第31話 ついに村へ到着 デレスの気持ちが聖女になりたいアリナに届いたのかどうか。
「この村かあ」
夜に到着した本当に小さな村、
それでも広大な農地に囲まれており、
魔物が復活するまでは期間労働者で賑わっていたらしい。
「ようこそおいでなさいました」
腰の曲がったお爺さんが来た、
輸送馬車内で聞いた、ここを開拓した村長さんだろう。
「ラスロと申します、よろしくお願いいたします」
「伝説の勇者様ですな、ありがたい」「あと、結界補強の聖者や賢者なども」
「お初にお目にかかります、聖女予定のアリナと申します」「はじめまして、賢者 ミオスです!」
にこにこ笑顔の村長さん。
「大したもてなしはできませんが、
最近村を去った家に大きいのがありましてな、
そちらをお使い下され、食事はいかがなさいましょうか」
わざわざ用意してくれるのか。
「えっと、こちらは9人も居るので」
「作物はまだ余っておりますよ、是非」
「ま、まあ、そこまで仰られるのでしたら、お言葉に甘えて」
ここで前に出たのはアリナだった。
「まずは結界の補強からさせて、いただけますか?」
「それはありがたい、こちらでございます、さあさあ」
「ラスロ、いいわね?」「お、おう、早いに超したことは無いが」
連れて行かれた中央の池、
なぜかそこには、はりつけになった女神像が立てられていた、
いやいったい何やってこんな目にあっているんだ、この女神様は。
「実はですな、結界のバランスが非常に珍しい、難しい場所だそうで」
「それで、女神像があんな風に」「少しでもポーズがズレると、結界が弱まるそうで」
「アリナ、ミオス、行けるか」「はい、喜んで!」「ちょ、アリナどこへ、っておい!」
光魔法でライトを池の上空につけ、
アリナは池へ一直線に入って行く!
おいおい、と思っていると泳いで女神像へ。
(何やってんだよ、そこそこ汚いぞ!)
そして無詠唱で聖なる魔法をかける、
おそらくバランスを考えながら、本当にシビアな感じで……
光魔法がやわらかく包み込むと、女神像の姿・形がよりはっきりしてきた!
(表情も鮮明に、でも、これは……!!)
目があきらかにひん剥かれており恐怖に歪む顔、
口からは血反吐を出しているかのようで、より迫力というか、
悲壮感というか処刑されている感が出されている、なんだこれは。
「ラスロ様、できました!」
「いや、こういうグレードアップをされても、
確かにリアリティや芸術点は大幅に更新されたような」
ミオスがおでこを押さえている。
「たしかに魔法結界は三倍になりました」
「えっ、本当にか?!」
「はい、ただこれだと、他の方が魔力の補充や改良を出来なくなりますね」
あー、つまりこれはもう、
今後いっさい、アリナしか弄れないと。
「こういう細かいデリケートな作業も、やろうと思えば出来るんですよ!」
「わかったから、いいから早くあがってこい、びしょびしょじゃないか」
「ラスロ様、いえ、ラスロのためなら、これくらい平気ですよ、では戻りますね」
聖者服で泳ぎにくいだろうに……
それはともかく、今後のためにというか、
最終目的である魔界封印のために、協力して欲しかったんだけどな。
(あれ? 濡れたままのアリナがミオスの背中に両手を?!)
「ひやあああぁぁぁあああ?!」
「ほら、魔力を込めますから、これなら好きに改良できるはずですよ?」
「えっ、じゃ、じゃあ」「無詠唱でできますよ、これは私の魔力ですから!」
慌てて杖を持つミオス、
ハミィもやってきてその杖を一緒に持つ、
そして念じる……すると女神像の顔が、みるみるうちに絶叫に!!
(うっわ、ずっと叫んでるよ)
声は出ていないけど。
ミオスは魔力を感じ取ったのか、
俺を見て教えてくれる。
「えっと、これで五倍にまでなったようです」
「そうなんだ、それ以上は?」「やれる気がしません」
「もっと連係、合体魔法を熟練して行けば、強く強くなりますよ!」
アリナ、そんな提案を!
さすがに少しは考えてくれるように、
なったのだろうか? みんなで協力ってことを。
(ここは、俺が何かを言わないとな)
そして、しばしの静寂ののち……!!
「アリナ」「はいっ!」
「とりあえず、服を脱いで風呂に入ってくれ」「はいっっ!!」
「それと、協同作業、ありがとう」「全てはラスロのためよ、ラスロ様」
そして声なき叫びを延々と繰り返す、女神像なのであった。
(これはこれで、ある意味、観光名所に……なるのか?!)
子供が見たら悪夢にうなされそうだ、特に夜。
ミオスも複雑な表情をしているな、むしろ苦笑いっぽいや。
まあ、今回のこの件は、これで良い、のかな???




