第4話 ヤンデレ魔女は子煩悩 七人の母親奮戦記は突然、終焉を迎えた
「アイン ビアン カーデ、ディジ、エリク、ファヤ、ガラダ、おやつですよぉ~~~!!!」
「「「「「「「はーーーーーーい」」」」」」」
今日も私、魔女ネリィ三十一歳は娘や息子の世話を焼く、
だってダーリンがお仕事中なんだもん、ダイダイダイスキなアタシのダーリンが♪
昔からヤンデレに定評のある私が、ダーリンの居ない間にする事は二人の愛の結晶、そう……
(子供たちの面倒を見る事なのよ!)
当然ダーリンが居る時はダーリン一筋、
ダーリンしか目に入らないからダーリンの事で頭がいっぱい!
あまりに好き過ぎて、ダーリンに会えない時間はダーリンを愛するのを禁止された位!
「だから、ダーリンが居ない間は、ダーリンと同じくらい子供達を愛するのよ~♪」
「ママ、また病気が始まったー」「パパにおやつを持っていかないのー?」「怒られちゃうからぁ、クスン」
「ねえ、パパはなんでダーリンなの?」「それはねエリク、ダーリンはダーリンだからなのよ!」
そう、私が生まれて来てから死ぬまで、
生涯『ダーリン』と呼ぶのは、ダーリンだけなのですぅ!
「上の階のお爺ちゃんは、ダーリンじゃないの?」
「ファヤあのね、ダーリンのお父さんは、オトーサマなのよ!」
「じゃあお婆ちゃんはー?」「ダーリンのお母さんは、オカーサマ!」
そんな話をしている間に、
四歳で末っ子のガラダがおやつをこぼす、
それを拾ってお口を拭いてあげる、やさしく丁寧に。
「んもぅ、ほんっとこの子達は、私がついてないといけないんだからぁ」
「パパのオネーサンが言ってたよー、ママは『コボンノー』なんだってー、どういう意味?」
「子煩悩、それは『子供を愛する母親』って事よ! 毎日欠かさず日記を付けるくらいにはねぇ」
母親としての子育て奮戦記は何十冊にも及ぶのよ!
七人目のガラダをもって子を産めなくなった私にとって、
その日記は今後、ダーリンと読む大事な、大切な宝物なんだからぁ!
♪リンゴーン
「あら、ダーリンが私に会いに来てくれたのかしらぁ?」
おそらくそんな事は無いけれど、
あえてそう考えて玄関へ行くのが楽しいのよぉ~♪
「はい、どちらサマでしょうかぁ」
「……勇者ラスロ様の元パーティーメンバー、ネリィ様ですね?」
「はい、それが何か」
魔王討伐年金か何かの、追加配布かしら?
「王都から陛下の命で来ました」
「それはそれはこんな東の果ての魔導都市まで、何の御用でしょうかぁ」
「はい、勇者ラスロ様が無事、王城へと帰還なされました」「……へっ?」
しばらく固まったのち、頬をつねる私。
「……ラスロサマは、マグマに溶けましたがぁ」
「魔王の造り出した幻影でした、ラスロ様は十二年間、
魔界で魔王共を相手に戦い続け、ようやく真の討伐を果たし、戻られました」
伝えに来た者の胸にある、
王家の紋章をまじまじと見る。
「……事実ですかぁ」
「はい、もしご希望ならこれから王城まで」
「わかりましたぁ、では少しお待ち下さいませぇ」
私は急いで自室から最低限の荷物を取ると、子供達の所へ戻る。
「はい、集合~~~!!」
大事な話の時はいつもこうしていた、
それもこれが最後である、あの話が本当ならば。
「「「「「「「はーい」」」」」」」
良い返事、今日まで躾けた甲斐があった。
「んっと、間違えました、たった今まで私の子供だった皆さん、忘れて下さい」
「「「「「「「???????」」」」」」」
ぽかーんとしている子供達。
「私は正しい夫の元へ戻ります、後はザブエル氏、私がダーリンと呼んでいた方ですねぇ、
あと上に住むそのご両親と、伯母のジスラ氏にお世話されて貰って下さいぃ、
私の部屋の残してある私物はご自由にどうぞぉ、日記も燃やして構いません、ではぁ」
頭を大きく下げて玄関へ、
長女の、いえ、アイン氏の私を呼ぶ声が聞こえたけどぉ、
もう私には関係ないのぉ、だって、だってだってえええぇえぇぇぇ……
「ラスロサマラスロサマラスロサマラスロサマラスロサマラスロサマラスロサマ」
「ひっ」
「王都へしゅっぱつですうううぅぅぅ~~~ラスロサマああああああ!!!!!」
王家の紋章がある馬車へ突っ込む私!!
(ラスロサマのネリィが、またドン引きする程、愛してさしあげますよぉぉぉんほぉぉぉ~~~!!!)
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「お久しぶりですお兄様、いえオジサマとお呼びした方が?」
「ハミィちゃんだよね、ネリィちゃんの姪っ子の」
「はい、王都で王宮魔道士見習いをやっています、いえ、いました」
当時、ネリィ十九歳でその姉サティ二十六歳が、
十八歳の時に産んだ、最後に会った当時八歳の少女が、今や二十歳かぁ。
「第四夫人で構いません、よろしくお願いします」
「いいの?」
「熱烈歓迎です!」
それまでに、そこまでもか。
「それで、ネリィちゃんは」
「ラスロお兄様が死んだとなったとたん、速攻でヤンデレのターゲットを代え、
遥か東の魔導都市で七人の子宝に恵まれて、心の底から幸せそうですよ、ええ、それはもう本当に」
うん、安心した、色んな意味で。
(あの俺への愛し方は怖かった、でも、それでも待って欲し……いや、よそう)
幸せそうで、なによりだ。
「それでだ」「はい陛下」
「正妻予定だったアリナとの面会許可が出た」
「……会いたいです」「王家しか使えぬドラゴンを貸そう、操縦は出来るな?」
魔界でさんざん『野良暗黒竜』を調教した経験がある。
「ありがとうございます!」
「戻ったら例の件だ、良いな」「はっ!!」
さて、どうなる。