第21話 聖者も賢者もやはり必要 とりあえずハーレムは棚に上げたいのだが
「お世話になりました、では行って参ります」
「「「「「行ってらしゃいませ!!!!!」」」」」
俺は騎士団の皆さんに頭を下げる、
そして走り出す馬車……中列の窓際でヨランとロズリが敬礼している、
俺の両隣は再びアリナとミオスに、サブリーダーだからだそうだが。
「ラスロ、私ラスロのために、改めて聖女になろうと思うの」
「ラスロ様、私はラスロ様のお嫁さんになれれば、それで満足ですわ」
「ええっとひとりずつ整理しよう、まずはアリナから」「はいっ」
こうやって会話の主導権を握れば、
また同時に話しかけられて脳の中で挟み撃ちされる心配は無い、
疲れたら寝たふりでもしてやり過ごそう。
「聖女になると、何が変わるの?」
「どこかの教会に、無理に従う必要が無くなるわ」
「つまり」「正式にマベルス修道院と縁が切れるの」「あっ」
おさらいすると、俺が完全に死んだと思っていたアリナは、
ハーレム崩壊に伴って自分ひとりがある意味で犠牲となるため、
死んだ俺に生涯縛られるのは正妻ひとりだけで良いと、修道院にその身を捧げた。
(そして、そこで俺の冥福を祈り続ける、とい決断をしたのだった)
結果、アリナはずっと亡き俺のためにその身を捧げ続けて、寿命を迎えるつもりだった……
それと引き換えに側室の三人は、新たな男と結婚して幸せになる、死んだ俺もそれは喜ぶだろうと、
確かに死んだらそうだったと思う、もちろん死んだ魂が意思を、とかそういう話は別にして。
(だが、俺は生きていたうえに、みんなが『待っている』の一心で、十二年間も戦ってきた)
ここの整理は結婚式までに、
俺がきちんとしなくてはならない。
陛下に投げても困るだろうしな、俺も他人に決められたくは無い。
「ラスロ?」「お、おうアリナ、修道院は壊して来たんじゃ」
「今になって冷静に考えると、言われるがままに大金持ちの重病人を治療してきました」
「と、いうことは」「お布施で相当、潤っているはずですから私が壊した建物代くらいは」
この感じだと死人どころか怪我人すら出してないな、
もちろん猛抗議は受けるだろうが……とりあえずは陛下が対応するだろう、
何せ魔物再発生の緊急事態だ、俺のせいだったとしても。
「改めて聖女にはなれるのか」「はい、十二年前に断ったのを『保留』という事にしてもらえれば」
「では王立教の聖女に」「そうなりますね、修道院がうるさいようなら私が自らまた」「やめてくれ、今度こそ怪我人が出る」
「野蛮ですね!」「ごめんミオスは今は」「はい」「でアリナ、聖女になる事で能力は」「変わりませんよ」
つまり、俺と結婚する支障を無くすために聖女になりたいのか。
「わかった、とりあえずアリナの方はわかった、ではミオス」「はいっ」
「グレナダ公爵家の方は良いのか」「大喜びですよ、陛下直属の勇者にグレナダ家の血が入るのですもの」
「すんなり喜んでくれたと」「お声掛けも陛下が直接、お爺様とお父様に」「まあ、それは名誉だよね」
あと、断れないっていう。
(反対とかの心配は無いな、もしやったら国家反逆罪レベルだ)
本人が大の乗り気なのが、本当に救われる。
「それじゃあこの結婚、問題は無いんだ」「もちろん将来的には私とラスロ様との子か孫を、
我がグレナダ公爵家へ嫁か婿として返して、関係を強固にしたいというのも公爵家としては」
「とんだ政略結婚ね、ラスロが可哀想」「アリナ、今は割って入る話じゃない」「私は政略結婚でも諸手を上げて大歓迎ですよ♪」
あの幼かったミオスが、こんなにも魅力的で逞しく……
「ミオスとしては賢者から聖者や聖女になるつもりは」
「肩書に興味は無いですね、もちろん『ラスロ様の正妻』という肩書は興味が、いえ、もういただいていますが!」
「えっと、結婚してからも別に聖女になっても」「ラスロ様がご命令で、そうしろとおっしゃられるのであれば」
ちなみに十二年前から、
賢者……攻撃魔法と回復魔法を使える者、教会に所属できる
聖者……上記に加え光魔法を使えると認められた者、教会所属必須
聖女……教会を持てる、それぞれの宗派のトップ(国王含む)が認めた優れた者
という区分だ、ミオスはまだ王立教会見習いだったらしく賢者止まり。
(で、本人の意思と受け入れ先が了承すれば宗派の移動は自由、ということになっている)
アリナがしようとしているのはそれだが、
聖女クラスがそれをすると宗教戦争になるので完全な独立以外はほぼ無い、
ひょっとしてアリナが聖者止まりだったのって、俺が生きている可能性を無意識に予感して……?!
