第8話 やはりハーレムは崩壊していたのか この結果を予測出来なかった理由を考察する
(俺は、何という光景を見ているんだ……)
なびくロズリの銀髪は若かりし頃、
十二年前、いやそれより前のまだ勇者パーティー結成当初、
何もかも全てが初々しかった、ヨランを見ているかのようだ。
「……くっ!!」
胸を踏まれているロズリの足を振り払うヨラン、
砂まみれとなった自慢の『豪剣』を杖のように使い起き上がり、
再び立ち上がって構えた、自慢の後ろで結んだ銀髪も砂まみれだ。
「さあっ、もう一度……」「ラスロ様!!」
再戦する気満々のヨランなどには目もくれず、
振り払われた足そのままで俺の方へ真っ直ぐに走ってきた!
何かあったら馬車から飛び出す気で身を乗り出していた俺に、そのままの勢いで跳びつく!!
「ちょ、ロズリ」「ラスロ様のために、勝ちました!」
「お、おう、素早かったね」「今の婚約者は、私ですからっ!!」
そこへ低い声を強く発するヨラン。
「まだだ、まだ、たかが一本だろう」
「ダンジュもありがとう!」「いえ、では」
「おい審判! お前グルだったのか」「とんでもない、騎士団で顔見知りなだけです!」
うん、これはもうジャッジどうこうって話じゃなかった、
審判の有利不利なんか入り込む隙間も、暇も無く決着が……
そのまま俺にくっついて乗り込む、そして必然的に俺の隣へ座った。
(あっ、ヨランひとりが取り残されそうな流れになってる!)
「ヨラン、今は調査に向かっている途中だ、
あまり遊んでいる時間は無い、それに勝つまでやる気だろう」
「……納得行かない!」「ヨランがどう思っても関係ないから、行こう」
俺がそう言っても渋っている、
まったくもう、自分で決闘をふっかけておいて……
「ヨラン」「……はい、アリナ様」「行きますよ」
うん、俺の言う事をきかないモードになっても、
アリナが真面目に言うと確実に大人しくなるんだよな、
十二年前を思い出す、力なくとぼとぼと馬車へ戻ってきたヨラン。
(すっごく歯ぎしりしている……)
改めて間近で見ると、
やはり十二年の年月を感じさせる、
しかも子供を産んだ身だ、やはりその分は動きが……
(いや、それ程まで衰えているようには)
負けたからか後ろの、
元の席に大人しく座った。
再び走り出した馬車、一方で俺の隣の勝者はというと……
「ラスロ様、私の『ラスロ剣』いかがでしたか?!」
あっ、これ褒めて欲しくて仕方がないやつだ。
(勝者の特権か、売られた喧嘩だしな……)
「凄かったよ、びっくりした」
「これも、私の愛の力ですっ!」
「えっと、あっうん、はい、そう、ですか」
逆隣りのアリナは振り返ってヨランを慰めている、
耳元で何か言っているけど聞かないようにしよう。
(十二年ぶりに再会しても、正妻は正妻なんだな……)
そう、たとえ崩壊していても。
俺の隣をロズリに譲ってずれたミオスは、俺に話しかけてきた。
「ロズリの腕前は、まだまだこんなものではありませんよ!」
「えっミオス、知っているの?!」「はい、仲良しですから!」
「実はこの剣技、ラスロ様の実力をよく知る騎士団の先輩から伝授を……」
と話が止まらないロズリに俺は頷きつつ、
なぜヨランが負け、ロズリが勝ったか考察する、
見た限りではヨランは十二年で腕が鈍った、ようには見えなかった。
(とはいえ、やはり初手の間合いにブランクがあったのか……??)
一方でロズリは鮮やか、お見事としか言い様がない、
全ての動きが圧倒というか、互いの技を見極める前に仕留め、
えっ、今のどうやって?! と理解するのに少し時間がかかった。
(これはあくまで、俺の推測なのだが……)
ここで浮かび上がる理由はふたつ、
まずひとつは単純にロズリの実力、能力が上だという事、
おそらくヨランが同じ年齢だった時よりも、かなり上ではないか。
(そしてもうひとつは……十二年での技術進歩だ)
俺も魔界で十二年間、
たったひとりで戦っていた時に技を独自に磨いた、
いわば進歩した、それは騎士団内での剣術も、同じだろう。
(こちらの方が、理由として明確で大きい気がする)
ヨランは結婚していて十二年間、
言い方は悪いがおそらく進歩はしていない、
逆にロズリは最新の技術を学び、マスターしているのだろう。
(これが、十二年の差か……)
予測できなかったのは、
俺の中でヨランに対する絶対的な信頼があったからであろう、
でも冷静に考えると、俺が十二年間『待ってくれている』と思っていた期待は……
(裏切られた、と言って良いものか)
なにせ、旧ハーレムは崩壊していたのだから。
「……なので、寝取られた昔の『剣聖』候補さんの事は忘れて、これからは」
「ロズリ、言い過ぎですよ」「はいミオス!」「……仲、良いんだね」「同じハーレムですから!」
(……ミオスもまた、正妻、か)
最後方の新ハーレムの残り、
ナタリ、ハミィも話に加わる。
「私も親睦は深めました、最初から勝てると信じていましたよ」
「叔母様はポカーンとしていました、あの饒舌な叔母様がですよ!」
その隣の旧ハーレム、
エミリとネリィはというと。
「……」「……」
こうして一方は華やかに、
もう一方はどんよりとした空気で、
夕方には途中の宿がある街へと到着したのであった。
(ここでも一波乱の予感が……)
さて、どうするか。