第70話 いよいよヨランに直接会う手筈 狙いは明日のパレード、やはり自分で連れ戻さなくては
「これがパレードのルートか」
「はい旦那様、こちらの曲がる地点で足止め出来れば、連れて行くことは可能かと」
王都にあるスタヴィック公爵の別邸、
そこで念入りに計画を執事と練るモリス=ジョルジール侯爵、
彼の頭には妻を連れ戻す事以外、考える事が出来ないらしい。
「陛下の顔を潰す訳にはいかない、出来るだけ終わりに近い場所で引っ張ろう」
「しかし城から出て戻るルートゆえ、城に近い場所で騒動になるのはまずいかと」
「騒動では無い、少しだけ早めに帰らせるだけだ、話を聞こうとしない陛下が悪い」
夜も遅くなろうと言う時間、
いらつきながらスタヴィック公爵家のコネで入手した、
パレードの予定ルート表で場所をいくつかチェックする。
「……この騎士団の詰所、ここは利用できないか」
「旦那様、そこはおそらく警備の者が使う場所かと」
「では隣の、これは喫茶店かレストランか、ここのテラスは」「話せても、引っ張るのは難しいかと」
メイドが濃い紅茶を持って来て置くと、
即座に奪うようにして飲み干すモリス、
苛立ちが寝不足と相まって表情を厳しくさせる。
「まったく、手間を取らせて……私とて、こちらの最低限の事さえすれば、
スタヴィック公爵家へ一緒に頭を下げて、婚約の取り決めさえ書面で交わせれば、
その後で魔物の出入口を封印する暇くらい、少しならば与えてやっても良いのに……」
頭を抱えるモリス。
「旦那様、ヨラン様は責任感の強いお方なのでしょう、
今は魔界封印についてしか頭に無いとなれば、こういった行動も」
「ではこのパレードは何だ!」「おそらく陛下が、国民を安心させるためだと」
ふうっ、と大きなため息をつく。
「まずは私を安心させてくれ、夫だぞ……」
「こればかりは相手が陛下となると、苦情を出す訳にも」
「……警備の兵隊に金を渡して足止めさせ、ヨランと馬車で話す事は可能か」
黙って首を横に振る執事。
「旦那様、時間が……」
「妻に会って話をするだけ、ただそれだけだぞ、
終わった後に城で引き渡して貰う確約が無いのであれば……くそっ」
窓から遠くの城を見つめるモリス。
「あそこに……あそこに妻が居るのに、
腕を引いて命令さえすれば……従って来る、はず!!
何か、何か良い策は無いものか……何か使えるものは……!!!」
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「えっと、まず俺がここ、グレナダ公爵家に泊まるのは良いとしてだ」
「はいラスロ様、とても広く大きなベッドですね、まるでハーレム用です」
「いやロズリ、それは良いんだが、なぜ扉の内側で立っている」「警備です!!」
確かに騎士団員っぽい服装ではある、
腰にしっかり剣も鞘に納めてさしてある、それは良い、いや良く無いか。
「俺が寝るのをずっと立って見守っているつもりか」「はい」
「いつまで」「朝までです!」「で、パレードは」「一時間ほど眠れば」
「えっ俺が起きてから?」「そうなりますね」「いやいや、ちゃんと寝ないとまずいだろう」
しかも、それだけでは無く……
「ラスロ、騎士団員は丸二日くらい眠らなくても平気だ」
「だからってヨランまで、ヨランもずっと見張っているつもりか?!」
「私の場合は一時間の仮眠すら要らない、安心して眠ってくれ」「不安になるよヨランが!!」
これ、灯りを完全に消してもおそらくこのままだよな?
二人並んで立ったまま、いったい俺が誰にどう襲われるんだよっていう……
ヨランに至っては勝手にここ公爵邸に入ってきて、いやアリナやミオスに一言はあっただろうが。
「ラスロ様、ご安心してお眠り下さい」
「ラスロ、見張りは任せろ、夜魔とか来たら斬っておく」
「だーかーらー、もう……仕方ない、俺の両隣りで寝てくれ」
大きすぎるベッドだ、
三人並ぶくらいなら十分にスペースがある。
「ラスロ様、よろしいのですか?!」
「やっとその気になってくれたか、ラスロ」
「違う違う、普通に眠るだけだ、変な事はしない、あと、させない!」
パレードに差し障りがあるとまずいからな、
いや変な意味でじゃないぞ、とにかく普通に眠って貰おう。
「わかりました、こんなこともあろうかとネグリジェを」
「やはりアリナに言われた通り、セクシーランジェリーを用意しておいて良かった」
「ちょ、脱ぎはじめるな、色々と誤解だ、というかお前たち最初からそのつもりで?!」
などという事がありつつ、
なんだかんだ距離を保ちながら、
俺は大きなベッドの中央で、なぜか窮屈そうに眠ったのだった。
(明日のパレード、どうなることやら)




