレムに誤解されかねない)
だから墓場まで持って行く秘密にしたかったのに。
「では質問を変えましょう」「あ、ああナタリ」
「魔界での生活は、実はそれ程、困らなかったのでは」
「最初は大変だったさ! だがそのやはり、住めば都というか、いや脱出して来たが」
アプローチを変えてきても、
行き着く目的は同じ場所な気がする、
もうこうなったらだな、ここは覚悟を決めて……!!
「……すまない、新魔王について整理したい、
なので他の事については城に戻ってからにして貰えるか」
「わかった、ラスロがそう言うなら」「ありがとう、ヨラン」
よし、これで時間稼ぎは出来るぞ!
「それで、新魔王というのは」
「ああ、『イビルフライズ』巨大なハエだ」
「それが魔物を」「それで森に本来居た虫が慌てて逃げ出した感じ、だと思うが……」
もしきちんとした魔王になっていたら、
こっちの昆虫も自在に動かせるようになっているはず、
でも、そこまで組織的な動きはしていなかったように思える。
(つまり、まだゲートを抜けてはいない!)
このあたりもドリアード隊に見張らせないと、
いや、十九体こっちへ来てたといことはおそらく、
もう何体かはゲート前後に置いて来て見張らせて居そうだ。
「ラスロ様、光魔法は効くのですね」
「ああもちろんだロズリ、火魔法も水魔法も効くぞ」
「ではいっそ、こちらから倒しに行くても」「また魔界へ入るのは、さすがに」
それこそ『アイツら』がやってきてしまう。
「ではラスロ」「どうしたエミリ」
「王城へ到着するまで、心の準備を」
「いや何のことだいったい」「全てを洗いざらい、ね?」
そんな保護者みたいな表情や言い方して……
(完全スルーする方法もあるが、魔界ゲート封印に支障をきたす可能性も!)
もうこうなったら、
開き直って全部話すしかないのか?!
だが、さすがにそれは抵抗がある、後ろめたくないと言っても。
「よし、ではこうしよう」
「「「「????」」」」
「魔物の言っている事は、一旦スルーで!」
出来れば、ずっと。
「ラスロ、それは都合が良すぎるぞ」
「ねえラスロ、怒らないから隠している事を言って?」
「お、おおお、おこられるようなことわわわわわわわっ」
変な汗が出てきた。
「ラスロ様、私は平気です、許します」
「ヨランもこう言っている事ですし、私も聞きたいです」
「ナタリ……言うにしても、みんな揃ってが良い、時間稼ぎじゃなくって」
とまあ、
帰りの馬車はこの話の繰り返しになった。
(やっぱりバレちゃう道しかないのかなぁ……)
本当に言い逃れや誤魔化しが効かなくなったら、
あくまでもティムしていただけという線でいくべきか、
それとも……うん、開き直ったとしても、悪い予感しか、しない!!
(仕方なかったんだよ、十二年も魔界に閉じ込められて……)
まあこのあたりは、おいおい。
いやほんと、まずいってえええええ!!!




