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ハーレム崩壊、十二年後  作者: 風祭 憲悟@元放送作家
第一章 伝説の女剣士のやり直し 錆びついた剣と言われても愛で研ぎ澄ますのみ!

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第52話 西最果ての侯爵は悩む 帰って来ない妻、呼びに行った息子さえも……俺に落ち度は無いはずなのだが。

「おかしい、ヨランが一向に帰ってこない……」


 執務室で天井を見上げるこの私、

 モリス=ジョルジール侯爵は大きなため息をつく、

 本当にくだらない話だ、伝説の勇者が十二年ぶりに生きて帰って来たなど……


(確かに嫌な予感はした、だから追い返そうとしたのだが)


 王都からの使いはヨラン本人に直接、告げることに固執した、

 これはすなわち陛下が『一度は会いに来い』という強制的なもの……

 侯爵の直感がそう教えてくれ、おそらく面倒くさい事になると推測した。


(ヨランの意思に関係なく……最悪、連れ去られる危険を感じた)


 丁度、我が国で西の最果てとなるここ一帯を治める、

 スタヴィック公爵家との縁談がまとまりかけていた時期でもあり、

 何とか誤魔化して、あわよくば公爵家の傘で妻を守ろうとすら考えた。


「それがなぁ……ヨラン自ら、あんな風に出ていくとは」


 ギシッ、と背もたれが軋む、

 あれは予想外だった、もし話を聞いたとしても、

 感情の薄いあのヨランのことだ、おそらく淡々とした物言いで、


『あら、そう』


 と言って終わりだと思った、

 その後は私の命令に「はい、あなた」と、

 いつも通りのヨランに……いや、今にして思えばこれは私の予想というより願望だった。


(本当に、何でも言う事を聞く良き妻だったのに……)


 私も含め我が血筋は身体が弱い、

 男が産まれても病気で死ぬか種なしとなるか、

 かく言う私も幼い頃は三度、大病で死にかけたが今、こうやって侯爵家を継いでいる。


(そしてヨランという最高の妻を迎え入れた)


 貴族同士の派閥争いやしがらみが少なく、

 それでいて身分が有り、とにかく丈夫な嫁が欲しかった、

 丁度、探していた時に『剣聖を辞退した元騎士団員』の女性を見つけた。


(婚約者と死別し、心を完全に無くしたと聞いていた)


 実際、会ってみるとまさにそんな感じだった、

 しかも身体の丈夫さは私の弱さを補うに余りあるだけでなく、

 貴族のパーティーに連れて行っても決して恥ずかしくない美貌を持っていた。


「初めに……きちんと条件を、詰めたというのに」


 後々になって問題が無きよう、

 最初に『条件があれば』と聞いたのだが、

 そこでヨランが出した唯一の願いが『剣を捨てる事』それはむしろ、好都合だった。


(警備は私兵に任せ、ヨランは貴族の、侯爵の妻である事に徹すれば良い)


 こうしてヨランは私の言う事を全て聞く、

 便利で良い妻として約十二年間、四人の子を産んでくれた、

 私はどうしても子に厳しくなるのでヨランの方で極力、フォローしてやってくれと言えば


『はい、あなた』


 と言って、本当にうまくやってくれていた……

 ただ、たった一度だけ、長男が妻に剣術指南を頼んだのを拒んだと聞いて、

 やはりそれだけは譲れないの、逆に言えば、たったそれだけを、その約束だけを守っていれば、と……


(本当に、お互いに何の不満も無く、円満で良い夫婦でいたのではないか)


 それを、あんな急な報せひとつで……

 剣の勝負を申し出た時は何の冗談かと思った、

 何かの儀式的なものであればくだらない、私の命令で却下させられる、はずだった。


「それがまさか、まさか出て行ってしまうとは」


 引き留めようとしたとき、

 いつも通り命令ひとつで言う事を聞くと思いきや、

 これまで見た事も効いた事も無い剣幕で拒否されてしまった。


(あれは、いったい何だったんだ……)


 スペジュールが詰まっていて時間が無い中、

 一時間だけ心の整理を与えれば全て、解決するはずだった、

 本当なら今頃、スタヴィック公爵家から息子の婚約者が来ていても、おかしくは無い。


「俺は、何も悪い事はしていないはずなのだが……」


 コン、コン


「入れ」

「失礼致します」


 やってきたのは執事だ。


「どうだ、ヨランは帰って来たか」

「いえ、ただ情報が色々と入って参りました」

「全て話せ」


 私はメイドの置いた水を一気に飲み干して聞く。


「まずヨラン様ですが、帰ってきた勇者と『魔界封印』に出たそうです」

「なんだと、また魔物が出たというのか?!」

「何でも勇者が帰ってきたとき、魔界との通路、ゲートを閉じられなかったと」


 迷惑な話だ。


「……なるほど、それでヨランが駆り出されたのか」

「他に当時の聖者、弓使い、魔法使いも一緒とのことで、おそらく」

「それでヨランを迎えに行った息子は」「王都で帰りを待っております」


 ふうっ、と息を吐く。


(なるほど、ヨランの行動は義務感、後始末のためか)


 ならば戻ってくる可能性は、

 十分にあるな……むしろ、時間の問題か。


「後は」

「その勇者が戻り次第、結婚式を開くそうでヨラン様はそれを観覧なさるかと」

「ではその結婚というのは」「陛下がお決めになられた、新しい若い妻たちだそうです」


 一気に安堵感に包まれる。


「……ヨランは堅い、真面目だ、だからこそのあの行動か」

「後は坊ちゃまにお任せなられては」

「そうだな……いや、改めて公爵家へ行くといでに、私も王都まで出よう」


 真面目なヨランのことだ、

 私が直々に迎えに行けば、

 もはや何の問題もあるまい。


(これでヨランに、貸しを作る事にもなるからな)


 ついでに夫として、

 妻に買い物でもしてやろう、

 王都でしか買えないような高価な物を。


(そして、待たせた分だけ、スタヴィック公爵家で働いてもらわねばな)


 まあこれくらいの我がまま、

 今回だけは許してやろう……

 次は無い、という念を押してだが。


「よし、では早速、仕度をしよう」


=============================================


「ふう、王都まであと半分か」

「ラスロ、あの街には良い逢い引きの宿があってな」

「ヨラン、お前はいったい何を言っているんだ」「真面目な話だが」


 ……そうだった、

 ヨランは下世話な話も真面目に言うタイプだった、

 十二年経っても、変わっていないものなのだなぁ……。

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