第58話 馬車移動中ここでベルナルくんにクイズ ヨランが剣を三本同時に操る方法とは?!
「……という訳でヨランは三つの剣を同時に操る技を、
少しの間だけ試していたんだが両手に二本持って、あと一本はどうしたと思う?」
「母上の三刀流……三本目、ひょっとして口に咥えていたとか」「そりゃあ歯がボロボロになるな」
王都までの道中、
色々と考えた結果ベルナルくんを俺の隣に座らせ、
更にその隣りにヨランで挟んで俺から昔話を聞かせてあげている所だ。
(後ろ、二列目の座席は旧ハーレムの残り三人が話を聞いている)
三列目つまり最後列には新ハーレムの四人だ、
追いやったみたいで悪いが今はベルナルくんのため、
しばらくの間は後ろで大人しくして貰おう、という事で答えを教えてやらなきゃ。
「股に挟むとか」「おいこら」「ラスロすまない、ラスロとの子はこんな風には」
「いや、おそらくベルナルくんは大真面目に考えて出した答えだろう、そうだよな?」
「剣三本を同時に持つ方法ですよね、歯でないとなると顎、首、いえ腋?」「不正解だ」
俺はベルナルくんごしにヨランを見る。
「ラスロ、彼の真面目な性格であればおそらくわからないだろう」
「ちなみにヨランは今でも出来るか?」「いや、十二年間も剣を握ってなかったというのもあるが、
あれはあの剣、それぞれが揃ってこそ出来る芸当だ、しかも戦いで神経が研ぎ澄まされていないとな」
うん、まさに曲芸だった。
「という訳でだベルナルくん、答えを発表しよう」「はい、お願いします」
「答えとして言うなら、三本同時に持つ方法は、二本持って残り一本は宙に浮かせる」
「ま、魔法ですか?!」「違う、普通に頭上へ放り投げている、お手玉みたいなものだな」
これが戦いが激化すると、
頭上まで飛ばさなくとも瞬時に持ち変えるという、
あれは剣聖用の剣と呼べるような、あの三本だからこそ出来たという感じか。
「その技、教えていただきたいです! あと普通に剣術も」
「だそうだがヨラン」「……私の剣は国とラスロのためのもの、済まない」
「そういえば、ヨランは一度決めると頑固だったね」「ラスロとの子になら喜んで教えるが」
……剣を捨てたから教えられない、
というのであれば剣を再び取った今なら、
教えてあげても良いのでは、と思うがまあヨランはヨランで思う所があるのだろう。
(このあたり、俺がどうこう言う事では無い気がする)
教えるにしても日が、ね。
いや、実の息子であれば母親から、肉親から教わるっていうのが大事なのだろう、
たとえそれが、たった一回だったとしても……よし!
「ベルナルくん、剣は持ってきているかい?」
「……私兵の、我が侯爵家の馬車に一応は乗せてあります」
「よし、次の中継地点で稽古をつけてあげよう、とはいえあと何回あるか……」
中腰でこちらへ近づくヨラン、
ベルナルくんの頭越しに! って近い近い!!
「ラスロ、それはさすがに」「いや、これは男と男の話だ、なあベルナルくん」
「本当に、本当によろしいのでしょうか?!」「まあ、おそらくは基本の延長しか教えられないが」
「……わざわざラスロがそのようなこと、弟子は取らないのでは」「昔はな、って弟子とかそんな大袈裟なもんじゃ」
ヨランの胸を頭に乗せたまま目を輝かせているベルナルくん、
こんなにも喜んでくれるとはね、うん、十二年前の剣術ではあるが、
今の強さがどのくらいで、今後どうしていけば良いかのアドバイスくらいは出来るだろう。
「では早速、今ここで馬車を止めていただいて」
「おいおいおい早まるな、今はヨランの話をだな」
「勇者ラスロ様の、気が変わらにうちに!!」「……仕方ないなあ」
まだヨランの面白話がいくつかあったのだが、
あんな話やこんな話、えっあれ言っていいんだっけ? な話まで、
でもまあそれは終わってから、馬車を早めつつでも良いかな、うん。
(運転席のダンジュくんに向かって、っと……)
「すまない、空き地があれば止まってくれないか」
「このあたりなら、いくらでもありますが」「じゃあ、ここでいい」
「ラスロ、何も馬車を止めてまで」「ヨランだって決闘で止まっただろう」
しかも大声で無理矢理に止めた記憶が。
馬車は本当に適当な場所に止まった、後ろの貴族馬車も止まる、
道の両脇に良い感じの草原だ、俺は剣を手に降りる、ダンジュくんも。
(そして侯爵家の馬車へ行って、素早く剣を持ってきた!)
うん、十歳くらいにしては立派な剣だ。
「よし、ではまず最初に……って、みんなも降りてきたな」
貴族馬車の私兵までも。
「ラスロ、私に手伝える事はあるか」
「そうだな、ヨランよりロズリ」「はいっ!」
「剣を貸してくれ、あとナタリもアサシンのカタナを」「ははっ」
自前の剣とラスロ剣とカタナ、これで三本だ。
「確かヨランがやっていたのは……こういう事だ」
と、まずはカタナを頭上に放り投げ、
残りの二本で大きく素振りをしたあと、
落ちてきたカタナに持ち替えて今度は俺の剣を宙へ……
(うん、本当にお手玉みたい、曲芸だなこりゃ)
よくこれで敵を的確に倒せてたもんだ。
「うそっ、ラスロ、私の技をいつのまに」
「ヨラン、すまない、見よう見真似だからそこまで完成度は無い」
「いや、立派に出来ているではないか」「敵がいなけりゃ、まあそれなりに……なっ!」
最後にちゃんと三本受け止めて、と。
「ダンジュくん、やるなら木剣でな、まあ練習して習得しても、見栄えだけのものかも知れないが」
「ありがとうございます! それでは早速、決闘を」「稽古だよ稽古、審判は無し、軽く、かる~くね」
……これでもし一本取られたら、
それこそロズリに負けたヨランどころじゃなくなるからな、
さすがに十歳相手にそれは無いと思いたいが……まずはそれなりに様子を見よう。
「では、お願いします!」
「斬るんじゃなく当てるだけだからな、刃の向きに注意な」
「はいっっ!!」
こうして俺は、
ダンジュくんに軽く剣の稽古をつけてあげたのだった、
いや、思いのほかやるなっていうか、子供は元気でいいなあ。
(って俺、じじいかよ! 確かに十二年経ってるからな)
それにしても、
ヨランはそんなに複雑そうな目で見なくても……
おっといけない、隙を作ってしまった、しっかり相手をしてやらなくちゃな。




