第7話 剣聖と剣士の戦い 新旧ハーレムの決闘が早速、行われたのだが!
「……よし、このあたりで良いな」
「ヨラン? まだ馬車で向かっている最中なんだが」
「止めてくれ!」
十二人乗りの馬車(運転手除く)、四人三列の高級な室内座席で俺の後ろ、
正確には前列に座る俺と両隣に賢者ミオスと聖者アリナ、そのアリナの後ろに居る中列の剣士ヨラン、
彼女が大声で運転席に向かって叫んだ、その声に慌てて止まる、いったいどうしたのだろう。
「よし、この荒れ地で良いな、ロズリとか言ったか、決闘だ!」
……まーた、そんなことを!
いや、またと言っても十二年ぶりだが。
「望むところです!」
新ハーレムの剣士ロズリも乗り気だ。
(こういう時、ヨランは俺が言っても止めない)
となると、止められるのは……!!
「アリナ、やらせても良いのか」
「はい、私もヨランの今の強さは見てみたいので」
「えええぇぇ……」「では審判は中立の、運転手さんで!」
そうはいっても王国騎士団の一員だ、
どんな激しい攻防も見極められるはず……
おかしかったら、いざとなったら俺が口を挟もう。
(馬はエミリが面倒を見ている)
荒野で対峙するふたり、
まずは旧ハーレム伝説の剣士、
ヨランが懐かしの『豪剣』を抜いた。
「城に寄付していた私の剣、まだ残っていて良かった……
本来ならば『剣聖』のこの私、その剣、とくと見るが良い!」
続いて新ハーレムの王宮騎士団員、
はもう辞めちゃったんだっけ僕に嫁ぐために、
十九歳の剣士ロズリも剣を抜いた。
「これは私の愛剣、騎士団を辞めた除隊金代わりに貰った……
その名も『ラスロ剣』これで私の、ラスロ様への想いを証明するわ!」
「ちょ、その名前」「入隊間もない頃から、この名前ですっ!!」
人の名前を勝手に……
死人だからって! いや、それに生きてるし!!
間に入った男の運転手さん、良い迷惑だな、が互いを確認する。
「この決闘はあくまでも形式決闘、わかっているな?」
まずは頷くヨラン。
「あくまで形だけ、だれがどう見ても決着、という形に持って行く、無駄な怪我はさせない」
続いてロズリも頷く。
「余裕を持って、勝負あったという寸止めをラスロ様に見ていただき、頷いていただく!!」
……そうは言ってもなあ。
「では互いの距離を決めて、構えよ!」
静かにゆっくり準備する二人、
ヨランはまず空を見上げる、うん、懐かしいポーズだ、
対するロズリはずっとヨランから目を離さない、戦闘前でも警戒を解かない感じ。
(うーーーん、さて、どうしようか)
見るまでも無くヨランの圧勝だろう、
十二年間、休んでいたとしても経験が段違いだ、
あらゆる戦士、魔物との実践、そして俺のと稽古が蓄積されている。
(それは身体に刻まれたものであり、決して忘れるものじゃない)
ここで俺が取る行動は、
早めにヨランを止める事だろう、
あまりに早くストップするとロズリは納得しないと思う。
(だが、それでいい)
変に剣で『殴り合い』をして、
これから一緒に戦う一応は『仲間』に変な遺恨は残したくは無い、
好きにやらせてヨランがロズリを瞬殺した所で、急に時間が十二年前に巻き戻る訳では、無い。
(そう、ヨランが他の男と家庭を築いていた事が、消える訳では無いのと同じで……)
ロズリもロズリだ、
この後、俺が早く止めて負けを宣告したとしてだ、
フォローをどうするか……そもそも俺はヨランもロズリも、まだどちらと選んだ訳では無い。
(あえて言うなら保留、いや、両方選んでいる状況だ)
このあたり、
身長に言葉を選ばないとな、
ヨランが圧勝はいめでたしめでたし、という話では決して無いのですから。
「ラスロ様、飛び出す準備をしておられますね」
「うんアリナ、まあ、決定的な決着となる前に」
「そこまで気を使わなくても、止める前に終わりますよ、ヨランも勝ちの選択肢を七つは考えているでしょうから」
その中からどれを選ぶか、か……
もうこれは余裕どころの話じゃないな、
後はヨランがその中で、一番、相手を傷つけない道を選んでくれるか。
(俺の知っているヨランはそこまで甘くないはずだが、十二年でどう変わったか)
今の俺の気持ちをわかって酌んでくれれば、
十二年の月日、崩壊したハーレムも少しは修復の余地が……
「随分と上から物をおっしゃられるようですが」
「ミオス、ごめん」「ラスロ様が謝られる事ではありませんわ」
「まあ、ではかつて聖女が内定していた私に謝罪せよとでも?」「結果が楽しみですわね」
……若いなあ、
うん、ミオスは色々な意味で若い、
だから一度、痛い目を見るのも勉強か。
(おっ、ヨランとロズリが構えて完全に止まった!!)
審判が右手を頭上にあげて……
「では、はじめっ!!」
振り下ろした瞬間、
二人が物凄いスピードでぶつかり合う!
(よし、おそらく決着は……ええっ?!)
次の瞬間、
俺は、信じられない光景を目にした!!
「そこまで、勝者……ロズリ!!!)
なんと……
荒野に仰向けで倒されているヨラン、
その胸に左足を乗せ、剣先を喉元に寸止めしているロズリの姿が!!
「……これが私の、ラスロ様への想いよっ!!」
まさか、まさかのシーンだった。