第72話 名無しパレード、普通のパレードと聞いていたが このパレード、どこからどう見たってこれは……!!
「少し服がきついのだが」
「その方が見栄えが良いです」
「観衆に、民衆に手を振るだけならこれで十分ですよ」
とまあ城のメイドにパレード用の服を着せて貰っている俺、
いやこれよく見ると、パーティー衣装か何かじゃないのか?
もっと言えば華やかな、そう、これはまさに……結婚式の、花婿の衣装だ。
「この衣装しかないのか?」
「一応、サイズは合わせてあるそうです」
「緩めたいのでしたら腰のベルトを」「いや、そうでは無くてだな」
これは当初の予定が婚姻パレードだったためなのだろうか、
それとも俺の普段の格好が、あまりにもアレだからだったとか……
確かに私服がどうこう言われればそうだが、なら勇者の装備にさせてくれと。
「君たちメイドは何のパレードと聞いている?」
「名無しのパレードと」「普通のパレードだと」
「それで俺の格好は」「普通の姿かと」「ごく普通ですが」
いやいやいやこれどう見たってこれから結婚式だろう!!
髪を固められていないだけまだマシか、いや、俺がこうということはだ……
コンッ、コンッ
「ラスロ様、失礼致しますわ」
入って来たのは同じく城で着替えていたミオス、
続いてロズリ、ナタリ、ハミィと白を基調としたドレス、
いやこれ控えめではあるが、どう見ても新ハーレム全員、花嫁姿だろう!!
「ええっと、普通のパレードだよな?」
「用意されていた衣装がこれでした、聖女風ですね」
「私も騎士団員の女性が嫁に行く時のドレスによく似ていると感じました」
まんまじゃねえか!!
「私はアサシン風ではなく、オーソドックスな大人のドレスでした」
「お兄さま、私は魔女衣装をそのまま純白にしたような感じですね」
「みんながみんな、花嫁っぽいのだが」「言われてみれば」「何か問題でも」「気にする事は無いかと」「魔女はこんなものですぅ」
……ハメられた、のか?!
いや、誰がハメたんだっていう話がある、
それにパレードをパーティーみたいなものだと思えばこの衣装、まだギリ有りえるか。
「まさかパレードの行先が教会で、式を挙げるってことは」
「そこまでは聞いていません」「騎士団の渡されたルートでは一周して城に戻ってきます」
「あくまでもお披露目なのですから、勇者に華を添える衣装としては、まあ」「白魔女ってこんな姿なんですねぇ」
ちなみに白魔女というのは良い魔女の俗称で、
とはいえハミィの白魔女服だってよーく見ると花嫁衣裳に見えなくもない、
もっと派手なら文句なくそうなのだが……いわば婚約衣装とでも言うのか? なんだそれ。
「ミオス、この衣装はミオスのリクエストか?」
「いえ私は、私達は何も……あるならアリナ様か陛下かと」
「だよな、ちなみに俺でもない」「それはそうだとは思いましたが」
うーん、ここは年長のナタリに聞いてみよう。
「城の暗部に居たからという訳ではないが、ナタリはどう思う」
「はい、思い出作りですね」「というと」「次の封印で何があっても良いように」
「つまり俺たちが死ぬ可能性があるからと」「そこまでかどうかは、わかりかねますが」
縁起悪いな、
死ぬ前に結婚式の真似事くらいはさせてやろう、ってか。
「わかった、ちなみにロズリは何か聞いていないか」
「いえ、普通のパレードだと、一応は警備はしっかりするそうです」
「誰に襲われるんだよ……あっ、旧ハーレムの関係者か」「可能性は無くは無いかもですね」
すでにヨランが連れ去られかけたからな、
ただ国王陛下主催のパレードでそんなことするか?!
まああとは普通に、馬車の前に飛び出す子供とか居ないようにだろう。
「ハミィはネリィから何か聞いていないか?」
「いえ何も、ただ最近というか、昨夜お会いした時はぁ」
「会ったんだ」「ほんの少しだけ、ただ、『間違えた』『やり直さなきゃ』と呟いてましたぁ」
……怖いなぁ。
「まあいいや、それでパレードの時間は」
「間もなくですね、馬車の方へ行きましょう」
「中庭です、先輩方はもう集まっているかも」
この先輩って騎士団のかハーレムのか、
まあいいや、俺の着替えもいつのまにか終わってるし、
ということでみんなで廊下へ……やべえ、ちょっと緊張してきた。
「ちょっとトイレへ行ってくる」
「はい、お待ちしておりますね」
……用を足しながら考える、
新ハーレムの衣装がああだとすると、
旧ハーレムも……いや、年齢も年齢だし、もうちょっと抑え目かも?
(これだとまるで、結婚匂わせパレードだな……)
ひょっとしたら陛下なりの励ましと言うか、
さっさときちんと解決して、ちゃんとした結婚式を挙げられるようにしろって、
発破をかけてくれているのかも知れない、それは良いんだが、相手を俺は確定させていないのだが。
(まあ、普通に考えれば……どっちだ?! 普通に考えた場合は!!)
陛下が改めて用意してくれた新ハーレムと式を挙げる、これはまあ普通か、
戻って来た旧ハーレムと十二年前の約束通り式を挙げる……これって普通か?!
三人は結婚して子持ちだぞ、でもまあ元の予定通りになるって意味なら普通と言えなくもないか。
(じゃあ、俺はどうするのが普通なんだよ)
というか普通はどうこうより、
俺がどうしたいかだよな、ならばいっそ、
今この花婿衣装なのを脱ぎ捨てて……うん、俺にそんな度胸は無い、例え勇者であっても。
(そもそも勇者とか関係あるか?)
まあいいや、
パレードはパレードだ、
それを済ませて改めて考えよう……とトイレを出る。
「ラスロ様、おかえりなさいませ」
「いやいや、四人してトイレの前で待ってなくても!」
「では参りましょう」
という感じで五人してぞろぞろと中庭に到着すると、
そこで待っていた旧ハーレム四人の姿に、俺は驚いた!!
「アリナ、ヨラン、エミリ、ネリィ、その姿はっ……!!!」




