第36話 再び魔物の群れに遭遇 喋って俺に何か言ったって?! 気のせい気のせい!!
(かなり遠くまで来たな……)
魔光灯で馬車の前を照らしつつ、
広さはまあまあるが『マシな獣道』といった感じの夜道を走り続ける、
予定より早く走っているので想定していた野営場所はとっくに過ぎてしまった。
(かといって廃坑はまだまだ先だし……)
紆余曲折あったというか、
時間はかかったがヨランもロズリも過度に争わなくなった、
いや決闘で負けっぱなしは嫌だとまだヨランはグズっていたが。
(自分で申し込んでおいて……)
今更だが『勝てばいう事を聞いて貰う』という立場でいるなら、
負けた以上は素直に従って欲しいものだがまあいいや、もう落ち着いたし。
ということで馬の運転はヨラン、両サイドはアリナと魔法が少し使るエミリ。
(馬車で俺の両隣りはミオスとネリィだ)
なぜかネリィの真後ろでハミィが過度にくっつかないようマークしている、
まあ少し前までの大ゲンカに比べればまっだ節度を持ってやってくれている方、
むしろハミィというストッパーのおかげでネリィはいろいろと、どこまでくつけるか試してるっぽい。
(にしても、いつ寝ようか)
俺が止めなきゃ夜通し走る、
運転は交代だから良いがいくら回復するからって馬は可哀想だ、
体力回復、眠気醒ましを魔法で誤魔化して走らせ続ければ、おそらく心臓が止まる。
(そのあたり、馬は自分で意思表示してくれないからなぁ)
騎士団の弊害というかなんというか。
ちなみにミオスもネリィも話し掛けてこないのは、
夕食後にさっさと寝たふりしているからだったりする。
(うっすら見るたびにネリィのポーズが変わっているのが、ちょっと面白い)
触れたいけど触れちゃいけない、みたいな。
あまりに触れそうになるとハミィが止めているみたい、
俺はもうこのまま本当に眠くなるまで過ごすが、ふたりはいつまで遊んでるつも……あわわわわ!!
(馬車が急に止まった?!)
さすがに起きて前を見る俺!
「どうした?!」
「ラスロ、敵襲だ」「これはブラックイビルキャット!」
「アリナ本当か、だとすれば相当強いぞ」「みんな降りて!!」
エミリの言葉に慌てて馬車を降りる、
最後列ですやすや寝ていたはずのダンジュくんまで……
それにしても、このレベルの魔物が来るとは……結界魔法を仕舞っておいて正解だ。
(普通の輸送馬車なら、ひとたまりもないぞ)
十二年前も、もちろん魔界でも遭遇したが、
こいつらがやっかいなのは獰猛なだけじゃなく人を喰らう、
しかも発情しながら……俺らを人と認識すると、そういうスイッチが入るらしい。
「「「「ギシャーーー!!!!」」」」
人よりも、ひとまわり大きい黒猫、いや、もはや黒豹だ、
しかもやっかいなのが前衛を最低限の数、今なら四匹か、
それでまず襲い掛かってきて、もみ合っている最中にその五倍から十倍が取り囲むという。
(どうする、戦うなら前衛を四方八方に)
俺とヨランとロズリとあとダンジュくんか。
「よし、前は俺が出る、ヨランは右、ロズリは左、後ろはダンジュくんで補助をナタリ、前衛もいけるか」「はいっ」
「後は弓と魔法で、正面の四匹は囮兼タンクだ、あとこいつらはジャンプ力がある、上にも注ぃ……来た!!」
「「「「シャァアアアーーーーーッッッッ!!!!」
一斉に飛び掛かってきたブラックイビルキャット!
まずはそのうち二匹の首を俺が剣で撥ね飛ばす、そして……!!
「ふんっ!!」
眉間にエミリの矢が三本も突き刺さる!
懐かしいな三本同時発射スキル『トリプルアロー』は!
そして残った一匹に眩しい光が、いや雷が矢のように貫いた!
「無詠唱魔法、ネリィの『サンダーアロー』だな」
前の四匹を倒した直後、
一気に周囲から黒豹軍団が飛び掛かって来る!!
「「「「「「「「フギャァアアアアアァァァーーーッッッ」」」」」」」」」
それを的確に各個撃破、
前衛は一振りで二匹同時に、
賢者や魔法使いは後衛として魔法で……取り逃がしは弓が片付けてくれる。
(ダンジュくんは一匹しか倒せてないけど、まあ上出来)
こうして合計で四十匹近いか、
倒しに倒してようやく全滅させたかな?
と思っていたらヨランとロズリが森の奥へ突っ込んで行った?!
「「はーーーーっっ!!」」
ズッ……シャーー!!!
と切られながら出て来たのは、
二足歩行の『ハイブラックイビルキャット』この群れのボスだ!!
「ラ……ス……ロ……」
そう言って血まみれで前のめりに倒れ、絶命した。
(やべえ、名前を呼ばれた)
俺の所へくるヨラン。
「今、この魔物……ラスロの名前を」
「あ、ああ、その、なんだ、魔界では喋る魔物も居てな」
「ラスロ様、では顔見知りでしたか」「ああ、逃がした魔物だ」
後から来て聞いてきたロズリにそう答えた俺だったが……
「逃げたのに追って来たのでしょうか」
「ロズリ、逃げているうちにこっちへ来たのかもな」
「つまり人間の世界に逃げてきたと」「そういうことだ」
……このあたり、
詳しい話は隠し通せるかな。
「ラスロ、死体は」
「アリナ、そうだな、まとめて燃やすか」
「ではこのネリィめが炎魔法デェ」「叔母さん、私も手伝いますよ」
ここで俺は思った。
(……まさかアイツまで、いや、アイツらまでこっちへ来たり、しないよな……?!)