(それは無いか、修道院が自由に使うためだろう、金儲けのために)
話を進めよう。
「とりあえず俺の二人への希望なんだが」
「はいラスロ、真面目な話ならラスロ様とお呼びしますが」
「ラスロ様、ラスロ様のためならどんな希望でも受け入れましょう」
自分でも整理しながら……
「結界の魔力補充とその後の軽い魔力確認で思ったんだが、
アリナは十二年経ってもやはり魔力が凄い、力押しに最適だ」「褒めてくれるのね」
「ミオスはミオスで魔力の質が凄い、そして魔法組織というかクオリティ、技術が最新の進歩したものだろう」「はい!」
こっちも褒められて喜んでいるな。
「だが相手は魔界との出入り口だ、
俺が魔界へ落ちた時はおそらく逃がさないために向こうが、
魔王が閉じたのだろう、だが俺たちが閉じるとなると、かなり難しい」
頷いているふたり、
馬車の二列目、三列目もウンウンと首を縦に振っている。
「そこで、やはりどうしても二人で結界を、
封印を合わせてやって欲しい、上手く組み合わせれば完璧に出来ると思う、
それはさっきの、魔力補給ヴァージョンアップでよくわかった」
俺を挟んで顔を見合わせるアリナとミオス、
そしてまずはアリナから俺へ。
「……あくまでもそれは仕事として、任務ですよね」
「そうだが、はっきり言えば俺の尻拭いだ」
「でしたらサブリーダーとして、そして正妻として」
続いてミオスも。
「ラスロ様に妻として、更にサブリーダーとしてこの力、全て貢献させていただきます」
「うん、これはとりあえず、ハーレムだの妻だの正妻だのは棚に上げて」「それは無理よラスロ」「ラスロ様、棚には上げられません」
「……俺の言う事を、お願いを、あくまで希望だが」「でも事実は捻じ曲げられないわ」「不可能な事は不可能と申する事しか」
うーん、
そのあたりは薄々わかってはいた、
だからこその俺、個人的な希望として言ったのだが。
「わかった、とりあえず仕事は、すべきミッションは全力で頼む、もちろん俺もする」
「はいラスロ、喜んで!」「ラスロ様、お任せ下さい、そして幸せな結婚式を迎えましょう!」
……ここは一度、後ろに振ってみよう。
「ヨランも頼むよ」「私はラスロの剣だ、好きに使ってくれ」
「ロズリもお願い」「はい、このラスロ剣はラスロ様のために存在する剣、もちろん私自身もですっ!」
「ええっと……まあいいや、しばらくひとりで考え込むから、そっとしておいて」「「「「はいっっっっ」」」」
三列目の四人にも聞こうかと思ったが、やめた。
(棚に上げられないなら、少しずつ解決していくしかないかぁ)
ハーレムの整理、結婚式までにはやらないと。




