第24話 そして俺が選んだ人選 話は魔界やら刺客やら
「ラスロ、やはり私を選んでくれたか」
「嬉しいですラスロ様、私とこのラスロ剣を選んでいただいて」
「何でもいいが他の人も居るから静かにな」
夕食後、旧友オリヴィに悪いと思いながら、
いや実際に謝ったが、結局は輸送馬車に俺と剣士ふたり、
ヨランとロズリが乗る事になった、のは良いのだが……!!
(後ろにぴったり、馬車が付いてきてるううううう!!)
俺が行くなら呑気に寝ていられないと、
馬車の運転手をナタリに代えて(ダンジュは三列目で睡眠中)、
結局、みんなついてきてしまった、まあ泊まらないといけない用事とか他に無いし。
「それでラスロ、一応は選んだ理由を」
「気になります、ラスロ様がこの私を欲した理由を」
「いや、単純に物理的な守りを考えただけだよ、その頼もしさっていうか」
あとはやはり警備といえば騎士団だ、
騎士団上がりのこの二人が居れば同乗者も安心するだろう。
「ではラスロ、手短に聞いて良いか」「おう、どうした」
「ラスロは魔界で、どうやって生き延びてきたのだ」
「やはりラスロ様の、魔界での食事や睡眠が気になりますわ」
……俺の言葉を左右から待つふたり。
「ええっと、その、なんだ、普通に魔物を倒して、普通に魔界の果実を食べて」
「ほう、そんなものがあるのか」「持って帰ったりは」「無い無い!」
そんなもの地上で、こっちの世界で大繁殖したら大変な事になる。
(あと、微妙に隠したい話があるんだよな、俺が十二年間生き延びられた、最大の理由、原因、そして……援護)
これはできれば、墓まで持って行きたい。
「肉はやはり魔物の」「そうだがあまり思い出したくない、それよりもだ」
「「はい」」「先の話をしよう、これからについての話、とはいっても三人で出来る話だと……」
同乗者に聞かれるが、まあいいや、
封印方法とか聞かれて特に困る話など無いし。
「わかった、私からで良いか」「頼んだヨラン」
「おそらく私とラスロとの結婚式を聞き、ジョルジール侯爵家から刺客が送られてくるだろう」
「えっ、そんな話?!」「先の話だからな、重要な話だ」
……ここで違うって言うのは簡単だが、
内容が『刺客』などという物騒な話題なら聞かなくてはならない。
「それは、狙いは」「当然、私だ」「えっ、ジョルジール侯爵家ってヨランが嫁いだ」
「そうだ、そこから来るのは……」「いや、命を狙うなら俺では」「何の話だ、何の」
「……ラスロ様、ヨラン殿はおそらく『取り戻しに来る者』を『刺客』と呼んでいるのかと」「あっ」
ロズリに言われてようやく気付いたや。
「ラスロ、おそらくモリス=ジョルジール侯爵は『命令』すれば戻ってくると思うだろう」
「ええっと、ヨランがそうやって躾けられていたって事?」「いや、私がそうしていたからだ」
「ヨラン殿、きちんと手切れは、正式に離縁はされたのですか?」「ラスロが生きていた、それだけで十分だろう」
あーうん、わかってはいたが、
おそらくヨランはまだ侯爵夫人だろう、
それを言ったらアリナを除く他のふたりも……
「うーん、ヨラン、ひょっとして俺に会いに来るのが早かったかも」
「何を言う、ラスロが生きていたと知った瞬間に戻るべきだ、後の事は関係ない」
「いやいや、他所の男と結婚していたのだろう」「事実を知った時点で無効だ、私は精神を喪失していた」
心身喪失とも言うな、
それで周囲の言われるがままに……
だからといって、それを選んだのはヨランでもある。
(俺のせい……なのか?!)
いや、もうこういう状況になったら、
デリケートに事を運ぶ必要があるのだが。
「ヨラン殿、勝手に自分の中で色々と決めてらっしゃるようですが」
「何だ、この際はっきり言っておくが私は先輩だぞ」
「騎士団のですか? 今ここでは」「待て待て! 喧嘩すると他の人達に迷惑がかかる」
乗合なのを忘れてはいけない、
本来の村へ帰る人、商人、そして警備兵。
「……おそらく最初に息子、若い三男か四男、その両方かを使わせてくるだろう」
「あーなるほど『お母さん帰ってきてー』的な」
「ヨラン殿、御子息に愛情は」「……正直、今となってはわからない、なぜなら今はラスロへの愛でいっぱいだからだ」
うん、俺も魔界での十二年間、
ハーレムのみんなへの愛情でいっぱいだった、
だからこそ生きて戻ってこれた、とはいえ……
(寝取られたとなると、ねえ)
「じゃあヨラン、断るのか」「当然だ、すると次は長男次男、そして最終的には……」
「ヨラン殿、大切な事を忘れてらっしゃいますが」「何だ、言ってみろ」
「そもそもラスロ様が、ヨラン殿を受け入れるかどうかという事、そして今の婚約者は私だという事です」
うん、そこだ、そこなんだよなあ。
(魔界ゲート封印までは、棚に上げておきたい!)
しかし俺の目を真っ直ぐに見つめるヨラン。
「ラスロ」「……ああ、なんだ」「私は戻ってきた」「俺も、戻って来た」「なら話は……」
ここで最前列の男性騎士団員が後ろを向く。
「消灯の時間だ、朝まで寝ろ、途中でトイレに起こして欲しい者は居るか」
うん、容赦なく話をぶつ切りしてくれて、むしろ良かった。
俺は声でヨランに話す。
「続きは朝だ、おやすみ」「ラスロ様、ヨラン殿、おやすみなさい……ラスロ様、肩をお借りしますね」
「くっ……ラスロ、私はラスロの剣だ、元の持ち主の所へ戻れて……喜んでいる、剣だ」
こうして馬車の中は、
静かになったのだった……のだが。




