第37話 野営で眠る前こそ個別で話そう そんなに長い時間は取れないけれども
「おお、丁度良い感じだな」
比較的開けた場所、
そこに大きな大きな樹が一本、
ここは俺のエリアだと言わんばかりに主張している。
(すぐ近くの小川で水も飲めるな)
馬はすでにガブガブ飲んでいる、
俺たちも魔法で沸騰させれば普通に飲めるだろう、
ついでに川魚も獲って焼いて、これは朝御飯だな。
「よし、この樹の下で野営だ、虫が寄ってくるから極力、灯りは無しで」
もうかなり遅い時間だ、
馬車の屋根から例の立体結界を出して貰ったが、
ネリィの闇魔法でうまくコーティングして効果を放出したまま光らなくしている。
(これで虫も魔物も寄って来ないだろう)
「じゃあみんな、窮屈だが眠ってくれ、
寝足りなかったら移動中に三列目で横になって貰って構わないが交代でだぞ」
「それこそラスロが」「アリナ、俺はそんなに眠らなくても大丈夫なのは知っているだろう」
しかも結構、どこでも眠れる。
「ではラスロ、私にもたれて寝てちょうだい」
「……俺はちょっと出てくる、すぐに戻るから」
「んもう」「いいからいいから、出来れば朝日と共に出たい」
アリナを振り切り馬車を降りる俺、
なぜだって?! トイレだよ言わせるな!
結構我慢していた、いや女性は言い易いんだよ現に何度か降りてたし。
(でも女性と一緒に、って訳にはいかないだろう)
方向を別に、ってすると気を使わせるからね、
現に『警備』とか言ってヨランやネリィがついてこようと……
「ラスロ」「うわ、アリナついて来たのか」
「どうしても、ふたりっきりで話がしたくって」
俺に抱きついてきたアリナ。
「ラスロ……やっぱり本物のラスロ、なのね」
「そんな魔界で入れ替わったみたいな、俺だよ俺」
「うん、こうしていると、ちゃんとラスロだってわかるわ」
星空の下とはいえ、
アリナの表情はあまり良くは見えな……
「アリナ、泣いているのか」
「ねえラスロ、ラスロは私の全てなの、
これまでも、そしてこれからも、私はラスロのもの……それはわかって」
震える声が、
必死さを伝えさせる。
「……アリナがアリナとして、ちゃんと考えてくれた行動なのは、わかったよ」
「間違えちゃったけどね、馬鹿よね私、ラスロが生きているのに、魂に懺悔し続けて……」
「でも俺が、戻ってこれたのは……ずっと、ずーっとアリナが俺に祈り続けていてくれたから、かも」
俺も軽く抱き返す。
「ラスロ……」
「でも、でもまだ考えさせて欲しい、
正確には全てが解決してから、答えを探させて欲しい」
そっと俺の頬を撫でるアリナ。
「それが……ラスロの、ラスロ様のご命令であれば」
「さすがにもう魔王に、魔界に引きずり込まれる事は無いと思うからさ」
「その時は今度こそ、ご一緒しますね!」「いやいや……まあ、このあたりで」
なんとなくキスをねだられそうな雰囲気になりそうだったので、
離れてうまく身体を回させ背中を押す、うん、わかってくれたみたいで駆けて行った。
「ラスロー! 愛してるー!!」
よく見えないけど投げキッスしてるなアレは。
(さて、さっさと用を済ませようっと……)
場所はこのあたりで良いかな?
「ラスロ様」「うおっ、ミオス!」
「アリナさんが行ったので」「うん、もう帰したよ」
「私もラスロ様とお話を」「わかった、あまり時間は取れないけれど」
主に膀胱の問題で。
「私、ラスロ様と結婚できるってなったとき、本当の本当に嬉しかったんです!」
「そっ、そうだったんだ」「はい、だって初恋の人だったんですもの、もちろん生還された事もですが」
「……俺ってそんなに良い男じゃ」「いいんです、そうでなくても、私が良い男にしてみせますから!!」
積極的だなあ、ぐいぐい来る。
「ミオス、その、俺も一度は本気でミオスを正妻として生きていこうと」
「今は違うなんてこと、無いですよねっ?!」「ま、まあ、それは、まあ」
「とにかく、まずは魔界との出入り口の封印、話はそれからですよね」「お、おう、わかってるじゃないか」
満面の笑みなのが暗くてもわかる。
「ラスロ様、信じています」「そ、そうか」
「私、ラスロ様の正妻になれて、本当に、ほんっとうに、嬉しいですっ!!」
抱きついてくるミオス、
うん、若くて力強いなあって率直に思った、
そして俺は、この年齢でそれに答え続けられるかどうか……
(新ハーレムしか居なかったら、とっくに腹をくくったんだが)
いや、旧ハーレムが崩壊したと知った後は、
もう完全にその流れで受け入れるつもりだった……
だからこそ話がややこしく、いや、ややこしくしているのは……俺か?!
「ありがとうミオス、わかったから、もう」
「はい、これ以上、困らせたくは無いので」
「帰れるな?」「すぐですよ!」「まあそうだが」
馬車の方へと駆けて行った……。
(うーーーん、本当に困ったな)
二枚舌外交という言葉がある、
どっちにも良い事を言って勝った方と約束を履行する……
だが、その双方が平和的に手を結んだとすると、そこに矛盾が生まれる。
(さて、どうなるんだろか……俺)
とりあえず、
俺のする事は用を足す事だ。
「さて、じゃあこのあたりで今度こそ……」
「ラスロ、個別に話をしに来た」「ヨラン?!」
「実は反省した事がいくつかあってな、謝りたくて……」
(そんなことより俺のトイレーーー!!)
あっ、大きい方もしたくなってきちゃった。




