第26話 旧ハーレムの剣聖は必死で願う しかし俺には新ハーレムの剣士が
チュンチュン、チュンチュン……
「ラスロ、朝だ、集落に着いたぞ」
「あっ、ヨラン、え、もうか?!」
「ラスロ様、目的の村ではありませんが、途中の集落のようです」
ロズリにも言われ外を見ると、いつのまにか岩山に囲まれた場所、
確かにここなら出入り口を警戒していれば安全そうだ、
ってこの馬車、アリナ達の乗っていた俺ら用の馬車では?!
「えっと、なんでこっちに」
「忘れたか、魔物との遭遇に備えて交代したではないか」
「あの後、ナタリさん、エミリ殿、ネリィ殿と入れ替わりで」
あー、そうだったそうだった。
「ごめん、寝ぼけてた」
「とりあえず水だ」「ラスロ様、お水をどうぞ」
左右から出されても……
仕方なく両方受け取って同時に飲む、
ってさすがにこぼすな、まあいいや。
(確かに前の方では、村行きの馬車が止まってる)
そしてこっちも、他のメンバーはすでに外で待っていた、
俺がヨランの方から降りると待ち構えていたのはアリナ。
「さあラスロ、朝食をいただきましょう」
「う、うん」
あっ、反対側、
ロズリの方では新ハーレムが待っていてくれていた!
(しまった、二択で旧ハーレムの方を取ってしまったか)
まあいいや、『真ん中から出る』なんて方法も無いし。
と思ったら両脇からアリナとヨランに腕を組まれた、連行かよ!
「ええっと、歩きにくい」
「すぐですよ」「気にするな」
俺が新ハーレムを気にするんだ、
とか口には出しては言えないな、うん。
(ミオス達の顔が見られないや)
集落はなんだろ、
どっちかっていうとこれ砦だな、
騎士団員ぽい人ばっかり目につくし。
(これ、本来の住人を避難させて、集落ごと借りてるんじゃ)
一番大きな屋敷に入ると、
最初に乗っていた馬車で同乗していた人たちがすでにつくろいでいた、
食事中だったり終わって談笑をしていたり、って魔物に遭遇したのにタフだな。
(眠っていたのかもしれないし、まあいいや)
座るとネリィが持って来てくれた。
「どうぞぉ~」「あ、ありがとう」
そして正面に座るのは新ハーレムたち。
(俺の目の前にはロズリだ)
なんだろう、やはり目が見れない。
「さあラスロ、いただきましょう」
「ラスロ、食べながらで良いから聞いてくれ」
「あ、ああヨラン、どうした」
俺の方を向き、頭を下げる。
「……私と一緒に、ジョルジール侯爵家に謝って欲しい」
「は、はあ」「あれから考えたが、やはりけじめは必要なんだ」
「それはすなわち」「私が正式に、ラスロと婚姻を挙げ直すためにだ」
そこへ前のめりになって近づくロズリ。
「ラスロ様は私のものです!」
「……ラスロ、私の誤った行動を詫びるにはやはりラスロも一緒でないといけない」
「いやヨラン」「お願いだ、後でいくらでもこのお詫びは、フォローはするから、頼む」
……必死の懇願、
でもそれは俺の新しいハーレムを無視したものだ。
(まったく、本当に俺しか見えていないんだな)
俺は大きくため息をつく。
「ロズリ」「はいラスロ様」
「そっちへ行っても良いか」「はい、喜んで!」「ラスロ!!」
ヨランの声を無視して、
朝食を持ってぐるりとテーブルを移動。
「どうだロズリ、この集落に知り合いは」
「まだあまり見ていないものですから」「ラッ、ラスロッ!!」
必死に縋ろうとするヨランの腕を引き、
首を左右に振るアリナ、うん、わかってくれたみたいだ。
(色々と言いたい事はあるけど、今は新ハーレムの剣士を話そう)
そして自然と、
反対側にはミオスが。
「ラスロ様、この後なのですが途中にゆるい山があって、そこに山小屋が」
「うん、打ち合わせでも聞いた、あんまり長居は出来ないみたいだけれど」
……向かいのヨランの圧が凄いな、
まあいいや、あくまでもここでは朝食だ。
(そして馬車に戻ったら、ちょっとヨランは遠ざけようかな)
そもそもどっちに乗るんだろう?
まあいいや、俺が神経をすり減らす必要は無い、
連携は大切だが、前提として魔物退治・魔界封じというミッションを改めて考えさせなきゃ。
(ちょっとだけ、頼んでみよう)
「アリナ」「はい」
「ヨランによーく言っておいてくれ」「……承りました」
うん、これで落ち着いてくれると、良いのだが。
「ラスロ様」「ああロズリ、どうした」「はい、あーん、です」「それはちょっと」
まあ、ひとくちだけ。




