第81話【エミリ回想】十二年前の悲劇 ハーレム崩壊後、エルフを超えた弓使いはエルフに堕とされる
「ラスロ! ラスロ?! ラスロ!!!」
魔王をあと一歩まで追い詰めた私達、
場所は魔界へ通じるとされた『魔の火山』その山頂……
私のラスロが、愛してやまないラスロがにやりと笑う魔王と一緒に火口へ!!
(そんな、そんなぁ!!)
急いで駆けて覗くも、
丁度、巨大な火柱が立ち上った所……
「ラスロ、そんな、私のラスロが、こんなことに……!!」
全身の力が抜ける、
火口へ身を乗り出したヨランなんて落ちて行こうとしている、
それをサブリーダーでラスロの正妻アリナが慌てて止めて引っ張り寄せる……。
「私がっ! 私の魔法が、もう一歩、届いていればっ!!」
そう叫ぶアリナ様、
私も思わず声が出てしまう。
「あぁラスロ、ラスロ、まだ生きてるなら返事をして、お願い!!!」
……しかしマグマのグツグツとした音しか聞こえない、
耳を澄ましてもアリナ、ヨラン、ネリィの鳴き声しか……
エルフ並と言われた目で火口の壁を見渡しても、引っかかっているという事は無かった。
(もしそうなら、アリナかネリィが探知しているはず……!!)
後はもう、
涙で目の前が見えなくなってしまった……。
「ううう、ラスロ、ラスロ……」
その後は茫然自失、
正妻のアリナが最初に気を取り戻したのだと思う、
促されて下山……魔王を倒した事より、失った者の大きさを噛みしめながら城に戻ったわ。
「こういう事になってしまったが魔王討伐は成功だ」
陛下のその言葉に、
私は『何もかもが終わった』と感じた、
そう、悪い方向に……そして城の控室、改めて側室を集める正妻アリナ様。
「私は聖女を辞退しました、なぜなら聖女は人を導く立場になるからです、
しかし私はラスロ様の所へ導かれたい、ですので世を捨てる修道院に籠ります、
そして死ぬまで毎日、延々とラスロ様が安らかに居られるよう、生涯、祈り続けます」
決して笑顔では無いけれども、
何か吹っ切れたような表情、でもないわね、
とにかく『正妻』という地位の覚悟を持った表情で私達に語った、更に……
「皆さんとの連絡も取れなくなります、いえ、もう皆は連絡を取り合わない方が良いでしょう、
ラスロ様の正妻として最後の命令です、私は正妻としてラスロ様を亡くした全ての罪を背負います、
ですから皆さんは、ラスロ様の本来受けるべきだった幸せを、新たなお相手と全うして下さい」「……ずるいぞ」
ヨランがヨランらしく詰め寄った、
しかし物おじしないアリナ、決心は固い。
「はい、もうラスロ様は私が独り占めです、どうぞ恨んで下さい、正妻特権です、
その代わり、ついでに私の分も残りの人生、幸せになって下さい、そして……来世では、
来世こそは、また、ラスロ様とハーレムを……その時は、本当の笑顔で集まりましょう」
アリナらしい行動、
全てはアリナが罪を背負い、
私達を自由にしてくれる……でも、でも私は……!!
「エミリさん」「アリナ……様」
「貴女のその弓の技があれば、どこでも、何だってやっていけるわ」
「でも、でもラスロが」「それはラスロ様が与えてくれたもの、それを持ったまま、幸せになるのですよ」
こうして私は『ラスロ』のための弓矢技術を、
お城で開催される定例大会、定例演習会、個人的な稽古で磨き続けた、
だって他にする事が無いのだもの……記録会では上位八人中、一位はいつも私、二位から七位はいつもエルフだった。
「やあエルフを超えた弓使い、今日も調子が良いね」
「貴方は……ハルラ」「名前を憶えてくれていたのかい、嬉しいよ」
「いつも二位から四位に居るから」「どうかな、個人練習は僕とふたりでやらないかい?」
……断る理由が無かった。
一緒に練習や試合をするにつれ、
ハルラは話し掛けてくる事が多くなり、また親身になってくれた。
「どうしたんだい、最近は軸がぶれる事があるけど」
「……どうしてでしょうね、私の心が揺れているからかも」
「一心不乱だったからね魔王討伐から戻ってからは」「はあ」「でも今のが君らしくて好きだな」
日に日に距離を詰めてくるハルラ、
途中であきらかに狙いが稽古ではなく『私』だと気付いたが、
それに抗う理由も、また気力も無かった、むしろアリナからの、
『ラスロや私の分も、幸せになってね』
という言葉が私を受け入れさせた、
亡くしたあまりにも大きな喪失感は、
腕の立つエルフの弓使いに、容易に埋められてしまった……
(そう、たったの半年で)
彼が急いだのには理由があった。
「エミリよく聞いて欲しい、エルフの王から派遣されたエルフ軍は、
魔王討伐から半年で戻る事になっているんだ、もちろん人間の王都に残るもの居る、
でも僕はこっちの空気はキツい、すぐ戻らなかったのは君が居たからなんだ」
甘く、やさしく抱きしめてくれるハルラ。
「私の……ため?」
「だけれどそれも時間切れだ、今このタイミングでないとエルフの国へは帰れない、
どうだろう、一緒に来てくれないかな、エルフの国には人間と一緒に暮らせる場所があるんだ」
……私は、拒めなかった。
「本当に、いいの?!」
「ああ、君は全ての条件をクリアしている、魔王討伐パーティーだったこと、
髪の色がエルフのような緑や水色でなくても土を連想させる赤茶色であること、なにより……」
口付けののち……
「エルフより弓が上手いことさ」
「ハルラ……」「おっと忘れちゃいけない、僕が君を愛していること、
そして君も僕を愛してくれていることさ、さあ行こう、持ち物は何もいらないよ!」
こうして私は、
人の世界からは本当に最低限、
着ている服のみの『この身ひとつ』でエルフに嫁いだのだった……。
「ハルラ、愛しているわ」
「エミリ、僕もだよ……エルフの森でも、弓矢勝負は続けるよ」
「ええ、出来れば……私達の子供とも、一緒に」「そうだねエミリ」「ハルラ……」
この瞬間、
涙と共にラスロの記憶は流れ落ちた……
(さよなら、ラスロ……ありがとう……もう思い起こす事は、無い、わ)
こうして私はエルフと二人の子を授かり、
身も心もエルフとなるような人間として、
本当に、本当に幸せな家庭を、築いていたのだった……。
(そう、お城の使いエルフから報せを受ける、十一年半後までは)




