第22話 遠距離攻撃組は癒し系? 甘えさせ系とハニートラップ系に挟まれた俺は……
「ふふ、ラスロをやっとこうして抱きしめてあげられるわ」
「もっとこう私の首筋を……そう……ふふ、こうして触らせるのはラスロ様が初めてですよ」
「お、おう、とりあえずどっちも、もうちょっと落ち着いて……」
山の下り道、
砦までの間にトイレ休憩を取った時、
あんまり左右がうるさいのでまだ大人しいであろう二人に交代して貰った。
(今度は旧ハーレムから弓使いエミリ、新ハーレムはアサシンのナタリだ)
確かに発言は控えめになった、かな?
喋りかけてきててもあまりこちらの返事は必要ない感じ、
そのかわり密着度というか粘着度というか重さというか……
「こうやって傍でくっついているだけで、幸せを感じられるわ」
「私の唯一と言って良い初めての感覚、今日この日のために私は首回りを護って参りました」
「……」「ふふ、愛しているわ、ラスロ」「ラスロ様、私を攻める時は是非、首筋を」
いや、やっぱりうるさいかな、
確かに他のふたり、いや四人か、
よりもはまだ、っていう感じではあるが。
(ぴったりくっつくエミリ、俺の手や腕を持って首に絡み付けさせるナタリ……)
えっと確認すると、旧ハーレムの正妻、
旧正妻か? そのあたりはとりあえず保留として、
とにかく、聖者アリナのご厚意? により、全員が一斉に想いをぶつける事は禁じられている。
(俺が嫌になって、みんなを拒絶する事を怖がっているのだろう)
あと旧の四人が一斉に来ると新ハーレムの四人も一斉に来て、
精神的にも物理的にも潰されかねない、そうなった時、
様々な意味で旧ハーレムが不利なんだろう、だからひとつひとつの処理を俺にさせてくれている。
(とはいえ、軽く現状確認のおさらいは、全員ざっとやっておきたい)
俺はエミリに抱き包まれれている方の腕と、
ナタリに取られ操られている方の腕を取り戻して、
まずは旧ハーレムの弓使い、エミリの方に話し掛ける。
「その、結婚先は良いのか」
「ええ、あれは一時の気の迷いよ」
「十二年間もか」「十一年半よ、ほんの『一刻』だわ」
つまり、その記憶、年月を『一瞬の出来事』として流したい、
消化したいという訳か……随分と長い夢だな、いや夢にして良いのかそれ。
「相手は納得は」「していないわ、でも私はラスロを抱きしめに戻って来ただけ」
「じゃ、じゃあ取り戻しに」「王都に着いてまず手紙を書いて送ったの、謝罪よ」
「それで済むのか」「納得行かないようならまた書いて出すわ、夫だった人にも、子供達にも」
そしてまた改めて、
抱きついてくるエミリ。
「……もし、俺がそっちへ戻れって言ったら」
「お願い、そんなこと言わないで、もう戻らない、戻りたくないわ、
だって十二年前、ラスロが死んだと思った時まで、本当に愛していたんだもの」
俺の肩のにおでこをつけてくるエミリ。
「でも、その後」「再会するまでの間の事は、忘れて欲しいの、
アリナに何を言われてどうしてたとかは関係ないの、今は、あの十二年前の続きですもの、
もちろんしてしまった事へのけじめは一生背負うわ、だから必要であれば、謝罪の手紙は一生、出し続けるわ」
涙をこぼすエミリ、
俺にキスしそうな勢いで顔を近づけてくる。
「……変な言い方になっちゃうけど、相手はエルフよ、騙された、とは言えないけど、
私が誤解してしまったがために、たった半年でエルフの手に落ちた、それは一生反省し続けるわ、
でも人間でない種族との関係は、ノーカウントよ、あくまでも人間相手では私には……ラスロだけよ」
そんな、まるで亜人相手なら純潔のまま、みたいな!
子供まで作っておいて、それはさすがに通せないと思うが……
でもエミリがエルフと結婚した事実を覆い隠す理論は、すがる所はもうそれしか無いのだろう。
(でもアレだよな、同じ遠距離攻撃系のナタリは……)
今度はナタリの方を向くと、
俺の両手を取って首へ……っておいおい!
「何これ、俺がナタリの首を両手で絞めろと?!」
「そういうプレイがご希望なら」
「あっれえ、俺ってそんな性癖あったっけえ」
……これは『乗りツッコミ』というヤツなんだっけ?
十二年間も魔界に居ると人間界の常識がズレてるのかも、俺の。
「このように暗部のアサシンが、他人に首を持たせるのは余程の事ですよ」
「つまり、それだけ信頼していると」「同時に……興奮しています」
(性癖はナタリの方だったーーー?!?!)
いやいや、
ある意味で汚れきった? 活動を国のためにしてきたナタリが、
俺に唯一出来る純潔アピールといった感じなのだろう。
(唯一、エルフに身体を許した事を無かった事にしたいエミリ、
唯一、首の部分だけ身体を許さなかった事を俺に捧げたいナタリ……)
たった一度の、いや一度って言っても十一年半だが、
他の男に身体を許した事を後悔し一生懺悔し続けようというエミリと、
仕事のために、諜報活動や暗殺で己の身体を汚し続けて、その上で清く俺に嫁ぎたいナタリ。
「うん、情報の整理は出来た、ありがとう」
正面を向くとまた、
二人は俺に抱きついたり腕を取って勝手に手で首筋を撫でさせたり、
俺が考え込んでいる様子を察してか、ふたりとも無言になってくれた。
(さーて、どうするか……)
どっちも汚れていると言えば汚れている、
でも汚れていないアピールをどっちもしてはいる、のかな、
こうなると双方について分析、俺なりの理解をどうするかっていう話に……
(いやこれ人によって考えも違うだろうな)
俺が生きている事を知らなかった間の事は、
人によってはノーカンにするだろう、あくまで俺の立場でね、
それを言うならナタリは暗部としてのアサシンを解放された時点で女として生まれ変わったともいえる。
(逆に事実として、俺以外の男と一度でも関係がある時点で駄目だという考え方をする者も、当然いるだろう)
こうなると……俺の好みだな。
「ふたりともわかったよ、少なくとも結婚式までには結論を……出したい」
うん、『出す』とは言い切れなかった。
「ラスロ、私はラスロを抱きしめるために来たの、これから生涯ね……一生、甘えさせてあげる、ただそれだけよ」
「ラスロ様、私にはもう何もかもラスロ様だけです、ラスロ様の御命令であればハニートラップでも何でも致しますから」
甘えさせる系とハニートラップ系かぁ。
(って、俺にハニートラップしてどうするっていう……そういう意味だよね?!)
今度はエミリから俺がナタリに寝取られるプレイとか。
まあいいや、この二人についてはまた、改めて考えよう、
さあ、あと軽くおさらいするべき残りの一組は、っと……
(麓の砦を出る前に、隣に呼ばなくっちゃ)
最初に『喧嘩は禁止』って、釘を刺して、だな。




