第3話 エルフを超えた弓使い 森で幸せな家庭を築いていたのだが。
チュンチュン、チュンチュン……
「おはようエミリ、今日も愛しているよ」
「ハルラ、私もよ、おはよう、ふふっ、大好き」
木漏れ日が差し込む朝、
エルフの夫が愛を囁いてくれる、
もう十一年半も繰り返されるルーティーン……でも毎日が新鮮で最高よ。
「でも今度の対戦では勝つからね」
「ふふ、でも今年は私、まだ一回しか負けていないわよ?」
私達の住むここ『エルフと人の森』で行われる弓勝負……
エルフ国で唯一、人間が踏み入れられるこの森で、
人を愛するエルフとエルフを愛する人が嗜む競技、訓練、遊び……親愛の証。
(これを繰り返せば繰り返すほど、互いの愛が深まると言われているわ)
夫がやさしい顔ながらも少し困ったような顔をする。
「チーム戦なら互角なんだけどなぁ」
「あの子達が育ったら、そうも言っていられないわよ?」
「九歳と六歳だからね、ハーフエルフとしては、まだまだだよ」
そう言っていると、
その子供達の足音が聞こえて来た。
「お父様、お母様、おはよう!」「おはーよー」
「ああおはよう、ララル、エルノ」
「おはよう、昨日の髪飾りもう着けたのねララル、エルノも指の怪我はもう大丈夫みたいね」
娘と息子を順に抱きしめる……
ララルは夫似、まだ幼いエルノは私似と言われている。
(大きくなったら人チームとエルフチーム、どっちに入るのかしら?)
そしてララルが私の正面で話し掛ける。
「あのねお母様、エルフのお客様が来てるの」
「あら珍しいわね、あっちからはめったに来ないのに」
「それが、人間の国から来たみたいなの」「人のおみやげもらったー」
えっ、まさか北から?
確かにここは、人間と結ばれたエルフの森は、
よほどの用件でないと普通の人間は入れない、のだけれども……
(手紙や伝言ではなく、直接来るなんて、いったいどんな用件なの?!)
不安そうな私の表情を察する夫のハルラ。
「私が行こう、エルフはエルフが、人は人が対処するべきだ」
「待って、北から来たって事は人間の使いよね? なら私だわ」
「あいかわらずお父様もお母様も仲良いですね!」「いっしょにいったらー?」
息子にそう言われて玄関へ行く、
王家の紋章を胸に着けたエルフの女性……
私は夫と並んで話を聞く、互いの腰に手を回しながら。
(いったい何なの……今更、私達に邪魔が入ったりしないわよね?)
震えそうな私、
だが、そこで告げられたのは、
想像もつかなかった、衝撃を受ける言葉だった。
「かつての婚約者、勇者ラスロ様が生きておられました」
「……嘘っ?!」
「魔界に転移され、十二年間も戦い続けたのち先日、王城へ戻って参りました」
私の中である意味、
封印されていたラスロとの日々が蘇る!
「……無事、なの?」
「はい、疲れ果ててはおりましたが、特に酷い怪我などなく」
「それは、本当に本人?!」「間違いないかと」
感極まる私を抱きしめるハルラ。
「……今更、何だっていうんだよまったく、君を放っておいて」
「……放っておいたのは……私よ」「エミリ?」
「私は、私はまず、真っ先にラスロと会わなきゃいけないの!!」
ハルラを振り切り、
もう着る事は無いと思っていた『人の服』を取りに倉庫へ……!!
「エミリ、冷静に考えろ、生きているはずが、無い」
「会って確かめるわ、そして、もし本当なら、私は、私は……!」
「なら俺も行く」「来ないで! 来ても一緒よ、ううん、私が一人で会いたいの」
心配そうに覗き込むララルとエルノ。
「お母様、どこへ」「人の王城に戻るの、ここからずっと、ずーーっと北よ」
「いつかえってくるのー?」「……手紙を出すわ、ごめんねエルノ、ララルも強く生きるのよ」
「待てエミリ、俺はもうエルフの国へは、二度と戻れないんだぞ」「ここも立派なエルフの国でしょう?」
私は昔の『ここへ来た状態のまま』に着替え、
玄関で待つ、王都からの使いのエルフに合流する。
(さすがにちょっと、サイズがきついわ)
しかし、そんな事には構っていられない。
「一刻も早く着きたいわ」
「早馬です、今すぐ行けば……」
「待てエミリ、今すぐ弓矢の勝負をしよう、それで私が勝てば」「意味が無いわ」
夫はここ一番で私に勝つ方法を持っている、
という事を私は知っている、だからこそ、勝負はしない。
(剣士のヨランなら、逆に勝負を仕掛けているでしょうね)
まだ事態を呑み込めていない娘と息子に、しゃがんで視線を合わせる。
「いい? ララルとエルノも、強く生きるのよ、強く! 生きて!
ハルラさんありがとう、私の心を救ってくれた恩は一生忘れません、
でも、でも……私には、私は勇者パーティーの一員として、本当に生涯尽くし、愛するお方が居ます!」
馬車に乗り込む私!
「エミリ、行くな!」
「ごめんなさい、改めて謝罪の手紙を出します! さあ、行って!!」
「はい、飛ばしますよ!」「お母様!」「おかーさまー!」
……涙が溢れて止まらない、
あぁ、あぁ私は……私はどうして待てなかったの?
エルフを超えた弓使いと持て囃され、半年でエルフに落ちてしまった私……
(あの人は、ラスロはずっと戦っていたというのに……!!)
きっと他のみんなも集まるはず、
ラスロが溶岩に消えてから、あえて連絡は取り合わないと決めたかつての仲間、
そしてハーレムの仲間、婚約者だったみんな……また、またみんなで、集まって笑顔でラスロ様の元へと……!!
「待っててラスロ、私が、必ず抱きしめてあげるから……!!」
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「陛下、そのナイスバディな妖艶さんは」
「用意した三人目の妻だ、二十七歳、齢が近いのも必要だろう」
「ナタリと申します、どうぞお好きにお使い下さい」「使うって!」
なんとなく危険な香りがする、
ハニートラップ的な……怪しさも妖しさも満載だ。
「ナタリは我が国の諜報や暗殺を担当していたアサシンだ、
顔が広く知られてしまってな、顔を焼くか遥か遠くの国へ行かせるか、
最悪、静かに消すかといった感じで持て余していた、貰ってやってくれぬか」
なぜか俺、
扱いに困った暗部を押し付けられている?
「ナタリさん的には良いんですか」
「選択肢はありません、が嬉しいです!」
「投剣と毒針投げが得意だ、要らぬなら処分するが」
処分って!!
これじゃあ、断れないよ。
(遠距離攻撃系か、弓使いのエミリは今頃、エルフの森で幸せに暮らしている……はず!)
「それでラスロよ、あと一人だが」
「はい、四人目も用意されているんですか」
「顔見知りだそうだ」「はあ」「会って驚くかもな」
……誰だろう?!