第60話 あとは王都へ帰るだけ と思ったらこういう裏切りもあるのか
「ラスロ様、お疲れ様でした」
「私も最後に少しだけお手合わせできて、嬉しかったです!」
「ああ、また時間が出来たら改めて訓練しよう」
ベルナルくんへの特訓と、
ヨランとの手合せが終わった後、
ちょこっと流す程度でロズリとも剣をやり、馬車に戻った。
(そして今、会話したのが一列目で俺の両隣に座ったミオスとロズリだ)
二列目にはナタリとハミィ、
そして三列目にはアリナ、エミリ、ネリィという、
さっきとは逆だな、今回は旧ハーレムが最後列に押しやられている。
「それでラスロお兄様」
「どうしたハミィ、またネリィがみんなをドン引きさせるような言動でも」
「あっ、それなら通常です、ではなくて」「姪のおしりぺんぺんが足りないようですネェ」
いや、いつやったんだよ。
「ヨランの事か」「はい、ベルナルくんと一緒にあちらの馬車へ」
「あれは一応、特訓の延長線上とでも言うか、ベルナルくんが俺と闘ってみて、
なおかつ俺とヨランが闘うのを見て、疑問や質問があれば存分に、聞けるようにだ」
そのために、しばらくは貴族馬車でふたりにした、
これが今生の別れになるとは思ってはいないが物事はタイミング、
特にああいう模擬戦をした直後、まだ記憶が鮮明なうちに聞いておくのは良い事だ。
(俺も聞かれたら答えるが、まずはヨランと、実の母と話す時間をだな)
別れ話を、というつもりでは無いものの、
今後あのふたりの関係がどうなるかわからない、
ここに関しては俺が口出し出来ない部分も当然ながら、あるだろうし。
「それでラスロ様、気付いてしまったのですが」
「おっ、やはりナタリは勘付いたか、さすがだな」
「はい、あれヨラン氏への剣の稽古でしたよね、近代的な」
実はヨランの十二年前と変わらない剣の技術、
あれではまずいと思い。ロズリがヨランを倒した時、
またロズリが普段闘っている剣さばきを参考に相手をした。
(極端に言えば、ヨランがロズリに勝てるようにした)
ただ、それではあんまりなので、
最後の仕上げでロズリに『ヨランが近代風に成長したらこうなる』というのを、
俺がやってみせて、ロズリも進化したヨランに勝てるようにした、極端な言い方だが。
「まあ、気付いているかどうかは別にして、
ヨランには良い経験になったと思いたいが」
「やはりラスロ様は伝説の勇者です、もう近代的な剣術を消化なされて」
お手本のおかげだな、
という意味も込めてロズリに微笑んで頷くと、
照れて顔を紅くして俯いた、可愛い所もあるもんだ。
「ハミィ」「なんですか叔母さん」
「このネリィにも近代魔法を教えなサイィ」
「十二年前とそこまでは変わっていませんよ」
魔法も魔法で進化してそうなのは、
例の立体結界で明らかなんだけどなあ、
まあ何だかんだ言ってちゃんと教えてくれるだろう。
「猶予は一か月ある、その間にしっかり備えよう、
何なら八人全員みっちり稽古つけてやっても良いぞ」
「それなら早速、今夜にでも続きを」「ロズリ、焦るな焦るな」
確かに一か月ある、と同時に一か月しかない、とも取れるか。
「よし、どうせ後は王都に帰るだけなんだ、
帰り道がてら、色々と俺の経験を話そう」
「ラスロ、それは魔界の十二年もですね?」
そのアリナの言葉に、
俺はあえて答えず新ハーレムに向けて……
「勇者の剣の使い方というのは、剣士とはまるで違う、ロズリ、わかるか」
「私が聞いた話によれば、剣に光魔法を込めているとか」「それもあったな」
「では、それ以外では?」「剣士というのはどうしても前衛としての戦い方を……」
などと色々と十二年前、
いやもっとか、勇者として修行し始めた頃からの、
教わった事や自分で考えて出た結論などを話し続けていると……
「あれ? 馬車が抜かれてないか?!」
俺たちの後ろを走っていた、
ヨランとベルナルくんを乗せた貴族の馬車が、
いつのまにか前を走っている、話に夢中で気付かなかったな。
(ミオスが窓から顔を出し、覗いて引っ込んだ)
「ラスロ様、飛ばしているようです」
「それでこっちも加速しているのか、でもなんで」
「予定より遅れたのでしょうか」「そんなに急ぐ必要あるか?!」
と思ったら先の二手の道、
貴族の馬車が左の道へと入った!
標識で王都行きは右だというのに……と思ったら!
(前の馬車、その扉が開いた!!)
走っている最中なのに!
そしてヨランがそこから出てきて、
屋根をよじ登って……こちらにジャンプして飛び移った?!
(そして馬車は、貴族のは左、我々のは右の道へ……)
僅かな時間、併走したのち、
枝分かれした道は互いに離れて行った……
アリナが徐々に速度を落とす我が馬車の扉を開ける。
(素早く入って来た、怒りの表情だ)
入って閉めると、アリナが尋ねる。
「ヨラン、どうしました?」
「あの私兵たち、私をベルナルと一緒に、
モリスの、侯爵の来ている街まで連れて行こうとしたわ」
まさかの拉致かぁ。
「それで慌てて出てきたのね?」
「ああ、こういう風に裏切るとはな」
「いやいやだからって馬車から馬車へ、屋根伝いのダイブは」
と俺は言ったものの、
結構な速度だったからな、
地面に降りられない以上は、ああするしかないか。
「これが私兵の判断か侯爵の指示かはわからないが、
ベルナルの命令でない事は確かだろう、ラスロすまない」
「いや謝られても、とにかくヨラン、本当にいいのか」「私はラスロの元へ帰った、それだけだ」
……ていうか、ということはだ、
ヨランの旦那さんはもうすぐ近くまで……
これは王都でする事が増えるな、さて、どうしようか。
(直接対決、か)
というか俺、
対決するのか?!?!
「ヨラン、この件どうする」
「前も言ったと思うが、一緒に謝ってくれ」
「うーーーん」「嫌なら後ろで立っているだけで良い、私が言葉で何とかしよう」
そう言ってタオルで身体を拭きはじめたヨランだった。
いや、脱ぐなよっていう。




