第50話 ようやく人の通る道へ到着 ふたりの正妻とこっそり個別相談してみた結果、思いついたのは……!!
「やはり馬車だと早いな、もう人の道だ」
俺が魔界から脱出し、
這いつくばるようにやってきた道をたどってきた結果、
以外にも早く普通の、人の通る道が現れた、ここからしばらく先で輸送馬車に助けて貰った記憶がある。
(とはいえ、このまますんなり帰って良いものか)
すでに真っ暗闇、
一応は定期的にライト魔法を焚いて、
近づいてくるストーンスライムが居ないかチェックしている。
(道の端で馬車と止めて、俺は外へひとりずつ呼び出す事にした)
「……よし、まずはアリナからだ」
「はい、こんな樹の陰で、何でしょうか」
「別に逢い引きじゃないぞ」「残念だわ、せめてキスくらいでも」
……やはりアリナ、
ライト魔法に照らされた下でも、
十二年の月日を感じさせる表情だ。
(そして聖女というより、大人の恋する女性という感じだ)
あまりにも、もう大人すぎるのだが……
前も思ったが旧ハーレムがみんな重ねたように、
俺だって十二年の年月が経っている、みんなも同じ感想だろう。
「真面目な話、早ければ一か月後には封印が突破されるだろう」
「はい、その間に対抗策を練らないといけませんね、一緒に考えましょう」
「そ、そうだな、俺はリーダーでアリナはサブリーダーで」「そして聖女で、妻にもなりますよ」
……まだ、きちんとした解決はしていないと思うのだが。
「それまでの間なのだが」
「はい、避妊魔法はかけましょう」
「いやそういう話ではなく」「結婚式は形だけですよね?」
いつのまにかヨランとその話をしたのか。
「形も何も、そういう事をする暇は」
「あら、家庭を持てば護る気持ちが強くなるはずです」
「……そのあたり、まだ引っかかっているのだが、アリナ」
俺の胸に抱きついてくる。
「今度は、今度こそは助けますよ、離しませんよ」
「アリナ……」「やはり何と言われようと、一緒に行くべきでした」
「それだと心中じゃないか」「それで良いんです、実際に生き残ってわかりました」
……アリナはもう覚悟を決めている、
確固たる想いで、俺の元へ戻るということを……。
「……しかしアリナ、俺は、俺には」
「誰がどうとか関係なく、私はラスロの妻になりますよ」
「それは、他のハーレムのメンバーを切り捨ててもか」「捨てません、なぜなら私はリーダーで、正妻ですから」
確かに俺が死んだとなって、
他のメンバーに別の男性と結婚して幸せになれと命じたのはアリナのようだ、
で、間違えたとわかって戻って来たメンバーもまとめるのが、アリナの立場、仕事ということか。
「なら……俺が拒否したら」
「そうですね、また一から関係を構築しましょう」
「始めて会った時のように、か」「とはいえ私達も齢を重ねました、大人の恋愛をしましょう♪」
まあ、まったくイチからという訳にはどうやってもならない、
でも本当に俺の事が好きで、愛していて、やり直したい、続きをしたいという気持ちはわかった、
問題は俺の居なかった『十二年間の後始末』が必要なだけで……。
「じゃあ、俺の新しいハーレムは」「恋敵ですね、今は仲間ですが」
「ライバルか」「でも、いがみ合うばかりがライバルでは無いですよ」
「好敵手という奴か」「でも私たちには時間はそんなにありません、子を宿すためにも」
上目づかいで俺を見つめるアリナ、
目がうるんでいるようにも見える……
「やっと、やっと会えた、再会できた、取り戻せたんですもの」
「俺も、俺もずっと会いたかった」「なら何も問題はありませんよ」
「でも、だが、しかし」「ラスロは勇者です、どんな我儘を言っても許されますから!」
我儘、か……
じゃあ俺が旧ハーレムではなく新ハーレムを選ぶという我儘を言ったら、
どうするつもりなのだろうか……正直、一時期はそれに気持ちが傾いてしまった。
「わかった、アリナの気持ちはわかったから、次は……ミオスを呼んできてくれ」
「はい、ライト魔法はしばらく持つでしょうから、そのままにしておきますねっ!」
「ああ済まない……王城へ戻る頃には、何をどうするか具体的に決めておくよ」「はい!」
参ったな、
結婚式は当分無しで、
と言おうと思っての個別呼び出しだったのに。
(すっかりアリナのペースに、呑みこまれた気がする……)
虫を払いながら待っていると、
ミオスが笑顔でやってきた、うん、若い。
「ラスロ様! 逢い引きと聞いて来ました!!」
「だからちがーう! いやな、城へ戻った時の結婚式なんだが」
「はい、パレード含め一週間は結婚式で、その後に再封印の準備をしましょう!!」
こっちもこっちで圧しが強いな。
「確認なんだが、封印がまだ不完全だ」
「それはそれ、これはこれ、結婚式は結婚式です!」
「いや、結婚式は逃げないぞ」「だったら、さっさと済ましてしまいましょう!」
いやこれ、
こんな感じだと『結婚式は当分無し』って言っても、
多数決で却下されてしまいそうだぞ、うーーーん……
(そうだ、良い事を思いついた!!)
「提案なんだがミオス」
「はい、なんでしょうかラスロ様!」
「もういっそ『結婚式』自体を、やめにしないか?!」
こうして俺は、
少々トリッキーなアイディアを思いついたのだった。




