第27話 冷静にならないと 綱引きをされて怒っている場合では無いので
「よし、出発だ」
朝食休憩の後、再び乗り合い? 馬車に乗った俺、
両隣に居るのは旧ハーレムでは無く、あえて新ハーレムのふたりだ。
「ラスロ様、それでいつ、あの昔のお仲間は、切り離しを」
「ミオス、魔界ゲートへの対処にアリナ達は必要不可欠だろう」
「それでは封印が終わってから即座に、ですね!」「いやそんな笑顔で言われても」
反対側に目をやると……
「まったく叔母さんは良からぬ妄想ばかりして、あきれます」
「ハミィ、ネリィの実家、いや嫁ぎ先か、の情報は」
「まだ入ってきていませんが、それはもう大騒ぎでしょうね」
という二人である、
俺たちの方の馬車でアリナがヨランに、
きっちり注意してくれると良いのだが……
(むしろ、作戦会議とかしていそうだ)
そんなことよりも、だ。
「二人を呼んだのは封印の確認でもある、
アリナだとひとりで何とかやってしまいそうだが、
こっちのメンバーだとミオスとハミィで、何とかなりそうか?」
むしろ、このふたりでなんとかなってしまったら、
本格的に旧ハーレムはいりませんって事になってしまうが、
魔界はそんなに甘くは無いだろう、俺もかなり苦労したし……
(おそらく、犠牲まで出して)
その話は今は忘れよう。
「いかんせん、実物を目にしないと……
でもハミィとの相性は、悪くないと思います!」
「はい、叔母さん程の魔力はありませんが、人との協調性は上かと」
……そのあたりなんだよなあ、
僧侶と魔法使い、賢者(聖者)と魔法使いには、
合同(合体)魔法の相性というのは結構重要になってくる。
「わかった、途中の村での結界魔方陣で試してみよう、
ただ、場合によってはアリナとネリィの力が必要に、
それこそミオスとネリィ、アリナとハミィでっていう組み合わせも」
その言葉にしがみついてくるふたり。
「嫌です、私達は、私達でやりたいです!」
「やっぱり私は叔母さんを許せません、あんなに子供を作っておいて」
「そ、そうは言っても、おちつけ、今は俺で綱引きをしている場合じゃない!」
平和最優先って言ったのにな。
(彼女達も注意すべきか、いや冷静に、いちいち怒っている場合でも無い)
「……そのあたり、やはり経験が物を言うと思う、
そのためにも魔物退治をふたりには頑張って貰いたいのだが」
「はい、お任せ下さい」「叔母さんの力は借りません!」「いや、本当に危なくなったら借りよう?」
素質は間違いないと思うのだが、
出発前にもっと時間があればなあ……
次の魔物遭遇で、いっそ試してみるか、余裕があれば。
「それであの、ラスロ様」「どうしたミオス?」
「私も朝食でのロズリみたいに、あ~ん、をしてみたいです!」
「あっ、私もです、できれば叔母さんに見せつけながら」「だーかーらー」
……彼女達なりの、愛情なのかなこれも。
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一方その頃、後ろの馬車では……
「ヨラン、『押せば引く、引かば押せ』という言葉があるのよ」
「すまない、ぐいぐい行き過ぎたか」
「ラスロは私達との信頼関係を忘れているだけなの、もちろん私達もね」
その会話に後ろの二人も加わる。
「確かにラスロは押しに弱い所もあるけど、
あまりあからさまなのは逃げるタイプよ、そっと抱きしめてあげなきゃ」
「十二年前までつけていたラスロサマメモは焼却してしまいましたがぁ、新しい冊子を、ホラァ!!」
こうしてラスロ攻略に余念のない旧ハーレムを、
冷たい目で見ていた新ハーレムのふたり、ロズリとナタリが小声で話しあう。
「……まだ復縁できると思っているようですね」
「今の妻は、現役の婚約者は私達であるという事を、
ラスロ様を通じてもっと知らしめる必要がありそうです」
やはり対抗意識は拭えないのであった。
そんなふたりの言葉も耳に入らず、意に介さず……
「改めてラスロと祝勝会を開きたいわ」
「十二年前の国王陛下も約束してくれていたからな」
「そういえば結婚後のお屋敷も、土地はすでに決まっていたわね」
「ラスロサマァ、私はもう無理ですが、ラスロサマと皆さんとの子を、一生懸命育てマスゥ……キャッ」
旧ハーレム、いまだラスロとの幸せな生活を信じて疑わず、
その愛は……あの過去(十二年)をして、報われるのか。




