第35話 喧嘩はしなくなったようだが 俺の奪い合いをやめるつもりは無いらしい
(いや、ほんとにこの馬車、速度が段違いに上がったな)
まだ道がある程度、マシなうちに時間を稼いでおく感じか、
一応は途中の廃坑跡までは、それなりの道はあるのだが整備されているのは農地まで、
まあさっきの村で強化した磔女神像で魔物の心配はしばらくは無い。
(運転のダンジュくん、左右にアリナとミオスが座っていて絶賛、魔法のアシスト中だ)
馬もハイスピードに慣らしている感じ、
今回の封印が終わって帰ったら馬も馬で、
ある意味のレベルは上がっているだろう、そして俺はというと……
「ふむ、もうバンディーはそんなに偉くなっているのか」
「はい、稽古で一度もヨラン殿に勝てなかったからと、攻略法を全て私に」
「ロズリの剣の師匠となった訳か」「もちろん基本的な事も色々と、たとえば……」
とまあ普通に会話している剣士ふたりの間に挟まれている、
いや、両側から同時に会話されて返事するのも大変だったが、
こうして俺をスルーして喋り合いをされているのもなんだかなっていう。
(俺に害が無い分、まだマシか)
いやいや話し掛けられるのが嫌だという訳では無いが。
「なるほど、ではその上で私が鍛えれば、もっと腕が上がるな」
「いえ、私はラスロ様から教えていただきたいです、良いでしょう?」
「……えっ、俺?! うーん、俺の剣は女性向けじゃないからな」「関係ありませんよ!」
急に話を振られて、びっくりした。
(まあ、話の流れだからいいか、もう喧嘩はしないようだし)
そうだな、俺が教えると言うアイディアはまったく考えてなかった。
「正直、前衛のタイプは出来るだけバラけさせたいという考えだ」
「ああ、私とラスロが同じタイプだったらおそらく攻撃が被ったりする危険が出る」
「では私に剣技を仕上げて下さるという話は」「私の補助をさせるという形になるな」
あっ、これヨランの控えみたいに追いやるつもりだ。
「俺はそのあたりも反対だな、ロズリが変にヨランの影響を受けるより、
対ヨランくらいの剣さばきを極めて貰った方が、魔物のタイプによって得て不得手が出るかもしれない、
それは俺のコピーが要らないのと同じで、それぞれの個性は大切にしたいんだ」
そう、個性がバラバラであれば、
本当に追い詰められた時、それぞれの個性を試し、
意外な仲間が意外な方法で解決する、という場合もある。
(昔、そういうことがあってだな……)
今はそれは考えないでおこう、詳しくは。
「わかった、ラスロがリーダーとしてそう言うなら従おう」
「私はでしたらやはり、ラスロ様に変な影響が出ない程度で見て頂きたいですわ」
「んー、俺の場合は旧ハーレムにも昔、言ったけど我流に近いからなあ、逆に変な癖を付けそうだ」
騎士団でも『ちょっとこれは俺らは真似しない方が……』と十二年前に言われた。
「そう言えばバンディーは昔、剣では無く斧を試した事があってな」
「それは初耳ですね、どのようなタイプの斧だったのでしょうか?」
「うむ、ロングアックスと言って長い槍の先が斧になったようなタイプで……」
こうして二人の会話にたまに俺を巻き込みながら、
何事も無く平和に馬車は走り続け、気が付けば日が高くなった。
(おっ、馬車がストップした)
「交代のようだな」
「今度はナタリさんの運転で、両脇はネリィさんとハミィさんのようです」
「うん、ダンジュくんお疲れ! 最後列で横になってても良いよ」
で、俺の両隣りはどうなるんだ?
ヨランもロズリも何かごそごそしているが……
「ラスロ、昼食の時間だ、弁当を作って来た」
「さあラスロ様、このロズリ手製のランチです、手軽なサンドイッチですよ」
「いやいや、ふたり同時に出されても!!」「さあラスロ」「ラスロ様どうぞ」
……喧嘩する感じはもう無いけど、
だからといって、引く気は無いみたいだ……
俺が怒るからパーティーとしては従うが、俺の奪い合いはまだまだ続くって感じかな。
(まあいいか、仕事さえきっちりしてくれるのであれば)
うん、まずはヨランを見る。
「この弁当箱、丸ごと俺のか」
「当然だ、愛情たっぷりだ、十二年ぶりに愛情を込めて料理を作った」
「そ、そうか、味がそんなに違うのか」「ラスロの事を真剣に愛して作ったからな」
確かの俺の好物ばかり、
それでいてスタミナとかバランスとか、
本当にしっかり考えて作ってある弁当だ。
「ありがとう、続いてロズリ」「はいっ」
「このサンドイッチの籠、全部食べて良いのか」「もちろんです!」
「ロズリの分は」「もちろんこちらに、同じものですよ!」
とはいえ俺の方にはなんというか、
ハート型に切ってある野菜とか添えられているな、
朝から本当に機嫌良く作ったのが容易に想像できる。
「ありがとう、ではどっちも両方いただくよ」
「あーんは」「あーんをさせて下さい!」「だから俺の口はひとつだから!」
「とりあえず試してみるか」「口をめいっぱい開けてみてください、同時に突っ込めばワンチャン」「無いから!!」
何のチャンスだ何の。
「普通にいただくよ、ありがとう、ヨラン、ロズリ」
「「はいっっ!!」」
……両方、
ふたりとも喜んでいるっぽいから、
今はまあいいか、うん、これで良しとしておこう、とりあえずは、な。




